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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第2部 第2章 キメラの世界 編
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87話  禍殃の皇女

 アゼスヴィクラム暦736年8月2日【光5日(金曜日)】、日の出とともに全長100m、船体がパールホワイトの高速飛行船"エルミオンヌ"がクリシュナ帝国第三皇女『ダーシャ・クリシュナ』を乗せ、邸近郊の飛行船整備施設に帰還した。


 エルミオンヌから侍女2名を連れて降りてきたダーシャは亡命という肩身が狭くなる立場ながら最古から存続する国家の皇女として精一杯、威厳を保とうとしていた。


 皇女を迎えにきたロランはダーシャの気丈な振る舞いに心打たれ片膝を付き挨拶を行う。


 「…お初にお目にかかります。私はフォルテア王国で"財務相"と"国土交通相"を担当しております『ロラン・フォン・スタイナー』と申します…」


 「…この度の事、大変なご覚悟が必要であった事と存じます…」


 「……明日、王宮で晩餐会が開催されるまでしばしの間、我が邸でお寛ぎください…」


 ダーシャはロランの人となりをしばらく見つめ確認すると言葉少なめに


 「…龍覇者の『ロラン・フォン・スタイナー』様ですね…宜しくお願いします…」


と述べるとロランのエスコートに従い用意された部屋へと向う。


 部屋に到着したダーシャはベッドに横たわると、これまでの疲れと緊張が一気に開放されたせいか深い眠りにつくのだった。


 一方、ロランは料理長の『ペスカトーレ・ダイム』と皇女に対する食事の打ち合わせを行っていた。


 ここ、フォルテア王国、メッサッリア共和国、トロイト連邦共和国、パルム公国、リンデンス帝国における国教は【ティモール教】であり食事に関する制約がない宗教であった。


 一方、クリシュナ帝国の国教は【パルメール教】であり、戒律(かいりつ)で食べてはいけない食品が存在したからである。


 「…ダイム料理長、難しい注文をして済まないが宜しく頼みます…」


と言うロランに対しペスカトーレは自身に満ちた表情で任しておくよう返事をした。


 長閑な(のどかな)時間を与えまいとするようにトロイト連邦共和国アガルド・ジャコメッティ最高評議会議長が黒猫を使用したテレパス送信で【黎明会議】を開催するよう要請してきた。


 あまりにも急であったため商会連合の代表達は今回の【黎明会議】欠席となった。


 いつもと異なり会議は冒頭から白熱した。


 「…なぜ、メッサッリアはクリシュナに軍事侵攻したのか…大義があるまい…明確な説明をしてもらおうかの…ジグムンド…」


とアガルドは顔を真赤にしながらジグムンドを追及する。


 今回の突発的なメッサッリアの軍事侵攻は秘密情報部長官『ゲーリー・ブライトマン』が軍部に故意に情報を漏洩し、軍による暴走を誘発させた事が原因であった。


 しかし、一国の大統領であるジグムンドはその事実を口が裂けても認める訳にはいかなかった。


 認めれば"シビリアン・コントロール"が効かなかった事を認めてしまう事になるからである。


 そのため、いつもの豪快さは身を潜めていた。


 窮地のジグムンド大統領に代わり【赤き剣】こと『アルベルト』が説明を行おうとしたところ、アガルドは

 

 「…私は今ジグムンドに、この失態の責任を説明してくれと言っているのだがな…」


という言葉で(くさび)を打ちアルベルトが代わって説明することを抑え込んだ。


 ジグムンドは重い口を開くと全く空気を読まない自国の利益を優先する発言を行った。


 「…軍が侵攻しクリシュナの西側主要都市を制圧した以上、ガリル州の頂点からホワイトヴィル湖の頂点を結ぶ領域を新たに我が国の領土としたい…」

 

 「なお、貴殿達にクリシュナの西側名称は【西クリシュナ共和国】とし暫定政権(ざんていせいけん)としてレジスタンスのリーダーである『ロベス・ダントン』を首相とする政権を発足させる事を容認いただきたい…」


このジグムンドの言葉でアガルドの怒りは頂点に達し一触触発の状態となる。


 それでもロランは粘り強く話し合いを継続し、メッサッリアのホワイトヴィル湖南岸地域における国境は現状のままとする事…


 ただしメッサッリアは【西クリシュナ共和国】の建国を支援する費用の対価として暫定政権と領土交渉を行う権利を有する事で着地点とした。


 なお、メッサッリア軍が【西クリシュナ共和国】で暴行・強奪を行わないよう監視団を設置することも決めた。


 監視団としてはジェルド率いる歩兵部隊【RedMace(レッドメイス)】、トロイト連邦共和国陸軍特殊部隊【サヴァン】、メッサッリア特殊部隊【BlackForce(ブラックフォース)】があたり、犯罪者には極刑をかすことで合意した。


