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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第2部 第3章 謎めく古代遺跡 編
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91話 ケトム王国 ~絡み合う愛憎~

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 腐敗の神殿が存在するケトム王国は『エランディア大陸』と陸続きの『ガリア大陸』において北部から中部にまたがる広大な領土を誇る王国であった。


 面積は4,445,000平方キロメートル、国土の大部分が密林であり地下に埋蔵されている大量の宝石や鉱物を採掘し輸出することが主要産業となっている。


 宗教は大部分はこの世界の恒星である『アルクトゥルス』を崇める信仰であり、一部がティモール教を信仰している。


 人口はおよそ1,000万人であり大部分が獣人であるが僅か(わずか)20万人、人口割合で言えば約2%の人族が豊富な資金を背景に獣人を支配する"いびつ"な国家体制であった。


 この世界の貨幣は使用している金属と込められた魔力量により価値が定められており、また貨幣から魔力を吸収することもできる。


 そのため、裕福な人族は豊富な貨幣から魔力を吸収し魔力量を増大させ、その膨大な魔力に基づく強力な魔法により、力と俊敏さで人族を遥かに上回る獣人を支配した。


 もともとケトム王国は獣人のみで構成される王国であったが今より300年前、トロイト連邦共和国の前身である【トロイト帝国】、メッサッリア共和国の前身である【エルトール王国】、クリシュナ帝国などの国々から宝石採掘を目当てに人族が移住してきた。


 現在の支配階級にあたる人族は移住してきた人族の子孫であり、宝石売買で力を強め300年の月日(つきひ)をかけ絶対的な支配を確立した。


 ロランは諜報部隊【SilentSpecter(サイレントスペクター)】が収集した情報に基づいて作成されたルディスの【報告書】に目を通していた。


 ロランはルディスに意見を求める。


 「…ルディス…仮の話だけどケトム王国に存在する古代神殿を調査する場合、正規のルートを使用し入国した方が無難かな…」


 「ロラン様、ケトム王国は【ガリル州】をクリシュナ帝国の手から奪還する際、メッサッリアの協力を得ております…それとケトムにはメッサッリアの大使館が存在します…」


 「ロラン様は大使の要人という肩書を得て入国されてはいかがでしょう…アルベルト殿にはホワイトヴィル湖南岸地域における軍事侵攻の貸しを返してもらうという事で…」


ロランは『こういう頭の回転が速い所がルディスのいいところなのだが…』と思いつつ、


 「ルディスありがとう…大変、参考になったよ…」


と感謝の言葉をかけるとルディスを下がらせる。


 『ケトム王国に存在する腐敗の神殿【バンシュロイア】に赴き(おもむき)、【スタイナー計画】とは何なのかを確認したい…その前に…』


とロランはテレパスで皆をリビングに集合させた。


 ロランは目覚めた際に『クリスフォード・ド・モンパーニュ』か苦言を呈された有事の際の危機回避メカニズムとして、自分が倒れ意識のない有事の際は【アリーチェ・デ・クロエ】が自身の代理として全権を掌握する事を決め、その決断を皆に伝える為であった。


 リビングでは、ロランの右横に【アリーチェ】と【ルミール】が左横に【マー二・エクス・ディアナ】と【バルトス】が立ち並び、集まった者達をその威圧感で押しつぶす凄みを放っていた。


 「…僕が有事の際は【アリーチェ】に全権を任せる…【ルミール】【マー二・エクス・ディアナ】と【バルトス】には【アリーチェ】を補佐してもらう…」


 「なお、RedMist(レッドミスト)LVSIS(ルブシス)に属するメンバーとメンバーが率いる部隊の統括指揮はこれまでどおり【ジェルド】が担い、ジェルドが不在の場合は【ツュマ】に担ってもらう…」


