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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第1部 第4章 3国同盟・アヴニール国家連合 結成 編
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59話 天賦のペテン師の作興

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 王宮『平和の間』に向かうため、(あご)を左手で摩り(さすり)ながら西翼棟の通路を歩く男こそ、パルム公国にて『天賦(てんぷ)の交渉人ともペテン師』と称される外相の『アレッサンド・ド・マンパシエ・ツー・ロマーノ』伯爵その人である。


 このマンパシエ、伯爵の爵位であるが千変万化する状況に対し巧みな交渉と戦術でのぞみ、何度もパルム公国を窮地から救った直感タイプの戦略家であり、トロイト連邦共和国アガルド最高評議会議長をもってして『天才』と言わしめる男であった。


 しかし、その天才をしても今回の同盟加盟はあまりにも出遅れた感が強く、マンパシエはいかに自国に有利に同盟に加盟できるか、必死に思考を巡らせていた。 


 『同盟の話に関しては我が国は完全に出遅れてしまった。3国同盟に加盟するにしても何か手土産が必要だ…インパクト、交渉を有利に進めるために『ディープインパクト』が必要だ…さて、どうしたものか…』


 このマンパシエ、事前に策を弄さ(ろうさ)ない。人間は限界まで追い詰められた状況でこそ最良の選択を行えると信じ、これまでもその手法で国難を乗り切ってきたからである。


 マンパシエは起死回生の一手を思いつかないまま『平和の間』の扉の前につき、なかば運命に身を任せるように『平和の間』へと入っていく。


 『平和の間』に入ると開口一番、フォルテア王国の外務大臣であるリックストン公爵に対し、


 「3国同盟結成おめでとうございます。今回の交渉で我が国も同盟に加盟し4ヶ国同盟となります。4ヶ国の影響力を最大限に高めるため国際的な国家連合を旗揚げ(はたあげ)してはいかがでしょう…」


 「何をいきなり、初対面の相手に対し国家連合の旗揚げとは!…」


と声を荒げるリックストン公爵に対し、マンパシエは立ち話では纏まる(まとまる)話も纏まらなくなるとリックストンを席に誘導する。


 この時点で、この交渉の指導権はマンパシエのものとなった。交渉において重要な事は2つ、常に冷静でいること、もう一つは、どんなに劣勢な状況であっても決して相手の風下(かざしも)に立たないことだからである。


 既にマンパシエの発言で興奮させられ、席に着くよう誘導されたことで潜在意識下で風下に立ってしまったリックストンは、マンパシエの手の中で転がり始める。


 「リックストン卿、トロイト連邦共和国のアガルド最高評議会議長は3国同盟を足がかりに、その先に我が国とリンデンス帝国、クリシュナ帝国を加盟させた6カ国により国家連合を形成すると言っていませんでしたか?」


 「なぜ…そのような事を…」


 「アガルド最高評議会議長とはご縁がありまして、彼の考えそうなことは大体推測できるのです…」


 「……」

 

 「まぁ、国家連合の話は後にして、我が国は貴国を含む3国と対等な同盟を締結頂けますかな?仮に、貴国を含めた3国が我が国を下に見る同盟を結ぶつもりであれば…」


 「我が国は、高みの見物を決め込んでいるリンデンス帝国、クリシュナ帝国と手を組み、プロストライン帝国を巻き込んで3国に(いくさ)を仕掛けますが…」


 「待たれよ、マンパシエ卿。この場は貴国が3国同盟に加盟するあたり、互いの主張の擦り合わせ(すりあわせ)を行う交渉の場のはず。それではまるで我が国に宣戦布告しに来ているようではないか…」

 

 「その通りです。私はパルム公国200万人の命と財産を背負い、この場に来ている。我が愛すべき国家と国民を辱める(はずかしめる)ような条約の締結など願い下げだ。戦争を起すにも維持するにも金がかかるが、我が国はそれを用意することができる。ゆえに必要であれば我が国は、それを(えさ)にリンデンスやクリシュナ、プロストラインと手を結ぶことも可能なのだから…」


