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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第1部 第4章 3国同盟・アヴニール国家連合 結成 編
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61話 仮面の聖女

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 「「…ヴォーン、ヴォ―ン、ヴォーン…」」


 年が明けてから、ロランは毎朝5時30分に起き、1時間ほど、鍛錬用に作成した50kgの鉄刀を使用しジェルドとともに素振りを行うことを日課としていた。

 

 「…ジェルド、朝の素振りは気持ちがいいね…」


 「…そうですね。朝の冷たい空気が気持ちを引き締めてくれて精神が浄化されていく気がします…」


 「…そうだね…それと、新しい義手と義足の具合はどうかな…」

 

 「…以前の義手、義足と比べると違和感はほとんどないですね…」

 

 「…良かった…」


 機構は従来と変わらないが、より違和感を無くす為、ルミールの固有魔法である『再構築(レコンストロキアン)』により切断され残っていた側の神経回路を周囲の筋肉に再結合させ。

 

 脳から失った肘下の左腕、膝下の右足を動かす命令を出した時に左腕と右足を動かす『神経回路を結合された筋肉に発生する電位と筋肉に関わる皮膚表面の電位』を読み取り。


 人工骨に『魔物の筋繊維を加工した人工筋肉と(けん)』を接合し、電位に基づいて伸びたり縮むと付与魔法で刻印を施す事で動作する機構である。


 今回は、機構はそのままに『人工筋肉と腱に腐敗・劣化せず、より強靭な魔物の筋肉と腱』を使用し、人工骨に外側をミスリルでコーティングした生体と親和性が高い『生体親和性セラミックス』を使用することで、強度と筋力を向上させた。


 さらに、ルミールの固有魔法である『増殖(フェアメールング)』と『免疫制御(イムンコントロル)』によりジェルドの皮膚と血管を培養して義手表面とソケット部を覆い生体の皮膚と血管を接合し、ソケット部の内側に多孔質セラミックスを用い、捕食した人間の体の一部を自らの体とする魔物の筋肉と血管を使用することで、生体と完全に一体化する義手と義足としている。


 「本当は、魔法で切断面の細胞を多能性幹細胞化させ、失った左手と右足を再生成できればいいのだけれど、現時点でその魔法を使用することができないから、すまない。」


 「ロラン様、私を見てください。『ほらっ』こんなにスムーズに左手が動きます。私はこの義手と義足を誇りに思っております…」


ロランとジェルドの絆は、日々こうして深まっていく。


 宰相府業務も落ち着きを取り戻し、王都内における老人施設や孤児院等の建設も順調すぎるほど順調に進んでいた。


 「…ロラン、どうしたんです。何か嬉しい事があったんですか…」

 「…最近、落ち着いて日常生活と宰相府の業務を行えてるなと思って…」


と授業が終了し宰相府に政務を行いに来たエミリアが既に宰相府で政務を行っていたロランに話かけある誘いを行ってくれるよう誘導する。


 「…ロラン、何か忘れていませんか?私はあと1ヶ月で卒業し、卒業後は宰相府の事務官として業務を行います。」


 「そうだね。もう、こうして授業終了後にエミリアと会えなくなるんだ…」


 「……」


 「…エミリア、急に不機嫌な顔になったけど、何か変な事言ったかな…」

 

 しばらく沈黙が続いた光景を見つめていたマーガレットは耐えきれなくなり『…これだから男は…』と思いながらヒントを出した。


 「…ロラン君、何か重要な事を忘れていない。"()"がつくこと…」


 『…"プ"がつくこと?この時期…あっ――プロムポーズ忘れていた…』


とロランは気づくと椅子から立ち上がりエミリアの方に振り返る。


 ロランは片膝をついて右手を差し出す。


 「…エミリア、プロムだけど僕をエミリアのパートナーとして選んでくれませんか…」


 すると、エミリアは頬を紅潮させ澄んだブルーの瞳でロランを見つめながらロランをパートナーに選ぶのであった。


 「…はい、喜んでロランをパートナーにします。もう、気づくのが遅いですよ…」


 ロランは幸せな日々が続き、あまりにも全ての事が順調であったため忘れてしまっていた。

 

