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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第1部 第4章 3国同盟・アヴニール国家連合 結成 編
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55話 権謀術数の舞踏晩餐会(2) ~王宮中央棟『星の涙』回廊と理力眼の覚醒 編~

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 舞踏晩餐会(ぶとうばんさんかい)の当日、ロランは、この日のためにあつらえたホワイトのシャツにワインレッドのチョーカースカーフを着用し、ブラックのシックな燕尾服(えんびふく)に磨き上げた革靴を履くと、かなり早いがエミリアが待つリックストン邸に向かため1階へと降りていった。


 「…バルトス、留守中、邸の事を頼んだよ…」

 「…承知いたしました…」


 ロランはバルトスに留守中を頼み正面扉を開けると、後方からアリーチェ、ルミール、アルジュに見送られた。


 「ロラン様!…」、「龍神様!…」、「ダーリン!…」

 

 「「「…私達をおいて楽しんできてください…」」」


 背中に冷たい視線を感じながら、ロランは早々に馬車に乗り込みリックストン邸に向かった。


 そんなロランであるが、既にエミールを警護するため万全の体制を構築していた。


 オム・マーラには、千里眼(せんりがん)の能力で王宮を監視させ、不審者または襲撃者を発見した場合はマルコの使い魔である『黒猫』を使用しテレパス送信させ、フェネクにはミネルバが不審者や襲撃者を高所から狙撃できるよう、飛行船の操縦を指示していた。


 加えて、ルディスに御者(ぎょうしゃ)を行せジェルドを同行させることで、仮に襲撃があった際、オム・マーラの千里眼で襲撃者を追跡させジェルドとルディスが襲撃者を鎮圧(ちんあつ)する体制を構築した。


 王宮に向かう馬車の中でジェルドがロランに舞踏晩餐会について話しかけてきた。


 「…ロラン様、今晩の舞踏晩餐会にはトロイト連邦共和国のアガルドが出席するとお聞きしましたが本当でしょうか…」


 「…ジェルドはアガルド最高評議会議長の事を知っているの…」


 「…ええ、20年前に一度、私がプロストライン帝国の将軍であったころ、戦場で相まみ(あいまみ)えた事がございます…」


 「…で、戦った感想は…」


 「…波のような男だと、戦場で臨機応変に戦術をたて、隙を見せれば必ずその隙をついてくる老練な名将であると存じます…」


 『…トロイト連邦共和国の最高評議会議長にして、国の英雄と言うわけか…』


 リックストン邸に着くと、ロランはエミリアを迎え行き扉が開く。


 扉の向こう側からは、オフショルダーで所々(ところどころ)金の刺繍(ししゅう)が施されたホワイトの生地に、華やかなレースのフリルがついたエレガントなドレス姿のエミリアが現れた。


 「…ロラン、どうですか、似合いますか…」

 「…うぅん、とても似合ってるよ、エミリア…」


 ロランは満足げなエミリアをエスコートし馬車に乗せると、既にジェルドはおらずエミリアと2人きりになる。


 ジェルドが気を利かせ(きをきかせ)、ルディスのいる御者台へと移動していたからであった。


 ロランはエミリアに使い魔を影に潜ませる許可を求めた。


 「…エミリア、ちょっといいかな。僕がいないとろで万一襲撃を受けた場合、エミリアを守らせるよう今日だけエミリアの影に使い魔を潜ま(ひそま)せておきたいんだけど。(いや)かな…」

 

 「…そんな事ないですよ。ロラン、今日だけなら許します…」

 

 エミリアの許可を得たロランはクロスから数体受け取っていた『影に潜む使い魔』をエミリアの影に潜ませる。


 舞踏晩餐会が開始される時刻の2時間前であったが、ロランとエミリアは王宮に着くと中央棟の正面扉を通り『星の涙回廊』の舞踏を観ながら会食を行う『(うたげ)の間』に向かうため、階段を登っていった。


 2人が『宴の間』に到着すると、既にU字型のテーブルが大小設置され、さらにそのテーブルの周りには歓談かんだんできるよう白いテーブルクロスのかかった円卓が複数用意されていた。


