39話 王立武闘競技会(2)
30分後、全ての組の第一試合が終了したため、第二試合が開始される。
ロランの、第2試合の対戦相手は『クリスフォード・ド・モンパーニュ』カント魔法大学、専攻が魔法学の教授であった。
モンパーニュ教授は曾祖父の代までは他国の貴族であったが、祖父の代で王国に亡命、その際に一般市民となった家柄で、魔法に関して深い見識を持ち、絶大な魔力攻撃を駆使した戦闘スタイルでA級ライセンスを取得する冒険者であることから『別名 戦う賢者』と称されていた。
「第二試合、開始…」と進行役がコールする。
「スタイナー卿よ。『竜覇者』と言ってもまだまだ子供のようだね。今日は大人の戦い方というものを教示してあげよう…」とモンパーニュ教授は言い終わると詠唱を始めた。
「我は古の契約の継承者なり、我が願いを受けし幾多の火精よ。蛇となりて顕現せよ!千火炎蛇!!」と長々と詠唱をし、魔法を発動した。
ロランは、モンパーニュ教授の長々とした詠唱が終わり魔法が発動したことを確認してから、自分に『強靭身体』をかけ、右手を思いっきり引き上げ高速で地面に叩きつけた。
すると、地面が割れ、クラックがモンパーニュ教授目掛けて伝搬していく。危険を感じたモンパーニュ教授は急いで『岩壁!』と唱え自分の前に巨大な岩壁を出現させる。
一方、ロランは『千火炎蛇』の攻撃をものともせず、モンパーニュ教授目掛けて突進していく。
モンパーニュ教授が、拳圧によって岩壁が崩壊したことに驚いた一瞬、岩壁崩壊と同時に教授の前に到着していたロランは教授の背後に移動し
「私からモンパーニュ教授に一つご教示致しましょう!実践で長い詠唱を行うのは愚か者がする事です…教授もう一度勉強が必要ですね。では…」
と左の手刀で軽くモンパーニュ教授の首の根元に位置する右頸動脈をチョップし、モンパーニュ教授の意識を刈り取り、勝利する。
闘技場の音は全て観客達に聞こえるように拡大されるため、ワーグは
「ロランも小馬鹿にされた分、教授に酷い事を言いおるのう。そう思わんか。バイツ?」
「そうですね…嫌味が露骨すぎてかえって笑えますが…」とバイツが答える。
今回、全く良い所がないモンパーニュ教授であるが、魔術に関する深い見識から、今後、ロランの魔術に関する相談役となることを、この時の2人は知る良しもなかった。
第二試合終了から20分後、進行役が「第三試合、開始…」とコールし、第三試合が開始となる。
ロランの第三試合の対戦相手は『ゴメス・エルロンド』、怪力無双の傭兵で武器は大きな斧である。
「小僧が、俺が捻り潰してくれるわ。かかってこい!」とゴメスが言った瞬間、
ロランは自分に『強靭身体』をかけ一瞬にして距離を縮めゴメスの前に現れる。
ゴメスは大きな斧を、ロランが装備を着けていない上腕目掛けて振り下ろした。
その光景を目の当たりにしたマダムとレディ達は「「キャー!!」」と悲鳴をあげる。
しかし、血しぶきが出る事はなく『ゴォン』という金属音が響いてきたかと思うと、折れた斧の先が、ゴメスの右方向へと吹き飛んでいった。
ロランは、右手の人差し指をゴメスのプレートアーマーの上から『肋骨と肋骨の間』を目掛けて突き刺し捻り込んでいく。
1発、2発…5発目、ロランの人差し指が、肋骨と肋骨の間に差し込まれる度、ゴメスは獣のように『ゴォギャー!』と絶叫をし、6発目を差し込む前にあまりの激痛のため失神していた。
そんなゴメスに対し、ロランは『ヒール』をかけながら
「ゴメスさん。私とワーグ親方考案のプレートアーマーでしたら、こうも容易く穴が開けられる事はなかったんですよ。今後は多少の攻撃で穴が開けられないよう、メリクス商会で私とワーグ親方が考案したプレートアーマーを購入してくださいね!」と言って闘技場を去っていく。
