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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第2部 第1章 氷海の世界 編
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68話 古代兵器『デュスノミア』の破壊  ~惑星『エアストテラ』の意志~

 ロランとリンデンス帝国皇帝である『ラグナル・デ・リンデンス』は意外なほど気があった。ロランはラグナルの豪快さと繊細さを兼ね備え『裏表のない』武人を思わせる性格が気に入り、ラグナルはロランの武人の心を汲み取り真摯な行動を選択する姿勢が気に入ったからである。


 ロラン達一行を歓迎する宴は深夜まで行われ『宴もたけなわ』の状態であったのだが、宰相の『フレイディス』は一行が疲労していることを心配し良き頃合いを見て、ロラン達を『ラビュリント王宮』内に用意した個室へと案内していった。


 フレイディスは、『アリーチェ・ルミール・アルジュ・ミネルバ・ロベルト』を用意した部屋へ順次案内していき、わざとロランを最終で案内する手筈にし用意した部屋の前に到着すると急に話しかけてきた。


 「スタイナー卿、本日は我が皇帝がいきなり攻撃を仕掛けてしまい誠に申し訳ございません。武人の(さが)と寛大な御心でお許し頂きたい。」


 ロランは急に話しかえられたにもかかわらず『フレイディス』宰相の気遣いに気遣いで返す。

 

 「私も『融和の間』の壁を一部破壊しておりますので、それでお相子(おあいこ)ということで。勿論、修理費はスタイナー家が持ちますので…」


とロランが修理費について言及しようとした矢先、フレイディスは遮るように、


 「修理費は無用でございます。その代りといっては全く釣り合わないほどの依頼となってしまいますが、我が帝国の領土安堵、我が皇帝の生命と皇帝制度の存続ならびに帝国民の生命・財産の安堵をこの場で御約束頂きたい…」

 

 「フレイディス宰相、それは私ではなく『アヴニール国家連合』に加盟している各国の元首の方々が御決めに成ることです。それにリンデンス帝国は今回『アヴニール国家連合』に自発的に加盟されるのですから、そもそもそのような心配はせずとも宜しいかと…」


 フレイディスは、ロランの正論を聞いても全く納得せず、なおも食い下がる。

 

 「スタイナー卿の仰ることは建前でございます。貴方がその気になればリンデンスは地図上から消滅してしまいます。それだけは断じて避けたいのです。帝国宰相として一帝国民(いちていこくみん)として。故に貴方様から、ただ一言『リンデンスの現状を認める』と言って頂きたいのです…」


 ロランは想う。『フレイディスにとってラグナル皇帝と帝国民はかけがえの無い存在なのだと…』その想いに答えるようにフレイディスに対し、


 「『リンデンスの現状を認めます』、それと明日というかもう本日ですが『農地の改革』について具体的な協議と実際の作業を見て頂きたいので、その準備をお願いします。」


 ロランの言葉を聞くとフレイディスは涙ぐみ、真剣な眼差しで言葉を紡いだ。


 「ありがとうございます。この御恩『リンデンスの名誉』にかけていつか必ず報います…」


 ロランは用意された部屋に入るとベッドに腰掛け寛いだ瞬間、待望の相手からテレパス送信を受信する。


 「ロラン様、夜分遅くすいません。急ぎご報告したき事が…」


 ロランは、安否を気にかけていたツュマからの連絡に安堵と喜びが湧き起こり饒舌(じょうぜつ)にテレパス送信を行う。


 「ツュマ、元気そうで何よりだよ。あと2日経ってもツュマからの報告がなかったら神聖ティモール教国に侵攻するとこだったよ。それにしてもなぜ、定時連絡ができなかったの?」


 ツュマは申し訳なさように


 「……ロラン様のご推察の通り『パウエル五世』は信者を使って他国の政治家や豪商達を取り込み、政治的な影響力を築く工作を行なっておりました。それだけではなく神殿の地下200mに多数の建造物を隠し持っておりました…」


 「建造物とは?」


 「形状より、以前ロラン様が仰っていたメッサッリアが隠し持っているであろう『ミサイル』という武器だと推測します…」


 ロランは愕然とした。神聖ティモール教国が信者を使い各国の政治家や官僚達に『ロビー工作』を行ない政治的影響力を拡大させようとする目論見は予測していたのだが、メッサッリアやトロイトではなく神聖ティモール教国がミサイルを保有しているとは全く想定していなかったからである。


 「ツュマ、そのミサイルの個数と特徴を説明して欲しい」

 「『はっ』数はおそよ7,000発。見たこともない銀色の金属で製造され、機体には見たこともない文字が記されておりました…」


 ロランは神聖ティモール教国にミサイルを製造する知識は無いと考えツュマに対する質問を続ける。


 「ツュマ、黒猫に『その文字が記されたミサイル』を凝視させて…」

 「それが、既に地上に出ておりまして…なぜか、ミサイル群が格納された地下遺跡ではテレパス送信が通じず、それどころか臭いや音も掻き消され、そのせいで逃げ出した黒猫を探し出すために数日かかってしまったのです…」


