54話 権謀術数の舞踏晩餐会(1) ~ 王宮中央棟『星の涙』回廊と理力眼の覚醒 編~
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
クリシュナ帝国ホワイトヴィル湖南岸領域制圧から2日後のアゼスヴィクラム暦735年10月27日(光6日=土曜日)午後5時、ロラン、ポル爺、ワーグと配下のドワーフ1,500人は王都に帰還した。
ロランはワーグを鍛冶工房で降ろすと、自らも御者台から降り、再度ワーグとドワーフ1,500人に感謝の言葉を述べ労を労った。
その後、ロランは複数の魔法袋にドワーフ達が乗っていた馬車250台を格納するとリルヴァの眷属である魔法馬500頭の召喚を解き、ポル爺と共に邸へ向かう。
邸に着き、ポル爺と共に邸の正面扉を開けると皆が出迎えてくれるのだった。
右手には"ルミール、アリーチェ、ジェルド、オム、ミネルバ、ルディス、レラ、イメル、モシリ、トイ"が右手を胸にあて、少しだけ首を傾げて整列し。
左手には"バルトス、マルコ、フェネク、アルジュ、ロベルト"が左手を斜め下に出し、ロラン達をエスコートするように整列していた。
「「「「「「…おかえりなさいませ、ロラン様…」」」」」
「「…ポルトンさんもおかえりなさいませ…」」
皆は盛大に、そして満面の笑みでロラン達を迎い入れる。
そんな中、ポル爺は白く長い顎髭を何度もさわり、少しばかりすねるのだった。
「…ホルホル、わしにはルミールとアリーチェしか声をかけてくれんの…」
ロランは皆と共にリビングに移動し、ソファーに座らせてリラックスさせると感謝の言葉を述べていく。
「…皆、本当にありがとう。邸を離れてみてあらためて皆が僕の家族だってこととここが僕の居場所なんだって実感したよ…」
皆はロランの言葉に胸をあつくし、涙ぐむ者までいた。
「…ルミール、バルトス、マルコ、フェネク、アルジュ。気象予測と気象操作、王都における老人施設等やアガード領における防護壁の建設指揮、遊撃と情報撹乱の任務がありながらクリシュナ帝国への侵攻に参加してくれてありがとう…」
続いてロランはこの場にいない者の任務状況を皆に知らせる。
「…クロスには、アガード領の上空でゴンドラか降下させ、エクロプスと共に上下水道整備工事と反応槽の建設指揮を行ってもらっている…」
「…ツュマには、アガード領でリプシフターと共に諜報活動を継続してもらっている…」
「…リプシフターからは一族2,400人をホワイトヴィル湖に定住させたいという要望を受けたので定住してもらい。諜報活動が行える600人を指揮しメッサッリアの潜水艦を監視してもらうことにした…」
「…ポル爺はこの通り僕と一緒に帰還しています。ポル爺には明日より庭園作業に復帰してもらいます。ルディス、ポル爺をサポートしてあげてくれ…」
「…はっ…」
「…ランドはアガード領の上下水道整備工事の任を解き王都に帰還させ十分休養させてから、再び鉱山開発に戻ってもらう予定にしている…」
「…ピロメラについては、アペキシテ一族と共にエルドーラ山脈でクリシュナ帝国の監視を行ってもらっていたが帰還指示を出し、変わりにフェネクの使い魔である『ペルーダ』により24時間体制で上空から監視を行う事にする。フェネク頼んだよ…」
「御意のままに…」
「…エクロプスの家族と同族は既に邸の地下5kmの地点で生活を行っているとの事なのでUndergrounderを見ても攻撃しないように…」
「「「「「「…はっ…」」」」」」
「…最後にジェルド、明日は、ワグナー宰相の邸に向かい、メッサッリア共和国に大使館を建設する件やリプシフターの一族が安心して暮らせるよう『河川警備隊』の新設を嘆願しにいくので、早朝宰相府に使者を送ってほしい…」
「…承知いたしました…」
その後、皆との団欒を十分に楽しんだロランは皆を解散させるとソファーに横になり目を瞑り今回の進行の意味を考えるのだった。
『…メッサッリア共和国とクリシュナ帝国は、王国に対し軍事侵攻を企てた国だ。2度とそんな企てを起こさないよう両国に対して『釘を刺す』意味もあり、あえて今回の進行にスタイナー家の全勢力を引き連れて行ったが効果はあっただろうか…』
『…3国同盟が現実すれば、いづれこの同盟に『トロイト連邦共和国』や『パルム公国』、『リンデンス帝国』も加わっていき、国家間の紛争が治まる…』
『…未来における多くの命を救うためには…先ずメッサッリアとの強固な同盟を示す必要があった。それに今回の侵攻では誰1人ヴァルハラに旅立たせてはいない……』
