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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第1部 第1章 アゼスヴィクラム暦729年の異世界 編
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9話 靴磨きと体術道場(2)

  本日は光6日で学校がない為、ロランは靴磨きの師匠であるブラームスが猛者(もさ)になれる道場と話していたゲオルグ体術道場へと向かった。


 ゲオルグ体術道場に着くと扉を開け、


「すいません...街で一番の猛者になれる体術道場と聞いてやって来た者です...」


 と挨拶し道場の関係者を呼んだ。


 すると、道場の奥から体の線が細く色白で背が高い男が足早にやって来て


「こんにちわ…私は師範代のコーウェルと言います。坊やは入門希望者かな……」


 と作り笑顔と揉み手をしながら入門希望者かと尋ねてきた。


 ロランは入門希望ではなく仕事を得るために訪問した為、


「いいえ……外の張り紙で募集している【投げられ役】の仕事をしたくて参りました...」


 と話すとコーウェルはロランを見て『5歳ぐらいの子供が冷やかしにきたんだな』と思い込み、


「坊や!ふざけるのもいいかげにしろ。坊やに務まるわけないだろう!」


 と先ほど丁寧な対応をした人物と同一人物と思えないほど露骨に態度を豹変(ひょうへん)させ面倒臭そうに対応し始めた。


 それでもロランが食い下がり【投げられ役】の仕事をしたいと訴えていると道場の奥から師範であるゲオルグ・ハンケが近づいてきた。


「……この騒動は何事かな…」


 ゲオルグは低く落ち着いた声で騒動の内容をコーウェルに尋ねると


「この坊やが【投げられ役】の仕事をしたいと言うもので優しく断っていたんです…」


 とコーウェルが答えた為、ゲオルグは少し考えこんでロランに、


「坊や、私がこの道場の師範である『ゲオルグ・ハンケ』だが見ての通りこの道場は君のような年齢の子から成人し冒険者を目指している者も訓練に来ている…その者達の【投げられ役】は無理ではないかな」


 ゲオルグはそう言ってロランを見つめるとロランはその眼差しに対し真剣な眼差しで返した。


 ロランが本気である事を確認したゲオルグは、


「……君の身長だと成人は無理だから初等学校の子達の【投げられ役】になるけど大丈夫かな……」


 との問いに対しロランは


「はい勿論(もちろん)です。ただ、僕は武術の経験が無いので一度ゲオルグ先生の【受け身】を一通り見させていただければ、さらに心構えができます。宜しいでしょうか……」


 とロランは甲斐甲斐しく(かいがいしく)お願いをする。


 勿論、一度ゲオルグ師範の受け身や体捌きを見れば『理力眼』によりそれらの動作を取得し寸分違わぬ動作を行えるからである。


 また、ロランは痛みや怪我については【ヒール】でなんとかできるとも考えでいた。


「……宜しい(よろしい)。では模範演武を行うので良く見ているように……」


 と言うとゲオルグは冒険者志願の青年と一通りの攻撃に対する防御と投げられた際の受け身を披露した。


 様々なバリエーションの攻撃に対する防御と投げられた際の受け身を披露したため受け身の他、実践で最も重要になる拳の突き方や蹴り方、様々な攻撃に対する防御を『理力眼』で取得した。


 さらに、攻撃・防御時の足の運び、視線の位置、重心移動、フェイント、バックステップ、スェーバック等のゲオルグが数十年にわたり研鑽(けんさん)し積み上げてきた攻撃と防御に関する高等技術の全ても『理力眼』で取得する。


