7話 カール記念学校
「皆、学校にいくよー!」
とリリーが号令をかけると皆は決まって
「「「「「……ちょっと待って、リリー……」」」」」
と答えるのが教会における朝の日常となっている。
皆が通うカール記念学校へは全員で登校している。さらに言うと下校も全員一緒である。
全員纏まって登下校するのには2つの理由があり、1つは魔物や人さらいに遭遇した場合、纏まった人数であれば何とか対応可能という理由と、2つ目としては他の生徒達による登下校中の【いじめ】から身を守るためという理由である。
登下校のデビットを筆頭にロイ、ビル、トーマス、アシュリー、ジェニファー、ロラン、リリーの順番であった。
デビットが先頭でリリーが最後尾に位置しているのはデビットとリリーがロラン達より1歳上の6歳であり年下の子達を守るためという理由であった。
教会からカール記念学校までは徒歩で約1時間かかり、その間、アシュリーとジェニファーは終始女子トークに花を咲かせた。
一方、ロイ、ビル、トーマスはというと【かけっこ】を行ったり、道端にある家畜の糞を棒でつついたりと自由気ままに行動していた。
カール記念学校は、地理や基本的な法律・貨幣制度などの社会制度を教える「社会」、読み書きを教える「国語」、足し算引き算、掛け算、割り算などを教える「算数」、王国と周辺諸国との歴史を教える「歴史」などの教科を教えていた。
一つの授業は80分で10分間の休憩があり、午前中2コマ、午後1コマとなっている。
『1コマが90分か80分かの違いだけので、元の世界の大学に近い時間割だ……』
と最初の授業の時にロランは思った。
ロランは授業の中で特に、
【一週間は7日あり、一月はどの月も30日、一年は12ヶ月で360日であること…】
【…各曜日は光1日が月曜日、光2日が火曜日…光7日が日曜日に相当し、光1日へと戻る。『光』という文字に数字を加えて曜日を表す表現方法が元の世界の北京語に似ていること…】
【…地理な事では、王国の北側から北東にかけて『シェオル山脈』があり、東から南にかけて『エルドーラ山脈』、真南には『ホワイトヴィル湖』という巨大な湖があること…】
【…『シェオル山脈』は王国とプロストライン帝国の国境であり、『エルドーラ山脈』『ホワイトヴィル湖』は王国とクリシュナ帝国との国境であること…】
【…北から西のトロイト連邦共和国』との国境と、西から南のメッサッリア共和国との国境は目印となる柱だけで区切られ、国境を監視するための常駐衛士は存在しないこと…】
【フォルテア王国はジャガイモのような形であり『ニーマン川』、『セレナ―川』、『サンディーナ川』、『エポーナ川』といった王国を縦断する川や、領有権問題でクリシュナ帝国と揉めている『ホワイトヴィル湖』を有する、水資源が豊富な国であるということ…】
について強い興味を持った。
ロランは、どの授業も真剣に受け興味がある事については昼休みに先生方に質問した為、当初、先生方から黒髪で黒い瞳という理由で敬遠されていたが、数日もたたないうちに先生方の【お気に入りの生徒】になっていた。
昼休みに先生方に質問に行くのは、昼食用にエディッタシスターが持たせてくれるお弁当の中身が毎回、固い黒パン1個とゆで卵1個であり、直ぐに食べきってしまうからでもあった。
このお弁当の中身について、ロランや教会の子供達はウィルターナ神父やエディッタシスターが私腹を肥やしているわけではなく金銭的に精一杯な状態でお弁当を用意してくれていることを理解していたので文句を言う者は誰もいない。
先生方のお気に入りであるロランには当てはまらなかったが、教会の子供達にとって学校において最も悩ませられる問題はお弁当の中身ではなく【いじめ】であった。
生徒達は、ロランが先生方に対して高度な質問をし、昼休みまで質問に行くほど授業に熱心なことで先生方のお気に入りの生徒であることを理解しているため、ロランを【いじめ】の対象にできず、ロラン以外の教会の子供達を【いじめ】の対象にしていた。
ある日の授業終了後、皆で教会に帰るためロランがロイを呼びに行ったところ、男子生徒3人がロイを【いじめ】ている場面に出くわした。
「「「ロイ!お前なんで、いつも同じ洋服と昼食なんだよ…」」」
「「「…靴もボロボロだし。なんとか言ってみろよ!」」」
ロイは教会と異なり顔を下に向け黙り続けている。
「……」
黙り続けているロイを見て調子に乗った3人の男子生徒達は
「「「俺達が怖くて何も言えないのか。情けねぇな。」」」
とロイを誹謗中傷し続けた。
ロランは、3人に誹謗中傷されながら、こずかれているロイを見た瞬間、体中の血液が【カァー】と煮えたぎり、怒りの感情を抑えられなくなり、
「辞めろ!3人がかりで卑怯だろ…」
と叫びながら3人に向かって行った。
飛び込んで行ったロランに対し男子生徒の1人が手を出してきたため、あっという間に取っ組み合いの喧嘩となる。
無論、元の世界で全く格闘経験が無いどころか喧嘩の経験もないロランは驚くほど弱かった。
そんなロランであったがいくら殴られても蹴られても男子生徒3人がロイに謝るまで腕やズボンにしがみ付き決して離さなかった。
ロランの【しぶとさ】に根負けしたリーダー格のアンソニーはロイに向かって
「ロイ、ごめんな。これでいいだろ。トニーから手を放せよ。気持ち悪いんだよ。」
と謝罪した後、ばつが悪そうに仲間2人を連れ教室から出ていった。
ロランは仰向けになり、教室の天井を見上げながら、
『ずいぶん派手にやられたなぁ。でも、今回の喧嘩で『理力眼』が効率の良い防御の仕方や打撃の仕方を取得したから先ずは良しとしよう…』
『…守りたい人を守れる強さを得るため、早く街の体術道場の投げられ役の仕事をして『理力眼』の能力で剣術、体の捌き方や打撃などの体術を取得しないとな……』
と思いながら起き上がり、ロランは自身とロイに向かって【ヒール】を使用し傷を癒した。
「ロラン、ありがぁとぉう。うぅ…」
ロイは泣きながらロランに感謝の言葉を述べるとロランは
「ロイ、気にしなくていいよ。自分のためにしたことだから。それと皆には僕が【ヒール】を使えることは内緒にしてね。」
「ヴゥン…」
ロランは泣きながら返事をするロイと一緒に乱れた机を整頓した後、ロイを連れて皆の待つ校門に向かった。
ロランとロイを待っていた教会の皆は、傷は無いもののロランの服に血がついていたこと、ロイが目を赤く腫らして俯いていることから、おおよその事は理解でき、その日下校時は誰も何も話さずに教会への帰路についた。
この日、ベッドの中でロランは『早く強くならなければ』と強く思いながら眠りについた。