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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第2部 第2章 キメラの世界 編
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83話 孤独の皇帝 ~諜報員の心得~

 クリシュナ帝国皇帝『ルドラ・クリシュナ』は疑心暗鬼になっていた。


 "キメラの樹海"がロランとメッサッリア共和国の攻撃により隔絶された後、"キメラの樹海"作戦を推進した5人の将軍が何者かによってヴァルハラに送られ、その直後腹心の『ドゥルーヴ』将軍に腹を刺され命を狙われたからであった。


 さらに"マルテーレ海"へ続く新たな領土として制圧したケトム王国【ガリル州】ではメッサッリアから支援を受けたレジスタンスによる反乱が各集落で発生し鎮圧に3分1の兵力を削がれていた。


 『最早、我が国には【生物兵器】しか大規模破壊を引き起こせる兵器しかなく...』

『他に頼れる部隊は【キメラを人工的に狂戦士化する部隊】しか無くなったか…』


 『我が国はアゼスヴィクラム暦が始まる紀元前2,000年前から存続する"由緒正しき国家"なのである…』

 

 『新興国家風情に"世界の覇権"を握られるなど、あってはならないことなのだ…』


とルドラは玉座に座りながら一人クリシュナの今後を考えていた。


 その頃、ロランはと言うと夏季休暇中とあって朝から『ピロメラ』を伴い王都の本屋を巡り古文書を探していた。


 ピロメラは【至高の門番(プリマプフェルトナァ)】達の中では戦闘力が低く、偵察、工作、諜報に関してはLVSIS(ルブシス)特に諜報・工作に特化したSilentSpecter(サイレントスペクター)の能力が向上したため存在価値が薄まっていた。


 『ピロメラは初期に召喚したものであり多大な功績を持つ功労者である…』

 『ピロメラには古文書を解析してもらい古代文明が残した遺跡の調査をしてもらおう…』


という考えにより王都の本屋を巡る古文書探しとなった訳である。


 馬車の中ではロランとピロメラは2人きりであった。


 召喚した際、ピロメラは燕であったが今は人型に形態変化している。


 艶のある黒い髪、その髪は肩まで伸び毛先は3段階にシャギーが入り、全体的に"ゆるい"内巻きであり、顔は小さく、瞳はぱっちりとした二重で厚い下唇といわゆる沖縄美人そのものであった。


 ロランは、ピロメラになんて言葉をかけたらいいのか考えているとピロメラが急に


 「…ロラン様、私の【力】が至らないばかりにロラン様にお気を使わせてしまうなんて…」

  

 「…ピロメラはよくやってくれている。ピロメラに肩身の狭い思いをさせてしまっている全ての原因は僕にある…ピロメラには"古文書を読み解き古代文明が残した遺跡調査を行ってもらいたい"…」

 

 「ツュマが見つけ出したような古代兵器を格納した遺跡が複数存在するかもしれないからね…重要な役目だ…」


と自分の考えを説明した。


 ピロメラは『ロラン』の優しい気遣いに触れ『…ロラン様のために頑張らなくては…』と思いながら


 「…頑張ります…ロラン様」


と涙を堪えながら返事をした。


 2人のやり取りを一部始終を聞いていた業者の"トイ"は『なんて素敵な御二人なんだ…』と感激し号泣するのだった。


 昨晩、ロランからクリシュナ帝国に潜入し諜報工作活動を行うよう指示されたツュマ、エクロプス、SilentSpecter(サイレントスペクター)のエージェントであるファビアンは昼食を撮った後、王都のある"Bar"を目指していた。


 3人の中で一番思慮深いエクロプスが、


 「…ツュマさん…こんな"Bar"がクリシュナと何か関係があるんですか…しかも昼間から…」


と尋ねられたツュマは『生真面目だなぁ…エクロプスは…』と思いながら

 

