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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第2部 第1章 氷海の世界 編
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69話 永久凍土での革新農法

 ロランはガンマ線バーストにより準同期軌道に存在した攻撃対象誘導衛星『デュスノミア』全てを破壊したことを『理力眼』で確認した後、風属性魔法と混成分解魔法を使用し『両の手の平』から圧縮した窒素ガスを噴射させ『スラスター』の要領で姿勢を地表へと向ける。


 高度10,000㎞の外気圏から見渡す『エアストテラ』は【神秘】そのものであった。


 海の部分は深い青で雲の部分は白くマイナス270℃の生命の鼓動を全く感じさせない漆黒の宇宙空間とは対照的に、生命に満ち溢れた存在感のある『青い惑星』であった。


 ふと『元の世界の地球とは異なり大陸の面積はかなり少ないな・・・』と感じた。


 この光景こそ、ツュマからの報告中にテレパス送信されたプレートの内容が【真実】であることを物語っているのだが、ロランはあえて【真実】から目を遠ざける。まだ修正が可能なはずであると…


 『それにしてもマイナス270℃、真空の世界でも問題なく活動できるとは、いよいよ人外な存在になってしまったな…』と思いながら、8翼から窒素ガスを高速で噴射し一気に地上へと向かう。


 ロランは高度10㎞の対流圏上層部にさしかかった瞬間、『理力眼』と『探知』の能力によりルミール・アリーチェ・エミリア達が自分に用意された部屋に集合していることを感知した。


 さらにオム・マーラより取得した『千里眼』の能力で部屋の中を見ると『ルミール・アルジュ・ロベルト・ミネルバ』は完全武装しており、アリーチェとエミリアは防寒着を着用して待機していることを確認できた。


 数秒後、ロランはバルコニーにふわりと着地すると『竜現体』を解き、全面開放窓を開け潮風と共に室内に入室する。するとルミールが


 「龍神様、先程、強大なエネルギーの波動を感知しました。どうぞ、私共にご命令を」


 輝く白い大翼に『元の世界の女神アテナ』を彷彿(ほうふつ)させる金色の兜と甲冑を身に纏い、スパルタンシールドと弓を装備したルミールと皆に対し、


 ロランはツュマから報告があった古代兵器【対消滅ミサイル】を誘導する同じく古代兵器である攻撃対象誘導衛星【デュスノミア】を破壊してきた事を告げた。


 「ダーリン、狼じゃなかった、ツュマが無事で良かったね。でも!1人で行動を起すのは駄目ですよ。何のために私達がいるのですか…少しは私達を頼って下さいね。」


と漆黒の兜と甲冑、赤黒い三叉の槍とケルベロスを召喚し付き従わせているアルジュに窘められた(たしなめられた)ロランは、


 「アルジュの言う通りだね。僕には頼りになる皆がいてくれるのだから…」

 

 ロランが皆を慈しむ笑顔をすると最高潮に達していた一同の緊張は一瞬で和らいでいく。


 「それにしてもルミール、アルジュ、ロベルト、ミネルバ、少し重装備すぎるよ。ミネルバそれって【対物狙撃銃】だよね。ロベルトも【ドヴァリン・ドゥリン】の二振りの魔剣を持ってくるとは、大げさだな…」


 ロランはこの場の緊張をさらに【ほぐそう】とミネルバとロベルトに話しかけると、


 「我が君の仰る通りでございます。我が君に何かあれば我が魔力と精神が暴走し、危うくメラー海を赤く染め上げるまでリンデンスの民を…」


とロベルトが不穏な言葉を言いかけたのでミネルバが割って入るように、


 「この銃であれば5㎞先のメッサッリアの魔道装甲車にだって風穴を開ける事ができますから、ロラン様に悪い虫がついていたら狙撃しようかと…」


となぜかミネルバは一瞬『エミリア』を凝視したことをロランは見逃さなかった。これ以上は収拾がつかなくなると思い、


 「皆、僕を見てくれ『竜現体』になったので服がこの通りボロボロだよ。皆も各部屋で着替えて朝食を頂こう。朝食で力を蓄えておいてくれ、今日はこの地で可能な『農法』のモデルを話し合う大事な会議が控えているからね…」


