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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第2部 第1章 氷海の世界 編
64/147

64話 氷海の世界 ~ それでも『欲望の種』は凍らない ~

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力(スキル)における名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 「コツ…コツ…コツ…コツ…コツ…」


冷え切った王宮の通路に靴音がこだまする。


 「どうぞ、こちらへ…ラグナル・デ・リンデンス皇帝がお待ちです…」


靴音をこだまさせる男を『融和の間』に迎え入れた男はラグナル・デ・リンデンス皇帝の右腕と呼ばれる"フレイディス"宰相であった。


そう、ここは、市民から敬意を込めて『氷の王宮』と呼ばれるリンデンス帝国ラビュリント王宮であり、これよりパルム公国の外相マンパシエが『欲望の種』を蒔き(まき)に行く場所である。


 「お初にお目にかかります。パルム公国外相の"アレッサンド・ド・マンパシエ・ツー・ロマーノ"でございます…」


 「うむ。遠路ごくろう。堅苦しい話は抜きだ。さぁ、ソファにかけられよ…」


 マンパシエはリンデンス皇帝の勧めに従い、皇帝の前のソファへ腰をおろす。マンパシエの前には、リンデンス皇帝と側近中の側近であるフレイディス宰相がソファに腰掛ける。


 「マンパシエ卿、貴殿は我が帝国が『アヴニール国家連合』に加盟するよう勧誘しに参られたのか?」


 「フレイディス宰相のご考察の通りでございます。是非『アヴニール国家連合』に加盟いただきたい」

 「……」


 フレイディス宰相は考えあぐねていた。天賦(てんぷ)の交渉人ともペテン師とも言われるマンパシエが自分の誘いに簡単に乗ってきたからである。フレイディスが次の一手を探っていると突如リンデンス皇帝が沈黙を破り話し出す。


 「マンパシエ卿、貴殿もその目で見て感じたであろう。4月だというのに眼前のメラー海は、このように流氷が流れつき漁師は満足に漁を出来ず、農夫達は凍土が溶けるまで種を蒔くことすら許されない…この過酷な地を…」


 「我らはプロストライン帝国と貴国に国境を面している。その我らが"アヴニール国家連合"に加盟すればプロストラインに我が国を攻撃する"格好の口実"を与えてしまう…」


 マンパシエはリンデンス皇帝の目を静かに見つめ、時より相槌を入れるように頷き、皇帝の話を聞き続け、皇帝が話を終え眼の前のキール酒に手をかけた瞬間、『誘惑の種』を撒きにいく。


 「陛下は、プロストラインのイワン皇帝が貴国を侵略しないと御思いですか?イワン皇帝の目的はプロストラインによる世界統一。そのような考えの国が他国と同盟を結ぶはずがない…現に東夏殷帝国とは数十年に渡り紛争を行い続けている…」


 「一つ確認したき事が、陛下は『漁夫の利』で世界の覇者に成ることを御考えですか?」


マンパシエは、リンデンスに対し、あえて駆け引きなく核心を突く質問を投げかける。

 

 「我も若き日は『世界制覇』を夢見たことがあるが、今はそのような事は考えておらぬ。今は、いかにこの国を繁栄させることができるか…ただ、それだけを考えておる…」


この皇帝の発言を聞き、マンパシエはリンデンスに気づかれぬよう口角を上げ、ほんの少し微笑む。


 「我が国は既にフォルテア王国と密約を結んでおります。そこに貴国が加われば3国となり、アヴニール国家連合で主導権を握ろうと目論んでいる"メッサッリア共和国、トロイト連邦共和国の2国"に対し数で勝り、主導権を握ることができる…」


 「……」


 「あと2つ、貴国がアヴニール国家連合に加盟頂くことで得ることができるメリットがございます…」


 「一つは、陛下は間接的となりますが国家連合で意見が割れた際、我が師アガルド・ジャコメッティを悔しがらせることができます。10年ほど前、リンデンス帝国は大層、先生に痛い目にあわされたとお聞きしてますから、そのリベンジができます…」


 「二つ目は、フォルテア王国の竜覇者ロラン・フォン・スタイナー卿が貴国の気候を操作し、環境を変化させることで、貴国においても豊かな農作物の生産を可能にできます…」


 「気候を操作し我が国でも豊かに農作物を生産できるだと…世迷い言を申すな…」


と興奮したリンデンスは立ち上がると、右手に漆黒の五叉の鉾を顕現させた。


 すると、五叉の鉾に引き寄せられるように、美しい人魚を彷彿(ほうふつ)させる無数の海の精霊が皇帝を取り囲み、急に口が大きく左右に裂けた禍々しい(まがまがしい)顔に変化したかと思うと、次々に皇帝の身体の中に溶け込んでいく。


 それまで、ワイルドではあるが皇帝という重責を担う思慮深き風貌の顔であったが、精霊を取り込むごとに目が血走り髪は逆立ち、全身の筋肉が隆々と際立つ狂戦士の姿となると、漆黒の五叉の鉾を回転させ、いきなりマンパシエの顔目掛けて突き刺した。


 マンパシエは微動だにせず、左の頬から血を流しながらも恐怖心の欠片もない瞳で、冷静に皇帝を見据える。


 「吹き荒ぶ(ふきすさぶ)極寒の風で、思考まで凍りつかせましたかリンデンス皇帝!」


 「『アヴニール国家連合』に加盟し我が国と密約を結べば世界の10分の1を支配したも同然なのですぞ!加盟しなければ、いづれこの地は大地も人も凍りつきましょう!選択肢は唯一つ!…」


