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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第2部 第2章 キメラの世界 編
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81話 煌めく衛星 ~グランツトラバント~

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 【黒曜の丸屋根】と【神の矢】の攻撃により【キメラの樹海】を隔絶してから、既に3週間が経過していた。


 ロランにとっては"人""獣人""妖精族""キメラ""魔人""魔物"生きとし生ける者の命は平等なものとなっていた。


 そのような考えの変遷(へんせん)により、キメラによるバイオハザードを封じ込める手段とはいえ、今回多くのキメラをヴァルハラに旅立たせた責任をロランは未来永劫背負い続ける覚悟をしていた。


 勿論【黒曜の丸屋根】の内側に入れる者は【冥界の王】たるロランのみであった。


 その為、罪滅ぼしにはならないと理解しつつブリジットとの約束を守るため【理力眼と千里眼ならびに探知】の能力を駆使し、現世界に害が無いと判断した者を繰り返し救い出した。


 この日は、眼がなく体中の表皮が"鼻"と"耳"で覆われているキメラの男性を助けだし【繋門(ケイモン)】を用いてリビングに連れ戻った。


 間の悪い事にこの時、アルジュがリビングで寛いで(くつろいで)いた。


 ロランとキメラの男を観たアルジュはロランに対し、


 「…ねぇ、ダーリン…どうしてこの人は体中が"鼻"と"耳"で覆われているの…」


と尋ねてきた。


 近くにはロランの(ろう)労おう(ねぎらおう)とブリジットが冷たいレモネードを持って佇ん(たたずん)でいるにもかかわらずである。

 

 ロランは『…はぁ…アルジュ…鈍感すぎるよ…』と思いつつ、質問に答える。


 「…戦により"鼻"あるいは"耳"を失った兵士に対し、この男性の体から"鼻"あるいは"耳"を切断して移植するためだよ…」


 「…そのため、移植される側の兵士が拒絶反応を起こさないよう…」


 「…この男性は"B細胞、T細胞、NK細胞"が無い【免疫不全】になるよう設計されているはずだ…」


と衝撃の真実を語る。


 ロランの話を聞いたブリジットの顔はみるみる曇っていく。


 そんなブリジットをみかねたロランは少しでもブリジットの心を癒やしたいと

 

 「…この男性は全ての人に輸血できるよう、Rh抗原体がない【黄金の血】とされる措置は行われていない…羊のDNAの一部が組み込まれているから…」

 

 「…頭部以外に存在する全ての"鼻"と"耳"を外科的に取り除けば普通に"獣人"として生活が可能だ…」


連れ戻った男性が普通に獣人として生きていく事ができることを告げる。


 『厳密に言うと人族と獣人ではわずかにDNAの差があり別の種族であるのでこのキメラの男性とは異なるのだけど見た目が近いから良しとしよう…』とロランは想いを胸の奥にしまう。


 ブリジットは同じ境遇にあるこの男性にも未来がある事が分かり、徐々に微笑みが戻っていく。


 このように、ロランは【黒曜の丸屋根】から現世界に対し害が無いと判断した者を救い出し、自分に過酷な運命を背負わせた"生"を運命づけたクリシュナを憎み、希望を与えたロランに対し絶対の忠誠を誓う者達に対し…


 【理力眼】を使用し能力を抑えた"千里眼と探知"の能力を与え『オム・マーラ』率いる千里眼部隊【Argosアルゴス】に組み入れた。

 

 ただし、ロランは力を授けたキメラ達が裏切らないよう【冥界の王】の能力で脳を支配した"魔蟲"を飲み込ませるという【非人道的な行為】を躊躇(ちゅうちょ)なく実施している。


 この世界においては、"千里眼"はそれほどまでに価値のある能力であった。


 ロランの歩みは止まらない…


 クリシュナで内紛が起こるまでに2度と権威を剥奪される恐れが無いよう王国において盤石といえる体制を築いていく。


 既にロランは公爵になった直後、エドワード公爵の政治的『力』を借り宰相府から"税率大綱や法律の作成"権限、"大臣、政務官、事務官、近衛衛士"の人事権、"王都における都市計画の作成や上下水道維持プランの作成"権限といった…


 財務、人事、国土保全に関する権限を奪い取り、宰相であるワグナーの権威を削ぎ落としていた。


 さらに、外務相はリックストン公爵、内務相はトーニエ=スティワート公爵と今まで通りであるが…


 新たに"大臣、政務官、事務官、近衛衛士の人事を司どる"人事省を設け人事相と司法相をアリスの祖父であり内務相の義理の父である『エドワード・フォン・スティワート・ツー・グラム』公爵が担当し…


 税率や財務を司る"財務相"と王都の都市計画作成や上下水道維持プランの作成といった国土保全を司る"国土交通相"を新設し自身が担当する体制を整えた。


 ロランは完膚無きまで叩き潰して以降、従順の姿勢を貫く勇者であるグレイチェスカ公爵に新設した総務相を担当させ、領地を持つ貴族からの陳情対応と人頭税の基礎となる戸籍管理業務の指揮を任せてもいた。


