49話 閑話 ~密談と思惑~
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
ロランと『ツュマ一党』の捕獲メンバーがスタイナー邸を出発すると、ホワイトの生地にゴールドとレッドの刺繍がふんだんに散りばめれた、ハイネックラインでレース製シースルーのロングワンピースを着た『ルミール』がリビングから庭園テラスに出ていく。
庭園テラスには『ホワイトのパラソルに、丸いテーブル、テーブルを囲むように置かれた3つのクラシックな椅子』のセットが、5つほど整列され設置されている。『ルミール』はリビングから1番近い斜め左方向のセットに置かれている1つの椅子に座り、涼し気な眼差しで庭園を眺めている。
『ルミール』は輝く白い羽を消しているが、胸元まである『ふんわり』としたブロンドの髪とゴールドに近いブラウンの瞳、華奢で透き通るような白い肌は日の光が当たるだけで輝いて見えるほど存在感があり、周りを『やわらかな光』で包みこんでしまう絶世の美女である。
少しすると、ポルトンがルミールに近づいてきて
「ホルホル…その若さでこの庭園の素晴らしさを理解なされるとは、さすがは『光の守護者』たるハイエルフの姫ですな…ホルホル…」
「まあ、このような所で四大精霊であり大地を司る精霊であるノームの方に出会えるとは思ってもいませんでした…」
「ホルホル…今はロラン様から『ポルトン』という名前を頂いておりまして、『ポル爺』などと呼ばれております…」
「まあ、私は『ルミール・ウェヌス・アスタルティー』でございます…」
とルミールとポルトンがお互いに自己紹介を行ってると、メイド姿のピロメラが2人に紅茶を持ってくる。
「紅茶はいかがですか?」
「ホルホル…すまないのうピロメラ、ありがとう…」
「ありがとうございます…ちょうど良かった、ピロメラさんも席にお座りになって…」
「…では、失礼します…」
と言うと、ピロメラはルミールの左横の椅子に座った。
ピロメラは、髪は黒髪で肩まであるがレイアーが入っているため軽く『ふんわり』しており、力強く魅惑的な瞳と厚い下唇をしている、清楚な美女である。
「皆さん『リヒト』側のメンバーが集ったので、これからの会話は誰にも聞かれないよう…光の加護の防壁を展開します…」
『光の聖域』
とルミールが唱えると、3人を囲むように光の円柱が瞬間的に現れたかと思うと、直ぐに元の状態に戻った。
「これから私達が話す内容は『ドゥンケル』側の『バルトス』『マルコ』『クロス』『フェネク』『アルジュ』には聞こえないわ…」
「ホルホル…これはどういう事かな…ホルホル」
「ロラン様により召喚されし『リヒト』側のメンバーは私、『ポルトン』さん、『ピロメラ』さん、『ランド』さん、『リルヴァ』の4名と1馬です。一方、『ドゥンケル』側 のメンバーは5名であり、『リヒト』側の勢力は弱い状態にあると言えます…つまり…」
「つまり、ロラン様に『リヒト』側の召喚者をもう1名召喚して頂く必要があると…」
「…その通りです。さすが恩寵の精霊であるピロメラさんです。察しがいい…」
「ホルホル…しかし、坊っちゃんは儂らが言って聞くようなタイプではないぞ…ホルホル」
「今、ロラン様は龍神『天竜』の力も、『理力眼』の力も、『魔王』の力も、わずかに覚醒したに過ぎない状態です…ですが、あとたった100年で完全に覚醒してしまいます…それまでの間に『理力眼』の対となる『気精眼』の持ち主を探さなくてはなりません…」
「ホルホル…よく知っておりましたの…万物<陰陽>の原理である『理』と万物<陰陽>そのものである物質の『気』、『理気』そろいて万物を創成せり…それにロラン様の竜名である『ヴィータ・ドラクーン』とは『生命のドラゴン』という意味じゃから、その名の通り、命を創成・操作できるドラゴンである事を示しておるでの、我ら『リヒト』側で『気精眼』の持ち主を探し出し、100年後には雷魔法を創成した初代魔王ファストノヴァのように新たな魔法の創成が行え、ファストノヴァには無かった『生命や万物』をも創成できるほど巨大な力を持たれる、ロラン様を『リヒト』の総守護者に据えるという事かの…ホルホル」
「ロラン様は常に正義を求める『リヒト』側でいて、頂きたいのです。」
「…その『気精眼』の事は『ドゥンケル』側は知っているのでしょうかルミール様?」
「いいえ知らないと思います。『ドゥンケル』側は『理力眼』を魔王あるいは高位の魔族が持ちし物という認識しか持っていないはずですから…」
「ホルホル…わしは『アリーチェ・クロエ』が『気精眼』を持っていると思うがの…何せ『永遠』を持っているのだから…ホルホル」
「それはそれで問題です…『アリーチェ』はロラン様のお子を産めない体ですから…」
「…それは本当のことですか?ルミール様!」
「ピロメラ落ち着いて…本当の事だから…」
「ホルホル…まぁ、本当に『アリーチェ・クロエ』が『気精眼』を持っているとは限らんし、わしらで『ドゥンケル』側には知られずに『気精眼』の持ち主を探せばよいという事かの…ホルホル」
「『ポルトン』さん、『ピロメラ』さん宜しくお願い致します。この事は『ランド』さんにも伝えてください『ポルトン』さん
「…ホルホル…承ったぞい、それと『ポル爺』でいいぞい…ホルホル」