 ロランはツュマの情報より、テレパス送信を遮断できるということから『ESP遮断装置』が、臭いを遮断できるということから高性能のHEPAフィルタを装備した『対生物兵器装置』が、音が掻き消されるということから逆位相の音を発生させ音を消す『高性能消音装置』が設置されているのだろうと推測した。


 それにしても『狼の獣人であるツュマの嗅覚は人族の400万倍から1億倍なのに……』それでも臭いの痕跡を残さないとは、どれほど高度な技術なんだと考えていると、


 「ロラン様、地上に戻る際に剥がれ落ちていたプレートを持ち帰っておりますので、そちらでも問題ないでしょか?」


とツュマが最も重要な事を伝えてくるとロランは喜びを押さえ込み冷静に指示を出した。

 

 「流石だよ、ツュマ!それでこそLVSIS(ルブシス)の副リーダーだ。黒猫にそのプレートを凝視させて…」


 ロランからの指示を確認したツュマは魔法鞄から地下遺跡より持ち帰ったプレートを取り出し、黒猫に凝視させる。


 ロランは黒猫から送られてきたプレートの文字を見て絶句した。『理力眼』を使用する必要もなくその文字を読むことができた事とその内容に、


 『攻撃対象誘導衛星【デュスノミア】を用いた【対消滅ミサイル】による大量破壊システム『グングニル』・・・・・』


 それ以上プレートに記載された文字を読む事を止め、ロランはツュマに指示を出す。

 

 「ツュマ、今回の功績はとても高いよ。調査はもういい。直ぐに王国に帰還してくれ。それとルディスに神聖ティモール教国に諜報員を送り込んでいる場合は即時引き上げるよう指示を出して欲しい…」


 「ロラン様、まさか『神聖ティモール教国』を侵攻するおつもりですか?」


 「侵攻はしない。ただ、ツュマの報告をメッサッリア共和国のジグムンド・シュミッツ大統領とアルベルト・スペンサー国防相、並びにトロイト連邦共和国アガルド・ジャコメッティ最高評議会議長とブラウリオ・ロドリゲス最高評議会副議長に伝え、『パウエル五世』には平和裏にご退陣頂く予定だ…」


と答えるとロランはツュマに最上の労い(ねぎらい)の言葉をかけテレパス送信を終了する。


 ロランはしばし考える。考えもしなかった想定を…。かつて高度な『ESP遮断装置』や『対生物兵器装置』、『高性能消音装置』に『攻撃対象誘導衛星』や『対消滅ミサイル』を製造できた文明が存在し消滅した…


 そう言えば『惑星を一つの生命と捉える【ガイア理論】という考え方が元の世界にあった。とするとこの惑星【エアストテラ】は自身が存続していくため、自浄作用として【かつての高度文明】を消滅させたという事なのか』と考えた。


 理力眼を使用すれば真実を解明できるのだが、あえてロランは行わなかった。というより知りたくなかったのである。


 ロランは深夜であったが構わずツュマから得た神聖ティモール教国の情報をメッサッリア共和国のジグムンド・シュミッツ大統領とアルベルト・スペンサー国防相、並びにトロイト連邦共和国アガルド・ジャコメッティ最高評議会議長とブラウリオ・ロドリゲス最高評議会副議長に伝え、『パウエル五世』に退陣頂くことで事の収束を図ることで合意した。


 その後、ロランは窓を開け外に飛び出すと一気に高度10,000㎞の外気圏まで飛翔する。


 そのポイントで、自身に『強靭身体(コールジュール)』をかけ『生来の魔力』と『天竜達の霊力』を極限まで高め『理力眼』と『探知(ディテクト)』を使用することにより、準同期軌道の攻撃対象誘導衛星『デュスノミア』、24基の位置を突き止めた。


 極限まで高められた『生来の魔力』と『天竜達の霊力』により全身が青白く輝き出していたロランは、雷魔法最上級の魔法である『ケラウノス』を発動する。


 本来、地上から10,000km離れた外気圏は空気がなく高高度層で発生する雷であるレッドスプライトも発生しない。


 だが、ロランは宇宙空間にあふれる高エネルギーの荷電粒子と雷魔法最上級の魔法である『ケラウノス』によって自身の体が帯電・放電し、その莫大なエネルギーが恒星『アルクトゥルス』から放出される高速で高温の水素と作用した結果『光核反応』が生じ『ガンマ線バースト』を発生させた。


 発生したガンマ線バーストは準同期軌道に存在する24基の攻撃対象誘導衛星『デュスノミア』目掛け突き進み、一瞬にして全てを灰燼と化した(かいじんとかした)


 その日、リンデンス帝国の気象観測班の日誌には『帝国の歴史上最も明るい朝焼けであり同時にオーロラも観測することができた』と記された…

次回は・・・『69話 永久凍土での革新農法』です

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