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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第1部 第4章 3国同盟・アヴニール国家連合 結成 編
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57話 三国同盟の激震 ~ナイト・コマンダーと青い薔薇~

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 アゼスヴィクラム暦735年11月25日(光7日)午後15時、フォルテア王国の王宮で最も格式がある"謁見(えっけん)の間"において、フォルテア王国の国王である"レスター・フォン・フォルテア・ツー・カント"とメッサッリア共和国大統領である"ジグムンド・シュミッツ"ならびにトロイト連邦共和国最高評議会議長の"アガルド・ジャコメッティ"の3人が条約締結のために集結した。


 三ヵ国の国家元首は、条約締結国家間の領土に侵攻しないとした"領土不可侵条約"、条約締結国家間の関税を撤廃するとした"通商条約"、条約締結国のいづれかの国家に対し武力行為又は攻撃が行われた場合、条約に記された紛争当事国でない国家が軍を派遣し共同して武力行為又は攻撃を行った国家に対し攻撃を行うとした"安全保障条約"の各条約書面に署名していった。


 三ヵ国の国家元首は署名後、威厳(いげん)のある口調で高らかに宣言するのだった。


 「「「…ここに『3国同盟』結成せり!…」」」


 エランディア大陸における3大国が同盟を結成したという知らせは、各国の諜報部員(ちょうほうぶいん)や商会を通じ、またたく間に内外に広がっていく。


 王国の北東に位置するプロストライン帝国の皇帝"イワン・ヴィン・プロストライン・ツー・オーディン"の耳に。


 クリシュナ帝国の東に位置し"魔石やミスリル、金や銀などの資源が豊富に埋蔵している"ゴルダート大高原"を巡り、プロストライン帝国と長きに渡り紛争を行っている東夏殷帝国の第九代光武帝の耳に。


 さらにトロイト連邦共和国の北西に位置するパルム公国の国王である"フラヴィオ五世・ド・パルム・ツー・オルレアン"の耳に伝わった。


 長きに渡り血で血を洗う紛争を行っているイワン皇帝と第九代光武帝は皮肉にも同じことを考えるのだった。


 『…この(いくさ)を早期に終結させ、同盟を結んだ3国を地図の上から消さねばならん…』

 

 この2人の皇帝とは対象的にパルム公国の国王であるフラヴィオ五世は、三国同盟結成の一報(いっぽうに)慌て(あわて)ふためいた。


 現状を好転すべく息子である皇太子のイヴァンとフォルテア王国の王女であるシャロンとの婚姻(こんいん)交渉を保留にし、直ち(ただち)に3国同盟に加盟するよう天賦(てんぷ)の交渉人ともペテン師とも呼ばれる外務大臣である"アレッサンド・ド・マンパシエ・ツー・ロマーノ』に指示を出すのだった。

 

 3国同盟結成の知らせを受けて表面上、冷静な態度を取った国が2ヶ国あった。


 そのうちの1ヶ国は、後少しで3国同盟の1ヶ国になるはずであったクリシュナ帝国であった。


 そのクリシュナ帝国皇帝である"ルドラ・クリシュナ"は、将軍達を王城の『皇帝の間』に呼び寄せ、静かに語りかけるのだった。


 「…親愛なる将軍諸君、3()()()()の知らせは既に(みな)の耳にも入っておるはず。我らを出し抜きさぞや『ほくそ笑ん(えん)』でいるのであろう。だが3国は気づいておらんらしい。我らの価値があがったことに…」


 「…この状況をプロストラインのイワンがこのまま黙って見ているはずがない。同時に三国にとってもエランディア大陸とガリア大陸にまたがる国家連合を目指す場合、地政学上、我が国が必要となる…」


 「…我らはこの好機に"マルテーレ海"へと続く領土を得るとしよう。親愛なる将軍諸君、ケトム王国のガリル州を侵略する準備はできておるな…」


 「「「「「…いつでも可能でございます…」」」」」

 

 「…さすが修羅と呼ばれし将軍達よ。ではケトム王国のガリル州を滅絶(めつぜつ)してみせよ…」


 「「「「「…我ら一振りの刃(ひとふりのやいば)となりて敵を切り刻み(きりきざみ)、マルテーレ海をケトム兵の血で赤く染めてみせましょう…」」」」」

 

 「…皆、大儀(たいぎ)である…」


 クリシュナ帝国皇帝である"ルドラ・クリシュナ"はプロストライン帝国と三ヵ国がクリシュナを味方に引き入れようと計略していると考え、今こそ好機と捉えケトムへの進行準備を整えるのだった。


 もう一ヵ国は、パルム公国の北に位置しプロストライン帝国と陸続きの国境を持つリンデンス帝国であり、皇帝である"ラグナル・デ・リンデンス"は右腕である宰相の"フレイディス"に向かいキール酒を飲みながら静観する選択肢を選ぶのであった。

