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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第2部 第2章 キメラの世界 編
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84話 皇女救出作戦(1)

 ツュマ、エクロプス、ファビアンは目覚めると何故か"ひっそり"と邸に向かっていた。


 エクロプスが今の滑稽(こっけい)な状況に嫌気がさし、


 「…はぁ…クリシュナで"ひっそり"するのは分かります。しかし、なぜ王都で"ひっそり"行動しなければならないのですか…」


と発言するとツュマはエクロプスの問に対して


 「…今回の作戦、初日にクリシュナは食料品が不足しているため食料品を扱う商人として入国できるよう【商会連合】に加盟するシレーネ商会『デビット・エックハルト』会頭からの協力を得ることに奮闘…」


 「…2日目は『バルカ』のBarでクリシュナへの潜入方法が誤っていない事を確信するとともに鋭気を養った…」


 「…3日目の本日は邸近郊に設定された地下通路から【魔導列車】に乗り、一気にクリシュナとの国境地帯となるエルドーラ山脈の(ふもと)にある我が領地"ヴィントハイデ"まで移動する計画なんだ…」


と静かに答えた。


 するとファビアンは大きめな声でツュマの苦労を台無しにする発言をする。


 「…でしたら、何もこんな"コソコソ"しないで堂々と地下通路に向かいましょう…どうせ、もうロラン様はお気づきになっておりますから…」


 ツュマは『…はぁ…なんでこうエクロプスとファビアンは面白みがないんだぁ…』と思いながら、


 「…そうだな…ロラン様なら既にお気づきになっているだろうな…よしっ…堂々と地下通路に向かうぞ…」


とやや憤慨しながら指示を出した。


 その後、3人はギクシャクしながら地下通路まで移動すると【魔導列車】に乗り込んだ。


 【魔導列車】に乗り込むと3人のギクシャクした関係は直ぐに修復された。


 ツュマはこの地下通路の建設責任者であるエクロプスに対し、


 「…この【魔導列車】も凄いが、地下にこんなに明るく広い空間が存在しているなんて驚きだ…エクロプスとその一族は"真の意味"で【魔法使い】のようだ…」


と心から最大級の賛辞を送った。


 ツュマに最大級の賛辞を送られたエクロプスは


 「…皆、魔法は使用できるでしょ。それにこの地下通路、"東・南方面"は完成したものの西のトロイト方面が未完成ですし使用頻度も少ないですし…」


謙遜(けんそん)していると、またしてもファビアンがトラブルメーカーの発言をする。


 「…エクロプスさんとその一族が、都市の地下に都市を上回る巨大な地下空間を建設したら、都市をまるごと地下に落とし込む事も可能ですね…」


とファビアンが不用意な発言をした瞬間、エクロプスは土属性魔法の蛇岩檻(スネークロックゲージ)を発動した。


 列車の床から無数の岩が出現し蛇を形作ると一斉にファビアンを拘束するために飛びかかっていく。


 ファビアンはミスリル製のトンファーで攻撃してくる無数の蛇を叩き潰すも一匹に足を噛まれ、噛まれた部位から石化の進行が急激に始まった。


 ツュマはエクロプスの急変に驚き、


 「…エクロプスどうしたんだ…ファビアンは鼻につく野郎だがそこまでの事はしていないぞ…」


と仲裁に入った。するとエクロプスは、


 「…先程の考えはロラン様と我ら一族だけの秘匿事項。なぜ、それを貴様が知っている。ファビアン答えろ…答えなければ全身を石化させるぞ…」


と叫びファビアンを問い詰めた。


 その形相はいつもの温和なエクロプスからは想像できないほど恐ろしくツュマさえ動けずにいた。


 そんな中ファビアンは整然と


 「…私はロラン様や誰からも聞いておりません。自分の考えを述べただけです…」


と石化が進行しているにもかかわらず冷静に答えるのだった。


 エクロプスはファビアンが嘘を言っていない事を確認すると、


