97話 天空の黒き城『ブラックビショップ』(2) ~Knight Raven~
天空の黒き城【ブラックビショップ】は上空1,000㎞の極軌道を1万年前という太古の昔から周回している衛星とされていた。
『レイチェルの時空間航行船Ulyssesは搭載しているアルクビエレ・ドライブ装置が不安定過ぎて時空間に多大な影響を与えかねない……』
『天空の黒き城には"Knight Raven"を使用しよう……』
ロランは天空の黒き城に行く手段として"Knight Raven"の使用を決断する。
"Knight Raven"とはロランがレイチェル、ワーグと共に秘密裏に開発していた特別な打ち上げを必要とせずに大気圏を離脱し再突入する事ができる【スペースプレーン】であった。
ロランは邸の地下にある戦闘指揮所に皆を集合させる。
「天空の黒き城へは"Knight Raven"で行く事にする……」
「ただし、レイチェルの身体に高いG(加速度)による負担がかからないよう……」
「高速飛行船『エルミオンヌ』に"Knight Raven"をドッキングし【エアストテラ】の対流圏界面の高度である14㎞まで運ばせ……ロケットエンジンで天空を目指す……」
ロランの計画を聞いた【ルミール、バルトス、マルコ、クロス、フェネク】は怪訝な顔をする。
「龍神さま……龍神さまと私共は翼を使用すれば宇宙まで行くことは可能です……」
とレイチェルには不可能な能力を話し遠まわしにレイチェルを敬遠した。
『審判の天使であるルミールの人嫌いは筋金入りだ……』
ロランは自分の想いをルミールを通じて皆に伝えた。
「ルミールの言う通りだよ……でも宇宙へはいずれジェルドやツュマ率いるRedMistやLVSISのメンバーも行く事を想定している……理解してほしい……」
ルミールは渋々ロランの想いに賛同する。
一方、ロランの発言を聞いたジェルドやツュマ達は「ゴクッ……」と大きく喉を鳴らす。
『『『『『宇宙空間の温度はマイナス270℃、生身では数十秒後に確実にヴァルハラに旅立つ環境に我らも行くことになるのだろうか……』』』』』
皆の不安を感じたロランは直ぐに話を続ける。
「皆が宇宙へ行く予定は今は無い……安心して欲しい……」
ロランはアリーチェ、アルジュ、ジェルド、ツュマに不在時の対応を頼むとアルジュに高速飛行船『エルミオンヌ』の操縦を依頼した。
「アルジュ……高度14㎞まで"エルミオンヌ"の操縦を頼めるかい……」
「ダーリン!任せておいて……安全にダーリン達を運んでいくから……」
ロランは思う。
『こういう時のアルジュは実に頼りになるな……』
ロランは一同を解散させると同行メンバーとアルジュを引き連れ戦闘指揮所を後にする。
飛行船整備施設に到着するとロランは『エルミオンヌ』のゴンドラの下に『Knight Raven』をフック型の支柱を使用し接続していく。
同時にロランは【冥界の王】の力で『Knight Raven』にかかる重力を排除し重量をゼロにするため重力を制御する魔法を発動する。
「ゼロ・グラビティ……」
準備が整うとジェルド率いるRedMace部隊が『エルミオンヌ』をドッキングした『Knight Raven』ごと飛行船整備施設の外へと移動していく。
アルジュは『エルミオンヌ』が離陸ポイントに到着した事を確認するとスティオンに離陸許可を求める。
「バロネットブロアー及びプロペラ始動…We will be taking off shortly OK?(まもなく離陸するけど問題ない?)」
するとRedMace部隊の参謀を務めるスティオンが周囲の安全を確認し終えると離陸を許可した。
「Cleared for Takeoff(離陸を許可する)……」
『エルミオンヌ』はドッキングしている『Knight Raven』を伴い吸い込まれるように大空へ上昇していく。
同時刻、トロイト連邦共和国情報保安局、通称『TFRISS』に属する「ハイパーヴィジョン」部隊とメッサッリア共和国秘密情報部、通称『MRSIS』に属する高高度監視部隊が『エルミオンヌ』の上昇を探知する。
ロランはトロイトとメッサッリアの部隊に探知された事など御構い無しにアルジュに再度高度14㎞に向かうよう指示を出す。
