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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第2部 第3章 謎めく古代遺跡 編
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98話 天空の黒き城『ブラックビショップ』(3)  ~ケイ素生命体~

 ロランが放った【ガンマ線バースト】により生じた強力な電磁パルスが天空の黒き城(ブラックビショップ)の全システムを破壊した。


 無論、生命維持装置もである。


 生命維持装置は停止したものの液体人間(リキッドヒューマン)達は天空の黒き城に残存している酸素と窒素を使用し活動を維持していた。


 ロラン達の眼前にいる液体人間は腐敗の神殿(バンシュロイア)の液体人間と異なり辛うじて(かろうじて)ではあるが人の形を保っていた。


 『無重力の影響が大部分を占めるが()()()眼前の液体人間は強化されている……』


と考えているとバルトスが眼前の液体人間に対する攻撃の準備を始める。


 バルトスは強大な魔力を開放し本来の姿である"大きな黒い翼を持つ狩人"の姿になると皆に注意を促した。

 

 「貴重な酸素を使用せず攻撃を行います……」


 「攻撃が終了するまでの間、皆様には私の後ろで待機頂きたい…鼓膜を傷めずに済みますので…」


 バルトスは端的な注意を終えると両腕をテッポウエビのハサミに変形させ水属性魔法でその巨大なハサミに水を纏わせる。


 その後、バルトスは両腕のハサミを凄まじいスピードで閉じ【プラズマ衝撃波】を発生させる。


 「ゴゥ……」


その刹那(せつな)4,400℃の高温を伴うプラズマ衝撃波が天空の黒き城の壁面を破壊し50体の液体人間達を蒸発させた。


 バルトスの攻撃は凄まじく壁面の一部が完全に崩壊し攻撃を免れた(まぬがれた)液体人間達は宇宙空間に放出されていく。


 このままでは天空の黒き城の残存空気が宇宙空間に排出され、城内の生命体全てがヴァルハラに旅立ってしまうと思った矢先、クロスが()()()()という仕草をしながらバルトスの前に出た。


 「バルトス……貴重な(いにしえ)の遺産を破壊し過ぎです……」


 「後は私にお任せを……それと狩人にエビのハサミは似合いませんよ……」


とクロスはバルトスを後退させると本来の姿である"黒い翼を持つ天使"の姿となる。


 クロスは両手を前に出すと空間上に数百の魔法陣を顕現(けんげん)させ詠唱する。


 「ヴィルト・ブレンネン……アイゼン・クーゲル……」


 詠唱後、数百の魔法陣からドロドロに溶けた鉄が無重力のため球体となって出現し崩壊した壁面に向かって放たれていく。


 クロスの機転の利いた行動により応急処置ではあるが壁面は修復され残存空気の流出が治まった。


 ロランは思う。


 『バルトス、クロス…ありがとう……しかし宇宙服を粉々にする必要はあったのかな……』


 ロランが考え事をしていると突如、別系統のバックアップ電源が起動し電磁パルス対策が施された別系統の生命維持装置と侵入を防止する防護壁が作動し始めた。


 すると今度はマルコが無言でクロスの前に出ると防護壁の排除は自分が行うと伝えた。


 「クロス……防護壁は私が排除する……宜しいかな……」


 クロスは左手を前に出して"どうぞ"という意思表示を行う。


 クロスの意思を確認したマルコは本来の姿である"大きな黒い翼を持つ狼"の姿となる。


 ツュマとアペキシテ(火の牙)一族も獣化(じゅうか)により姿を本来の狼の姿に変化させる事ができる。


 しかし、マルコの狼の姿は禍々しさと体の巨大さ、絶えず口から火を吐きツュマとアペキシテ一族より遥かに圧倒的な魔力と存在感を醸し(かもし)出していた。


 「バルトスとクロスはウォーミングアップ程度の力しか出してないようだね……なら私もそれに準じよう……」


 「それに私も貴重な古の遺産の保護派ですからね……」


というとマルコは詠唱を行い両腕に禍々しい(ながながしい)黒き瘴気を纏わせる。

 