 「…ツュマさん、ファビアン。先程ファビアンが述べた我が一族に関する事項はロラン様との秘匿事項ゆえ、他言無用を約束いただきたい…」


と迫ってきた。


 ツュマとファビアンはエクロプスの迫力に押され、


 「「…自らの名と誇りにかけて誓う…」」


と宣言をし事は落着した。


 ツュマは『…エクロプスだけは怒らせてはいけないな…しかしファビアンはいつも一言多いな』と心の中で呟いていた。


 2時間後【魔導列車】は終点であるグラスタル領前に到着した。


 ツュマ一行は地上に出ると徒歩でグラスタル領に入り、そのままシレーネ商会の支社に向かった。


 シレーネ商会の支社では、干物や海藻、生魚を水属性魔法により氷の柱とした『氷魚笹(ひょうぎょざさ)』などの水産加工食品を受け取り、人足(にんそく)は危険が多い事からツュマ配下の山岳警備隊の選抜者が行う事にした。


 ここグラスタル領は、ロランの盟友エドワード公爵派閥に所属する『オズワルド・フォン・ミラー・ツー・グラスタル』子爵が治める領地であり、質素であるが整備が行き届いた綺麗な街並みであった。


 ツュマはテレパスで山岳警備隊の中から選抜した者15名を明日グラスタル領のシレーネ商会に10:00時"ヒトマルマルマルジ"に集合するよう指示を出すと


 「…エクロプス、ファビアン…夕食がてら一献(いっこん)楽しもう…」


と2人を居酒屋に誘い強引に連れて行く。


 「…明日からが勝負となる…今宵は親睦をさらに深めるぞ…」


と言うとツュマはウエイトレスにキール酒を頼むも品切れであたったためシュバルツ酒を注文した。


 よそ者が高い酒を注文していると居酒屋の雰囲気が悪くなった事を肌で感じたツュマは大きな声で、


 「…俺はシレーネ商会の『フィデリオ・バロテッリ』。明日、国境のエルドーラ山脈を超えてクリシュナで水産加工食品を売り一旗揚げて帰ってくる…今日は前祝いだ…皆にシュバルツ酒を奢ろう(おごろう)…」


と酒を奢ることを叫ぶと居酒屋は狂喜乱舞の状態となった。


 ツュマとエクロプス、ファビアンの席にシュバルツ酒とサービスの軽食を持ってきたウエイトレスが艶のある声でツュマを誘惑してきた


 「…こんなにキップのいい男初めてだよ…私があと10年若けりゃねぇ…」


するとツュマは、そのウエイトレスの瞳を見つめながら、


 「…レデは歳相応に美しさも増すものです…残念ですが大きな仕事の前には男共と飲み明かすという"(ゲン)"を担いでいるのでね…」


と甘い言葉で"やんわり"と誘惑を断ったため余計ウエイトレスはツュマに惚れ込んでいった。

 

 エクロプスとファビアンはその光景を目の辺りにしながら


 『『…この人は単純に酒が好きなのか。天然のジゴロなのか…それにストライクゾーンが広い…』』


と思いながら食事とこの場の雰囲気を満喫していた。


 ツュマは狼の獣人であるアペシキテ《火の牙》一族の族長であり皆が楽しく酒を飲み語らう光景を見る事が本来好きであった…


 年齢は35歳、透き通るようなブルーの瞳を持ち、顔の彫りが深く口髭(くちひげ)は整えられ、髪は短髪ながら前髪からトップまでウェーブを利かす(きかす)ワイルドで精悍(せいかん)な男である。


 この雑音とも言える中でツュマはロランからの密命である【第三皇女ダーシャ・クリシュナ救出作戦】についてあらゆる想定を頭の中でシュミレーションしていた。


 そのために、今回の作戦では敵対者をヴァルハラに送る許可をロランより取得するほど難しい作戦であった。


 『ロラン様が赴けばその時点で戦争に発展する…』


 『だから、私に"(めい)"がくだされたのだ…』


 『ロラン様の想いに報いるため、この作戦に命をかける…』

  

 『アペシキテ一族の族長としてLVSIS(ルブシズ)のツヴァイとして、己の誇りにかけて必ず任務を全うしてみせる…』


ツュマは、この時並々並ぬ覚悟を胸に秘め作戦に備えるのだった…

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