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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第2部 第1章 氷海の世界 編
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73話 オーバーテクノロジーと理気魔法 ~禁忌の領域~

 「ヒュー…ヒュー…ヒュー…」


 4月だというのにリンデンス帝国の朝は寒い。放射冷却の影響と上空からの寒気が地上に流れ込むためである。

 

 ロストシップの亡霊殲滅作戦の翌朝、ロランは『レイチェル・ロンド・冷泉(れいぜい)』の部屋の窓を開けレイチェルの目覚めを静かに待っていた。


 レイチェルが微かに(かすかに)目を開けたことを確認すると、

 

 「おはよう、レイチェル。先ずはレディの部屋に許可なく入室したことを許してほしい・・・」


とのロランの声でレイチェルは夢うつつの状態から一気に意識を覚醒させる。


 自分が寝ているベッドの先に、正装したロランを中心に右手側に【アリ―チェ・ルミール・エミリア】が、左手側には【アルジュ・ロベルト・ファビアン】達が、豪華な椅子に腰掛け自分を眺めていることを確認した。


 レイチェルはシーツを巻き付け上半身を起すとロランに対し


 「ノルンはどこ…」


と不安に満ちた口調でノルンの所在を尋ねた。ロランはレイチェルの不安をこれ以上増大させないため淡々と真実を告げる。


 「【ノルン・デ・リンデンス】王子は君が抱えていた左腕ともども魂を開放させてもらったよ。いつまでも朽ちた肉体に魂を留めるなど自然の摂理に反しているからね…」


 「……」


レイチェルが黙り込んでしまったため、ロランは一人話しを続ける。


 「単刀直入に言う。レイチェル、君にはスタイナー家の一員になってもらう。君がまだ、この次元における【時間と空間を測定する術】が使用出来るなら時間管理者(クロノスディレクシオン)として能力を発揮してもらいたい。出来なければ客人として迎え入れる…」


との一方的なロランからの申し出に対しレイチェルは怒りが沸き上がり、


 「旧人類(オールドヒューマン)の癖に…」


と最大限の侮蔑の想いを込めて皮肉を言うのだがロランは冷静に切り返す。


 「君はその旧人類を心から愛したのでしょう。その言葉は君の愛する気持ち自体を否定し君自身を辱めて(はずかしめて)しまうよ」


とのロランの【正論】にレイチェルはますます心の扉を閉ざしていく。異世界でたった一人自分を必要とし心の底から愛した人は今はヴァルハラに存在する。心が傷ついた者は誰しも【正論】より心のこもった温かい言葉を求めるからである。


 そんなレイチェルの淡い想いを打ち砕くようにアリーチェが、


 「レイチェルさん。ロランや私達の事を憎む気持ちはわかります。けれど、昨夜ロランが貴方の罪を問う【ラグナル・デ・リンデンス皇帝やフレイディス宰相】に対し、ロストシップの亡霊殲滅の報奨として貴方の身柄受け渡しを強く嘆願してくれたから、そのような高級なベッドで安らげているのですよ…」


との丁寧であるが胸に突き刺さる【正論】をレイチェルに投げ込んでいく。


 突如、心の居場所を失ったレイチェルは右手を腰へと移動させるが目的の物がなく困惑していると、ロランは魔法鞄から出力1,200KW(キロワット)の小型固体赤外線レーザー銃を取り出し、


 「捜し物はこれかな。危ないからこちらで預からせてもらっているよ…」


とのロランの澄まし顔から発せられる言葉によりレイチェルの怒りが頂点に達する。


 ロランは、昨夜ミネルバが脱がす方法が分からず、そのまま着せていたダイヤモンドの3倍の硬度を持つ【カーバイン】を線維に加工し赤と黒が混ざった色で構成されたスーツの中でレイチェルの負傷した肉体が急速に回復を始めた事を『理力眼』で確認した。


 もともとレイチェルは遺伝子操作された【デザイナーベビー】であり、テロメアが完全再生する事により【不死】を実現し、【自然治癒力】がノーマル人類の50倍になるようエンドルフィンやセロトニン等の脳内ホルモンが分泌され、【筋肉や内臓等の組織修復】がハイスピードで行われるようマクロファージを高活性化させるよう、デオキシリボ核酸(DNA)の操作が行われている。


 さらにレイチェルの血液内には薬剤を搭載したナノマシンが全身を巡っており損傷した組織を発見すると即時に薬剤を分散させ修復を加速させていた。


 そんな【超越者】とも【人類の可能性の頂点】ともいうべきレイチェルは


 「この外道、化物…」


という侮蔑の言葉を叫びながらベッドから飛び起き、ロラン目掛け駆け込んでいく。


 レイチェルの副腎(ふくじん)から多量のアドレナリンが放出された事を感知したスーツは外骨格タイプのパワードスーツのように膝の屈伸運動をアシストし尋常でない加速を実現させる。


 ロランは、レイチェルの自分に対する攻撃に対し【ルミール、アルジュ、ミネルバ、ロベルト、ファビアン】らの反撃を左手を挙げ制する。


 攻撃の最中(さなか)、レイチェルのスーツは最大限に攻撃力を高めるべく右手の甲より刃を突出させる形状変化を行う。


 同時に、レイチェルの額に埋め込まれた生体親和性物質で作成された極薄いインプラントがレイチェルの生体物質を記憶素子にデオキシリボ核酸(DNA)を演算素子としバイオコンピュータとして作動する。


 レイチェルは皮膚に施された【生体感受性インク】を用いたスマートタトゥーの情報や体内に複数埋め込まれている【マイクロチップ・インプラント】からの情報を額のバイオコンピュータで解析し、戦闘に適した精神と肉体の状態を維持する為、最適な脳内・体内の物質の組み合わせと分泌量、ストレス値の変更等の情報を視神経に反映させ、視覚情報とともに確認している事が『理力眼』で確認できた。


