53話 異形異能なる軍団
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
メッサッリアの赤き剣との会談から一月が経過した本日未明。
ロランは、リルヴァの顔に赤黒く先が鋭い一角が付いた兜を被らせ、"首から胸前までの箇所"と"腰角・尻・臀の箇所"には、真紅のトライバルタトゥーに似た紋様を施した馬鎧を装着させた。
自身はというと、シールドが開閉でき形状が古代ローマ軍風の兜を被り、スタイナー家の紋章が入ったプレートアーマーと一角が付いた肩甲、真紅のトライバルタトゥーに似た紋様を施したアッパーカノン(上腕)にガントレット、グリーブ付きパウレイン(膝当て)とソールレット(鉄靴)を装着し、漆黒で統一した異形の甲冑で身を固めていた。
異形の装備を纏いしロランは、虹彩を真紅に染め、瞳孔を金色に輝かせながら、背後に異形なる軍団を引き連れ、クリシュナ帝国が実効支配するホワイトヴィル湖の南岸領域に姿を表した。
さらに、ロランの軍団の背後には、アルベルトとマシュー・オルコット統合軍司令率いるメッサッリア兵が続いている。
この日、ロラン率いる異形な軍団を見たにもかかわらず生還できた、ただ1人のクリシュナ兵は自らの日誌に、この時の光景を克明に記録するのだった。
"…赤黒い馬鎧を装着した馬に跨った、漆黒の異形なる甲冑に身を固めた男を先頭に、左右には巨大なハンマーを持った高さ12mの巨人が20体…"
"…その左側の先頭の巨人の肩には三叉の赤黒い槍を肩に担ぎケルベロスの頭を撫でている褐色の肌をしたダークエルフが腰掛け、右側の先頭の巨人の肩には金色に輝くハイエルフが神話の如く輝く鎧を身に纏い腰掛けていた…"
"…巨人達の後方には両刃の斧である『ラブリュス』を手に持ち2本の角が付いた甲冑を装着したドワーフが1,500人、左横には両手にダガーを持った狼の獣人が500人、右横には金色の弓を持つエルフが500人で構成された混合軍が横一列となって進軍し…"
"…さらにその後方には、狩人の姿で大きく黒き翼を持つ魔人と狼の顔をし大きく黒き翼を持つ魔人、天使の姿で大きく黒き翼を持つ魔人や全身を真紅の甲冑で固め大きく燃え盛る翼を持つ、4人の魔人に率いられた6万の魔人と魔物達が続いた…"
"…上空には7万7千7百体のドラゴンが空を覆いつくし、空中には人族が見えるように実体化した数十万体の『風と土』の精霊達が乱舞した…"
"…ハイエルフを乗せた巨人が通ると周囲の草木は生い茂り、ダークエルフを肩に乗せた巨人が通ると周囲の草木は枯れ果てた…"
"…生い茂る草木は後方の魔物と魔族の進軍で枯れ果て。異形の軍団の周囲の草木はまるで生き物のようにうごめく…"
"…不気味な音色を奏でながら妖艶な光を放ち進軍してくる軍団の姿は、さながら世紀末の光景を見ているかのようであった…"
朝の静寂を切り裂くが如く、ロランは戦闘の火蓋を切った。
ロランは「…全軍、致命傷を与えず敵を殲滅せよ…」と号令する。
ロランの号令に呼応し、巨人の族長であるティタニアス率いる巨人達が巨大なハンマーで建物ごとクリシュナ帝国の兵を叩き飛ばしていく。
巨人達が打ち損じた兵士達は、後方のワーグ率いるラブリュスを持ったドワーフ達とツュマ率いる獣化した狼の獣人により致命傷にならない傷を負わされ、クリシュナ本土に逃げようとした兵士達は金色の弓を持ったエルフ達によってアキレス腱を射抜かれ動きを止められた。
さらに後方の4人の魔人に率いられた6万体の魔人と魔物達は、魔族の鼓笛隊が奏でる不気味な音色に合わせ進軍した。
加えて、上空の7万7千7百体のドラゴンや空中を乱舞する数十万体の『風と土』の精霊達はただ進軍するだけであったが、クリシュナ兵達に強烈な恐怖を植え付けるのだった。