 ロランの言葉で一同は各部屋に戻っていくのだが、アリーチェはエミリアに近づき耳元で


 「いつか、あなたも妻として『この者達』を指揮せねばならないのですよ…」


囁いた(ささやいた)


 エミリアは『自分の置かれた立場を再確認し』この瞬間だけは部屋に戻って心の整理をしたいと考えるのだった。


 朝食をラグナル皇帝と共にしたロラン達一同は少しの休憩後、王宮『戦略の間』にてツンドラ気候を思わせるリンデンス帝国における『農法』について協議を始めた。


 「ロラン殿も既に御分かりであろう。帝国の気候はとても厳しく国土の大半は永久凍土であり、夏の時期に一部の表層の氷が溶けて、苔などがわずかに繁殖するだけである。農地とする地域は針葉樹林地帯であり、先日ロラン殿が申された【ヒートパイプ】とやらで凍土を溶かし農地とするしかないと思うのだが…」


 ラグナル皇帝は『アヴニール国家連合』の加盟条件に気候変動を挙げるだけあって、この地での農業がいかに難しいかを理解していた。そんな皇帝に対しロランは少しばつが悪そうに、

 

 「その件ですが【ヒートパイプ】で永久凍土を溶かした場合【メタンや二酸化炭素】の有害なガスが発生することを考慮に入れていなかった為、大幅に計画を変更致します…」


 ロランの口から思いもよらぬ言葉が出たため、ラグナル皇帝とフレイディス宰相は顔をしかめる。今度はフレイディスが無理やり不満を抑え話を切り出してきた。


 「ロラン殿、少し御待ち下さい。【メタンや二酸化炭素】とはどのようなものでしょうか。それとロラン殿の理屈では帝国では農業が行えない事となりますが…」


 ラグナルとフレイディスの不安を察知したロランは、落ち着き払った口調で宣言する。


 「【砂栽培農法】で帝国の全ての地域で農業が行えるようにします。ただし、大掛かりな施設が必要となりますが必要な技術は揃っているため技術的には問題ありません」


 ラグナルは帝国全土で農業を行えるという発言に驚愕し、その先の話を早く知りたくなりロランを急かした。


 「ロラン殿、具体的な方法を教えてくれまいか・・・」

 

 「まずは、農業を行う地面の永久凍土が、熱によって溶けださないよう砕石(さいせき)を敷き詰め、鉄筋を使用し厚さ300㎜のコンクリート製の【べた基礎】を作成します」

 

 「次に、海の砂を大量の水で洗い塩を抜き、この砂を【寒天・石灰・貝灰】を使用して作成した容器に入れ地表から熱を奪われないよう、地表から高さ1mの位置に棚を作りその位置に設置していきます。勿論、水はけを良くするよう一定間隔で穴を空け、余分な水を回収できる構造とします…」


 「次に農地全体を鉄筋と強化ガラスで多い【ヒートパイプ】を【べた基礎】に予め開けておいた穴より地中30mの深さまで挿入し地上に2mほど露出させます。すると日照時間が少なくとも地中の熱を地上に放出しているため温室内は常に暖かく農業が可能となります」


 この農法案を聞いた一同は唖然とする。技術的には可能であるが膨大な資金が必要なことは誰もが容易に予想できたからである。そんな一同の想いを代弁するかの如くラグナルは


 「ロラン殿、技術的には可能であると思うが…その…資金がかなり膨大になるのではないか。帝国はそんなに裕福ではないのだがな…」


 国の面子よりも恥を捨て実情を正確に伝えるラグナルの真摯な姿勢に応じるようにロランも真摯に対応していく。


 「メラー海は沿岸湧昇(えんがんゆうしょう)があり深海の栄養素が表層に流れ出るため世界屈指の漁場であるはずです。先ず魚の価格を現在の3倍に、それと針葉樹林から伐採した木材の価格を5倍にして他国に販売しましょう…」