 

 「…3国同盟かプロストライン帝国のうち、勝利した方と手を組もうと思うがフレイディスはどう考えるか…」


 「…我らを守護する海の精霊を憑依(ひょうい)させての狂戦士(きょうせんし)化は、陸上では長時間維持できませぬゆえ。皇帝陛下のお考えが最適かと…」


 「…はぁ、口惜しい。海上のように陸でも勇猛(ゆうもう)に戦えれば…」


 「…それは無理にございます…」


 「…本当につまらん男だな。お主は、ロマンがないのだ。ロマンがな…」


 再び、アゼスヴィクラム暦735年11月25日(光7日)午後18時のフォルテア王国に舞台を戻す。


 ロランとリプシフターは王宮の『謁見の間』にいた。


 この日はリプシフターが新設された"河川警備隊"の初代隊長を任命される日だったからである。


 三国同盟を宣言してからわずか3時間後であるが、国王であるレスターは疲れをみせず玉座(ぎょくざ)から立ち上がると多くの貴族が見守る中、リプシフターを足元に呼び寄せた。


 「…リプシフターよ。お主を新設する『河川警備隊』隊長に任命する。とともにフォルテア王国二等勲章を授与し『ナイト・コマンダー<騎士司令官>』として騎士爵を授ける…」


 「…なお、これまでの貴君(きくん)と一族の貢献に対する褒美(ほうび)としてリプシフターに10エルリング硬貨2枚(日本円で2千万円)を授与し、Gill Human(ギルヒューマン)をフォルテア王国1等市民に格上げとする。これからも王国のために貢献してくれ。リプシフターよ…」


 「…このリプシフター。謹んで頂戴いたします…」


 その後、国王であるレスターはリプシフターの首にフォルテア王国二等勲章をかけるのだった。


 リプシフターは(こうべ)を垂れた姿勢で後ずさりしたのち、首をロランの方に向けると左手の親指を立て満面の笑みを見せた。


 ロランは右手を(ひたい)にあてため息をつきながらも、左手の親指を立てリプシフターに満面の笑みを返すのだった。


 邸へ向かう馬車の中でロランとリプシフターは久しぶりに語り合った。


 「…ロラン様、ありがとうございます。2ヶ月以上ホワイトヴィル湖で潜水艦の監視だけをしていたので暇で、暇で…」


 リプシフターは授与式の興奮が冷めていないためか不適切な発言をしてしまった。


 「…リプシフター、これでツュマに続き2人目のナイト・コマンダーとなったわけだが潜水艦の監視はそんなに暇かな?…」


 「…失言(しつげん)です。ロラン様、日々慎ましやか(つつましやか)に過ごしております…」


 「…リプシフターここからが本題だけど、王都を流れるセレネー川とエポーナ川<本流>の密輸警備に何人まわすことが出来る…」


 「…そうですね。潜水艦の監視は240名いれば十分ですので360名はまわせるかと。しかし、宜しいのですか…」


 「…密輸にはバロア商会の会頭であるニコラス・ブルナーも絡んで(からんで)いると思いますが、それに我らLVSISのメンバーはバロア商会が所有する私設諜報部隊の諜報員より様々な情報を提供してもらっています…」


 「…はぁ、そういうことか。では、バロア商会以外の密輸を監視してほしい。(みな)まで言わないでくれ。リプシフターの言いたい事は分かっているから…」


 「…ロラン様は何か考え違いをしておられる。私や(いま)御者(ぎょしゃ)をしているエクロプス、ルディスやオムにアリーチェ様は、王国のためでなく奴隷オークションという『闇の底』から救いだしていただいたロラン様に命を|捧げているのですから…」


 「…我らを突き動かす原動力は正義感なんてものではありません。命を救ってくれた恩人であり、蔑みの対象であった2等市民の地位から救い上げてくださったロラン様の御恩(おんけい)報いたい(むくいたい)。ただその思いだけが原動力なのです…」


 「…リプシフター、Gill Humanを1等市民に格上げしたのはレスター国王だよ…」


 「…表面上はそうです。しかし、ロラン様がツュマ副リーダーの時と同様、宰相であるワグナー氏に根回しをしてくれた事や"1等市民だ2等市民といった差別そのもの"を法を改正し無くそうとしている事も知っております…」


 「…それに、国王の先祖が階級制度を作っておきながら、"1等市民に格上げしたぞ"と言われて、ありがたがる方がどうかしています。私は、ロラン様が私やGill Humanの将来を考えて下さり保障となる地位を与えるよう奮闘(ふんとう)してくださった事が嬉しいのです…」


 「…エクロプスも私と同じだろ。エクロプス、聞こえているだろ!…」

 