観客達は、ゴメスの絶叫を聞いていたので苦笑いするしか無かったが、ジェシカだけは腹を抱えて『ロラン君、ちゃっかり自分の商品を宣伝しちゃっているよ…クラウディア、リーン ちょっと…』と腹を抱えて笑っていた。
クラウディアとリーンは、ひたすら他人のフリをするしかなかった。
30分後、その時がやってきた。決勝戦の相手は『デオン・フォン・バンデーレ子爵』、腐った卵を誤ってぶつけられ、不敬罪と称して卵をぶつけてしまった子供を庇う獣人の母親の背中を延々と鞭で叩きつけた外道である。
ロランが闘技場に登場した際、観客全員が背筋に冷たいものを感じた。明らかに今までの戦いと異なり怒りなのか殺気なのかロランから出される何かにより、空気がビリビリと振動し冷却されたからである。
怒りの表情を観客に観られないよう、ロランはガレアのシールドをフリップダウンし、今までは素手だったが既に重量級の三節棍を持ち観たことがない構えをしていた。
「それでは長らくお待たせ致しました。本日のメインイベント 決勝戦を開始いたします…」
「決勝まで勝ち上がってきた猛者はこの2人。王国近衛衛士 四天王の一人『デオン・フォン・バンデーレ卿』対するは『竜覇者』『ロラン・フォン・スタイナー卿』」
「では、両者 開始線まで来るように…」、「決勝戦、開始…」と進行役がコールする。
「スタイナー卿、何か私に怒っているようだが、どこかでお会いしましたかな?」
「……」
「では、いざ参いる」とデオンが言った瞬間。
ロランは、自分に『強靭身体』をかけ、消えたように見えるほどのスピードで高速移動する。ロランがデオンの前に出現した瞬間、デオンが『ギャー』という悲鳴を上げる。
三節棍の一撃により両足の膝から下が闘技場の壁に吹き飛ばされていたからである。デオンは、あまりの激痛に呻き声を上げながら転がり、その光景を観戦していたマダムとレディ達の多くが失神していた。
ロランは、そんなデオンをシールド越しで見つめながら
「デオン、痛いだろう!だが、その痛みはお前が『不敬罪と称して過剰に痛めつけてきた人々の痛みの100万分の1の痛みだ』…さぁ、これからが本番だ…不敬罪などという腐りきった法律で痛めつけられた一般市民の怒りを知れ!!!」
ワーグは『このままではいかん!』と思い、魔法鞄から拡声器を取り出し
「ロラン、『わしじゃ』ワーグだ!『わし』との約束を忘れたのか!!!」
と闘技場に向かって叫んだ。
「親方、だけどこいつだけは…」と言うとロランは『ワァー!』と叫びながら三節棍を高速で打ち込む。
ワーグは『ロラン、お前なんて事を…』と思って俯いていると「ワーグ様見てください…」とバイツにせかされ、顔をあげ闘技場を見てみる。
すると、ロランが打ち込んだ三節棍は『デオンの左耳の本当に近い場所に打ち込まれ』地面が十字に割れているものの、デオンには当たっていなかった。
ロランは項垂れながら、競技場の壁にめりこんだ両足を取りに行き、戻ってくると治癒魔法 最上級の『スプレマシー・ヒール』を唱え、全ての傷を一瞬で治療したため、デオンは一命を取り留めた。
勿論、両足も元通りに結合されている。
だが、あまりの恐怖に白髪となった髪は、元のブロンドには戻らずにいた。デオンの精神は崩壊していなかったが、脱糞し放尿するほどの心的ストレスを受けたため、とても近衛衛士を行うことができる状態ではなかった。
デオンの治療を完了したロランはガレアのシールドをフリップアップし、
