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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第2部 第2章 キメラの世界 編
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79話 キメラの樹海

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力(スキル)における名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 公爵を叙爵され1ヶ月が過ぎた某日、ロランは『黎明会議(れいめいかいぎ)』の場で悩ましい問題を提起していた。


 「……皆さん、今から御見せする映像はかなりショッキングなものです。チャイは控えていただいた方が宜しいかと……」


 ロランはありきたりな前置きを言うとレイチェルに目配せし、プロジェクターを用いて巨大スクリーンに映像を映し出していく。


 巨大スクリーンに映し出された映像は、


 『頭が蟻で体が人間の生命体が瘴気漂う樹海を歩く光景』…

 『頭髪と瞳がなく、全身が鼻と耳で埋め尽くされた全裸の男性』…

 『体の半分以上がクラゲの生命体』…

 『全身からヌメリが強い粘液を分泌するナメクジと人間が融合した生命体』…

 『木と人間が融合している生命体』


とどれも出席者の想像を超える映像ばかりであった。


 想像を超えたショッキングな映像のため、ヘスティア商会の『クレイグ・コンラート』などはチャイを吐き出してしまうほどであった。


 クレイグとは対照的に王都の裏社会の顔役でもあるバロア商会会頭の『ニコラス・ブルナー』は


 「……ロラン卿、このキメラ達は全てクリシュナが創造したという事でしょうか……」


と沈着冷静に話を切り出す。


ニコラスの問いに答えながらもロランは話を進めていく。


 「…その通りです、ニコラス殿。問題は今映し出した"キメラ"の個体数が急増している事…並びにキメラ達が暮らす『樹海(じゅかい)』が急速に拡大している事です……」


 ロランの言葉に一同は驚愕すると共に、問題のスケールが大きく深いため落胆の溜め息をもらす。


 重苦しい雰囲気の中、メッサッリア共和国大統領『ジグムンド・シュミッツ』は苦虫を噛み潰したような顔で


 「…この【キメラの樹海】。フォルテアとクリシュナの国境であるエルドーラ山脈のクリシュナ側地域で突如発生し、我が国とクリシュナの国境であるホワイトヴィル湖南岸領域にまで拡大しておる…」


と話し出すと横目でロランを見ながら、


 「…よって我が国もこの問題を看過することはできない…今回の黎明会議は我らに対し樹海封鎖の一端を担えという事が主旨だな……」


との問いに、ロランはジグムンドの感の良さは嫌いではないですよといわんばかりのすまし顔で、


 「…このままではメッサッリアにも被害が発生しますので致し方ないかと思いまして…」


と厚かましく協力を仰いだ(あおいだ)


 予想範囲内の答えであったためジグムンドは両手を挙げ背伸びをしながら、


 「…だそうだ。アルベルトよ『マシュー・オルコット統合軍司令』とともに、この件対処するように…」


と知的で端正な顔立ちのメッサッリアの英雄【赤き(つるぎ)】ことアルベルトに指示を出した。


 アルベルトは言葉短めに、


 「…承知いたしました。万事お任せください…」


と端的に返事を行う。


 黎明会議に参加している一同はアルベルトの所作に眼が釘付けとなった。


 戦場の中で研ぎ澄まされ極限まで無駄な動作をそぎ落とすことで生まれたアルベルトの所作は舞のように淀みが無く流線美が際立っていたからである。


 特にリンデンス帝国皇帝『ラグナル・デ・リンデンス』と宰相の『フレイディス』は全く隙きは無いものの人を拒絶する特有の威圧感を抱かせないアルベルトの大器に恐怖を抱いていた。


 するとアルベルトは行動を起こすため、軍事行動を行う正当性を求めてきた。

 

 「…ロラン殿、我らが動く時は"大義"を国民に知らせる義務があります…それには先ず軍事行動を起こすに値する脅威か否か…【キメラの樹海】に対するより詳しい情報をお聞かせいただきたい…」