「ありがとうございます。これで【投げられ役】の心構えができました」


とゲオルグに感謝を述べるとゲオルグは満足したように「そうかい…」と答えた。


 ゲオルグとロランの会話にコーウェルが割り込む。


「あとは私が初等学校の門下生達に投げを教える際にロランに活躍してもらいますので、師範は冒険者志願の門下生達のご指導をしていただければと思います……」


とやけに低姿勢でゲオルグが戻っていくよう勧めた。


 既にロランは一流の武闘家であるゲオルグの受け身を取得していたので門下生達に見事に綺麗に投げられてみせた。


 門下生達は、自分がかけた技でロランを簡単に投げることができたので自分が強くなったと錯覚し上機嫌となる。


 こうして、ロランのゲオルグ道場での【投げられ役】の日々が始まった。


 給金は5時間で1リルガ硬貨3枚(日本円で3,000円)である。


 ロランは「得られるものも多く、給金も良くて全て良しだ!」と叫びガッツポーズをとった。


 時が経つのは早いものでカール記念学校に通い、靴磨きを行い、ゲロルグ道場で【投げられ役】を行うようになってから1ヶ月が経とうとしていた。


 今ではブラームスとロランの靴磨きコンビはエスペランサの街の名物となり長蛇の列ができるほど人気となり繁盛していた。


 ロランの靴磨きの技術が飛躍的に向上した事も人気の一因であったが、ブラームスが作る特別のクリームを使用し磨かれた靴は道路の糞尿が沁み込み(しみこみ)にくくなることが口コミで広がった事が最大の要因であった。


 ブラームスはロランに対し


「ロランが来てからというもの大忙しだ。ロランいっそこのまま儂のあとを継がないか……」


と僅かな希望を抱いて尋ねたが、ロランは申し訳なさそうに、


「……王立魔法学園に入学したいので……」


と返事をした。


「すまん、すまん。お前さんを困らせるつもりはないよ。ただ、この日々が続けばと思っての」


と長期間一人で靴磨きをしてきたブラームスにとってロランと一緒に靴磨きができる時間こそが、とても大切な時間になっていた。


 ロランはゲオルグ道場において光6日と光7日は誰よりも早く道場に行き、本来の業務ではない清掃を行い道場が開始されるまで待機するようにしていた。


 そうしているうちに、ついにゲオルグ師範と冒険者を志す青年が剣術、槍術、魔法を訓練しているところに出くわした。


 ロランは、魔物の毛皮で雑巾がけをしながら、ゲオルグ師範と青年の剣術、槍術、魔法の訓練を垣間見ると『理力眼』によりその全てを吸収していった。


 魔法に関しては、青年の魔法適性が低く『強靭身体(コールジュール)』『探知(ディテクト)』、『火弾(ファイヤークーゲル)』、『岩弾(ロッククーゲル)』、『水円斬(ウォーターカッター)』しか訓練していなかったため、5つの魔法しか取得することができなかった。


 それでも、ロランは使用できる魔法が増えたので飛ぶ上がるほど喜んだ。


 ロランは、時間を作っては森へ行き【剣術、槍術、体術と5つの魔法の訓練】を繰り返し繰り返し行ない威力と精度を高めていった。


 なぜ、無理をして魔法や武術の訓練を行っているかというと、あと2週間でカール記念学校は7月となり2ヶ月間の夏季休暇となるため、休みに入る前にできるだけ能力を高めておきたかったからである。


 なぜなら、ロランはこの夏季休暇中に能力と知識を大幅に向上させる計画を【びっしり】と考えていたからである。


 『先ずは、これまで靴磨きと体術道場の【投げられ役】をして貯めてきた資金を使用し魔法、薬学、歴史に関する書物を購入し知識を深めよう……』


 『……知識だけでなく剣術、槍術、体術などの武術や魔法の訓練を行うと共に魔力向上の方法を探し出し魔力を向上させよう……』


 『……それとガントレット(手甲)やグラディウス(剣)も工夫が必要となるため、ブラームス師匠に鍛冶屋を紹介してもらい鍛冶のスキルを取得しよう……』


 『……さらに、靴磨き時に糞尿が眼に入らないよう『ゴーグル』を作成し特許申請してみよう……』


 ロランは、夏季休暇中に行うことを考え胸を踊らせるのだった……

・2019/2/28・・・貨幣の呼び名変更

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