 ロランは瞳を赤く染めた刹那。椅子から立ち上がりレイチェルとの距離を瞬時に縮めるとレイチェルの額に思い切り額を打ちつけると気を失ったレイチェルを抱き締め支える。


 レイチェルから膨大な量の知識が【理力眼】を通し流れ込こんでくるが大まかな概念は理解できるものの、10世紀の隔たりは大きく詳細な数式や理論は意味を持たない情報として蓄積されていく。


 この情報の流入の中で、ロランは偶然にも人が踏み込んではならない領域の情報を取得してしまう。


 レイチェル・ロンド・冷泉が【時空を超えるビークル】でこちら側の時空に転移した際、この世界が存在する【次元・時間・空間】グリッドにおける【過去・現在・未来】が設計された【アカシックレコード】にアクセスし情報が書き加えられた経緯から、ロランは【アカシックレコード】へのアクセス方法と編集方法を取得してしまった。


 ロランは急いでレイチェルから離れると衝突により意識を失ったレイチェルに対して【ハイオーダー・ヒール】かけ、アルジュから取得していた【記憶改変】を使用しレイチェルがこの世界に転移する前後の記憶を消去した。


 ロランは気を失ったレイチェルを抱きかかえベッドに横たえると振り向きざま


 「ルミール、アルジュ。僕は禁忌の情報を知ってしまった。君達の【記憶改変】の魔法で【アカシックレコード】へのアクセス方法並びに編集方法に関する記憶を消去して欲しい…」


ロランから発せられた衝撃の言葉にルミールとアルジュは迷い、エミリア、ロベルトは状況が理解できず困惑する。


 暫く経過してからルミール、アルジュは揃って


 「龍神様…」「ダーリン…」「「その指示には従えません」」


との返事がかえってきた。


 予想していた返事であったが、ロランは自分が偶然手に入れてしまった【神々の領域】の知識に恐怖を抱いていた。


 なぜなら、自分より圧倒的な【力】を有する相手が出現した際も、その相手と戦闘をせず【アカシックレコード】にアクセスし過去に遡りその相手の魂だけでなく存在自体を削除することで戦闘相手を倒すことができるからである。


 その相手が異世界の者である場合も【アカシックレコード】にアクセスし、過去から未来にかけその異界の相手が自分が存在する【次元・時間・空間】上に顕現できないと情報を編集することで、遭遇自体を回避できるからである。


 そして、それは人や魔物や生物といった生命体だけに限らず、無機物であっても過去に遡り存在を削除し未来においても意図的に発見や発明を行えないようにする事も可能だからであった。


 何かに怯えるロランの姿を見て【力になりたい】と思うエミリアであったが何も出来ずに佇んで(たたずんで)いるとアリ―チェが


 「落ち着いてロラン!貴方は誰、貴方は誰の(あるじ)、貴方は何を成すべき者…」


アリ―チェの叱責ともいえる言葉でロランは我を取り戻す。そんなロランに対しアリーチェは淡々と語りかけていく。


 「貴方の『力』を圧倒的に凌駕する存在が現れた際、この次元におけるあらゆる時間と空間に存在する万物を操作できる【アカシックレコード】へのアクセスでき編集を行える能力、言い換えるなら万物を操作する魔法【理気(りき)魔法】が必要となる時が来るから与えられたのです…」


さらにルミールが内容を付け加える。


 「龍神様は異世界の神様である天竜様達の能力を受け継いでいるのですから、遅かれ早かれ【理気】を操作する魔法は取得していたはずです。それに将来は別の次元に干渉できる魔法も取得できるはずですから…」


ロランは『アリーチェ、ルミール。君達は一体何者…』と思った矢先、アルジュが


 「ダーリン!これ以上強くなったら、本物の【化物】になっちゃうね…」


と空気を読まない発言をし、皆の顔を引きつらせた。


 一同が変な静寂に包まれる中、ファビアンは


 「ボス。現時点で【理気魔法】はボスしか使用できない。レイチェルさんの不要な記憶はボスが消去されたようですし、それに強引とはいえスタイナー家の一員となったようですので、あとは物質的な解決ですね…」


と建設的な発言を行うファビアンの話の内容が気にかかり、ロランは詳細を尋ねる。


 「物質的な解決とは、レイチェルの部屋を用意するという事かな…」


とわざと論点を外し話をするも


 「それもありますが、レイチェルさんが身に纏うスーツは今の世界では到底作れません。ボスなら作れるかもしれませんがボスが作っていないのであれば、古代文明の産物か別の世界の産物であるはずです。となるとレイチェルさんが使用していた【時や空間を超える乗り物】をボスが確保しておく必要があると思ったものですから…」


 ロランは『さすがルディス率いる諜報部隊【SilentSpecter(サイレントスペクター)】の諜報員だけあって頭の回転は早い』と思いながらもファビアンの驚異的な分析力に一抹の不安を覚えるのであった。


 『レイチェルが保有する知識はオーバーテクノロジー過ぎるが、現在でも魔法で代替させる事により実現可能な技術も存在する。【オーバーテクノロジー】の活用については今後ゆっくり思考していこう…』


 『だが今は『ガラスハウス』と【砂栽培農法】のプロトタイプを実現する事が優先事項だが材料が届くまでは何もできない。それまではランドとともにリンデンスにおける鉱山・地下資源の開発とメラー海の海底に存在する【時空を超えるビークル】の引き上げ回収作業を行わなくては…』


と今後の予定を定めるロランであった…

次回は『74話 フェガロフォトマキア『月光大戦』の生き残り ~無明長夜からの解放~』です。

2018/11/18…誤字・脱字・一部文章の修正を行っております。

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