88話 地下遺跡へ
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力における名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
ロランはクリシュナ帝国の正統な皇位継承者である第3皇女『ダーシャ・クリシュナ』を陰謀渦巻く勢力から引き続き守り抜くため、邸に長期滞在いただく事にした。
ダーシャはほぼ邸で過ごしているが毎週光6日(土曜日)と光7日(日曜日)は決まって、ロランと共に【西クリシュナ共和国】内に設営しているRedMace】の宿営地に赴き、魔導戦闘車で国内を視察した。
本日は光6日であるため、ロランはダーシャと共に"宿営地"を訪れる。
非武装地域になったとはいえ"戦の香り"が漂う地での『ジェルド』は元プロストライン帝国の猛将とあって圧倒的なカリスマ性と経験に裏付けられた自信により強烈な"存在感"を放っていた
そんなジェルドであるがロランとダーシャの存在に気づくと申し訳なさそうに挨拶をするのだった。
「…これはロラン様、ダーシャ皇女。繋門を使用し訪問するとテレパスで事前に連絡いただければ"チャイ"の一つも御用意できたのですが…」
ロランはジェルドには【RedMace】の指揮に集中してもらいたかったので、
「…構わないよ…ジェルドにはこの地で"暴行や略奪"といった犯罪を防ぐ職務に集中して欲しいからね…」
とジェルドを気遣い、あえて連絡を行わなかった事を告げる。
時が過ぎるのは早いものでクリシュナ帝国が東西に分裂してから2週間が経過していた。
【東クリシュナ帝国】では皇帝である『ルドラ・クリシュナ』が敵対者を一掃し"アトス湖"から流れる"アユーシ川"の東側に土属性魔法の使い手を集結させ数百キロに渡る"土塁"を作り新たな国境線を作り上げていた。
一方、【西クリシュナ共和国】も未だ憲法は策定されていないものの暫定政権が稼働し始め、被害を受けた国民への支援や警備隊を発足し治安維持が徐々に回復していた。
ダーシャと共に魔導戦闘車で各地を視察しているとクリシュナ国民の多くが体の一部が獣や昆虫である"キメラ"であり、一見普通の人族に見える国民であっても【理力眼】で見ると複数のDNAを持つ"DNAキメラ"である事が認識できた。
ロランは思う。
『クリシュナは数百年あるいは数千年前から"遺伝子操作"を行い続けている…』
ロランはどのような目的で大規模な"遺伝子操作"を行ってきたのか皇帝の血筋であるダーシャに確認しようと横を向く。
すると、そこには大粒の涙を流し瞳を腫らしながら被害を受けた国民に声が枯れ果て声にならない声で励ましの言葉をかける"ダーシャ"の姿があった。
ロランはこの時再び強く想う…
『…ダーシャは"本物の皇女"だ…クリシュナ国民のためにも守り抜く…』
光6日と光7日はダーシャと共に『西クリシュナ共和国』の現状を忙しく視察するロランであった。
フォルテア王国とリンデンス帝国における"来年度の予算編成"に取り組んでいたからである。
ロランは兼ねてから計画していた"ある目的"を実行に移すため2国における"来年度の予算編成"業務に力を注いでいた。
そのため、ロランは数字に強そうだという理由だけで"レイチェル"と"ブリジット"を巻き込んでいた。
「…はぁ…何でこう私利私欲に使用すると"ハッキリ"分かる項目を入れてくるのかね……却下…」
と"ぼやき"ながら各省より提出された概算要求資料の山に目を通し"レイチェル"と"ブリジット"に歳入と歳出のバランスを計算させ予算の編成を進めていく。
予算編成の完了後、ロランは表向きは"自身に権力が集中し過ぎている事を問題を改善するという理由"で盟友となったアリスの祖父であるエドワード公爵と相談し大臣職の担当替えを進める。
相談の末、ロラン自身は"国土交通相"のみ担当し、エドワード公爵が内閣の要である"財務相"と"人事相"を兼務する事になった。
また、新たにアレックスの父であり自分の派閥に属する『ジョルジュ・フォン・マクスウェル・ツー・アガード』伯爵に"司法相"を担ってもらう事としレスター国王と他の公爵達の承認を得た。
一方、リンデンス帝国においては元老院を"帝国議会"と改めと共に元老院達は"貴族議員"と名称替えを行い、将来、貴族議員と相対する構図で一般の優秀な帝国民が議会に参加できる道筋を構築した。
また、フォルテア王国同様、財務相、外務相、内務相といった大臣職を明確に定め技官や事務官を大量採用し各省の事務を行わせる事で緻密な政治体制を確立する。
さらに、宰相である『フレイディス』に初代首相兼帝国議会議長に就任いただき、自らは帝国副議長に治まる事で自身の"権力と業務の軽減化"も実行した。
ロランはトロイト連邦共和国でも最高評議会第三席議長から最高評議会議長補佐官に役職を変わる事でで自身の"権力と業務の軽減化"を促進する。
そこまで自身の"権力と業務の軽減化"を行い実行したいロランの"ある目的"とはこの世界の未知に出会い調査を行うことであった。
この世界に転移してから7年4ヶ月が経ち、これまでこの世界には存在していなかった"フォルテア王国、メッサッリア共和国、トロイト連邦共和国、パルマ公国、リンデンス帝国、西クリシュナ共和国"による【アヴニール国家連合】が設立。