もっともな正論にロランは大きく頷くとレイチェルに目配せをした。


 するとレイチェル・ロンド・冷泉(れいぜい)は指し棒を伸ばすと


 「…樹海に対する詳細情報は私が行います…」


と言い、巨大スクリーンに衛星から映した樹海の映像、データとグラフを映し出し説明を始めた。


 「…こちらを御覧ください。静止軌道に位置する光学衛星【ミュー】とレーダー衛星【オメガ】による分解能5cmの樹海の画像となります…」


 「…こちらはマイクロ波衛星【オミクロン】からのマイクロ波分析による有毒ガス調査の結果です…」


とレイチェルはメラー海沖20kmに沈んでいるかつて自らが搭乗していた【時空間航行船ユリシーズ】の暗号解析とハッキングツールを使用し古代文明が残した衛星をハッキングし制御することに成功し多様な情報を取得していた。


 「…有毒ガスは検出されませんでしたが樹海の植物から発生する花粉が人族にアナフィラキシーショックを誘発させるため有害です…」


 「…また、キメラ達は強引に人族の女性と交配しキメラの子供を増殖させております…妊娠から出産までわずか1ヶ月であるため、深刻なバイオハザードを引き起こす要因と判断できます…」


 「…結論として【隔絶】すべき対象であると進言します…」


と論理的に説明を行った。


 今まで口を閉ざしていたにトロイト連邦共和国最高評議会議長『アガルド・ジャコメッティ』はレイチェルの結論を擁護するように重い口を開け、


 「…はぁ…まさかこの世界で衛星画像にお目にかかれるとは…長生きはするもんだ…」

 「…結論はそのお嬢さんの言う通り【隔絶】か…【ヴァルハラ】しか選択肢はあるまい…」

 「…それに欠損した鼻や耳を人の身体で作り出し使用する発想が倫理的ではなくすかん…」


と結論を促した。


 アガルドの言葉を待っていたかのようにロランは話を切り出す。


 「…闇属性禁忌魔法【黒曜の丸屋根】を使用し、黒き半円球のドームの中に【キメラの樹海】を封じ込め隔絶します…結界の御柱の代用品として【神の矢】を考えています…」


 「…よってメッサッリアには減速させた【神の矢】を結界のポイントとなる位置に打ち込んでいただきたいのですが…」


 ロランの口から最高機密である【神の矢】が発生られたため、メッサッリア共和国大統領である『ジグムンド・シュミッツ』と国防省である『アルベルト・スペンサー』は一瞬顔がこわばった。