 ロランは大きいU字型のテーブル上に自分のネームプレートが置かれていることに気づくとプレートが置かれた席にエミリアと共に座る。


 目の前の大きいU字型テーブルの中央には、国王であるレスターとクリスティーナ王妃、国王の右手側にはメッサッリア共和国ジグムンド大統領とファーストレディーが、左手側にはトロイト連邦共和国最高評議会議長であるアガルドと夫人が着座するようセッティングされていた。


  暫くすると国王であるレスターが威厳(いげん)のある声で舞踏晩餐会の開始を告げる。


 「…本日は我がフォルテア王国にお越しいただき誠に嬉しい限りです。同盟国の元首の方々を紹介します。こちらがメッサッリア共和国大統領 ジグムンド・シュミッツ殿、その隣は奥方(おくがた)のアビゲイル殿です…」


 「…一方、こちらはジグムンド大統領の旧知の友であるトロイト連邦共和国 最高評議会議長 アガルド・ジャコメッティ殿と奥方のビビアナ殿です…」


 「…今宵(こよい)は我が王国とメッサッリア共和国が同盟を結び、初勝利となった『ホワイトヴィル湖』南岸進攻の祝賀会であります。(みな)、心ゆくまで祝賀会を楽しんでいただきたい。では、同盟に乾杯…」


 「「「「「…同盟に乾杯…」」」」」


 ロランはブドウのジュースであったが、16歳で成人と認められたエミリアはワインを口に運んでいた。


 厳か(おごそか)ではあるが軽快な音楽が演奏され始めると、『星の涙 回廊(かいろう)』では、この日のために選抜された者達が優雅(ゆうが)にダンスを行い始めた。


 『星の涙 回廊』は、天井と壁の上部に美しい天使の姿が描かれ、柱の前には純金製の天使像が設置され、アーチ状の天井からは多くのシャンデリアが吊るされた豪華な作りであった。

 

 その多くのシャンデリアの光が透明度の高い窓ガラスと純金製の天使像に反射し回廊全体を幻想的な空間へと作り上げていた。


 ロランとエミリアが座るU字型のテーブル席の中央には、エミリアの父で公爵である『ラッセル・フォン・リックストン・ツーキャンベル』と奥方(おくがた)の『シェリル』、なぜかエミリアの妹の『スティファニー』が座った。


 リックストン公爵家の左手側には、内務大臣である『アーサー・フォン・トーニエ=スティワート』公爵と奥方である『カレン』、さらに娘の『アリス』が座り。


 トーニエ=スティワート公爵家の左手側には、トロイト連邦共和国 最高評議会副議長の『ブラウリオ・ロドリゲス』と奥方の『テレサ』が座り、奥方の左手側に幹部達が座った。


 一方、リックストン公爵家の右手側には公爵に陞爵(しょうしゃく)したばかりの宰相である『エステべス・フォン・ワグナー・ツー・リベリック』とその隣に奥方である『サーシャ』が座り。


 サーシァの右隣りにはロランとその右隣にエミリアが座った。


 エミリアの右隣にはメッサッリア共和国の国防大臣である『アルベルト・スペンサー』とその右隣には恋人である国務大臣の『チェルシー・ミラー』が座り。


 チェルシー・ミラー国務大臣の右手側にはメッサッリア共和国の幹部達が座るのだった。


 ロランは『理力眼(りりょくがん)』で出席者を見ていくと、トロイト連邦共和国の幹部達およびメッサッリア共和国の幹部達の多くが諜報部員(ちょうほうぶいん)であり、『握手をした相手に気付かれずに使い魔を送り込める能力者』や『汗の香を嗅いだ相手を瞬時に洗脳できる能力者』、『瞳があった相手の心を操作し情報を引き出す能力者』や『言葉をかけた相手を自分に夢中にさせるハニートラップの能力者』など多種多様な能力者が揃っていた(そろっていた)

 

 『…何の条約も締結していないトロイト連邦共和国は当然のことであるが、同盟国であっても諜報部員を送り込もみ情報を収集しようとする姿勢が正しいあり方だというのに。…我が王国の方々は純粋に舞踏晩餐会を楽しむだけとは…』