 また、フォルテア王国では各公爵の下に伯爵、子爵、男爵…といった下層階級の貴族が所属する派閥形成の慣習があった。


 ロランは公爵になってからこの慣習を利用し一大派閥の形成を試みていたが、現時点で自分に所属する貴族はアレックスの父君であるジョルジュ伯爵しかいなかった。


 一方、同盟関係と言えるエドワード公爵もこれまでレスター国王に疎まれ(うとまれ)敬遠されたいた人物であるため…


 エドワードに所属する貴族は『オズワルド・フォン・ミラー・ツー・グラスタル』子爵とエドワードの旧友である『ロバート・フォン・メスナー・ツー・コービル』子爵の2名だけであった。


 ロランは、同盟関係にあるエドワードの派閥と合わせても所属する貴族が5名ではあまりに派閥として脆弱すぎると考え、自分の配下を貴族にする事を画策し始めた。


 公爵以前の功績と公爵になってから伯爵家2家を取り潰しレスター国王の直轄地とすることで国王家の財産を増加させた功績の褒美として、レスターにリストに記載した者達を貴族にして欲しいと要求した。


 誰もが無理と考える要求であったが、党の国王であるレスターは"あっさり"とロランの要求を受け入れた。


 と言うより受け入れざるおえなかったのである…


 6公爵のうち、宰相であるワグナーを除く全ての公爵がロランの要求を受け入れるようレスター国王に進言するとともに…


 他国首脳、全世界に50万人いると噂されるドワーフの(おさ)である"ワーグ"や王国の経済を司ると言っても過言ではない"商会連合"からもロランの要求を受け入れるよう嘆願させる事を根回ししていたからである。


 アゼスヴィクラム暦736年7月12日【光5日(金曜日)】、王宮『謁見の間』にて爵位授与が行われた。


 レスター国王は人事相であるエドワード公爵より渡された書面を手に取ると席を立ち、書面の内容を読み上げた。


 「…"ツュマ・フォン・アマルテア"…"オム・フォン・マーラ"…"リプシフター・フォン・マクリール"…」


 「"エクロプス・フォン・アークボルト"…"ルディス・フォン・グラント"…"ブリジット・フォン・フランソワ"…」


 「"ミネルバ・フォン・サンチェス"…"ロベルト・バイン・アンガスタ"…」


 「…皆に対し【子爵】の爵位を授与する…」


レスター国王の発言に『謁見の間』にいた全ての貴族達が驚愕した。


 さらにレスター国王は書面を読み上げる。


 「"ジェルド・ヴィン・マクベス"…"クリスフォード・ド・モンパーニュ"に対し【伯爵】の爵位を授与する…」


"ジェルド"の名を耳にした『謁見の間』の貴族達から驚愕とも罵声ともとれる声があがる


 「「「「「…ジェ…ジェルドだと…あの猛将のジェルドなのか…」」」」」


貴族達の反応は当然であった。


 ジェルドは今から16年前、王国に進行し王国民と兵士を恐怖のどん底に陥れた(おとしいれた)プロストライン帝国の元将軍だったからである。


 ロランは罵声を発した貴族に対しドラゴンの言葉である【シエルヴォルト】を使用し"言葉"を奪った。


 【シエルヴォルト】の言霊(ことだま)の『力』は万物に対し絶対であるため"言葉"を奪う事など容易すぎるほど容易であった。


 レスター国王の言葉はまだ続いた。


 「…"ツュマ・フォン・アマルテア子爵"は古代兵器を発見・破壊し王国を救ったとロラン公爵より聞いておる…」


 「…その功績により"国王栄誉勲章"とともにアペキシテ一族3,500人が住む"居住地(きょじゅうち)"を領地として与える…領地の名は"ヴィントハイデ"とする…」


 「…今日より"ツュマ・フォン・アマルテア・ツー・ヴィントハイデ"と名乗るがよい…さらに子爵の筆頭とする…」


と言い渡した。


 さらに翌日、リンデンス帝国ラビュリント王宮『融和の間』にて2人の女性に対する爵位授与式が行われた。


 ロランは、永遠を生きる"アリーチェ"と"レイチェル"はフォルテア王国で爵位を取得するより他国の方が代替わりの際、偽装し易いと考えたからである。


 リンデンス帝国皇帝『ラグナル・デ・リンデンス』は元老院首座であるロランより渡された書面を読み上げる。


 「…"アリーチェ・デ・クロエ"ならびに"レイチェル・ロンド・冷泉(れいぜい)"の両名に対し…」

 「【伯爵】の爵位を授与する…」


と発言すると『融和の間』に集まった貴族達はリンデンスを豊かな国に変貌させた元老院首座であるロランに従う者と知り…


宰相である"フレイディス・デ・リアプノフ"を筆頭に大きな拍手が巻き行っていた…


 こうして、ロランは4人の伯爵と8人の子爵を配下に持つ公爵となるとともに、フォルテア王国において11人の貴族が所属する最大派閥の領袖(りょうしゅう)となった。


 人々はロランを守る"大鷲"の家紋を有する12人の貴族達をロランという巨星を周回する輝く衛星に例え【煌めく(きらめく)衛星"グランツトラバント"】と畏敬の念を込めて呼ぶのだった…

次回は・・・『82話 閑話 クリスフォード・ド・モンパーニュ』です。


・"アリーチェ"と"レイチェル"はリンデンス帝国より爵位を授与されたため、フォルテア王国においてはロランの派閥所属の貴族としてカウントされないため現時点で11人となります。

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