強大な経済圏と軍事力を保有する【アヴニール国家連合】の誕生により、世界は【アヴニール国家連合】、広大な領土と軍事力を誇る【プロストライン帝国】と【東夏殷帝国】の三極による力が拮抗し、新たに大規模な紛争が発生し難い状況となった。
また、これまでに"この世界で生き抜いていくため必死に身に付けてきた術"が実りこの世界で社会的基盤ができ、やっと"目的"を実行するための"心のゆとり"を得たからでもあった。
本来の計画ではフォルテア王国内に存在する多くの"迷宮"を探検し調査するはずであった。
しかし、今や迷宮に行けばほとんどの魔人や魔物が自分に片膝をつき頭を垂れ"従順の意"を示すことから古代遺跡調査に"目的"を変更したのだった。
また、魔人や魔物が自分に膝まづいている光景を他の冒険者達が見れば自分が"次期魔王候補"と気づかれるのは自然の流れだからでもある。
ロランはついに8月の最終週、ツュマが見つけ出した7,000発の【対消滅ミサイル】と大量破壊システム【グングニル】が眠る神聖ティモール教国の地下遺跡を調査する事を決め準備に取りかかる。
先ず、ロランは神聖ティモール教国といらぬ"いさかい"を起こさぬようトロイト連邦共和国の工作活動により新たに教皇となった『マグネリオ6世』に教国ならびに地下遺跡に赴く事を書面で伝え、正式な通行許可を取得した。
次に、ロランはジェルドの代わりに全部隊を指揮しているツュマを呼び出し8月最終週の光6日と光7日は邸を不在にすることを伝え、その間はミネルバにダーシャ皇女の護衛を行わせるよう指示を出した。
ツュマはロランの指示を聞き終わると大人の気の利き過ぎたアドバイスをしてきた。
「…ロラン様、このところエミリア様と会われていないようですが大丈夫でしょうか…」
ロランは『エミリアとの関係も重要だがこの機会を逃すと"地下遺跡"調査の為に今まで行ってきた準備が全て無駄になる…』と考えこんだ末、ツュマに情けない相談をした。
「…ツュマ…どうすればいいと思う…」
ツュマは『…ロラン様は女性への接し方が何も分かっていない…本当に奥手な御方だ…』と思いながら"ジゴロ"なアドバイスをする。
「…地下遺跡の調査を優先しエミリア様との"デート"を後回しにするのであれば…」
「…うん…するのであれば…」
「…エミリア様に宝石が付いたネックレスをプレゼントし、いつでも話しがしたいからと"テレパスの能力"を付与し甘い言葉の一つもささやくのです…」
ロランはツュマの自信に満ちたアドバイスに目から鱗の発見をしたかの如くツュマを絶賛する。
「…さすがツュマだよ…テレパスにそんな画期的な利用法があるとは…さすがだ…」
ロランはその晩、以前リンデンス帝国の鉱山より産出した特大のルビーの原石を魔法鞄から取り出し、地下の【開発Labo】に赴くと切断機と研磨機でカットし思いを込めてネックレスを製作した。
翌日の昼休憩時にロランは国土交通省がある"西翼棟"からエミリアが勤務する宰相府がある"東翼棟"に赴きエミリアを呼び出した。
ロランはエミリアと共に中庭のベンチに腰掛けると魔法鞄からネックレスを取り出し、エミリアの方に向くとそっと首にネックレスをかけ、その最中に"テレパスの能力"を付与した。
エミリアは急にプレゼントをされた事とその際に生じた力の干渉が何なのかロランに真意を尋ねた。
「…ロラン…ネックレスありがとう…」
「でも、どうして急に…こんな高価なネックレスをプレゼントしてくれたの…」
「それにネックレスを取付けてくれている時に感じた"力の干渉"は何のか説明して…」
ロランはエミリアからの問いに対し"テレパスの能力を付与"した事と地下遺跡調査の件を全て話した。
エミリアはロランの話を聞き終えると予想外に機嫌が良なり自分の考えをロランに伝えてきた。
「…そうなんだ…私よりも地下遺跡の調査を優先した事と"デート"ができない事に罪悪感を覚えたから"ネックレス"をプレゼントしてくれた事には納得がいかないけど…」
「…浮気もしてないようだし…最近近寄りがたいと思っていたロランにも…そんな子供っぽい所がある事が分かってすごく嬉しいよ…」
ロランは『子供っぽい理由ではなく古代文明のテクノロジーを見極めるという重大な理由なんだけど…』と思ったがエミリアが納得したので何も言わず良しとした。
その後もロランは日常の業務に全力で取り組みながら調査の準備を加速させた。
今回の調査の同行者には、古文書を解析し古代遺跡の場所の特定に従事する『ピロメラ』と新薬の開発に"のめり込み"【医療LABO】に引きこもりがちな『ブリジット』、31世紀の科学知識を持つ『レイチェル』そして何かを思い詰める『ルディス』を選抜する。
2日後、魔法全般に対する知識が深く、斬新な視点から調査を行えそうなカント魔法大学教授である『クリスフォード・ド・モンパーニュ』も参加させる事とした。
アゼスヴィクラム暦736年8月30日【光5日(金曜日)】17時30分。
ロランは"繋門"を使用し空間を切り裂くと神聖ティモール教国の国境検問所が存在する位置から1㎞手前の地点に一行を連れ移動する。
移動後、ロランは魔法鞄から大型馬車を取り出し『リルヴァ』を召喚するとルディスに御者を頼み、皆を馬車に乗せると検問所を目指した。
『待ってろよ…地下遺跡…もうすぐ行くぞ…』
とロランは"未知の扉を開ける期待"に胸を躍らせるのであった。