「ワーグ…親方…俺悔しいよう!…こんな奴も成敗できないなんて…」とロランは号泣しながら叫んだ。
「馬鹿者!それでいいんじゃ…ロランは何も間違ってないぞ…それでいいんじゃ…それが人なんじゃ…いつまでも泣いとらんで…胸を張れ!ロラン!」とワーグは優しく説得する。
「ばぁい…」と返事をし、ロランはガレアのシールドをフリップダウンし、右手を握りしめ拳を高々と天に向かって突き上げる。
進行役はその姿を見て「優勝者!我ら一般市民の英雄『ロラン!フォン!スタイナー!!!」とコールすると、闘技場の観客達は立ち上がり拍手し大声援が湧き上がる。
このスタンディングオベーションは5分も続き、足踏みをする観客達により闘技場が揺れ動く。
ワーグやバイツ、『クラウディア・ジェシカ・リーンのヴィスローデン』のメンバーやオリバー、冒険者達、工場の従業員達、『カツ丼屋』や『うどん店』の従業員達、エアロビの門下生であるマダムやレディ達が泣きながら、ロランに賛辞を送る。
周囲が急に暗くなったため、観客達が上空を見上げると、闇を司る『シュバルツ・ドラドン』を中心に眷属である数千体以上と思われるドラゴンが、闘技場を覆うように飛行していた。
『シュバルツ・ドラドン』は、全ての観客達に向かいテレパシーで
「我らが同胞たる『ヴィータ・ドラクーン』よ!なかなか面白い戦いであったぞ…小さく弱き者達よ。肝に銘じておけ、もし我らが同胞たる『ヴィータ・ドラクーン』に、かすり傷一つつけようものなら、我らがこの街、いやこの国を滅するであろう事を!…」
という、『とんでもない事』を語り終えるとドラゴン達は次々と消えていき、再び闘技場が明るくなっていく。
『トロイト連邦共和国 最高評議会議長のアガルド・ジャコメッティ』と『メッサッリア共和国 アルベルト・スペンサー国防相』は各々のVIP観覧室で、
『スタイナー卿の魔法が見れず、真の実力はわからなかったが、全てのドラゴンを味方に持つ事、自身が『伯爵』という身分でありながら貴族社会を認めていないという新たな収穫を得た』と満足していた。
さらに、「『トロイト連邦共和国 最高評議会議長のアガルド・ジャコメッティ』は有事の際は、スタイナー卿に王国で革命でも起こしてもらうか…」と皮算用をしていた。
武闘競技会終了後、レスター国王が優勝者であるロランに褒美を尋ねると
「この王都カントに、老人施設、孤児院、託児所を各々100施設、建設する資金とその施設で働く従業員の給与を国費で御支払いいただき、『建設用地と建設業者の選定、建設資金と年間の従業員に支払う給与等に関する全ての権限』を私『ロラン・フォン・スタイナー』に御一任いただくことを褒美として希望します…」
とロランはレスター国王に伝える。
「うむ。よかろう!建設資金と年間の従業員給与の支払いを国費で行い、全ての権限をスタイナー卿に一任することを許可する!」とレスター国王は安易に宣言してしまう。
「ありがたき幸せ、このロラン、国王陛下の御心に添えるよう取り組んで参ります」
と返答すると、闘技場内の観客から「レスター国王!バンザイ!スタイナー卿!バンザイ!」とのコールが湧き上がり、レスター国王はご満悦になった。
ロランは『近いうちに商会連合の皆さんと協議しないとね…どんな手段を使ってでも福祉施設は必要だから…そんな事も理解できないなんて、どこまで腐っているんだ…』と考えていた。
次回は・・・『第40話 ロラン・フォン・スタイナー邸』です。
ロラン、新たにダークエルフを召喚し、兼ねてから考えていた部隊の創設を進めていきます。
2018/08/30 王都の名称を誤っておりましたので修正しております。