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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第1部 第4章 3国同盟・アヴニール国家連合 結成 編
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58話 紫苑の空と六つの翼と ~ 『竜現体』覚醒 ~

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 今、ロラン達は邸から南へ7km離れた地点の地下5km、容積が100万立方メートルの空間にて、『天竜達の力』を具現化(ぐげんか)することで、自身の弱点を克服すべく訓練を行っていた。


 「ダーリン!今日はもう訓練は終わりにしましょう…無理しすぎだよ…」


 「アルジュ…もう少しだけ…あと1ヶ月で新年を迎えてしまう。それまでに、もう一段、(うえ)の強さを手に入れ、弱点を克服しておきたいんだ…」


 「龍神様!無理と焦りは禁物です!…それに、龍神様の身体を流れる天竜達の霊力と魔力の流れは乱れすぎていて、とても危険な状態です…アルジュの言う通り今日は邸に戻りましょう…」


 「………」


 「ホルホル…ロラン様はお子ちゃまですかな?いつまでも駄々(だだ)をこねてないで、ルミールとアルジュの進言を受け入れ、素直に邸に戻りましょう…ほれ『バルトス、マルコ、クロス、フェネク』からも坊っちゃんに邸に戻るよう言うてくれ…ホルホル」


 「それでは私が代表して、通常ロラン様の身体の中には『生来(せいらい)の魔力』のみが循環しています…この場合『天竜達の霊力』は『生来の魔力』の(かて)となり魔力や体力を増強し、『生来の魔力』と密接に関係する『理力眼』とクリスタルの腕輪により後付された『火・風・水・土・光・闇』の6元属性魔法を強化し…調和のとれた『力の循環』が形成されています…」


 「しかし、現在、ロラン様が実施されている人の身体を維持しつつ、魂の一部となっている竜の魂を媒介に、6元属性魔法を同時に展開することで、身体中に浸透した天竜達の能力を具現化し、飛躍的に魔力や体力を向上させる試みは…」

 

 「ロラン様の身体の中で、『生来の魔力』と『天竜達の霊力』の2つの力を混ぜることなく、それぞれの『力』を引き出し、循環させなければ実現できない事象であり…2つの力を裏表なく循環させる事など到底できるはずがないため…今のアプローチでは無理かと推測します…」

 

 「バルトスの言う通りだが、僕は諦めない…今までだって『トライアンドエラー』で少しづつ問題点を克服し目標を実現してきたのだから…だが、今日は皆の進言に従い、邸に戻ろう…」


 ロランの訓練とは『ルミール、バルトス、マルコ、クロス、フェネク、アルジュ、ポルトン』に魔力の縄を作らせ、自身の身体を拘束させた状態で『天竜達の力』を具現化させるという訓練である。


 訓練中に『力』が暴走し完全に竜の姿とならないよう、『力』が暴走した時はダークエルフであるアルジュが最も得意とする精神感応魔法で睡眠状態にする。


 その後、"マルコ、クロス、フェネク、ポルトン"が強力な魔力を縄に流し込み、ロランの身体を締めあげる事で押さえ込む。


 そして、バルトスが後頭部近傍(きんぼう)に位置する第二頚椎(けいつい)と第三頸椎の間に剣を差し込むことで強制的に『生来の魔力』と『天竜達の霊力』の循環を一時的に遮断する。


 ハイエルフと天使のダブルであるルミールが()()()()()()を浄化させる『光翼(こうよく)』でロランの身体を元の姿に戻すという訓練であった。


 天竜達の血を飲んだことで『不死』となったロランが10分後に息を吹き返した時点でバルトスが剣を抜き、再度『天竜達の力』の具現化を試みる。


 ロランは、このような訓練を光1日(月曜日)から光5日(金曜日)にかけては19時から22時まで、光6日・光7日は12時から20時まで、ただひたすら訓練を繰り返し行い続けていた。