自分を正当化しようとするロランであったが罪の呵責に苛まれながら眠りにつくのだった。
『…クリシュナ帝国の市民4,000の暮らしを破壊した。僕はこの罪を背負い続けなければならない。争いのない世界にするまでは…』
ソファーでそのまま寝てしまったロランを誰かが激しく起こしにかかる。
「…ダーリン、ダーリンってば。両目から真紅の血が流れているよ…」
「…ちょっとジェルドいないの…誰かきて…」
ロランは寝ぼけながらアルジュに声をかける。
「…アル…ジュ…」
「…ダーリン、寝ぼけてないでおきて、目から真紅の血が流れている…」
ロランは左手を両方の目尻に持っていくと、涙にしては粘性が高い液体が流れていることが分かった。
ロランは目を開き、アルジュをはっきりと認識した瞬間、ヘッドマウントディスプレイを装着しているかのように目の前の空間に『誘惑のスキルを取得し、保持者の"誘惑のスキル"を消去しました…』という文字が表示された。
アルジュはロランが申し訳なさそうな顔をしていたので『はっ』と思い、鑑定スキルを使用し自分の体を鑑定すると"誘惑のスキル"が消失していることに気づく。
「…ダーリン。もしかして私の『誘惑』のスキルを消去しましたか…」
「…ごめんアルジュ。なぜか『誘惑』のスキルを消去してしまった…」
「…ダーリン。責任とってくれますよね…」
「…今、『理力眼』で自分の体を調査して分かったんだが、今ままでは能力を取得するだけだったのに保持者のスキルを消去できるようになったらしい。けど、戻すことは今はできない…」
「…ダーリン。乙女の大事なものを奪ったのだから、私と結婚してくださいね…」
アルジュがロランに口づけをしようとした瞬間。
ルミールは輝く白い羽を複数硬質化させるとアルジュに向けて射出し、ロランとアルジュの距離を強制的に離すのだった。
「…龍神様、大丈夫でございますか。朝からダークエルフにお身を穢されそうになるとは…」
「…アルジュ。朝から龍神様を誘惑するなんてダ・イ・タ・ンね…」
「…怒っても無駄ですよ。私は既にダーリンに穢された身なので…」
アルジュの言葉を聞いたルミールは笑顔を崩さないまま激怒し、リビングを破壊し尽くした。
何とか修羅場を治めたロランは足早にワグナー邸に訪問する。
クリシュナ帝国が実行支配する『ホワイトヴィル湖』南岸領域に対する軍事侵攻に参加し、同盟を確固たるものとした今こそ同盟を締結する好機であり、リックストンに大使館の建設と同盟を締結させる交渉を進めるよう進言をする。
ロランは加えて河川警備隊を新設する事と水中警備に特化した一族で諜報に向いている600人を王国の河川警備隊として雇い入れて頂きたきたいと嘆願する。
宰相であるワグナーは、これまでの経験上、再びロランが『土下座』するに違いないと感じ、ロランからの進言を全て承諾するのだった。
ロランが異形異能の軍団を引き連れ進行してから、2ヶ月が経過した。
王宮『閣議の間』では、国王であるレスター、外務大臣であり公爵であるリックスストン、内務大臣であり公爵であるトーニエ=スティワート、宰相であるワグナー侯爵が揃い、同盟国となったメッサッリア共和国ジグモンド・シュミッツ大統領から送られた書簡の協議とロランの功績に対する褒美について話し合いを行っていた。
11月2日、ロランが宰相府の執務室に入室するとワグナーとリックストンに迎えられ、これまでの功績に対する褒美として何を希望するか尋ねられた。
2人は『…ロランは陞爵あるいは領地を希望するであろう…』と考えていたのだが、ロランは『名より実』のトンデモない希望を述べるのであった。
「…お言葉にあまえまして、『河川警備隊』の新設と水中監視に特化した者600人の採用、および『河川警備隊』と『山岳警備隊』は王国軍の指示命令系統の対象外である独立組織とする事…」
「…『河川警備隊』と『山岳警備隊』の最高指揮権である統帥権を含む全権を私と私の子孫達に与える事…」
「…加えて『河川警備隊』と『山岳警備隊』の年間給与として10エルリング硬貨600枚(日本円で60億円)を毎年王国から支給頂く事を希望いたします…」
ロランの希望を聞いた2人は『…スタイナー卿は王国を滅ぼす気なのかと…』かと困惑した。
アゼスヴィクラム暦735年11月10日、王宮で最上級の格式である『謁見の間』通称『太陽の間』にて、多くの貴族からの冷たい視線を浴びる中、レスター国王より褒美を与えられるのであった。