 そう、世界はとてつもなく残酷だという事を。


 2日後の光6日、リビングでチャイを飲みながらミネルバが指揮する狙撃隊が使用する銃の図面を修正していた時、その報告が入った。


 「…ダーリン、黒猫ちゃんがテレパス受信しているよ…」

 「…あっ、ありがとうアルジュ…」


 ロランは黒猫を呼び寄せ、自分の腿の上に座らせる。


 「ロラン様、大至急、王都『ベステ・レゼプト』レストラン近郊の川岸にお越し下さい。ロラン様でしか対応できません。我々ではこの女性に触れる事ができないのです…」


 「落ち着いて『サラサ』、女性に触れる事ができないとは、それに何でそんなに焦っているの?」


 黒猫を使用しテレパス送信をしてきた、この『サラサ』はリプシフターと同族のGill Human(ギル ヒューマン)であり、3週間前から60名の仲間を指揮し、王都を流れるセレネー川とエポーナ川<本流>警備を行っている女性である。


 「女性の皮膚から流れ出る毒で、女性が乗っている小舟の船体に穴が開き、沈みかけているからです!」


 「わかった。すぐに行く。僕が到着するまで、水属性魔法で小舟周辺の川を凍らせることは可能?全ての隊員を集結させていいから…」

 

 「はい、何とか凍らせて小舟が沈まないようにします…」


 ロランは腿の上に座らせた黒猫を優しくソファーに移動させると立ち上がり、ルミール、アルジュ、ジェルド、ルディスに指示を出す。


 「これから連れてくる女性を助ける為、ルミールとアルジュの力が必要だ。毒に耐性のある装備を纏って(まとって)待機していてほしい…」


 「わかりました龍神様」「承知しましたダーリン!」


 「ジェルド、これから連れてくる女性は特殊のようだから邸の者の目に触れないよう頼むね…」

 

 「承知しました。」


 「ルディス、最速の馬車で『ベステ・レゼプト』レストラン近郊の川岸まで来てほしい。僕はリルヴァに乗って先に現場に行くから…」


 「了解です。」


 ロランは指示を出し終わると足早に邸を出て『リルヴァ』を召喚し、もの凄い勢いで現場へと向かう。


 20分後ロランが現場に到着するとサラサ達によって川は氷結され小舟は沈まずにいた。


 「サラサ、皆、お疲れ様。あの小舟の中に話していた女性がいるんだね。」


 「はい。この人身売買を行うとしていた男の話によるとガラス以外のものは溶かしてしまうとのことです。それと彼女の皮膚に触れた者は毒によりヴァルハラに旅立つと申しております。」

 

 「ありがとう。僕は天竜の血を飲んでいるから、あらゆる毒に耐性があるから大丈夫だ…あと、野次馬が女性の姿を見ないよう直ぐに対策を行うように…」


と指示を出すとロランは凍った川の上を歩き、女性が乗る小舟へと向かった。


 女性はパニックを起しているのか、体から大量の毒と思われる液体を排出している。


 毒により体を覆っていた包帯は溶け女性の姿が露になっている。


 ロランは女性の姿を見て息を飲み込んだ。あまりにも…すぎて。


 女性の右側の頭頂骨から頬骨(ほおぼね)にかけて、あるべきはずの骨が無く皮膚が透けて脳が見え、右手及び右の第6肋骨(ろっこつ)から第8肋骨の間ならびに膝下(ひざした)の右足も皮膚が透け、あるべきはずの骨がなく液体が入っているだけに見えた。


 その様子は『クラゲ』そのものであった。


 ロランはこの女性は、クリシュナ帝国が人とクラゲの遺伝子を操作して作り出した人間だと直感する。


 ロランは両の瞳に涙を溜めながら、その女性を優しく抱きかかえる。女性の毒によりロランの衣服は所々溶け皮膚が焼けただれたが、天竜の血により皮膚は直ぐに修復されていく。


 ロランの皮膚は、毒による焼きただれと修復を物凄い勢いで繰り返しており、焦げた肉の臭いで女性が我に返る。


 「直ぐに下してください。私に触れた方は皆ヴァルハラに旅立ってしまいます。それに今もあなたの皮膚を溶かし続けている…」


 ロランは女性の言葉を聞き、酷い目にあいながらも他人を気遣う優しさに心を打たれ、涙を流しながら女性を安心させる。


 「僕は天竜の血を飲んでいるから大丈夫。この通り直ぐに皮膚も再生していく、それに『不死』だから…それと人間を代表して君に謝りたい…辛い思いをさせてごめんさい…」


 「……」


 ロランは『竜現体』の力を抑制して一対の白く大きい翼を発現させ女性を包み込むと、遅れて到着したルディスが操作する馬車へと向かっていく。


 途中、その姿を野次馬達に見られたがロランは『理力眼』によりアルジュから取得していた『記憶改変』を使用し、野次馬達の記憶を削除した。


 ルディスは馬車のドアを何も言わずに開け、ロランも何も言わずに乗り込む。


 終始無言であった。


 無言になるはずである、女性とロラン、ルディスはずっと涙を流し続けていたのだから。


 邸に戻るとルミール、アルジュ、ジェルドは驚愕した。


ロランの着ている服は所々溶け、白い大きな翼の中から滴る毒液で床が溶け出していたからである。


 ロランはルミール、アルジュ、ジェルドに指示を出す。


 「直ぐに地下の治療室にいく。可能な限り正常な姿に近づける。ジェルド試作しておいたフルタイプの右腕の義手と、膝下用の義足を持ってきてくれ…」

 

