37話 テンプテーション香
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
光3日(水曜日)の本日は宰相府における政務が無いため、ロランはホワイトの半袖シャツにブラウンのベスト、ブラウンのロングパンツと膝下まであるブラックのブーツでコーディネートすると朝食を摂りに1階に降りていった。
「…今日はちょっとワイルドな服装だがなかなか似合っているね…」
「…クレイグさん、ありがとうございます…」
「…ロラン君、最近、オシャレだけど可愛い彼女でも出来たのかな…」
クレイグはロランが娘のソフィアと付き合っていることを知ったうえでの質問であった。
ソフィアはロランを揶揄う父であるクレイグを睨みける。
「…お父様ったらロラン様に彼女がいるはずありません。ロラン様は純白です。純白!…」
ソフィアは恥ずかしさのあまり席を立つと自分の部屋へ戻って行く。
ロランは気まずい雰囲気のなかクレイグと2人きりとなったため、急いで朝食を済ませるとその場から逃げるように鍛冶工房へ向かった。
鍛冶工房に着くとロランはドラゴンをモチーフにしたドアノッカーを力任せに叩いた。
「…コンコンコン。親方、ロランです。開けてください…」
「…その叩き方はロランじゃな開いとるから入ってこい…」
ロランはドアを開けると作業台の席に座り寛いだ。
「…何じゃ。"宝石の研磨機やドライヤー、風呂用湯沸かし器に温水器、ポットと住居用蛍光灯型ライト、それとデスクライトに懐中電灯型ライト、おまけに街灯型ライトと扇風機やかき氷機"は、先週お前さんとわしの連名で特許申請し、特許を取得したはずじゃが…」
「…今度は抄紙機の開発に取りかかりたいんだ…」
ワーグは明らかにロランに嫌な顔を見せる。
「…お前さんが王立武闘競技会に出場した後にせんか。それと王立武闘競技会だが出場しなくてもよいのではないか。お前と対戦する相手が可哀想に思えてのぉ…」
「…親方、大丈夫ですよ。デオン以外は手加減しますから…」
「…ロラン、今日は抄紙機の話をしに来たのか…」
「…親方とバイツさんをチェーン展開する事になったうどん店に招待しようと思ってね。あと三節棍を作りに…」
ワーグは三節棍のくだりをあえて無視して話を続けた。
「…ロランよ。その『うどん』店はどの商会系列で販売するのだ…」
「…モリッツ会頭率いるケレス商会系列ですよ。一つの商会に偏るなですよね。分かっています…」
ロランはいつものように両手を投げ出すと顎を作業台に置きコロコロをしようとする。
「…ロランよ。お前さんはもう伯爵様なんだぞ。そのコロコロ転がるのは止めた方がいい…」
と言いつつ、ワーグもコロコロをし始める。
「…親方だけ、コロコロを楽しむのは許さいないですよ…」
作業台でコロコロ転がる二人を見たバイツは『…はぁ。また、コロコロが始まった…』とため息を付きながら、2人にかき氷を持ってきた。
昼が過ぎた頃、ロランはコロコロを止め、コロコロの間に製作した重量級の三節棍を魔法鞄に格納するとリルヴァを召喚しエアロビ施設へと向かった。
「…ワーグ様。あんな、ごつい武器で叩かれる対戦者を想像するとゾッとします…」
「…ロランは本当に『やんちゃ』さんじゃな…」
ロランが対戦者を叩きのめす姿を想像し満面の笑顔をするワーグを見、バイツは再びゾッとするのだった。
エアロビ施設のレッスンフロアでは、ロランにコーチしてもらおうと集まっていたマダムとレディ達の熱気で溢れかえっていた。
到着から10分後。
ジァージ姿の"ロラン、アレックス、ベン"の3人がフロアに登場し、軽快なリズムと共にエアロビレッスンが始まった。
カリスマの3人が登場したことで、マダムやレディ達がヒートアップしフロアの熱気は最高潮に達した。