「…ロラン、此度の『ホワイトヴィル湖』南岸領域での勝利、ならびに王都における老人施設等の建設とアガード領における防護壁・上下水道建設の功績をたたえ、新設する『河川警備隊』と『山岳警備隊』の全権を『ロラン・フォン・スタイナー』とスタイナー家の子々孫々の当主』に永劫付与する…」
「…加えて『河川警備隊』と『山岳警備隊』に関する費用は毎年王国が負担することを褒美とする…ロランよ、異存なかろう…」
「…陛下よりの恩賞、『ロラン・フォン・スタイナー』慎んで頂戴いたします…」
『謁見の間』通称『太陽の間』を退室したロランはワグナーに呼び止められ、そのまま宰相府の執務室へと向かった。
宰相府の執務室に入室するとワグナー宰相は
「…スタイナー卿、2人きりなのでいつもの呼び方でよいかな…」
「…どうぞ…」
「…ロラン君のおかげで私は近く『公爵』に陞爵され、外務大臣であるリックストン公爵は領地拡大の褒美が与えられる事となっている…」
「…エステべス様、それはおめでとうございます…」
「…実はメッサッリア共和国ジグムンド・シュミッツ大統領より『ホワイトヴィル湖』南岸領域進攻の祝賀会を行い、両国の絆を一層深めたいので貴国でその宴を行ってくれないかとの書簡が届き、11月24日舞踏晩餐会を開くことが正式に決まった…」
「…また、ずいぶんと厚かましいですね…」
ワグナーはロランの厚かましいという言葉に同調しながら話を続けた。
「…さらに書簡には、自分の旧知の友であるトロイト連邦共和国 最高評議会議長アガルド・ジャコメッティ氏とその一行も同席し、必ずロラン・フォン・スタイナーを同席させてほしいと|記載されている…」
「……」
「…では、ロラン君 11月24日午後6時からの舞踏晩餐会、恋人をつれて出席するように…」
「…なぜ、恋人と…」
「…ジグムンド大統領より男性だけでは潤いがなく纏まる話も纏まらないので、妻と成人した子息か令嬢を伴うように要請されている…」
「…私はまだ成人ではないですが…」
「…先方のたっての希望なので特例なのだ。宜しく頼むぞ、ロラン君…」
「…エステべス様の頼みなら仕方ありませんね…」
王宮から帰宅したロランは、11月24日舞踏晩餐会に出席することをジェルドに伝えダンス経験があるジェルドとミネルバにダンスを見せてもらい『理力眼』の能力で習得していく。
1週間以上考え、自分がこの世界に転移した直後に切に願った「自分と一緒にいてくれる人が欲しい…」という想いを思い出し、ロランは宰相府の執務室でエミリアを誘うのであった。
「…エミリア少しいいかな…」
「…どうしたんですか、スタイナー卿、改まって…」
「…唐突だけど、僕が伯爵の爵位を剥奪され世界中の人から憎まれる存在になってもエミリアは一緒にいてくれるかな…」
エミリアは最初、ロランがふざけて質問をしているのかと考えたが、真剣なロランの瞳をみて自分を思いを口にする。
「…最初は何て生意気な少年と思いましたよ。けれどロラン様は常に何事にも真剣です。多くの人が幸せになれるように頑張っています…」
「…だから私は『ずっと』ロラン様の近くにおります…」
ロランは自分が想定している以上の言葉をエミリアが言ってくれた事に感動し身震いをした。
アリーチェとは違うが安らぎを感じる事ができる存在、予知とは関係なく運命的なものを実感し『舞踏晩餐会』にエミリアを誘うのであった。
ロランはエミリアを『舞踏晩餐会』に誘う3日前である光5日(金曜日)、アルジュを抱いてヘスティア商会の2階から飛び降り鍛冶工房へと走り去った時から、関係がギクシャクしていたソフィアに対しみそぎを済ましていた。
「…ソフィア、ソフィアの事は好きだけど、その好きは女性友達としての好きだったんだ…」
「…今まではっきり言い出せなくてごめんさい。どうか気が済むまで叩いてください…」
ロランはソフィアの事だから軽く胸をポカポカ叩かれるぐらいと思っていたのだが。
「…乙女の純情をないがしろにするなんて。…おたんこなすが…」
往復ビンタを頬に100発近く受けたのだった。
ロランの体は天竜の血を飲んだ事で鋼以上に頑丈になっているので、往復ビンタをして手を痛めたソフィアを治癒魔法で治療するという、精神的に堪えるみそぎを済ませていたのだ。
エミリアとの『舞踏晩餐会』で浮かれていたロランは、この『舞踏晩餐会』にて『エランディア大陸』と『ガリア大陸』に激震が走ることを知る由もなかったのである。
2018/09/10 アゼスヴィクラム暦の年を入れ忘れていたため加筆修正しています。
2019/03/01・・・貨幣の名称を変更