肝心のロランは最後尾に位置し、血と木造の建物が焼ける煙でむせ返るの中、虹彩を真紅に染め瞳孔を金色に輝かせ、湧き上がる恍惚感を抑えながら、治癒魔法の中で最上級である「スプレマシー・ヒール」を負傷した兵と巻き添えになった市民にかけ続け、傷一つ残らないまでに治癒していった。
体の傷は回復したものの、心に大きな恐怖を植え付けられた兵士と市民達をアルベルトとマシュー・オルコット統合軍司令が率いるメッサッリア兵が、手かせをつけ捕虜として魔導動力を使用した人員輸送車の中に回収していく。
約5時間の軍事侵攻により、ホワイトヴィル湖南岸領域を制圧したロランはシエルヴォルトを使用しドラゴン達を解散させると、4人の魔人に指示し6万体の魔人と魔物達の召喚を解かせた。
続いて、ロランはルミールとポル爺に指示し『風と土』の精霊達とエルフ達の召喚も解かせるのだった。
その後、ホワイトヴィル湖の東端から南の方角に垂直に伸ばしたラインを新たなメッサッリア共和国とクリシュナ帝国の国境とすべく、ティタニアス率いる巨人達とワーグ率いるドワーフ達、ツュマ率いる狼の獣人達と共に要所々々に防護壁を建造していく。
メッサッリアの兵達は防護壁の間に鉄条網を設置し、出来上がった防護壁の頂上に大砲を設置すると野営の準備に取り掛かった。
ロランは防護壁の完成後、巨人の族長であるティタニアスに他の巨人の召喚を解かせ、ティタニアスに感謝の言葉をかけると召喚を解くのだった。
続けて、ロランはシエルヴォルトを使用し1体のドラゴンを呼び寄せると"ルミールとアルジュ、バルトス、マルコ、クロス、フェネク"に労いの言葉をかけ、ドラゴンが持ち易いよう取っ手を付けた飛行船用のゴンドラに皆を搭乗させ、スタイナー邸まで運ばせた。
その後、ロランはツュマと獣化を解いた狼の獣人達の労をねぎらうとツュマにはアガード領に戻りリプシフターと共に諜報活動を継続するよう指示し、狼の獣人500人にはアペキシテ一族の居住地に戻るよう指示を出すのだった。
全ての指示を終えると、ロランはポル爺、ワーグとドワーフ達と共に野営の設営を行い休憩をとることにした。
しばらくすると、ロランとポル爺、ワーグがいるテントに、アルベルトとマシュー・オルコットが酒とつまみを持って入ってきた。
「…これほどの軍勢とは思いませんでしたな…」
「…昨日、メッサッリアの国境にロラン殿が数名の配下と共にドワーフ1,500人と屈強な狼の獣人500人を連れて参られた時も驚きましたが、今日はその比ではありません…」
マシュー・オルコットは上機嫌でロランに話しかけてきた。
マシュー・オルコット統合軍司令はその後、ポル爺とワーグの席にいき勝利の美酒に酔いしれ、盛り上がっているとアルベルトが話しかけてきた。
「…ロラン殿には今回の軍事侵攻は大変納得が行かない事だと思う。でも、どんな戦であれ戦に勝利したならば、その兵を率いし将たる者は誰よりも喜ばねばならない…」
「…自分の気持ちに関係なく。それが将たる者の務めです。でなければ命をかけて戦った兵士達の思いを無にすることになります…」
「…そういうものですか…」
「…そういうものです。それに今回は我々もクリシュナ側も誰一人ヴァルハラに旅立った者はいない。三国の同盟が成立し国同士の紛争が無くなれば、紛争により失われたであろう者達の命を救った事となります。今はそう考え束の間、勝利に酔いしれましょう…」
アルベルトの言葉は、幾多の戦場を駆け巡り戦功を積んできた叩き上げの男が持つ重みのある言葉だった。
ロランは、自分の行った事で、結果としてどれだけの人の命を守り救うことができたのか。
この日、一晩中悩み続けるのだった。
翌日、ロランは、馬車に三角帽子を被ったポル爺とワーグを乗せ、自らは御者台に乗るとドワーフ達が乗る250台の馬車と共に、クリシュナ帝国による反撃の対策をすべく王都への帰路につくのだった。