 だが、2人は直ぐに冷静さを取り戻しアルベルトは眼でジグムンドの意思を確認すると、


 「…いいでしょう。我が国の【神の矢】。所定の時間、要望する緯度経度に打ち込みましょう…」

 「…それにしても相変わらず、ロラン殿は怖い方ですね…」


とロランに対し多少の皮肉を込めて承諾した。


 【キメラの樹海】対策の話し合いが終わるとトロイト連邦共和国最高評議会議長『アガルド・ジャコメッティ』は顎髭(あごひげ)をさすりながら


 「…ところでロラン君。このプロジェクターと画像はどのようにして手に入れたものかな…ビデオカメラを開発したということかな…」


と探りを入れてきた。


 ロランは特に隠すこともなく


 「…ビデオカメラではありません。【石英ガラス】に光属性魔法と火属性魔法を混成分解魔法で混成させ【フェムト秒パルスレーザ】を創生し情報を記録させているのです…」


 「…勿論、エネルギー源は【魔石】ですけど…このカメラを山岳警備隊に持たせ撮影した映像と衛星から取得した画像です…」


 「…プロジェクターの原理は顕微鏡と光属性魔法を組み合わせ【石英ガラス】情報を映し出せる用微細な焦点合せ機構を組み込んだものです…」


と手の内を明かす。


 これにはアガルドも調子を外された様子で、


 「…ロラン君、前にも言ったであろう。我らを心から信用してはいけないと…はぁ、困ったものだな…そうは思わんかジグムンドよ…」


ジグムンドはチャイを飲みながら、軽い笑みを浮かべ


 「…まぁ、なんだ。そこがロラン君というべきかな…アルベルトもそう思うであろう…」


アルベルトは多少困った表情を浮かべながら、


 「…大統領の仰る通りかと…」


と言葉少なめに返事を行った。


 ロランとアガルド、ジグムンドにアルベルトの間には、古くからの友や戦友が持つ【絆】のようなものが存在している…少なくとも一同の目にはそのように映った。


 リンデンス帝国皇帝ラグナルと宰相のフレイディス、ヘスティア商会のクレイグやメリクス商会のフェリックス、ブラウリオ最高評議会副議長は、自分達が知りもしない知識をさも当たり前のように話す4人は一体何者なのかと思わざるえなかった。


 そんな中、ブリジットは震えた声でロランに


 「…ロラン様!キメラの中には人になりたいと…人でありたいと…自分は人なのだと…」

 「…来る日も来る日も自問自答し祈りを捧げる善良な者もございます…どうかご再考を…」


と顔の右側を生体親和性セラミックスの仮面で覆ったブリジットが泣きながらロランに再考を要求してきた。


 ロランはブリジットの感情が高まり興奮状態になったため出席者一同に防毒マスクを着用させると、


 「…ブリジット、落ち着いて【樹海】は闇属性禁忌魔法【黒曜の丸屋根】で包こむだけだよ…」

 「…それに救うに値する者がいれば必ず僕が助けにいく…約束する…ブリジット…落ち着いて…」


ロランの言葉は興奮状態のブリジットには届かず、ブリジットは右腕、右足の義足と義手の間から毒を無意識に放出し続ける。


 ブリジットは泣きながら、潰れた声でロランに対し思いをぶつける。


 「…私も"キメラ"なのです…この【樹海】の者達と変わらない"キメラ”なのです…」

 「…私もこの者達と同様に…」


とブリジットが言葉を続けようとした瞬間、ロランはブリジットを強く抱き締め言葉をふさぐ。


 抱きしめるロランの皮膚は、ブリジットの毒により皮膚が焼きただれるが直ぐに"修復”されていく。


 凄まじい光景… 

 

 だが、その場にいる誰もがこの光景を醜いと思うものはいなかった…


 ブリジットを抱きしめながら『知らず知らずのうちに容姿で命の価値を決めてしまったかもしれない…』とロランは自問自答する。


 しばらくして、ロランはブリジットに


 「…ブリジット、済まない。僕は【樹海】を隔絶する。僕の事を憎んでもいい恨んでもいい…それでも傍にいて欲しい…ブリジット君の力が必要だ…」


 ロランのその言葉に全てを諦めたブリジットは項垂れながら部屋を去った。


 何とも気まずい雰囲気のまま、定例の『黎明会議』は終了を迎える。


 その夜、黎明会議に参加した一同は各々自分の出した答えが正しかったのか自問する。


 ジグムンド・シュミッツはソファに座り最愛の妻アビゲイルと息子を見つめながら、アルベルトは恋人である国務省の『チェルシー・ミラー』とダンスをしながら、ヘスティア商会のクレイグは娘のソフィアと夕食を共にしながらと様々に…


 ロランはというとリビングのソファでチャイを飲みながら、本日の黎明会議の決定が正しかったが自問する。とともに…


 …公爵になってから実施した伯爵家2家の取り潰し、自分を降爵させ力を削ごうとしたワグナー宰相の実権を剥奪した件、ディアナに対する説明をさらに先送りにした件について振り返っていた。


 そして思う・・・


 『…自分が守りたいと思う者を守り続けるためには覚悟が必要だ…この件は【冥界の王】たる僕が行わなくてはならない事案なんだ…』と。


次回は・・・『80話 黒曜の丸屋根と神の矢 ~黒い雪~』です

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