 ロランは呆れた気持ちを抑えつつ、『理力眼』の新しい能力を使用し諜報部員達からスキルを取得すると全ての諜報部員から特殊スキルを消し去るのだった。


 その後、ロランはフェネクからテレパスで、ミネルバが舞踏晩餐会(ぶとうばんさんかい)を襲撃しようとした者達20名に対し致命傷を与えない程度に狙撃(そげき)したとの報告を受けた際、アガルドの冷たい視線を感じた。


 『…右手で握手し、剣を持った左手で相手を突き刺しにくるとは、アガルド議長も随分老練(ろうれん)な手を使う…』


 すると、ロランの異変に気付いたエミリアが話しかけてきた。


 「…ロラン、どうしたのさっきから出席者の方を順に観ていったりして…」


 「…いや、国が変ると服装や代表として参加される方の肩書(かたがき)も違うものだなと思って…」


 「…嘘ついてもダメです。やり過ぎないで下さいね。外交問題になりますから…」


 「…エミリアの言う通りにするよ…」

 

 ロランとエミリアが話しているとアルベルトが近づいてきて、紹介したい方がいるから後方の円卓(えんたく)に来るよう要請された。


 「…ロラン殿、エミリア殿、こちらが我がメッサッリア共和国大統領ジグムンド・シュミッツとファーストレディのアビゲイル・シュミッツ様です…」


 「…そして、こちらが我がジグムンド大統領と腐れ縁(くされえん)で結ばれ、我が戦略の先生であるトロイト連邦共和国アガルド・ジャコメッティ最高評議会議長と奥方のビビアナ・ジャコメッティ様です…」


 ロランとエミリアも皆に挨拶を済ませると一行が座るテーブルの席に座った。


 すると、メッサッリア共和国大統領ジグムンド・シュミッツが語り始めた。


 「…堅苦しい挨拶は不要と申したのに律儀な(りちぎな)者よの。我が国の英雄であるアルベルトが『べた褒めするロラン』をこの目で見たくな。同じくお主に興味があるアガルドを誘って観に来たというわけだ…なかなか、どうしていい面構え(つらがまえ)をしている…」

 

 トロイト連邦共和国最高評議会議長であるアガルド・ジャコメッティが皮肉交じりに話を始める。


 「…これ、ジグムンドよ。お主とは失礼であろう。ロラン殿、つい先ほどは我が手の者(わがてのもの)を優しく迎えて頂いて感謝いたします…」


 ロランも負けじと皮肉を込めて返礼する。


 「…アガルド様、今宵(こよい)は祝賀会です。この場で真紅がふさわしいのはワインと絨毯(じゅうたん)だけかと思いまして、我が手の者が優しく忠告させていただきました…」


 「…よく、いいおるわ。若い頃のジグムンドを思い出す。特に無礼な所がそっくりだ…」


 「やめんか、アガルド。ロランにしてやられたのだろう。ロランを甘く見たお主が悪いわ…」


 「これでようかろう。我らにはこのロランの力が必要だという事を…」


 「…よかろう…」


 「…では、ロラン殿、いづれロラン殿の妻となられるエミリア殿にも聞いてもらいたい。今宵トロイト連邦共和国最高評議会議長のアガルド殿にお越し頂いた理由はただ一つ、三国同盟を結成するためである…」


 ロランは驚いた振りをした。


 フォルテア王国とメッサッリア共和国、トロイト連邦共和国による三国同盟の方が世界の安定には好ましいと考えており、ジグムンド・シュミッツが三国同盟を主導しても問題と思ったからであった。


 「…ロラン殿が驚くのも仕方がない…クリシュナ帝国は三国同盟を締結する条件として、我がメッサッリア共和国とフォルテア王国に対し『マルテーレ海』へと通ずる国土が失われたため、代わりに『マルテーレ海』とクリシュナ帝国の間にある『ケトム王国』領土への軍事侵攻に参加するよう要請してきた…」


 「…ホワイトヴィル湖の南岸領域は我がメッサッリア共和国の領土であり、実効支配していたクリシュナ帝国から奪還するための軍事侵攻であり『大儀(たいぎ)』がある。しかし、ケトム王国への軍事侵攻は単なる侵略でありそこに『大儀』はない。それゆえ我が国は協力したくない…」


