46話 光陰流水
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
ロランは、王宮に向かう馬車の中で『…王宮で業務を推進させるには今週踏ん張らないとな。それに、エアロビ教室はどうせ受付しかできないからね…』と考えながら、馬車の窓から王都の街の景色を眺めている。
『それに、光3日(水曜日)は、夜6時から、合計300施設となる「老人施設、孤児院、託児所」の建設と運営、消防署と郵便所の増築、バスの役割となる大型馬車による循環運営をどの商会に請負わせるかと、温水洗浄便座付きトイレと洗濯機の販売に関する販売契約交渉を行う商会連合会議があるし…』
『光6日(土曜日)は『アリーチェ・クロエ』が予知した狼の獣人『ツュマ』をLVSISのメンバーにスカウトしに行かなければならないし…スケジュールが過密だ…』
と考えていると、アルジュの代わりに今日から御者にした地下人間の『エクロプス』が
「ロラン様、純金製の格子扉前に到着致しましたので下車の方を…」
とブラックのリヴァプールハットを斜めにかぶり、丸いサングラスに、ホワイトのシャツ、ワインレッドのネクタイに、ブラックのジレベストとロングパンツを着熟し、磨き抜かれた革靴を履いた『エクロプス』が声を掛けてきた。
「ありがとう、エクロプス。服装決まっているね…あと、途中で現場確認に出るかもしれないが、その時はリルヴァに乗っていくから…夕方の5時までリラックスして待機するか、もしくは邸に戻っていてもいいから…」
「ロラン様、邸はアルジュさんが護衛はどうしたの…どうしたの…五月蝿いのでここで待機してますよ…綺麗なレディも多いですし…」
「はぁ…エクロプスの好きで構わないよ…ただし、一線は越えないようにね…」
「重々承知しております…」
というとエクロプスは馬車置き場へと向かっていく。
ロランは宰相の執務室に入ると「老人施設や孤児院、託児所建設」および「道路の拡幅」で立ち退きをお願いする方のリストを作成した後、バスの役割を果たすために巡回運営させる大型馬車の「台数、勤務シフト、ルート」の設定を午前中に終わらせ、昼になると魔法鞄から白いヘルメットを取り出し、脇に挟むとワグナー宰相に
「現場に視察に行ってきます。戻りは午後3時予定です…」
と伝え、足早に宰相執務室を出ていく。
ロランは、王宮の正面入口扉を開け、大理石の階段を下り終え、純金製の格子扉を開けた先で『リルヴァ』を召喚し跨ると、疾風の如く現場に向かっていく。
現場に到着すると、担当の事務官と共に測量をし、立ち退き対象の方に立ち退きのお願いをしたり、老人施設や孤児院、託児所、消防署、郵便所の建設で使用するコンクリートの主成分であるセメントを作成する『セメント工場』に視察にいく。
この世界にもセメントは存在したが、すぐ固まる、脆いなど、使用上の問題が多かった。
そこで、ロランは元の世界の知識を元に、石灰石、粘土、ガラスの原料でもある珪砂の基である珪石、硫化鉄鉱を粉砕機に入れて粉砕し、粉砕したものを窯に入れ火属性魔法で1500℃以上に加熱することにより、生成される『塊』を集め、粉状になるまで粉砕して、新たなセメントを作り出し、セメントと粉砕機の特許を取得していた。
その後、エンタース商会のアントン・オーベル会頭と販売契約を行い、商会が90%・ロランが10%の出資で工場を建設し、セメントを大量生産していた。
コンクリートは、セメントに、砂、砂利、水を加えて作成するため、セメントの質がコンクリートの質に大きな影響を与えることから、ロランはセメントの品質に強くこだわった。
鉱石の採掘は、鉱山開発に特化した妖精であるノッカーのランドこと『ラン爺』とその配下が行っているが驚くほど能力が高く、極めて品質の良い鉱石を短時間で大量に採掘してくれるので、ロランは多大な信頼を『ラン爺』に寄せている。