 ロランはリビングにジェルド、ツュマ、エクロプス、ルディスを呼び寄せると【黎明会議】での決議事項を説明しジェルドに歩兵部隊【RedMace(レッドメイス)】を指揮しクリシュナで暴行・強奪の監視を行うよう指示を出した。


 また、クリシュナには仮設住宅資材、空の貯水タンク、非常食料、仮設橋、道路を整備する整備隊を伴い魔導戦闘車と魔導装甲車で向うよう追加の指示を出し向かわせた。


 ツュマにはジェルド不在の間代わりに全部隊の指揮をとるよう指示するとともに、山岳警備隊にこれから設置する国境検問所の業務も行わせるよう指示し終えると救出作成の労を労った(ろうをねぎらった)


 エクロプスには、明日エルドーラ山脈に【西クリシュナ共和国】に通ずるトンネルを作成することを告げると今回の任務の労を労い固い握手を交わした。


 ロランはルディスに対してはSilentSpecter(サイレントスペクター)所属のエージェント20名を【西クリシュナ共和国】で活動させるよう指示を出しレイチェルの地下ラボに向かうためリビングを後にした。


 繋門(ケイモン)を使用すれば直ぐ到着するのだがロランは考えを整理するため歩く事を選択した。


 レイチェルの【時空観測Labo(ラボ)】に到着するとドアに手をかざし"静脈の生体認証"を済ませ足早に入室する。


 「…レイチェル…クリシュナ全域を古代文明が残した光学衛星【ミュー】とレーダー衛星【オメガ】で監視して欲しい…」


と告げるとロランは『オム・マーラ』率いる千里眼部隊【Argos(アルゴス)Labo】に向かう。


 【ArgosアルゴスLabo】でオムに対し隊員にトロイト連邦共和国とメッサッリア共和国を監視するよう指示を出すと矢継ぎ早にルミールの【気象観測Labo】に向った。


 ロランは【気象観測Labo】に入室するとルミールに今後クリシュナ全域の天気予測も追加で行って欲しいと依頼し今後2週間のクリシュナの予測データを受け取りブリジットの【医療Labo】に向う。


 この世界では"治癒魔法"で大部分の病気や怪我を回復、完治することができる。


 しかし、その絶大な効果ゆえ治癒魔法による治療は高額となり、王国除く国々では多くの人々がその恩恵を受けることができずにいた。


 ロランは、多くの人々が治癒魔法を受けられない場合でも回復、完治できるよう、解熱剤や止血剤、風邪薬や腹痛薬などの薬の開発をブリジットに行わせていた。


 「…ブリジット…やっと君の苦労が報われるときがきたよ…」


と言うとロランは必要な薬のリストをブリジットに渡し準備をさせた。


 ロラン自身はというとラボ内に置かれていた"空の木箱"の中に大量の包帯と長期保存可能な食材を詰め込み魔法鞄に格納していた。


 その頃、眠りから目覚めたダーシャは邸の利便性に目を見張った。


 蛇口を捻れば(ひねれば)お湯や水が出、トイレも【温水洗浄便座付き水洗トイレ】だったからである。


 給湯器や温水洗浄便座付き水洗トイレ自体は、クリシュナ帝国内でも商会から購入する事ができたが全て粗悪品であったため全てが驚きであった。


 飛行船にも驚かされ、窓から見ることができた漆黒の戦闘用ヘルメットと戦闘服、防弾用のプレートアーマーにガントレット、膝当て(すねあて)に防護靴を装備した屈強な兵士達が一糸乱れず整列している光景にも驚いた。


 その兵士達の傍らにある大砲が付いた魔導戦闘車や金属性の折り重なった橋を運搬する車等、装備がクリシュナの数十年先をいっており″こんなにも差があるものなのか″と思い知らされていた。


 ダーシャは翌日王宮での晩餐会に出席し、ロランとエクロプスによる山脈トンネルの作成を3日間待ち続けた。

 

 ロランとダーシャは、ジェルド率いる歩兵部隊【RedMace(レッドメイス)】が暴行強奪の監視し、破壊された橋や道路さらには瓦礫と化した家屋の撤去を行う現場を魔道戦闘車に乗り巡回する。


 ロランはこの視察で確信する。


 『……クリシュナ国民より絶大な人気を誇り、正当なクリシュナ帝国の継承者である……』

 

 『……ダーシャ・クリシュナを守ることが将来クリシュナを統一させ、開かれた社会の……』


 『……国家建設に繋がる……』


 今後、このダーシャ・クリシュナの帰属を巡り各国が熾烈な攻防戦を長きに渡り繰り広げていくことになるなど、この時は露も知らないロランなのであった。

次回は・・・『88話 地下遺跡へ 』です

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