 「それとリンデンス帝国は地下資源が豊富に存在しています。私の配下に鉱山・地下資源の開発に秀でた『ランド』という者がおりますので資源開発を行ないましょう。数年後には帝国は資源大国として名乗りを挙げることができますよ…」


 ラグナル皇帝とフレイディス宰相は、ロランが帝国の内情に精通している事に驚愕しながらも巨万の利益を得る方法に興味が高まり、ラグナルはフレイディスに目配せをして、その続きを求めさせた。


 「スタイナー卿、いきなりそんな高額に設定して販売できるでしょうか。それに帝国民が国内で魚と木材が購入できなくなってしまいます。」


 「それと資源開発に協力頂ける見返りはいかがすれば宜しいでしょうか…」


もっともなフレイディスの質問に対してもロランは真摯に答えていく。


 「では、帝国内の海産物と木材に関しては他国の者は大量に購入できない法を制定し、海産物や木材の販売権を許認可制にするというのはいかがでしょうか。」


 「また、地下資源開発に協力する見返りは開発にかかる費用を利益から数年かけて返却頂くことと私に資源の独占販売権を与えて頂くことです。」


 「その独占販売権があれば【商会連合】を動かすことが容易になります。それと『海産物と木材の原価』を上げる分、商会は薄利多売となるため『ガラスハウス』の建設と『海産物と木材』の販売は我が王国の【商会連合】のみに任せると御約束頂きたい…」


 フレイディスは怪訝な顔をしたが、皇帝であるラグナルは


 「我が国の商会は今まで帝国に利益をもたらすことはできなかった。ロラン殿の計画で帝国が潤い、農業を行えるようになり漁業や資源開発という新たな産業が活性化するのであれば断る理由はない。」


 「ロラン殿に採掘資源の独占販売権を与えると共に『ガラスハウス』の建設と『海産物と木材』の独占販売権を【商会連合】に与えましょう」


 ラグナルの返事を聞いたロランは


 「ラグナル皇帝、肥料は【草木灰】を使用しましょう。作物の生育には【窒素・リン酸・カリ】の3つが必要ですが、空気中から窒素を草木灰からリン酸・カリを摂取できるので良い作物となりますよ。それに草木灰を使用してアルカリ成分が強くなった場合は針葉樹林の【ポトゾル】という酸性の強い土を混ぜることで中和できるので好都合です。」


 ラグナル皇帝とフレイディス宰相は、ロランの説明の半分ほどしか理解できなかったが、ロランに任せておけば万事がうまくいく感じを受けていた。


 『さて、当初の計画では持参した数百本の【ヒートパイプ】を設置し永久凍土を溶かす実演を見せるはずであったが、農法を変更したためその必要はなくなった。あとはワーグの親方にピートパイプと、鉄鋼、強化ガラスを大量発注し、商会連合に話をすれば問題を解決できるな』と考えていると、


 今度はラグナル皇帝がばつが悪そうに、


 「漁業の事なのだが、この時期ある問題が…」


 ロランは内心『はぁ…まだ問題があるのですか』と思いながらも


 「どのような問題でしょうか…」


と質問をするとラグナルは


 「この時期【ロストシップ】の亡霊達がクリーチャーを引き連れ、メラー海に現れるため漁業ができないのだが…」


と明らかにロランに助けを求める相談を持ちかけてきた。ロランは『はぁ、渡りに船という言葉もあるからね』と思いながら、ラグナルに対し


 「その【ロストシップ】の亡霊対策、ご協力いたしましょう…」


と答え、ラグナル皇帝とフレイディス宰相を安堵させた。


 協議を終えたロランは『神聖ティモール教国の地下遺跡に残る大量破壊システム【グングニル】、その主要兵器である7,000発の【対消滅ミサイル】においては破壊以外の方法を選択しなくては・・・』と考えを巡らせていた。


 一方、フォルテア王国の鍛冶工房では親方であるワーグが最近ロランが工房に遊びに来ないことに苛立ち、弟子のバイツに「精度が全然でておらんぞ」と八つ当たりをしていた…

次回は・・・『70話 ロストシップの亡霊殲滅作戦 - Part1 - 』

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