 「ただし【アリーチェ】の指揮下に組み込まれる…いいね」


 「「「「「…はっ…」」」」」


ジェルド、ツュマ等の男性陣はロランの通達を集中して受け入れていたが【アルジュ、レイチェル、ブリジット、ラミア、ミネルバ】は話を聞くどころではなかった。


 なぜなら、以前よりも遥かに魅惑的となったロランの身体から放たれるテンプテーション香により、ロランに抱きつきたいという衝動を抑える事に神経を集中させなくてはいけなかったからである。


 皆の前で通達を行うロランはルミールのように全身から輝く光の粒子を放ち、アルジュのように左手の甲には"ヘナタトゥー"のような紋様が浮かび上っていた。


 それだけではなく、シャツを着ているため見えないが胸にはこの世界の恒星である『アルクトゥルス』とバッファッローに似た『ブラドク』の(ホーン)の紋様が浮かび上がっていた。


 ルミールはロランの揺れる髪や全身からほのかに輝く光の粒子が放たれる姿にご満悦であった。


 ルミールの誇らしげな姿を見た【アルジュ、ディアナ、レイチェル】達は女性としての直感でルミールがロランに口づけをしたのだと確信させた。


 『『『ロラン様が眠り続けている間に…あんな清楚な顔して…』』』


と3人は怒りを抑えルミールを睨みつける。

 

 ロランの身体に起きた変化は3人が予想したもので間違いはなかった。


 既にロランの身体は5万気圧に耐える事ができるダイヤモンドと同様の強度があり、些細な攻撃では傷一つつけられない。


 眠り続けるロランに魔力を流し込み活力を与える手段として傷口から魔力を流し込む手段は使用できなかった。


 そのため、ルミールのように口づけして内部から魔力を供給するか、ディアナのように胸に手を当て続けるか、あるいはアルジュのように左手を握り続ける事により皮膚から魔力を浸透させる方法しかなく3人は3様の方法で眠り続けるロランに自らの魔力を送っていたのだ。


 レイチェルの場合は、ロランの顔を見ながら『これ以上大切な人を失いないたくない』という想いから流れた涙を偶然ロランが飲みほした。


 レイチェルの涙にはごく微量のナノマシンが含まれており、涙を飲み込んだロランの体内で【冥界の王】の力の作用により生物化し爆発的に増殖、内臓や血管の損傷を修復していた。


 余裕を見せていたルミールであったがロランの左手の甲に浮かび上がった紋様がアルジュと同様の紋様である事に気づき怒りが込みあがる。


 ハイエルフやダークエルフといった高位のエルフにおいて自分の身体に浮かぶ紋様を異性に浮かばせる行為は、


 ""…私は貴方だけのもの…""


という意思表示であり、他のエルフ達に対し"人の恋人に手を出すな"という意味を含んでいるからである。


 ルミールはアルジュを強烈に睨みつけた瞬間、アルジュはロランの左腕に抱きつき


 「ダーリン…ルミールが怖い顔で私を睨んでいるの…助けて…」


と甘える姿を見せつけた。


 その瞬間、リビングの空気が凍り付く……


 【アリーチェ、ルミール、ディアナ、レイチェル、ピロメラ、ミネルバ】の様子が変だと感じたロランは早々に皆を解散させた。


 『はぁ…何でこう皆を集めると空気が凍りつくんだ…』と思いながらロランは監視体制も強化すべく【アルゴス(Argos)】のLabo(ラボ)に向かう。


 オム率いる千里眼部隊【アルゴス(Argos)】のLaboに到着するとロランはオムに監視対象を変更するよう指示を出した。

 

 「…オム。これからはケトム王国の国王である【アボン・デルシュ・ボルナーク】と東クリシュナ帝国の皇帝である【ルドラ・クリシュナ】を監視して欲しい…」


 「ロラン様…それではメッサッリアとトロイトの監視が手薄になると思われますが…」


ロランは『オムは最近自分の考えを発言してくれて良い傾向だ…』と思いながらオムを安堵させる言葉を返す。


 「…僕はリンデンスの帝国副議長でもある…そのためリンデンスの情報収集能力の向上と僕達の監視能力向上のためレイチェルの【時空観測Labo(ラボ)】の簡易版をリンデンスに設置している…」