1時間後、ロランが汗をかき始めたことにより、予期しない問題が生じた。
ロランの汗には、あらゆる生物の雌を誘惑する強力なフェロモンが含まれており、感情を抑制できなくなった一部のマダムやレディがロランに飛びつき始めたのだ。
ロランは難なくかわすが、次から次へと飛びつこうとするマダムとレディが現れたため、3人はレッスンを一度中断し原因と対策について話し合った。
「…女性に聞いたんだけど、ロランの汗の香りを嗅いだらムラムラしてきて飛びついてしまったという事なんだ。ロラン何か香水をつけているの…」
「…アレックス。僕は香水はつけいていないよ。石鹸と石鹸シャンプーに専用リンスしか使用してない…」
「…でもこれじゃ。レッスンにならないな…」
ロランとアレックスの話にベンが加わる。
「…ロランさんには申し訳ないけど。一旦シャワーを浴びてもらって、新規の体験希望者の受付を行ってもらう方がいい気がする…」
ロランは大変、不本意であったがベンの言うことも一理あると納得し、シャワーを浴びると、通りに面した1階の入口付近にある体験希望者の受付コーナーに行き、受付作業を行うのだった。
運動後で体温が上がったためか、通常よりフェロモンが多く出ていたため、通りを歩くレデイ達が集まってきた。
「…皆さん、エアロビの体験希望者の方ですか?一列に並んでください…」
「「「「「…は~い…」」」」
甘い声でレデイ達が返事をする。
『何か変だ』と思い、ロランは自分を『理力眼』でスキャンすると『テンプテーション香』という文字が眼前に浮かんできた。
ロランは、理力眼でテンプテーション香を強くイメージすると眼前に『…あらゆる生物の雌を誘惑する香り…』という文字が浮かんでくるのだった。
受付業務が終了し誰もいなくなったフロアで、ロランは魔法鞄から三節棍を取り出した。
ロランは元の世界のテレビやDVDで観ていたカンフー映画を強くイメージし、理力眼の能力で使用方法を取得していく。
『…使用方法は習得できた。あとは実践で精度と威力を高めていこう…』
ロランは1節が30kgはある三節棍を振り回す。
「ブォー、ヴォン。ブォー、ヴォン。ヴォン、ヴォン…」
振り回す度に、ものすごい風切り音がフロア内に響き渡る。
2時間ほど三節混の訓練をしていると、理力眼と探知がフロアに近づいてくる2人組を感知した。
同時に自分に対する敵意が無い事から、ロランはかまわず三節棍の訓練を続けるのだった。
しばらくして、フロアに入って来たのはジァージを忘れて取りに戻ってきたエミリアとステファニーの姉妹であった。
フロアは、ロランの濃縮されたテンプテーション香を含む汗が飛び散り蒸発することで強烈に女性を誘惑する空間となっていたことに加え、真剣な眼差しで三節混の訓練を行うロランの姿を観た2人は恋に落ちるのだった。
「…エミリアにステフ。どうしたの…」
「…ジャージを忘れてしまったので取りに戻ってきたの…」
ステファニーが頬を赤らめながら返事をしてきた為、『この状況は大変まずい』と察したロランは何か理由をつけて2人から離れようとした。
「…そうなんだ。2人に汗臭い臭いを嗅がせるわけにはいかないから。僕はここから1階に行くね。その間にジャージを持って帰ってもらえるかな…」
今度はエミリアが甘い声でロランに返事をする。
「…分かりましたよぉ…」
ロランは、即刻この場から離れようと2階の窓を開けると飛び降りた。
着地した箇所の石畳を破壊してしまったため、ロランは『…明日こっそり直しておこう…』と思いながらシャワー室に向かうのだった。
ロランはシャワーを浴びながら『…汗を集めて水で希釈すれば惚れ薬ができるかもしれないな…』と呑気に考えるのだった。
次回は・・・『第38話 王立武闘競技会(1)』です。
やっと、王立武闘競技会が始まります。ご期待ください。