 「はっ」


 「ルミールは正常な細胞の浄化を、アルジュは精神感応魔法を極限まで高めて麻酔と心の修復を頼む…」


 「「はい…」」


 異様な光景であった。毒を防ぐための装備を纏ったルミール、アルジュ、ジェルドとボロボロの服装のロランと女性。


 ロランは地下の治療室に土属性魔法で大理石の台を出現させ女性を横たえ、身体の構築にとりかかった。


 「これから、右手と第6肋骨から第8肋骨の間、膝下(ひざした)の右足を切除し、義手、義足、生体親和性セラミックスで形成した肋骨を取付ける。顔の右側は生体親和性セラミックスで覆い保護する。こうすれば普通に生活できるようになるけど問題ないかな?」


 「ありがとうございます。お願いします…」


 ロランはアルジュに精神感応魔法で麻酔をかけさせ、肩からゼリー状の右腕と第6肋骨から第8肋骨の間、膝下の右足を切除し、最新式の魔道筋電義手と義足、生体親和性セラミックスの肋骨を結合していく。


 ルミールには細胞の浄化を依頼した。驚いたことに正常な部分的は毒にな対する抗体があるのか全く異常はないとの事だった。

 

 右側の頭頂骨から頬骨にかけては、生体親和性セラミックスの内側に極薄いガラスをコーテイングし、皮膚との接合部には捕食した人間の体の一部を自らの体とする魔物の筋肉を使用して仮面と生体を一体化。


 ルミールの固有魔法である『免疫制御』により拒否反応による剥離を防止し、『スプレマシーヒール』と『身体洗浄』の魔法をかけて治療を完了させた。


 残念な事に右目は、生まれた時から機能していなかった為『スプレマシーヒール』を使用しても回復はできなかった。


 ロランはさらにルミールに彼女の皮膚と血管を培養するよう依頼し、アルジュに服を着させるよう指示をすると自身に治癒魔法をかけ、ジェルドが用意した服に着替えると、休憩しにリビングへと向かった。


 しばらくするとアルジュが女性を連れリビングやってきた。


 ブロンドのストレートな長い髪に白い肌、顔の右側が生体親和性セラミックスで覆われている以外はとても美しい女性であった。


 「義手と義足は痛まないですか?」


 「はい」


 「1週間後、顔の右側と義手、義足、腹部を、貴方の細胞を培養して作成した皮膚と血管を使用し覆いますからほぼ違和感ない状態となります。心配しないでくださいね。ただ顔は右側だけ仮面を被ったようになります。」


 「ありがとうございます。とても嬉しいです。」


 「名前を教えていただけますか?」


 「『KS35775D』です。」


 「……」


 「そうですね。あなたはこんな酷い運命にあっても全く心が汚れていない。とても『高貴な方』だ。そうだ『ブリジット』という名前はいかがですか?…高貴な者と言う意味です…」


 「素敵です!とてもうれしいです。」


 「あなたは毒と毒を解毒する血清(けっせい)に対して高い知識があるようですね。」


 「どうしてその事を」


 「私には他人の能力を見極める能力があるのです。『ブリジット』貴方をRedMistのツヴァイとして迎え入れたい。君には本当は毒と解毒剤(血清)の生成を依頼したいが君は嫌がるだろうから、解毒剤の生成をお願いしたい。いいかな」


 「はい。」


 ロランはソファーから立ち上がると『ブリジット』の毒で溶けた床を修復し、皆に新たな仲間である『ブリジット』を紹介した。


 その夜、クリシュナ帝国王城の『皇帝の間』が火属性魔法最上級の魔法であるムスパルムヘイムで溶かされ、壁に≪…遺伝子操作による人体実験を行い続けるならば、次は王城全てを溶かす…≫


としたメッセージが刻み込まれ大騒動となるのだった。

次回は・・・『62話 閑話 ルディス ~ ポーカーフェイスの戦術家 ~ 』です。

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