 リプシフターに賛同を求められたエクロプスも話に参加した。


 「…リプシフターの言う通りです。ロラン様、我らundergrouder(アンダーグランダ―)は一般的には存在しない者とされてきました。しかし、我らは王都の市民として溶け込み、ノーマルな『人族』として生まれた時より1等市民でしたが一族の誇りは失われておりましたから…」


 「…(みな)、この話はもうよそう。リプシフター、魚雷と潜水艦救難艇が完成するまでは、またホワイトヴィル湖に行ってもらう。ただし今後は月の半分は王都に戻って来れるようにする。あと、アガード領と王都の行き来に飛行船を使用することを許可するから、そうすれば1日で行き来できるよ…」


 「…さっすがロラン様。私が女性だったら『い・ち・こ・ろ』ですよ!『い・ち・こ・ろ』…」


 ロランは『リプシフターはこんな性格だったかな』と思いながらリプシフターとの会話を楽しむのだった。


 既に、ロランはピロメラをエルドーラ山脈から、クロスと今御者をしているエクロプスを上下水道設置と反応槽(はんのうそう)建設が完了したことからアガード領より帰還させ、同じくツュマも諜報活動を一旦中止させてアガード領から帰還させており、邸には全員が揃って(そろって)いた。


 邸に着くとロランは、リビングの中央に皆を呼び、ツュマとリプシフターを前に出させて、皆の方に振り向かった。


 「…皆、今日リプシフターに河川警備隊の隊長としてナイト・コマンダー<騎士司令官>の騎士爵が与えられた…」


 「…ツュマは既に山岳警備隊の隊長としてナイト・コマンダー<騎士司令官>を受領しているが祝賀会を行っていなかったので、今日は2人が騎士爵を与えられた事を盛大に祝ってほしい…」


「「「「「…リプさんおめでとう!ツュマさんおめでとう!…」」」」」


 このあと、リプシフターが酔ってロランの頭を叩くなどの失態があったが、祝賀会は盛大に盛り上がり、日頃のストレスを発散するのだった。


 ロランは皆の楽しむ姿を見て、ずっと皆と一緒に居続けたい願いと強く思うのだった。


 既に完成された強さを持つ"ルミール、バルトス、マルコ、クロス、フェネク、アルジュ、ポルトン、ランド、ピロメラ"に頼るのは戦略的に止むを得ない場合としよう。


 自分自身と『LVSIS(ルブシス)RedMist(レッドミスト)』メンバーの能力の底上げ<ボトムアップ>が必要だと強く思い始めるのだった。


 特に、この世界で最高の諜報機関(ちょうほうきかん)と言われるトロイト連邦共和国情報保安局(ほあんきょく)<Troit Federal Republic Information Security Service>、通称『TFRISS<トフリス>』が保有するとされる。


 自分達の位置を特定させない等の『特殊な魔法』を使用する人族。


 オム・マーラの千里眼には遠く及ばないが、通常の人族の30倍の視力を持つ"ハイパーヴィジョン"達で構成された狙撃工作(そげきこうさく)部隊やマインドコントロールに特化した洗脳工作(せんのうこうさく)部隊といった特殊なスキルを持った人族。


 人族の嗅覚の100万倍から1億倍であり、聴覚は人族の4倍で人族には聞こえない3万ヘルツ以上の高音を聞き取ることができる『犬の獣人達』で構成される諜報工作(ちょうほうこうさく)部隊。


 ロランはトロイト連邦共和国情報保安局の部隊を参考に、LVSISとRed Mist部隊の個々の能力を底上げし、メッサッリア共和国が開発保有している『大量破壊兵器』の使用を阻止(そし)させようと考えていた。


 この世界でも鉱山からウランを採掘することができたからである。


 一週間後、レスター国王に対しクリシュナ帝国皇帝である"ルドラ・クリシュナ"から大量の青い薔薇(バラ)が三国同盟結成の祝いとして贈られきた。


 この世界でも自然界には青い薔薇は存在しない。


 全品種の薔薇が『青い色素』を持っていなからである。


 青いバラの存在。


 つまりは、青い色素を持つ別の花の遺伝子を薔薇の遺伝子に組み込んで作ったということを示し、高度な遺伝子組み換え技術を保有していることを意味していた。


 ロランは、クリシュナ帝国皇帝である"ルドラ・クリシュナ"が魔法を使用した遺伝子操作により、身体能力を強化し特殊な魔法を使用できる獣人を誕生させ、強化した獣人達による軍隊を所有していることを伝えてきたのだと確信した。


 この時、ロランはルディスがこの件と深くかかわっている事を知る由もなかったのである。

次回は・・・『58話 紫苑の空と六つの翼と ~ 『竜現体』覚醒 ~ 』です。

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