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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第1部 第4章 3国同盟・アヴニール国家連合 結成 編
52/147

52話 メッサッリアの赤き剣と飛行船

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力(スキル)における名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 アゼスヴィクラム暦735年9月25日、フォルテア王国史上初となる"他国との相互不可侵(そうごふかしん)条約の締結、60kmに渡る防護壁(ぼうごへき)の建設と王国軍の創設並びにアガード領における上下水道整備"が正式に決定された日から3週間が経過していた。


 この日、ロランはエミリアとステフの父であり外務大臣である"ラッセル・フォン・リックストン・ツー・キャンベル"公爵と外務省の事務官5名を伴い、()()()()()()()()()|《・》が待つ、"平和の間"へと向かっていた。


 ロランは、メッサッリアの赤き(つるぎ)との会談に集中しなければいけない状況であったが、初めて通る西翼棟の通路の豪華(ごうか)さに気を削がれ(きをそがれ)ていた。


 『…宰相府(さいしょうふ)のある東翼棟の通路も美しいと思ったけど、西翼棟(にしよくとう)の通路は壁一面がくすみ一つないホワイトで統一され、柱は純金で、さらにアーチ状の通路の上には"純金製のグリフォンと王国の紋章が模られた装飾"が施され(ほどこされ)ているなんて豪華すぎるな…』


 ロランは西翼棟の豪華さに少なからず苛立ちを覚えながら歩いていると、ホワイトを基調とし純金の装飾が()()()()に施された『平和の間』の重厚な扉の前に到着した。


 ロラン達が到着すると扉の前に立っていた王宮の従者が、純金製のノッカーを数度叩き重厚な扉を開けるのだった。


 眼前(がんぜん)にはパールホワイトに統一された壁とカーテン、床一面にはワインレッドの絨毯(じゅうたん)が敷きつめられ、部屋の中央にはホワイトのテーブルクロスがかかった細長いテーブルをセットされ、テーブルの両側にはワインレッドのクラシックな椅子が数席セッティングされていた。


 また、左右の壁に飾られた大きな絵画が部屋の豪華さを引き上げ、天井からはロラン考案のライトを使用した大きなシャンデリアが複数吊るされており、まさに絢爛豪華(けんらんごうか)そのものといえる『平和の間』の光景が広がってきた。


 その絢爛豪華な空間の中においても、ひときわ()()()()強烈(きょうれつ)な存在感を示す赤い髪をした40代の男を見たとき、ロランはわずかではあるが寒気(さむけ)を感じるのだった。


 ロランはリックストン卿とともにテーブルの右側に移動すると、左側の着席していたメッサッリア代表の男性2人と5人の事務官が席を立ち挨拶をするのであった。


 「…お初にお目に掛かります。私はメッサッリア共和国で外務大臣を務めて(つとめて)おります"ダニエル・ウォーカー"と申します。以後お見知りおきを…」


 「…はじめまして、メッサッリア共和国で国防大臣をしております"アルベルト・スペンサー"です。以後お見知りおきを…」


 リックストンは、招待した側であり先に挨拶をされたことに、やや戸惑ったが無事挨拶を済ませると、ロランも続いて挨拶を行い、交互に握手を交わす(かわす)と席につき、交渉を始めた。


 リックストンが『相互不可侵条約』ならびに『通商条約』を締結し、可能であれば『軍事同盟』まで発展させていきたいと話を進めていく。


 ダニエルとアルベルトは、王国の公用語である()()()語で熱心に交渉を行うリックストンの話を理解しているようで、時に頷き(うなづき)、時に呆れた素振り(あきれたそぶり)をしながら、何も言わず聞き役(ききやく)に徹っするのだった。


 会談が終了に近づいた時、メッサッリアの赤き(つるぎ)と呼ばれるアルベルトが口を開いた。


 「…リックストン卿、メッサッリサ共和国は貴国(きこく)と『相互不可侵条約』ならびに『通商条約』を締結する事、さらに『軍事同盟』を結ぶ事になんら異存はない。ただし、これから言う2点を貴国に受け入れて頂くことが条件となる…」


 「…アルベルト殿、その2つの条件とは如何(いか)なる事でしょうか…」


 「…1つは、我がメッサッリサ共和国と貴国との間で領有問題となっているホワイトヴィル湖について"湖の面積が2等分となるライン"を両国の国境と成す(なす)ことに同意する事…」