 「……」


 リックストンが予想だにしない話を行い、焦りを生じさせたことで、心理的支配が構築できたと確信したマンパシエは、徐々にリックストンの心に『自国を有利な立場で同盟に加盟するための策』を刷り込ん(すりこん)でいく。


 「リックストン卿、そう構えないでいただきたい。今までの話は、あくまで我が国が3国と対等の立場で同盟に加盟できなかった時の話…私が話したいことは貴国と我が国との間の密約についてです…」


 「国家連合が形成されてしまえばメッサッリアのジグムンド大統領とトロイトのアガルド最高評議会議長の2人が主導権を握り始めるでしょう。仮にそうなった場合、我が国は貴国と常に歩調を合わせ、その勢力と対抗していけるよう後ろ盾(うしろだて)となります…」


 「さらに、私が『リンデンス帝国』皇帝『ラグナル・デ・リンデンス』をこの同盟に引き入れますので、形成される国家連合において数で勝る我らが主導権を握る。そのためには4国という少ない数ではあるが『国家連合の旗揚げ』が必要となってくる…」


 「どうせアガルド先生の事ですから、6ヶ国全て揃ってから国家連合を旗揚げするつもりだったのでしょうが、石橋を叩いている間に鉄杭(てっくい)で石橋を破壊されてしまいます。要は箱が出来上がっていることが肝心なのです!中に入る国家は入れ替え自由ですからね…」


 「マンパシエ卿の述べられる案はとても興味深いが、なぜアガルド最高評議会議長を『先生』と呼んでいるんです…」


 「これは失礼しました。私とメッサッリアの国防大臣であるアルベルト・スペンサーは学生の頃、当時トロイトにて少将であったアガルド・ジャコメッティより政治・戦術・交渉等々を直接ご指導いただいたもので…つい、その時の癖で先生と呼んでしまいました。」


 「マンパシエ卿、貴殿は本当にリンデンス帝国をこの同盟に組み入れることができるのか?」


ここで、マンパシエはブラフを更に強め、リックストンの心を掴んで(つかんで)いく。


 「リックストン卿、ご安心下さい。我が国はリンデンスに対し強い交渉カードを持っています。逆に言えば我が国しかリンデンスを説得できないという事です。」


 「にわかに信じ難いのだが、いささか時間をもらえるだろうか?」


 「結構です。ただし、リックストン卿、連合の話は後として我が国が3国同盟に対等な条件で加盟できることを、この場で約定頂きたいのですが、貴国にはデメリットは全くないはずです…」


 「承知したマンパシエ卿、もとより3国は貴国を対等の条件で同盟に迎え入れる事にしていたのですから、問題ありません。」


 「では、細かいことは事務官達に詰めてもらう事にしましょう。リックストン卿すみませんが私は『ロラン・フォン・スタイナー卿』にお会いしたいのです…」


 「スタイナー卿であれば本日、東翼棟の宰相府におりますが、何かお話でも…」


 「えぇ…大変興味があります。あのアガルド先生の重い腰を上げさせ、赤き剣ことアルベルトを抑え込んだ少年を是非ともこの目で見てみたいと思いまして…まぁ、ただの興味です…」


既に心理的にマンパシエに支配されたリックストンは申し出を断りきれず、マンパシエを連れて東翼棟の宰相府へと向かう。


 ロランはというと、マンパシエとリックストンが自分に会いに来るなど露知らず、宰相府執務室で業務に取り組んでいた。


 その業務とは、来年度の予算と今年度に支出した実費に関して会計省から提出された資料の検算であり、ワグナー宰相、マーガレット秘書官、ロランとエミリアの机には大量の資料が山積みとなっていた。


 ロランは『はぁ…表計算ソフトやデータベースソフトを使用できれば、こんな手作業はせずに済むのに…』と思いながら、粛々(しゅくしゅく)と算盤をはじいていた。


 そんな中、リックストンとマンパシエにより宰相府執務室のドアがノックされた。


 『コン!コン!』


 「失礼するよ。ワグナー宰相、リックストンだがパルム公国の外相である『アレッサンド・ド・マンパシエ・ツー・ロマーノ』卿が『スタイナー卿』にお会いしたいとの事で、お連れした…ドアを開けて宜しいかな?」