 「…エクロプス…人生は一度きりなんだ…そんなに自分に厳しくしていたらつまらない人生になってしまうぞ…」


と言いながらツュマはエクロプスの肩に腕を回すと先輩が後輩を酒に誘うように強引にエクロプスと"Bar" に向かった。


 ツュマはいかにも飲み屋と思わせる扉をノックする。


 「…コン、コン。…コンコン…」


 「失礼するよ…いつものように思いっきりうまい酒を頼むよ…マスター」


とツュマは常連の口ぶりでマスターに話しかけていく。


 「…これはこれは久しぶりだね。フィデリオさん…今日は御連れさんもご一緒で…」


とマスターである『バルカ』はグラスを拭きながらツュマ(偽名:フィデリオ)を迎える。


 "Bar"の中はジャズに似た音楽が生演奏され、人族や獣人でごった替えしていた。


 ツュマは2人を連れ、空いているテービルに着くとウエイトレスを呼びキール酒を頼んだ。


ツュマは唐突に2人の偽名を決めていく。


「俺は『フィデリオ・バロテッリ』、エクロプスはそうだな…『エルネスト・ベンチ―二』、ファビアンは難しいな『ロレンツ・カロッソ』と名乗るように…」


するとファビアンがツュマに対し皮肉を込めて


 「…随分、人が多い場所で決められるのですね…」


と突っ込むとツュマは


 「…木を隠すなら森の中だろ…それにここは特別な森なんでな…」


と意味深な返事をした。


 そんな3人のもとにボトルに入ったキール酒を持ったマスターが近づいてきた。


 「…フィデリオさん、今度はどこへ行かれますか…」


とマスターのバルカが尋ねてきた。すると、ツュマは隠すことなく、


 「…クリシュナ帝国へ向かいます…」


ツュマが"クリシュナ"の名を上げた時"Bar"の中が一瞬静寂に包まれた。


 その言葉を聞いたバルカはツュマに対し、


 「…そうかい。クリシュナはとても危険だよ…今クリシュナは"キメラの樹海"を封鎖されガリル州での反乱に手を焼いているから、とても"ナーバスな状態"といえる…」


 「…そのため、水産資源はクリシュナの北に位置するアトス湖だのみとなっている…」


 「水産資源や食料を運搬する商人であれば国境を正面から通行できるはずだ…」


とクリシュナ帝国の現状と侵入方法を教えるのだった。


 ツュマはそんなマスターであるバルカに対し、


 「…バルカいつもいい情報をありがとう。じゃ、Barにいる皆に対しフィデリオがキール酒を1杯おごろう…」


キール酒を奢る(おごる)という言葉にBarの中は活気づいた。


 3人はBarでたらふくキール酒を飲み満足すると、今夜は宿に泊まり翌朝クリシュナに向かう事にした。


 宿に向かう道すがらファビアンはツュマに対し怒りを抑えながら、


 「…ツュマさん、なんで王都にトロイト連邦共和国情報保安局、通称TFRISS(トフリス)がBarを構えているのですか…」


と尋ねてきた。


 「…良く気づいたなファビアン。Barのマスターは恐らくTFRISS(トフリス)の中でも最強と名高い【黒い目(ブラックアイズ)】の『ハンニバル・ロジーナ』であろう…ウエイトレスも全員諜報員(エージェント)だ…客もな…」


ツュマは驚愕の内容を口にする。


 「…我々のような諜報員は作戦に入ればお互い命をかけ戦い合わねばならない。例え味方が捕まってしまった場合も他のメンバーの生命を確保する為あえて救出に向かわない場合もある…」


 「…そんな殺伐とした諜報員の世界にあってもせめて任務外の時は少しでも心を許せる空間を作りたいという思いが結集し出来上がった物が今の"Bar" であり世界中に存在している…」


 「…ルールは簡単。Bar内で戦闘・諜報活動を行わない。Barの存在そのものを口外しない。Bar内にいる者を詮索しない…まぁこれが【諜報員の心得】というやつだよ…」


 「それと酒の料金が高いのは"ボッタクリ"じゃないぞ。Barの客がどこかの国のどこかの道端や川岸でヴァルハラに送られた際、その者の葬儀代も含んだいるからあの値段になるんだ…」


ツュマの話にファビアンは納得しなかったが、エクロプスは"深いねぇ"と変に納得していた。


 この3名はクリシュナに潜入し直ぐにクリシュナ帝国民の過酷な現状を目のあたりにすることになるのだが…


 この日は三者三葉、ベッドの中で"未来に求め描く夢"を見るのだった…


次回は・・・『84話 皇女救出作戦(1)』です

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