 

 「…2つ目は貴国が我がメッサッリサ共和国の魔導大砲300門と魔導装甲車300両を購入することに同意する事。この2つの条件に同意いただければ、あらゆる条約を締結してよいと大統領であるジグムンド・シュミッツより全権を委任されております…」


 領有権の問題を条件に出されたためリックストンが返答を躊躇しているとメッサッリアの外務大臣であるダニエルが芝居がかって諫めに入った。


 「…アルベルト殿、そう事を急く(ことをせく)ものではありません。リックストン卿が困っているではないですか。交渉というものはお互い腹の中を探っていくことに醍醐味(だいごみ)があるのです…」


 「…これは失礼しました。ダニエル殿。どうも、私は腹の探り合いは苦手なものでして、この場は腹の探り合いが苦手な私とスタイナー卿だけで話し合うというのは…」


 「…アルベルト殿にも困ったものです。では交渉の専門家である私とリックストン卿は別室で協議を行う事といたしましょう。宜しいですかな?リックストン卿…」


 「…承知した。スタイナー卿この場はお任せする…」


 ダニエルとリックストンはそれぞれの事務官を伴い『平和の間』を後にした。


 ダニエルとアルベルトの策略により、2人きりとなったロランとアルベルトは率直な意見のやり取りを行うのであった。


 「…なかなかどうして、アルベルト国防大臣はお人が悪い。我がフォルテア王国と貴国がホワイトヴィル湖の面積を2等分するラインを両国の国境と決めた場合、ホワイトヴィル湖南岸領域の半分を実行支配し同じく湖の領有権を主張する『クリシュナ帝国』に対して、我が王国は貴国と共に宣戦布告(せんせんふこく)した事になってしまいますが…」


 「…そうですよ。スタイナー卿。我が国は近いうちにクリシュナ帝国に軍事侵攻しクリシュナが実行支配するホワイトヴィル湖南岸領域を奪還(だっかん)する予定です。貴殿にはその侵攻に加わって頂きたいのです。何せ、ロラン殿はドラゴンを使役(しえき)でき無敵ですからね…」


 「…では、僕をクリシュナ帝国の軍事侵攻に参加させるため、王国と同盟を結ぶと言うことですか…」


 「…その通り。(いくさ)とはただ勝利すればいいというものではない。味方(みかた)の損失をどれだけ抑える(おさえる)事ができるか、圧倒的に勝利し敵の心に恐怖を据え付け(うえつけ)、戦をしようとする気概(きがい)を根こそぎ刈り取る事が重要となってくる。それには、ロラン殿の『力』がかかせない…」


 「……」


 「…では、我が軍団をその軍事進攻に参加させ誰1人ヴァルハラに送る事なくホワイトヴィル湖南岸領域を制圧しますので、捕虜(ほりょ)となった人達を人道的に取り扱う事を約束して下さい…」


 「…加えて王国と共にプロストライン帝国とクリシュナ帝国の両国が領有権を主張している"グランツ高原"に関してはクリシュナ帝国に領有権があると宣言し、グランツ高原の守備をクリシュナ帝国と共同で実施する事を約束して頂きたい…」


 「…ロラン殿。その着地点は、三国同盟ですか…」


 「…そうです…」


 「…面白い事を考える。いいでしょう、約束致しましょう。この赤き剣の名誉にかけて。だが、私が言うのも何だが捕虜たちの憎悪(ぞうお)が『三国同盟』の足かせになりませんか…」


 「…アルベルト殿。捕虜になった方には、生活を立て直す費用として1世帯あたり10エルリング硬貨2枚をスタイナー家より提供いたします…」


 「…はっはっは。勝者が敗者に賠償金を支払うなど聞いたことがない。ロラン殿は変わり者だな…」


 「……」


 「…話が纏まったので私は帰路につく事にするが、決して私とダニエルの影の中に魔物を潜ませ(ひよませ)ないように…」


 「…アルベルト殿。どうしてその事を…」


 「…メッサッリア共和国 秘密情報部<Messarria Republic Secret Inteligence Service> MRSIS長官のゲーリー・ブライトマンより、ロラン殿に関する調査資料を頂いているものでね…」