 「世界を滅ぼす(ヴェネヌム・ペルデレ・ムンディ……」


 詠唱後、マルコは両腕を厚さが50㎝はある防護壁に力づくでめり込ませると"あらゆる物質を溶かす毒"により凄まじい勢いで防護壁を溶かしていった。


 マルコにより全ての防護壁が排除されると一行の前にプラチナを思わせる巨大な金属の扉で封印された部屋が現れた。


 前方に立ちはだかる扉を見たレイチェルはマルコに声をかける。


 「マルコ殿……無理にその扉を開放しようとすると防御システムが作動します……」


 「ここは私に御任せて頂けませんか……」


 マルコは防御システムごと破壊できる自信があったが"ロランの役に立ちたい"という強い意思を放つレイチェルの眼差しに心を動かされレイチェルに扉の開放を任せる事にした。


 「淀み(よどみ)の無いレディの真摯な眼差しに免じてお任せしましょう……」


 レイチェルはマルコに感謝の会釈をすると脳内のインプラントを使用し扉のセキュリティシステムにアクセスしハッキングを行い始めた。


 『脳にインプラントを設置すると人とコンピューターはダイレクトで接続できるようだ……』


 『レイチェルが誕生した31世紀の科学技術はまるで魔法だ……』


 ロランは"人類の到達点"であるレイチェルの新たな能力を目の当たりにし高揚しているとセキュリティが解除され扉が開放された。


 部屋の中央には2つのカプセルが設置されておりカプセルの周りにはゴーレムを思わせる護衛のアンドロイドが5体が直立不動で佇んで(たたずんで)いた。


 5体のアンドロイドはロラン達の侵入に気付くと赤外線レーザーで攻撃をしてきたがロラン達には届かなかった。

 

 ロランが【冥界の王】の力を発動させ巨大な重力を瞬時に前方に展開し空間を歪曲させたからである。


 その後、5体のアンドロイドによる第二波の攻撃は無かった。


 ロランが空間を歪曲させた刹那、フェネクが本来の姿である"燃え盛る翼を持ち真紅の甲冑を身に纏う戦士"となり核融合エネルギーに匹敵する1億℃のプラズマでアンドロイド達を溶解させたからである。


 「いつ見てもフェネクのレグルス(小さな王)は見事だ……」


 ロランは思う。


 『バルトス、マルコ、クロス、フェネクの攻撃力は凄まじい……』


 ロラン一行は中央に設置されたカプセルに近づいて行く。


 ロランは一つのカプセルには角が生え爪が発達した異形であるが元は人類と判別できる女性がコールドスリープ(冷凍睡眠)されている姿を見た。


 そして、もう一方のカプセルではアンドロイドがスタンバイ状態で配置されており、カプセルの頭上にプレートと複数のクリスタルディスクが設置されていた。


 ロランは頭上のプレートに記された内容を読み始め愕然(がくぜん)とする。


 ""……メインコードを所持する者……""


 ""……メインコードを使用し……『ラプラス・ルーン・テラ』を起動せよ……""


 プレートの内容の続きを要約すると"ラプラス・ルーン・テラ"は電子頭脳としてマザーAI【エアストエデン】と同等の能力を持つ"技術的特異点"を越えたAIを搭載している。


 また、人智を超えたラプラス・ルーン・テラを完全制御する為、"西暦2515年の社会体制に対する反社会的思想が無く、深層心理および表層心理において最も強い人類愛を持つ人間の記憶、経験、思想、感情をクリスタルディスクよりダウンロードしアップロードせよ"という内容であった。


 『この世界線の人類は人智を越えたAIを制御するため、生身の人間の【記憶、経験、思想、感情】でAIの思想や感情を上書きするという解決策を選択したのか……』


 『いまのままでもボディはケイ素であり自立した思考を有する点でいえば"ラプラス・ルーン・テラ"は広義的にケイ(シリコン生命体と言える……』


 『さらに人類に敵対しないよう制御するため生身の人間の【記憶、経験、思想、感情】をデータ化し上書きをした時点で完全に"生命体"として扱わなければならない事を考えなかったのか……』