 「…レイチェルにはリモート操作により2拠点から古代文明が残した光学衛星【ミュー】とレーダー衛星【オメガ】さらにマイクロ波衛星【オミクロン】を使用しメッサッリアとトロイトを監視させている…だからアルゴス(Argos)は安心して新しい監視対象の監視に専念してもらいたい…」


 ロランの言葉を聞いたオムは安堵の表情を浮かべた。


 ロランはオムには言っていないが、既にルディスが率いる【SilentSpecter(サイレントスペクター)】に所属するエージェント達がメッサッリアとトロイトに多数潜入し多角的に情報を収集していた為、西側に関しては万全の情報収集体制が整っていた。


 ロランは毎週予定が確保できた光2日(火曜日)と光5日(金曜日)の午後は、道路や橋の整備と補修計画を技官や事務官達達と進めた。


 さらには現場に赴き、建設業務を請け負った商会連合の下請け建設企業の作業員とともに現場作業を行い忙しが充実した日々を過ごすのだった。


 そんな時間に追われる日々を送るロランの楽しみは夜ベッドに横になりテレパスでエミリアと1日の出来事を語り合う時間であった。


 "…エミリア…今日は何してたの…昼休憩の時も…テレパス送信したんだよ…"

 "…ごめんない…ロラン…今日は宰相府の仕事が入り込んでいて…もう…ロランのやきもち屋さん…"


 第三者聞けば恥ずかしくなる内容をロランは長めの枕を抱きしめ時に笑い話も混じながら最低30分は会話を楽しむ。


 だが、世の中はそんなに甘く出来ていない。

 

 "幸せの量だけ不幸せもあるのだ…"


 ロランがベッドに横たわりエミリアとのテレパスによる会話が終了すると決まって背後からディアナがラミアを引き連れ無言で現れる。


 ロランは【理力眼】や【探知】でディアナがラミアを引き連れ現れた事は察知しているがあえて何も言わない。


 『別にやましい事なんてしていない…』

 『僕が不用意にアカシックレコードを書き換えた為にディアナが許嫁(いいなづけ)になった…』

 『責任はある…でもエミリアと話をしないと心が乾くんだ…』

 

とロランは勝手な理屈でディアナに対して必要以上のフォローを行わない事を決め込んでいたのである。


 背中が重い。


 ディアナはラミアの石化の能力でロランの背中を石化していく。


 ロランは負けじと【冥界の王】の力を使用し石化部分の重さを"ゼロ"にし光魔法の浄化とスプレマシーヒールで石化を解除していく。


 無言の攻防を繰り広げる中、ロランは


 『腐敗の神殿【バンシュロイア】で…スタイナー計画の一端でも解き明かすぞ…』


 『それと獣人のルーツについても調査を行いたい…』


 『キメラと人族の子供は100%に近いほど"親であるキメラの能力と容姿"を引き継がない…というかそもそも子供が生まれない…』


 『それに引き換え獣人同士あるいは獣人と人との子は親である獣人の能力と容姿を引き継ぐ…』


 『獣人といってもツュマの一族のように普段は人の容姿で"獣化"の魔法により獣に形態変化を行う者もいれば、フォルテア王国の獣人のように尾や耳の一部が獣の獣人もいる…』


 『ケトムの獣人などは大部分が獣のままで獣との違いは直立2足歩行だけのような獣人もいる…』


 『獣人といってもひとくくりには出来ないな…実験体の子孫もいれば…異世界より転移したものいるのだろう…できるだけDNAのサンプルを取得しよう…』 


と興味のある事だけを考え、しばし現実逃避を行うロランなのであった。

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