 「…一つロラン殿に忠告しておきます。私達は一度交わされた(かわされた)条約は決して破らない。もし貴国が破ることがあれば、王国全土を焦土と化す(しょうどとかす)ことができる兵器を使用する。ロラン殿と貴殿が使役する者達には被害を与えることはできないかもしれないが…」


 「…我がメッサッリア共和国は()()()が非常に多い。封建制度を憎み同じ転生者であるロラン殿なら我が国を気にいって頂けると思いますよ…」


 アルベルトはそう言い残すと席を立ち、満足そうに『平和の間』を後にするのだった。


 単純な強さではワーグの弟子のバイツ程度であるが、この世界で最強の軍隊を組織した"メッサッリアの赤き(つるぎ)ことアルベルト・スペンサー"は、王国全体を人質にするというカードでロランに(くさび)を打ち込んだ冷徹なる戦略家であった。


 この1カ月後、ロランは異能の軍団を伴い、アルベルトと『マシュー・オルコット統合軍司令』率いる(ひきいる)メッサッリア兵と共に、クリシュナ帝国の『ホワイトヴィル湖』南岸領域に対し大規模な軍事進攻を行う事となる。


 この会談を遡ること18日前の9月7日、ロランはリビングにて前日に開催した商会連合会議の事を考えていた。

  

 『…王都における老人施設、孤児院、託児所、消防署、郵便所の建設、王国や他国への洗濯機の販売に関しては、商会連合に所属する全商会が等しく携わって(たずさわって)いくことで纏まった…』


 『…それに、ホワイトヴィル湖の目と鼻の先にあるアガード領の上下水道整備と防護壁(ぼうごへき)の建設も全商会が携わることで何とか纏まった…』


 アガード領はアレックスの父君であるジョルジュ伯爵が治める領地である。


 『…利益は少ないがバスの役割となる大型馬車の運行運営と消防車の製造は、武具でかなり儲けさせたメリクス商会の会頭である"フェリックス・ライシャワー"と、石鹸でかなり儲けさせたカティス・ブリアン商会の会頭である"ヨナス・キンケル"が引き受けてくれて安心した…』


 『…これで王都やワグナー宰相が治めるリベリック領のように上下水道が完備されている都市では、間違いなく爆発的に"トイレと洗濯機"が売れていくだろう…』


 ロランは、これまでの特許製品のライセンス料と"トイレと洗濯機"から得られるライセンス料を、アガード領に建設する防護壁や上下水道整備に掛る費用、アペキシテ一族で構成した『山岳警備隊』の給与と装備費用に充てようと考えていた。


 するとロランはジェルドとツュマに指示し皆を集合させるのだった。


 「…皆、忙しい所集まってもらってすまない。皆には、発生する可能性が高いメッサッリアによる王国への軍事進攻対策と、王都での"老人施設・孤児院・託児所・消防署・郵便所"の建設の指揮を行ってもらいたい…」


 「…そのため、今後2ヶ月間は班に分かれて行動してもらう。先ず、アガード領において"60㎞に渡る防護壁の建設とホワイトヴィル湖における潜水艦監視班"としてポルトン、マルコ、ツュマ、リプシフターを任命する。あと、ポルトンとマルコには各商会の業者の建設指揮も頼むよ…」


 「…ツュマとリプシフターは諜報活動とホワイトヴィル湖の潜水艦監視を頼む…」


 「…次に、アガード領の上下水道整備班として、クロス、ランド、エクロプスを任命する、親方に頼んで弟子のバイツ氏にも指揮を執ってもらう…」

 

 「…メインの業務は大通りに埋め込む(うめこむ)上下水道の主管設置と浄化設備の建設である…」


 「…上下水道配管は魔法鞄で運び、現地で接続した後、土属性魔法で土の中に沈ませていく工法とすれば、短期間で設置は可能のはずだから浄化設備の建設に力を入れて欲しい…」


 「…ルミールには、フォルテア王国及びメッサッリア共和国、クリシュナ帝国、プロストライン帝国、トロイト連邦共和国の気象予測をお願いする。有事の際はメッサッリア共和国の上空に積乱雲を発生させ落雷により進行を止めてもらうよ…」