ロランは、現場視察を行いながら、今朝、『王宮に向かう前、ジェルドに新たに3名の手練のメイドを光5日(金曜日)までに雇い入れる事、料理長ペスカトーレ・ダイムを早急に呼び寄せる事、邸周辺の土地を買い占める事』を指示した事を思い出し、ジェルドなら粛々と成果を挙げていくだろうと思いながら、王宮へと戻っていく。
王宮の宰相執務室に到着すると、ロランは宰相府の事務官の中から測量、建築に関する知識が深く、現場の施工管理も行える者を選別し、新たに技術を掌る『技官』職を新設するべきとワグナー宰相に提言し、了承を受ける。
その後も、陳情書の内容確認、建設費用と運用費用内訳に記された根拠確認、王都を通過するだけで課せられる『通過税』、大人も子供も同じ金額とされている『人頭税』、パン購入時に課せられる『パン税』に関する税率の見直しを、会計省が実施するようワグナー宰相に提案した後、司法省の決済済み資料の内容確認を行っていく。
1時間残業をし、午後6時にスタイナー邸への帰路につく。
ロランは馬車の中で『通過税は、高速道路の料金、まぁ高速道路の料金は機構が道路の建設に借り入れた金額を返済していくためのものだけど一部消費税も機構が支払っているし、『人頭税』は住民税、『パン税』は消費税そのものだし、いつの時代、どの世界でも、名は違えど税金の内容は似たり寄ったりなのか…』と心の中でぼやいていた。
邸に戻ると、皆で夕食を済ませ、リビングで寛いでいると『アリーチェ』が近づいてきて
「…少し宜しいでしょうか…」
「あっ、済まない。今朝、アリーチェが新しい予知をしてくれたと報告を受けていたのに、夜に予知の内容を確認すると言っておきながら『予知の間』にも行ってなかったね…」
「…それはお気になさらずに…ロラン様はご多忙ですので…」
「それで、今回の予知の内容は?…」
「近いうちに、ロラン様はメッサッリア共和国 アルベルト・スペンサー国防大臣と会談をなされます。その際に行うロラン様の御返答が未来を分かつターニングポイントになります…」
「僕が、平和を維持しながら世界を発展に導くのか、あるいは破滅に導くかって事?」
「……」
「それにしても『メッサッリアの赤き剣』との交渉が、こんなに早く実現するとはね…」
「LVSISもRed Mistも、本来『バルトス』『マルコ』『クロス』『フェネク』といった魔王軍団長である魔人や強力な魔力を持つダークエルフの『アルジュ』がいれば、不要な存在なんだ…」
「ただ、彼らの『力』は巨大すぎる、誤って使用すれば戦争の引き金を引いてしまう…」
「それに、僕は、人の可能性を信じたいんだ…特殊な能力を持つ者達が集結し、各々の能力を最大限まで引き出せれば、相乗効果を生みだし、魔人やダークエルフが実施した場合と同じ成果を得ることができるのだと…脆弱な存在である人であっても、困難なミッションを達成できるのだと…」
「…滑稽かな。アリーチェにとってみれば…」
「…そのような事は…万物流転の理から逸脱した者の足元にも、人が及ばないのだとしたら、あまりにも悲しすぎます…」
「…アリーチェには流れる水の如く慌ただしく過ぎゆく月日の先にある未来だけでなく、過去・現在・未来の全てが見えているのだね…」
「…その理を作りし、ロラン様が持つ『眼』ほどではありませんが…」
「…アリーチェはいつまで僕と一緒にいることができるのかな?」
ロランは、『アリーチェ・クロエ』に対し『理力眼』は使用しない。ロランの中の何かが、アリーチェの予知の能力、魔力、特殊なスキルを観ることを許さなかったからである。
「…時の彼方まで、御供いたします…私も『永遠』を持つ者でございますので…」
「…嬉しいな。膨大な時間を1人で過ごすのは孤独すぎるからね…」
とロランは心から安堵した微笑みをアリーチェに捧げる。
この日、ロランとアリーチェの会話は、夜遅くまで続くのだった。
2018/8/28 誤字・脱字・ロランとアリーチェの会話を一部修正しております。
2018/8/29 第47話のタイトルを修正致しました。
次回は・・・『第47話 草原の獣人とハイエルフのダブルと』です。