しばらくするとアルジュが『エルミオンヌ』の高度が上空14㎞に到達したことをテレパスで伝えてきた。
"ダ……ダーリン……エルミオンヌ……高度14㎞に到達しました……"
"ありがとう…アルジュ……現在の地点で停止して……行ってきます……"
ロランは『Knight Raven』の操縦席で各装置の作動を確認していく。
「環境制御・生命維持装置(ECLSS)異常なし……姿勢制御装置異常なし…」
副操縦席に座っていたレイチェルはロランのチェックに対応するようにシステムと耐Gスーツの作動を確認していく。
「魔道伝達回路全て異常なし……各自、耐Gスーツの気圧調整を作動せよ……」
「「「「「ラジャー……」」」」」
レイチェルと皆の発言を聞いたロランはメインエンジンを点火させる。
「システムオールグリーン……メインロケットエンジン点火……」
その刹那『Knight Raven』は轟音と共に高度1,000㎞に向かって飛び立っていく。
「ガタ……ガタガタ……ガタガタガタガタガタ……」
振動で席が悲鳴を上げる。
『予想以上に席がガタつくな……帰ったらより強力なショックアブソーバーを席に取り付けないといけないな……』
ロランが『Knight Raven』の改善点について考えていると高度1,000㎞に到達する。
今後の課題は天空の黒き城が秒速8㎞という途方もないスピードで【エアストテラ】を慣性飛行しているためドッキング時の速度調整が困難を極める点にあった。
「レイチェル……天空の黒き城とドッキングする際の速度を割り出して欲しい……」
するとレイチェルはロランの期待以上の発言をする。
「ロラン様……宇宙での航行は慣れております……私にドッキング操作を任せてくれませんか……」
ロランはレイチェルを信じドッキング操作を任せる事にすると『理力眼』と『千里眼』を駆使し天空の黒き城の船内調査を試みた。
『やはり船内を見る事ができなかったか……天空の黒き城も高性能のESP遮断装置が使用されている…』
その時である。
ロランの『理力眼』と『探知』が天空の黒き城からのミサイル攻撃を感知した。
「レイチェル……デコイとフレアを射出……スラスターを使用し攻撃を回避して……」
「了解です……」
レイチェルはデコイとフレアを射出するも宇宙空間はマイナス270℃でありフレアは全くその効果を発揮しなかった。
だが、幸運な事に迎撃ミサイルはデコイを標的と認識し追尾していく。
『迎撃ミサイルの性能が低すぎるのは腑に落ちない……』
と思いながらもロランは船外に出ると雷魔法最上級の魔法である『ケラウノス』によって自身の体を帯電・放電させていく。
ロランは自身に蓄積させた莫大なエネルギーと恒星【アルクトゥルス】から放出される高速高温の水素を反応させ【光核反応】を生じさせると天空の黒き城の真横に向かって【ガンマ線バースト】を解き放った。
ロランが放った【ガンマ線バースト】により発生した【強力な電磁パルス】により天空の黒き城の全システムがダウンする。
天空の黒き城に適合したドッキング機構を持たない『Knight Raven』は先端のドリルで天空の黒き城の壁に穴を開けると強制的に接合部をめり込ませドッキングを完了させた。
ロラン一行は酸素21%窒素79%に配合し気圧調整した宇宙服で天空の黒き城の船内に進行していく。
本質的にロランやルミール、バルトス、マルコ、クロス、フェネクには宇宙服は必要なかったが宇宙服の精度を確認する為、ロランはあえて宇宙服の着用を義務付けていた。
天空の黒き城の船内はロランの強力な電磁パルス攻撃により生命維持装置、ESP遮断装置等の電子回路を使用する全てのシステムがダウンしており完全に無防備な状態であった。
船内では【バルトス、マルコ、クロス、フェネク】が先頭に立ちロラン、レイチェル、ルミールの順で進行していく。
ロランは『理力眼』と『探知』の能力で前方に生命体が多数存在することを察知する。
「バルトス、マルコ、クロス、フェネク……前方に多数の生命体が存在する……」
「「「「我々も既に感知しております……お任せください……」」」」
前方に存在した生命体は宇宙で活動できるよう強化された液体人間であった。
ロラン一行はこの天空の黒き城の船内で悲しき運命を背負う姫に出会うのであった……