 「…ピロメラには、形態変化で(つばめ)に戻ってもらいクリシュナ帝国の動向を監視してもらう。もしくは眷属(けんぞく)に行わせても問題はないが、有事の際は山岳警備隊を行っている狼の獣人であるアペキシテ一族を指揮し戦闘を行い時間稼ぎをして欲しい…」


 「…王都の"老人施設、孤児院、託児所、消防署、郵便所"の建設指揮と飛行船製造班としてはバルトスとフェネクを任命する。僕も宰相府の業務終了後、バルトスとフェネクを手伝う。あと、ワーグの親方にも手伝ってもらう事にする…」


 「…邸とアリーチェの警護班としては、ジェルド、オム・マーラ、ルディス、レラ、イメル、アペキシテ一族の居住地(きょじゅうち)にいるモシリ、トイ、それと1週間後に所在が判明すると予知されたロベルト・バイン・アンガスタを任命する。ジェルドが全ての指揮を執ってくれ…」


 「…ペスカトーレ・ダイム、有事の際、君には補給班として大規模な兵に食糧と水を供給する責任者に任命する。必要な料理器具や保水タンクといった備品と装置を纏めて(まとめて)後で報告して欲しい…」


 「…予知班にはアリーチェを任命する。宜しく頼むね…」


 「…最後にアルジュには遊撃班として、僕と共に行動を共にしてもらう…」


 「…ダーリン。それって他の誰でもなく私と長く一緒に居たいって事だよね…」


 「…アルジュ違うよ。各個人の能力を適正に判断したうえでの適材適所だよ…」


 「…ルミール様。アリーチェ様。ダーリンは、この私アルジュと居る時間が欲しいそうです…」


 「…アルジュさん、私が龍神様に召喚された後、見た目を私より2歳下の17歳に若返らしたけど、腹黒さは若返らないものね…」


 「…ルミール様も顕現(けんげん)する際、ダーリンの心の中に存在していたアリーチェ様を認識し、瞬時にアリーチェ様より4歳ほど若い19歳の姿で顕現しているくせに…」


 「…下品ね。ダークエルフは…」


 ルミールとアルジュのやり取りで一気に集中力が欠いてしまったロランであったが最後に工場と庭園の管理について指示を出した。


 「…バルトス、マルコ、クロス、フェネクは優秀な配下の者に工場の管理を代行させてくれ…」


 「…ポル爺もアガード領に行っている間、腕利きの弟子に邸の庭園を整備するよう指示して欲しい…」


 「…ホルホル。ロラン坊ちゃんにも困ったものですじゃ。ルディスがいるではないですか。ホルホル…」


 「…そうだった。ルディス、すまない。ポル爺がいない間は庭園の整備、ルディスにお願いするよ…」


 「…畏まり(かしこまり)ました…」


 「…では、早速、必要な資金と装備や日用品を魔法鞄に入れ出発して欲しい。くれぐれも無理はしないように…」


 そう言うとロランは皆を解散させた。


 その後、ロランは一人で飛行船工場に行き、ラン爺が天然ガスを水属性魔法により分子の運動エネルギーを抑える方法で‐162℃以下にし液化天然ガスとして保管しているタンクの弁を開け、液化天然ガスを別のタンクに移していった。


 ロランは、別のタンクに移した液化天然ガスを気化させて天然ガスとしたのち、混成分解魔法により天然ガスからヘリウムを抽出(ちゅうしゅつ)し『ヘリウム貯蔵専用タンク』に貯蔵していった。


 『…外気を溜めるパロネット(空気袋)を飛行船の竜骨(りゅうこつ)に組み入れ、厚手の布で作成したエンベロ―プを取付けた後にヘリウムガスを入れ、方向舵と昇降舵、ゴンドラを取り付ければ本体はほぼ完成だ…』


 『…あとは、ゴンドラ内部から魔道導線を使用し魔力を伝達させることで、方向舵と昇降舵、ゴンドラの左右に取り付けたプロペラの回転を制御できるようにし、非常時用のプラシュートを取付ければ完成だ…』


 ロランは作業を行いながら来るべき時に向け地道に対策をとるのであった。

次回は・・・『53話 異形異能なる軍団』です。


2018/09/04 誤字・脱字・タイトル名を修正しております。

2018/09/22 飛行船のヘリウムガスを溜める構造に間違いがあったため、飛行船の構造に関する文章を修正しております。


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