 「…そこで、クリシュナ帝国ではなく、先にトロイト連邦共和国に参加いただき3国同盟を結成し、トロイト連邦共和国の北西に位置する『パルム公国』にもこの同盟に参加いただき勢力を拡大し、クリシュナ帝国、リンデンス帝国にプレッシャーをかける…」


 「…そのプレッシャーを以ってクリシュナ帝国とリンデンス帝国を同盟に参加させ、『エランディア大陸』および『ガリア大陸』をまたがる巨大国家連合として『アヴニール国家連合』を設立し紛争を終結させる。その(いしずえ)となる3国同盟の条約締結を行いにアガルドにお越しいただいたというわけだ…」


 ジグムンドは『アヴニール国家連合』という巨大国家連合設立への壮大な戦略を説明し終わると妻に女性陣を別のテーブルに移動させるよう要請した。


 「…それでは、女性達は女性達で話を進めてくれるかな…アビゲイルお嬢様達を頼む…」

 「…はい、あなた…」


 ジグムンド大統領の妻であるアビゲイルが女性陣を別の円卓(えんたく)へと移動し終わるとジグムンドは何らかの魔力障壁を展開し徐に(おもむろに)話し出した。


 「…では、ここからは各々が国家の代表ではなく、ロラン君の友人として話をしよう…」


 「…それはどういう意味ですか。ジグムンド大統領?…」


 「…いいかね、ロラン君。ここにいる私、アガルド、アルベルトは皆、君と同じ『転生者』なんだよ…」

 

 ロランは『…僕は正確には転生者ではなく転移者なんだが…』と思いつつ話を聞く。


 「…だからね、何かつらい事があったら我々に直ぐに相談するように、王国が嫌になったらすぐメッサッリアに来て構い(かまわない)。それを伝えたくてね…」


 「…ふん、そういう事だ。だが、我らは皆、今では自国の民の命を背負っている。いざとなったら、当然そちらを優先する。あまりジグムンドを信用しない事だ。さて、我々からの話はこれで終わりだ…」


 「…エミリアだったかな。迎えに行ってあげたまえ。ではジグムンド、アルベルト(うたげ)が終わったら仕上げといこうか…では失礼するよ…ロラン殿…」


 ロランは自分よりも壮大な構想を練り上げているジグムンドとアガルドに魅力を感じると共に危険人物だとも感じた。


 『…確かにアリーチェの予知でも3国同盟が結成されれば紛争が次第に治まるという内容だったが国名は言ってなかった…』


 『…僕はこの世界に『転生者』がいることを見落としていた。転生者がいれば自分と同じような考えをするのは当たり前なのに。もっと『力』だけに頼らず情報収集力を高め、信頼できる仲間を増やしていかないといけない。そうしないといつかジグムンド、アガルドに痛い目にあわされる…』


 ロランは決意を新たにしつつ、2回り以上年の離れた()()()()()から根掘り葉掘り質問されているであろうエミリアの元へと向かった。


 ちょうどエミリアの席に着いた時、後方からジグムンドが大声で皆をダンスに誘うのだった。


 「…皆、見ているだけでは物足りないであろう。我らもダンスを楽しもうではないか…」


 『この人はなぜか憎めない人だなぁ』と思っているとエミリアが突然声をかけてきた。


 「…ロラン様、今夜だけは何も考えず他の誰でもない私だけを見つめていてください…」

 

 ロランは自分の事を一心(いっしん)に見つめるエミリアをとても愛おしく(いとおしく)思いダンスに誘う。

 

 「…エミリア、僕とダンスをしていただけますか…」

 「…はい、喜んで…」


 ロランとエミリアはシャンデリアの光が窓ガラスと柱の純金の天使像に反射され幻想的な空間となった『星の涙 回廊』で、ゆっくりとした流れの曲に合わせ、音楽に溶け込むようにワルツを踊るのであった。

次回は・・・『56話 閑話 リプシフター ~ 湖中の水虎 ~』です。


2018/09/08 タイトルを変更しました



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