ロランは王都カントへの帰路の中で、これまでの成果を回想し今後行うべき事を整理していく。
ポルトンとマルコによるアガード領とホワイトヴィル湖間の60㎞に渡る防護壁の建設に関しては、幅1m・高さ11m・厚さ30cmの鉄筋コンクリート製のL字型の防護壁を土属性魔法の『底なし沼』で1mほど防護壁を地中に埋め込み。
さらに土属性魔法の『土竜』で防護壁に斜めに盛り土を行い、踏み固めた後、砂利を敷き詰め、石垣で固定する工法で15㎞ほど完成させる必要がある。
メッサッリアの赤き剣との会談後に、正式に相互不可侵条約と通商条約および軍事同盟が成立したからメッサッリア方面における防護壁は15kmで完了とし、クリシュナ方面は陸上および水上から進軍することが不可能となった事から、予定の3分の1の5kmであるが防護壁建設は完了としよう。
クロス、ランド、エクロプス、バイツによるアガード領の上下水道整備工事に関しては、地上にて配管とフランジ付き仕切弁をボルトとナットを使用し接合させることで水路管を構築し、土属性魔法の『底なし沼』で所定の深さに設置する工法で、7割ほど完成したからランドとバイツは王都に帰還させよう。
上水用の浄水場は建設が完了したから、エポーナ川上流から取水口で水を取り入れたのち、ゴミや砂を沈殿させ、浄化魔法が使用できる200名をシフト制とすることで、常時50人が浄化魔法をかけることができる体制とし、運用保守は商会かアガード領の市民に行ってもらおう。
下水に関しては、下水を一旦貯めておきゴミや砂を沈殿させる『沈砂池』が完成したので、あとは下水中の汚れを分解する『反応槽』の建設が完了すれば、処理した水をエポーナ川下流に流すことができるな。
バルトスとフェネク、ワーグによる、王都の『老人施設、孤児院、託児所、消防署、郵便所』の建設は、建物の基礎の立上りと底面は鉄筋を入れたコンクリート製のべた基礎にし、事前に作成した型枠の間にクンクリートを流し込むことで基礎と壁を作っていく工法で50施設が完成したが、まだ先は長いな。
魔道消防車も20台製造が完成し火事が発生した際に威力を発揮しているし、バスの代わりとしている大型馬車は9時から18時の間、30分に1本の間隔で運用を行い始めたから、先ずは良しとしよう。
クリシュナ帝国の反撃の備えとしては防護壁は完了したから、先ずは山岳警備隊の監視体制を強化し、2つ目としてはフェネクの使い魔の数を増加しシフトを組みながら使用することで上空から常に監視を行える体制を構築し、3つ目としてエルドーラ山脈の麓に鉄条網を設置すれば問題がないから、ピロメラには邸に戻ってもらおう。
万一の対策として、エルドーラ山脈の麓から西の方角に10kmの地点に広がる平地に、鉄筋を入れたコンクリート製の防護壁で囲った小型の砲台とメッサッリア製の大砲をセットにした砦を30箇所設置すれば対策は終了だ。
あとは、メッサッリア共和国の捕虜となったクリシュナの人達に対して、世帯ごとに生活を立て直す費用として10エルリング硬貨を2枚支給し、外務大臣であるリックストン公爵にクリシュナ帝国と同盟に至る条約を締結いただければ安定する。
ロランは、これまでの情報整理と今後の対策が纏まったあと、手綱を操作しながら、馬車の中にいるポル爺とワーグに労いの言葉をかけ続けるのだった。
次回は・・・『54話 権謀術数の舞踏晩餐会(1) ~王宮中央棟『星の涙』回廊と理力眼の新たな能力~』です。
2018/09/05 誤字・脱字・一部文章とタイトルの修正を行っております。
2018/09/07 権謀術数の舞踏晩餐会ですが文章が長くなり2話としたため、タイトルを修正しております。