 

 「少々お待ちください…どうぞこちらへ」


と執務室のドアを開けて出てきたのは秘書官のマーガレットであり、2人を執務室横の応接室に通した。しばらくすると、ワグナー宰相とロランが応接室に入室する。


 「はじめまして、『アレッサンド・ド・マンパシエ・ツー・ロマーノ』と申します。マンパシエとお呼びください…」


とマンパシエは挨拶を行い、ワグナー宰相とロランが挨拶を済ますと4人は当たり障り(あたりさわり)のない話を数十分行い、その後マンパシエの『たっての希望』によりロランと2人きりにしてもらい、話を始めた。


 「スタイナー卿の御噂はパルム公国にも伝わってきております。貴殿の発明品は実に素晴らしい。発明の内容もだがその数の多さといい、同時に竜覇者であり、冒険者としてもS級ライセンも保有している。貴殿はいったい何者かな?」


 「まぁ、そんな些細(ささい)な事はどうでもいい。調印式は先ですが、本日、パルム公国は正式に3国同盟に加盟することになりました。そして4国により国家連合を旗揚げすることも決定事項として推進される予定です…」


ロランは奇妙な感覚にとらわれていた。なぜか、初対面のマンパシエに懐かしいまるで『何十年も交流がある』友人に抱く親近感を感じたからである。


その感覚はマンパシエも感じていた。初対面のロランを見た時、懐かしい友に久しぶりにあった感覚を抱いたからである。すると、ロランが、


 「マンパシエ卿は、国家連合の先に何を見ていますか?」


 「そうですね。『エランディア大陸』と『ガリア大陸』を股にかけた6ヶ国による国家連合が形成された後は、東夏殷帝国と『相互不可侵条約』と『通商条約』を締結し、プロストラインに対する包囲網が構築できた時点で、第2フェーズとして『連合の永続なる維持』を考えています。」


 「逆もあり得ますか?マンパシエ卿…」

 

 「私ばかりが御応えするのもなんですので、この質問は逆にロラン殿からお聞かせ願いたい?」

 

 「プロストライン帝国のイワン皇帝は、帝国による世界統一が目的であると聞いておりますので、そもそも交渉相手とはなりえません…それに敵とするならばプロストライン帝国の方がいい…なぜなら…」


 「「エルドーラ山脈を自然の要塞として活用できるから!」」


 「ふっ、これはいい…実に素晴らしい…私もそう考えました。しかも東夏殷帝国と4国は『安全保障条約』を締結しなければ、軍を出す必要もないですからね。無論、陰で東夏殷帝国を支援はしますが…」


 「…そうですか…なるほど合理的な考えですね…では…」


 「マンパシエ卿は同盟国の方となったので、私から一つ情報を提供いたします。今月15日、ケトム王国『ガリル州』に2度目の軍事侵攻をかけたクリシュナ帝国は圧倒的な勝利で占領に成功したとのことです。」


 「クリシュナとしては、やけに慎重に侵攻を行った感がありますね。まぁクリシュナのことなので何か良からぬ事をしていたのでしょう…」


 「私もそう思います。」


 「では、最後にロラン殿に一つ、我がパルム公国はスタイナー家と関連する方々には一切攻撃を行わないと約定いたします。その対価として貴殿もパルム公国と国民に対し一切の攻撃を行わないと約定いただけますかな?」


 「マンパシエ卿が存命の間で、パルム公国より攻撃を受けなければという条件をつけますが、パルム公国と国民に対し攻撃を行わないことを約定します。」


 「…それで十分です…」


 マンパシエは満足げに歓迎の晩餐会に向かっていき、ロランは検算作業に取り組むべく作業机へと向かった。


 ロラン、アルベルトとともに『この魔法に満ち溢れた世界』に影響を与え続ける男が、満を持して表舞台に登場した。


 と同時にある存在が、この世界に持ち込んだ『置き土産』がロランの運命に大きく関わろうとしていた。

次回は・・・『60話 飛行船遊覧飛行と巨大地下網建設』です。

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