「…頑張らないとですね…ルミール様、ポルトン様…」
「では、『領域解放』…」
ルミールが『光の聖域』を解放すると、ポル爺は三角帽子の位置を調整し整備をするため、庭園の奥へと向かっていき、ピロメラは別のテーブルに紅茶を入れに行く。
ルミールは、日の光に照らされ金色に輝く髪に風が流れ込み、あかたも水面が太陽からの光を反射し金色に輝くように、無数の小さい光に『ゆらめき』ながら輝いていた。
一方、『リヒト』メンバーが密談している事など知る良しもないロランは『リヒト』メンバー達による密談の6時間後、捕獲メンバーと『ツュマ一党』を連行し邸に帰還した。
ロランは、ツュマとの『LVSISの副リーダーになるための条件交渉』が終わると、休憩後に執務室に戻り、既に特許取得済みであるが改良が必要な魔導洗濯機と魔導消防車の図面を取り出し、ドラフターの上に置くと修正を行い始めた。
魔導洗濯機の機構は、シンプルに洗濯槽内側と外側槽の2槽構造、『給水押しボタン』と『回転洗浄押しボタン』の2つの『押しボタン』を使用する方式としている。具体的には、
『給水・脱水押しボタン』を押し込むと『ON状態』となり、ボタン下の金属片が魔石①に触れるよう設定し、魔石①には『金属片が触れたら魔力を発生する』と付与魔法で刻印する。
発生した魔力は魔力導線により水道管に接続したポンプの役割をする『ポンプ部』に伝えられる。ポンプ部は『魔力が流れたら、弁を開き後部の羽を回転させ、洗濯槽内側に一定量の水をポンプアップする』と付与魔法で刻印することで給水を行う機構とし。
『回転洗浄押しボタン』も押し込むと『ON状態』となり、ボタン下の金属片が魔石②に触れるように設定し、魔石②にも『金属片が触れたら魔力を発生する』と付与魔法で刻印する。
発生した魔力は洗濯槽内側の回転翼につながった軸に伝えられる構造とし、軸に『魔力が流れた場合、一定時間『時計回り、反時計回り』に回転し、回転を終了したら魔石③に魔力導線を経由して魔力を流す』と付与魔法により刻印する。
魔石③には『魔力が流れてきたら魔力を発生し、下水道管に接続した弁を開け排出用の羽を回転させ、洗濯槽内側の水を排出した後、洗濯槽内側を一定時間回転させ脱水させる』と付与魔法で刻印し、脱水した水は外側層から傾斜による位置エネルギーにより下水道管に流れる機構としている。
『給水押しボタン』と『回転洗浄押しボタン』の両ボタンは押し込んだ際に、ボタン下の金属片が『ロック解除用魔石』にも接触するように設定し、ロック解除用魔石には『一定時間経過したら魔力を発生させロックを解除する』と付与魔法で刻印、ロックが解除されたボタンは、スプリングの力で元の位置に戻るシンプルな機構としている。
魔導消防車の機構もシンプルであり、消火用の水を貯めているタンクは長方形の構造とし、タンクの内側は前方の水をポンプアップし、消火用のホースを接合する『放水口』のタンク側の周辺に水が溜まるよう傾斜する構造とし、2名の水属性魔法を使えるものがタンクの扉を開け、タンクに水を供給する。
消火用ホースの先端には放水するための『管そう』を取り付け、この『管そう』を持って放水する隊員は消火用ホースと一体化し、先端だけ『管そう』と分離し放水しながらも握れる構造とし、放水担当の隊員が魔力導線の先端を握り魔力を送ると魔力導線を伝わった魔力は『放水口』に提供され、放水口のタンク内側に設置されたポンプ部の中の羽を高速で回転させ、ポンプアップすることで水を放水できる機構としている。
ロランは、魔導洗濯機、魔導消防車の図面を修正しながら、なぜ特許申請を行った『黒色火薬』、『自転車』、『風属性魔法と火属性魔法を使用するバイクと自動車』、『多極同期発電機』が特許を審査する『光万目石柱』により『保留』とされているかを考えていた。
一方、教会では宗教上の理由からか、定時に鐘をならす必要があるかだが、一定時間間隔で歯車を回転させる脱進機と王冠歯車を用いた機械式時計が発展し、かなりの高い精度で時刻を知ることができる。
このように、この世界はアンバランスに技術が発展している。
特に、この世界は『火薬』や『電気を使用し回転するモーターあるいは電気を発生できる発電機』に関する製品は、全て『保留』か『無効』にしている。
この世界の文明が発展する方向性として『火薬』や『電気』といった科学技術に関する特許製品や、『バイク』『自転車』『自動車』といった、現在の交通手段である馬車を淘汰してしまい、急速に文明の発展を促す発明品は『保留』となる。
『…この事から、この世界を創造せし神々は、既に何度も科学文明が発達する事で文明が滅んでいった光景を観測してきた、だから急速に文明の発展を促す発明品は保留としているのではないか。さらに言えば、文明を滅ばないように、文明を長期間、維持するために魔法が使用できる世界として、この世界を創造したのではないのか』
という仮設を導き出していた。
次回は・・・『第50話 嘆願 ~高貴なる無様さ~』です。
2018/08/31 誤字・脱字の修正、及び『リヒト』メンバーによる密談箇所の加筆を行っております。
2018/9/1 ポルトンの精霊ノッカーからノームに変更し、密談箇所修正しております。