45話 急襲(2)
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
地上に降下し部隊の体制を整えたジェルドは、ルディスに2階から、リプシフターには1階から侵入し催眠ガスを散布するよう指示を出した。
『…邸の従者や護衛には罪はないからな。少しの間、眠っていてもらおう…」
元プロストライン帝国の将軍であったジェルドは状況を読み切る、実践に基づいた能力が備わっていた。
一方、ゴンドラ内のロランはというと上下に揺らされ過ぎて吐き気を催してきたため、地上に到達させたアンカーを中心に旋回するよう、シエルヴォルトを使用しドラゴンに指示を出し皆を見守っていた。
「…ダーリン、地上の皆は大丈夫かしら…」
「…アルジュ心配はいらないよ。皆は手練だから命に別状は無い。今回のミッションで重要視していることは、相手の犠牲を最小限にミネルバを奪うことだから…」
「…ダーリン。始めから完璧な者はいませんよ。厳し過ぎます…」
ロランは、『…アルジュ、お願いだからダーリンは止めて欲しい…』と思いながら理力眼で取得したオム・マーラの千里眼の能力を駆使し、皆の行動を確認するのだった。
ジェルドの指示を受けたルディスは、手袋と靴を脱ぐと魔法鞄に収納し、両手と両足を壁にピタリとくっつけ、よじ登っていく。
2階の窓に到達したルディスは、魔法鞄から吸盤付きのサークルカッターを取り出すと窓ガラスに密着させ円状の穴を開けた。
ルディスは、器用にサークルカッターを魔法鞄に収納すると、穴から手を入れ鍵の役割をするフックを外し、最小の音で窓を持ち上げると通路に潜入するのだった。
潜入直後、ルディスは魔法鞄から回収用の紐がついた催眠ガス入りの球状容器を取り出し、右側と正面の通路に1つずつ転がしていく。
催眠ガス入り球状容器は、起動スイッチを押してから20秒後にガスを放出する仕様となっている。
成分は、混成・分解魔法で空気から分離した窒素を、水属性魔法により分子の運動エネルギーを抑え込みことでマイナス193℃の液体窒素としたのち、アルジュから提供された強力な睡眠効果のある植物型魔物の花粉を混ぜたものである。
液体窒素が常温に晒されると気体となり強力な睡眠効果を持つ花粉を空気中に拡散させることで食吸引した者を3時間ほど熟睡させる、この世界では初めての催眠ガス兵器であった。
ルディスは、カメレオンHumanの能力をフルに活用し、催眠ガスを2階に充満させると、ミネルバがいる地下へと向かった。
ルディスが1階に下りてい来る時点で、リプシフターは既に1階に潜入し催眠ガスを各通路に充満し終えていた。
ルディスとリプシフターに潜入を指示した直後、ジェルドはundergrounderであるエクロプスに対して、土属性魔法を使用し庭から地下の外壁まで坑道を掘るよう指示を出していた。
エクロプスは、土属性魔法" レーゲンヴルム"を使用し地下の外壁まで人が立って進んで行くことができる坑道を5分で作成した。
ジェルドは、エクロプスに誘導され地下の壁に向かって坑道を進んでいく。
外壁に着くと、ジェルドは右足を少し前に出すと、自分に強靭身体をかけ、「…鶺鴒…」という雄叫びと共に抜刀し一瞬で外壁を細切れにする。
地下通路に潜入したジェルドとエクロプスは通路に催眠ガスが入った球状容器を転がし、催眠ガスが充満したことを確認するとミネルバが閉じ込められている牢屋へと向かった。
ジェルドとエクロプスがミネルバが閉じ込められている牢屋に到着した直後、後方の通路からミッションを終了したルディスとリプシフターが近づいてきた。
ジェルドは黒刀を抜刀し鉄格子を粉々に切断すると、催眠ガスで眠っていたミネルバを肩に担ぎ、エクロプス、リプシフター、ルディスを連れ、坑道を通って地上へと帰還した。
地上では、千里眼の能力を使用し皆の行動を確認していたロランがゴンドラを庭に着地させ、アルジュと共にジェルド達を待っていた。
ロランは、全員がシートベルトをしたことを確認するとシエルヴォルトでドラゴンに浮上を指示しスタイナー邸への帰路に着くのだった。
邸に到着するとロランはジェルド達に眠っているミネルバを7人掛けのソファーに座らせるよう指示を出し、自身も一人掛けのソファーに座りミネルバの目覚めを待つのだった。
ミネルバが目覚めるまでの間、ロランはジェルドとエクロプス、リプシフター、ルディスに対しミッション成功の謝辞と述べ労を労った。
ミネルバが目を覚ますとロランは両手を組みながら話を始めた。
「…はじめまして、ミネルバ・サンチェス。僕は『ロラン・フォン・スタイナー』。そして君の隣に座っている男性は『ジェルド・ヴィン・マクベス』、君の上司となる者です…」
「…あたしを、ここに連れてきた理由は何。もしかして、私の身体…」
「…うっうん。君を連れてきた理由は、君をRedMistのメンバーに加えるためです。君に拒否権はありません。拒否すればジェルドが君をヴァルハラに送ります…」
「…はぁ。拒否すればヴァルハラに送るなんて、あの邸の伯爵より悪党だね…」
ミネルバのロランに対する不遜な態度に腹を立て、ロランのソファーの袖に腰かけていたアルジュと、ミネルバの右隣に座っていたジェルドが立ち上がる。
すると、ロランは左手を軽く上げ、アルジュとジェルドを制し話を続けるのだった。
「…ミネルバの言うことも一理ある。だが、君に拒否権はない。しかし、君にはある程度、納得してRedMistのメンバーになってもらいたい…」
「…では、メンバーとなる代わりに僕が君の願い事を叶えるという事なら受け入れられるかな…」
ミネルバはどうせ拒否することは出来ないのだからと考え自分が最も叶えたい願いをロランに伝えた。
「…私はたくさんの孤児達に食事を摂らせないといけないんだ。そうしないと、あの子達は…」
「…分かりました。ミネルバが養っている子供達を全員、今度新設する孤児院に入ってもらい初等教育までの教育を受けさせる事を確約いたしましょう。これで如何ですか…」
「…そんな事ができるはずない。そんな事が…」
ロランはミネルバを信用させるため、自分が持つ権限をミネルバに説明する。
「…僕はレスター国王より、王都における老人施設・孤児院・保育所に関する全権を一任されています。これでも使用できませんか…」
「…分かりましたよ。そのRedMist?のメンバーになります。コ・コ・ロ・から…」
ミネルバからの承諾を得たロランはジェルドにミネルバの鍛錬と行儀作法の習得を指示すると皆を解散させ、7人掛けのソファーに横になるのだった。
『…アリーチェの予知だから間違いはないだろうけど。じゃじゃ馬すぎる…』
ミネルバに不安を感じつつ、深い眠りにつくロランなのであった。
2018/08/28 誤字・脱字修正、『鶺鴒』の前に『強靭身体』を追加し文章を修正しています。