 邸に着くとアルジュが


 「ダーリン…なんでこんな無理な訓練をするの?今でも十分強いし、ダーリンには私達がついているのに…」


 「この前の舞踏晩餐会で人族でも様々な能力を持った者達がいた、それにクロスの使い魔のように影に潜める魔物もいる…僕以上の剣技と体術を持った者で『時』や『次元』を操れる敵が現れ、第二頚椎(けいつい)と第三頸椎の間に剣を差し込まれたら…」


 「…脊椎神経(せきずいしんけい)が切断され、脳からの指令が手足や口に伝わらなくなり、シエルヴォルトも使用できず、敵に簡単に捕獲されてしまう…」


 「時空間魔法が使えない今、僕にできる対策は天竜達の血で強化された魔力と身体を、刹那(せつな)の時間で『天竜の力を具現化し』、さらに強大な魔力と頑丈な身体とすることで、あらゆる攻撃に耐えられるようにする事しかできないからね…」


 「例え、『時』が止められても、例え『別次元』に連れ去られたとしても6天竜が龍神様を助けにいくはずですが…」


 「ルミールの言う通りだよ…でも6天竜が救出にくれば、何の罪もない王国や周辺国の国民の多くがヴァルハラに旅立つことになる…それは嫌なんだ…」


 「であれば事は簡単です!魔王に…」


とクロスが発言した瞬間、ルミールは細く鋭く金色に輝く剣を顕現させクロスに突き込むと、クロスは左手をわざと剣に貫かせて受け止め、一触即発(いっしょくそくはつ)の状態となった。


 「そこまで…」


ロランは『なんでこうなるんだ…身内同士で闘うなんてどうかしている』と思いながら、心身と共に疲弊(ひへい)し皆を解散させるのだった。


 それから数日後、ロランは気分転換でカフェで独り言を言いながら考え事をしていた。


 「はぁ…表でもなく裏でもない…イメージさえ、つかめれば…」


 すると、理力眼と探知の能力で"エミリア、アレックス、ステフ、アリス、ベン、エマ"が近づいてくることを察知した。


 「何、独り言『ぶつぶつ』言っているの?ロラン…」

 「あぁ、エミリア、それにアレックス達も…」


 「ねぇ、ロラン君…夏のイベントを『スッポ』かしたんだから、年越しに何かイベントしましょう?」


 「…うっうん…そうだねステフ…」


 「こら、ステフ。ロランは忙しいのですよ…無理ばかり言って…」


 「エミリアお姉さま、まさか年越しをロラン君と2人で過ごそうと…」


 「こらっ、ステフ!」


するとバロア商会エコラス・ブルナー会頭の娘であるエマが突然提案をしてきた。


 「空から星々を観ながら年越しなんてどうですか?」

 

 『…さすが、バロア商会の娘だけある、もう()()()の情報を知っているとは…』


と思いつつ、ロランはエマの提案を採用することにした。


 「そうだね、エマの案にしようか…空をゆっくりと飛ぶ乗り物は既に2隻作り終えたから…」


 エマを除く一同は唖然(あぜん)とした。


 王国に空を飛ぶ乗り物など無く、当然であるが飛行船など存在しなかったからである。


 「ロラン、()ちないかな…」


 「大丈夫だよ…何度も試してパラシュートが確実に開くようにしているから…成功するまで何十回か地面に穴を開けたけどね…」


 「パラシュート…」


 「万一の時、背中に背負って空を降下(こうか)するときに使う道具の事だよ…」


と皆で会話をしていると、不意にエミリアのホワイトのリボンカチューシャが()()()いる様子を見て、ロランは急にあることを思い出し笑い出した。


 「あっはっは、そうだ、表でもなく裏でもないもの、忘れていたよ!ありがとうエミリア…」


 その晩、ロランはいつものメンバーと地下にある訓練空間にいくとバルトスに向い閃いた案を話した。

 

 「バルトス、表でもなく裏でもないものがあった『メビウスの輪』だ…」


 「なるほど…『生来の魔力』と『天竜達の霊力』を反転させ繋ぎ、高速で循環させれば表も裏もなくなりますな…」


 「その通りだよ、バルトス…」


 「皆、聞いて欲しい…やっと明確なイメージができたんだ…」


 「龍神様!」「ダーリン!」「「「「我らが王よ」」」」「ホルホル」


 訓練を行ってから16時間後、その時がきた。


 ロランは『生来の魔力』に『天竜達の霊力』を時計回りに半回転ひねり接合する『メビウスの輪』をイメージし、さらに魔力と霊力が輪の面上に沿って高速に循環しているイメージを加え、竜の魂を媒介に、6元属性魔法を同時に展開させる。