 ロランは無垢(むく)な女性を生贄(いけにえ)にし【西暦2515年07月20日00:00:00】の状態に人類と地球を復元させ本来あるべき人類を存続させようとする"スタイナー計画"に失望した。


 さらにロランはプレートを読み続け西暦2515年の人類により生贄とされた女性の名前を見て衝撃を受ける。


 『"レクシー・クロエ"……クロエだと……』


 『"レクシー"とは"人類の守護者"という語源だったはず……』


 ロランは『ラプラス・ルーン・テラ』の起動は行わなかった。


 人智を越えたAIを持つ"ラプラス・ルーン・テラ"が起動すればネットワークに接続されたシステムは瞬時に彼女の想いのままになってしまうからである。


 ロランはレイチェルにLaboで人類が"あれ"と呼称した存在により異形となった"レクシー・クロエ"と"ラプラス・ルーン・テラ"の保管を命じる。


 続けてロランはアカシックレコード対し正当な権限でアクセスでき過去から現在に至る事象を書き換えても現在の事象を大きく改変させない"審判の天使"の能力を持つ『ルミール・ウェヌス・アスタルティー』に審判を仰いだ(あおいだ)


 「……"審判の天使"であるルミールよ……我は(なんじ)に審判を仰ぐ……」


するとルミールはいつもの童顔で美しい微笑みから表情が一変しクールな表情となる。


 「……審判の内容を述べよ……」

 

 「……この場にいる者を除き過去から現在に至る人族、獣人、妖精族、魔人・魔物達の記憶や記録から天空の黒き(ブラックビショップ)の存在を削除頂きたい……」


ルミールはしばし考え込むと審判を下した。


 「……そなたの要請"審判の天使"である私は"真"とした……」


 「……審判を実行する……対価を捧げよ……」


 ロランは『……対価は何なのか……』考えているとルミールは自分の宇宙服のヘルメットとロランのヘルメットを外し情熱的なキスをしてきた。


 「……龍神さま……対価きちんといただきました……」


 ロランは予想外の出来事とあまりに愛らしい(あいらしい)笑顔に茫然としているとルミールは真の姿である"審判の天使"となり"審判"をくだし過去から現在に至る人々の記憶や記録から天空の黒き(ブラックビショップ)の存在を消去した。


 『……はぁ……僕もそうだがレイチェル以外は宇宙服を身に付けていないとは……』


 バックアップ電源が起動し生命維持装置が作動しているが十分ではなく重力制御装置は作動していない。


 そのため、天空の黒き(ブラックビショップ)内は無重力となり温度はマイナス10度であったため冷却用チューブから漏れた水は球体となった直後に凍結した。


 『……体を冷却する為に宇宙服の内部に取り付けた冷却用のチューブから漏れた水が急速に凍り付いている……無重力なので球体の氷となっているな……』


 ロランは"ラプラス・ルーン・テラ"というサブコードは取得したものの心に割り切れない想いを抱き目の前の現象についての原理をぼんやり考えていた。


 するとルディスからテレパスによる想像だにしない報告を受ける事になった。


 "……ロラン様……『アルベルト・スペンサー』が大統領暗殺容疑で身柄を拘束されました……"


 『メッサッリアを心から愛し"赤き剣"とまで称賛されるアルベルトが国家反逆罪など…ありえない…』


 『今アルベルトが失脚すればアヴニール国家連合』、プロストライン帝国、東夏殷帝国間の表面上のパワーバランスが崩れ"この世界"は大乱と化す……』


 『……争っている状況ではないのに……人間とは……』


 再び世界がロランに牙を向くのだった……

・2020/06/14 誤字・脱字・東殷夏帝国→東夏殷帝国に修正

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