 マンパシエの気迫に我にかえったリンデンスは五叉の鉾の召喚を解き元の姿に戻ると


 「では、スタイナー卿とやらが我が地を極寒から解き放てば『アヴニール国家連合』に加盟しよう…それで異存はあるまい…」


 「このマンパシエ、しかと皇帝陛下の下知(げち)賜りました…」


とロランのいない場所で勝手な約束が行われている頃、ロランは日々増強されていく魔力と体力の捌け口(はけぐち)に苦慮していた。


 「龍神様…近頃何か抑え込んでいるようにお見受けしますが…」


 「うっ…うん。6天竜の血を飲んだことで日々魔力と体力が増強され、渾身の『力』を使用したいと想う衝動が強くなってるんだ…心配かけてごめん…」


 「ダーリン!だったら全力で大空に向かって飛んでいったり、地中に潜っていったりして『力』を発散すれば…」


 「アルジュさんは、ダークエルフらしくワイルドな発散方法を思いつくこと…」


 「ルミール様は、さぞかし良い提案があるのでしょうね…」

 

ロランはルミールとアルジュの口論はいつものことなので放おっておいて、ブリジットを呼び寄せる。


 「ブリジット…僕が上空及び地下に行ける限界ラインを答えて欲しい…」

 

「畏まりました。少々お待ち下さいロラン様…」


ブリジットも右顔の仮面以外はすっかり皮膚が定着し美しい女性となっていた。しかも、毒を生成・解毒できるだけでなく膨大な情報を蓄積し複雑な計算を瞬時にこなす人型汎用コンピュータというべき存在となっている。


 「皮膚・筋肉・骨の強度と再生速度を考えますと、地下であれば深さ150km、5万気圧まで、上空は対流圏・成層圏を超え、高度70kmまでの中間圏まで到達が可能であると考えます…」


 『地下150km、5万気圧でダイヤモンドは生成されるから、身体の強度はダイヤモンドの強度に到達しているということか』


と考えながら、休暇日で邸にいたルミール・アルジュ・バルトス達を引き連れ、ルディスが諜報部員達を鍛えている訓練コースと射撃場を横切り、まだ手付かずの草原まで歩いていく。


 するとロランは『竜現体』の能力を開放し、プラチナがかったホワイトの『光』を司る(つかさどる)フォース・ドラゴンの翼を1対と、光り輝きライトブルーで見る者の心を魅了する『水』を司るウォーター・ドラゴンの翼を1対…


 さらに漆黒で巨大な鉤爪(かぎづめ)の第1指と分厚い飛膜(ひまく)、その飛膜を頑丈な指骨が支える『闇』を司るシュバルツ・ドラゴンの翼を1対に、小さいが赤く燃え盛る『火』を司るレッド・ドラゴンの翼を1対の計8翼を具現化する。


 「皆、ちょっと上空まで行ってそのまま地下に突入し戻ってくるから、周囲に被害が及ばないよう強固な結界を形成して欲しい…宜しく頼むね…」


 「「「「「「はっ」」」」」」


 ロランは、炎で形作られた竜の角による雷を勢いよくスパークさせ、虹彩(こうさい)金色(こんじき)で瞳孔が真紅の瞳を大きく見開くと一気に大空に向かって上昇していく。


 高度11kmまでは対流圏で上昇するほど気温は減少し寒くなるが、成層圏に入ると逆に上昇するほど急激に気温が高くなった。さらに50kmを超え中間圏に突入すると再び上昇する毎に気温が減少し寒くなっていく。


 高度が目標の70kmに達すると180度回転し地上を向き、翼を折りたたむと加速しながら落下していく。


 ロランは、前方の空気を押しつぶし空気の分子が激しくぶつかりあう空力加熱により発生する高温を、全身に纏いながら地面に向かっていく。


 「ドコォ――――――ン」


 そのまま地下150kmまで突き進み、数十分後ロランはマントルを身体につけながら地表に戻ってきた。


 バルトス、マルコ、クロス、フェネク、アルジュは火属性魔法の『煉獄』を使用しロランの身体にへばりついたマントルを溶かし、ルミールは水属性魔法の『ヴォウルカシャ』を使用しロランの身体を冷却し清めていく。


 「スッキリした――!」


 ロランは久々に全力を出すことができ心身ともに健やかな状態となったが、直径500mの穴と草原を焼きつくしてしまい、修復に皆の協力を仰いだため、ルミール・アルジュ・バルトス達をあきれさせた。


 ロラン達が長閑な(のどかな)時間を過ごしている間にも、氷海のリンデンス、キメラを製造し続けるクリシュナ…さらに多くの国に信者を持つ神聖ティモール教国と王国軍の腐敗問題が進行していき…偵察を行っているツュマの身にも…。


 ロランは悩み迷い続けながら、時に優しく時に非情に徹し、これらの問題に対峙していくこととなる…

 

次回は・・・『65話 いざ!リンデンスへ ~ 否定されてもなお ~』です

2018/10/13 『神聖ティモール教国』の名称を統一化修正

2020/06/14 誤字・脱字・東殷夏帝国→東夏殷帝国に修正

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