 周辺の空気が渦を巻き、ロランを覆いつくしていく。その中では稲光(いなびかり)や炎、無数の(ひょう)や赤黒い闇と神々しい(こうごうしい)光が混ざっていく。


 空気の渦が一気に消失する。


 その中心に、両方の『こめかみ』から炎で形作られた竜の角が雷をスパークさせ、両の目の虹彩(こうさい)はまるで竜のごとく金色(こんじき)で中心の瞳孔は真紅。


 背中の僧帽筋(そうぼうきん)付近からプラチナがかったホワイトの『初列・次列・三列』の風切羽の1枚1枚が巨大な『光』を司る(つかさどる)フォース・ドラゴンの翼が1対。


 その翼の下に光り輝きライトブルーで見る者の心を魅了する『水』を司るウォーター・ドラゴンの翼が1対。


 さらに、長背筋群の近傍より、漆黒で巨大な鉤爪(かぎづめ)の第1指と分厚い飛膜(ひまく)、その飛膜を頑丈な指骨が支える『闇』を司るシュバルツ・ドラゴンの翼が1対。


計6翼を携えた(たずさえた)ロランの姿があった。


 ロランの姿を見た"バルトス、マルコ、クロス、フェネク"は片膝(かたひざ)をつき臣下の礼をとり、ルミールとポルトンは()()とした表情を浮かべ、アルジュはなぜか悲しそうにロランを見つめた。


 『カッ』と目を見開いた刹那(せつな)、ロランは5㎞の地層を突き破り、対流圏上部12㎞の位置に飛翔した。


 時刻は、既に昼近くとなっており対流圏上部であったことから、ロランは吹き付けるジェット気流の中、紫苑(しおん)の空を直接見て感動する。


 『あぁ、そうか。太陽光のスペクトルで一番波長が短いのは紫、次が青、水色、黄緑、オレンジ、赤だったな。それに対流圏上部だから一番初めに紫色が散乱されるから空の色が紫苑なのか…』


 『それにしても美しい、自分で飛翔するとこんなにも世界は広く美しいだな。そういえば、紫を竜胆色(りんどういろ)とも例えるけど…ことごとく『竜』に関係してくるとは…』


 と思いながら、しばしロランは大空を飛行し圧巻の景色に感動していた。


 しばらくして地表に着地すると『竜現体(りゅうげんたい)』に昇華(しょうか)した姿を解き、これから強化すべき事項に思いを巡らせる。


 『そうだ…ツュマ達は人族の1億倍の嗅覚(きゅうかく)であるから、臭いから感情を読み取れるように訓練してもらおう。人は恐怖した時や幸福した時、ストレスを感じた時は汗に含まれる臭い成分が違うからね。ツュマ達ならできるだろう…』


 『Gill Human(ギルヒューマン)の一族はリプシフターを除いて潜水艦を沈めるほどの魔法は使用できないから、魚雷と密輸を監視する為の高速船が必要だね…』


 『ルディスやオム・マーラの能力も本来の活用があるはずなのだが、まだ思いつかない。この2名が疎外感を感じないようにしなければ…』


 皆を待っているロランのもとにアルジュ1人が近づいてきた。


 ロ案は『…新しい力を称賛してくれるのかな…』と思いながらアルジュを待っていると真逆のことを言われ黙り込む。


 「もう、ダーリン!ダーリンが勢いよく飛び出すものだから、地下にある訓練空間の天井が落盤して、その領域一帯が地盤沈下してしまったのですよ。もう、何とかしてくださいね…」


 「……」


 喜びも束の間(つかのま)、ロランは地盤沈下した領域を修復すべく足早に現場へと向かうのであった。

次回は・・・『59話 天賦のペテン師の作興(さっこう)』です。



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