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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第1部 第2章 フォルテア王国 王都カント 編
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35話 波紋

 ロランは、伯爵に叙爵された翌日、王宮にて約2週間後『エステベス・フォン・ワグナー・ツー・リベリック』宰相の下で内政を学びながら業務を行う事になったため、貴族服を用意すべく『シモンズ洋服店』を訪れる。


 「ロイド・シモンズさん、いらっしゃいますか?」


 「はーい、少々お待ち下さい。只今伺います(ただいまうかがいます)ので…」


とロランの前に現れたのはロイドと共にお客さんの採寸(さいすん)を手伝っていたベンであった。


 「あれ、ロランさん。エアロビの打ち合わせは明日のはずじゃ…」


 「ベン、今日はロイドさんに最速で7着仕立てて欲しくて伺った(うかがった)のだけど…」


というロランの言葉を聞くと、ベンは顔を『キリッ』とし


 「ロラン様、この椅子に腰掛けていてくださいね。直ぐに呼んで参りますので…」


と言うや否や、ベンはロイドが採寸している店の奥に早足で向かっていく。


 『ベンも根っからの商売人なんだな。そういえば、明日エアロビの打ち合わせを行う事、すっかり忘れていた。』と思いながら、ロランはロイドが現れるのを待つ。


 しばらくすると、ロイドは汗をタオルで拭いながら早足でロランのもとに向かってくると


 「大変、お待たせいたしました。ロラン様にはいつも工場の従業員の方の洋服をご注文頂いておりますのにお待たせさせてしまうなど、シモンズ洋服店末代までの恥でございます」とロイド・シモンズはロランに対し大げさに釈明する。


 「ロイドさん、そんなにかしこまらないでください。今日は来週の光5日(金曜日)までに『貴族服で、<丈が膝までありフロント部分が『ボタンと刺繍糸で装飾された』ジャケット>、ベスト、ロングパンツにホワイトのシャツ、シャツの首元につける細長いフリル』のセットを7着仕立てて頂く注文をしに来ただけですから…」


 「貴族服でございますか?どなた様用でしょうか。その方の採寸を行わないと既成品となってしまいますが…」


 「ロイドさん私が着ます。昨日レスター国王より『伯爵』を叙爵されましたので…」


とロランの思いがけない言葉に、ロイドはしばし呆然とする。


 「ロラン様は、伯爵になられたのですか?」


 「はい、昨日…」


 「失礼いたしました。どうか、不敬罪に問わないよう、お願い致します…」

 

 「そんな事しませんよ。それと『ジャケットとベスト』は5着がブラックで、1着はブルー、残りの1着はワインレッドで、ロングパンツは7着全てブラックでお願いします」


 「承りました」


というなり、ロイド・シモンズはロランの採寸に取り掛かる。採寸の最中ロランはロイドの手が震えている事に気が付き、先ほどの言葉からも『早く不敬罪を見直してもらおう』と思っていた。


 ロランは採寸が終わると支払いを済ませて、馴染みのカフェに向かう。


 カフェに到着すると、『チャイ』とサインドイッチを注文し、寛ぎながら1ヶ月後の8月中旬に開催される王立武闘競技会の事や、再来週から光1日(月曜日)、光2日(火曜日)の週2日王宮の右棟内に設置されている宰相府での業務の事を考えていた。


 その頃、『フォルテア王国』の周辺国では約100年ぶりに現れた『竜覇者でS級ランカー』に対する波紋が大きくなっていた。なぜなら、この100年間、S級ランカーは数人存在したが『勇者』と『竜覇者』は皆無だったからである。


 周辺国からすれば、急に『フォルテア王国』の軍事力が圧倒的に高まり、周囲との力のバランスが崩れ、驚異の対象になったからだ。


 『フォルティア王国』の北西に位置し永世中立国の『トロイト連邦共和国』最高評議会議長である『アガルド・ジャコメッティ』は、馴染みとしているエンタース商会のアントン・オーベル会頭からロランに関する情報を取得していた。


 また、『フォルティア王国』の南西に位置する『メッサッリア共和国』では『ジグムンド・シュミッツ大統領』の指示により、アルベルト・スペンサー国防相が魔法原理で発射する大砲の増産を開始し急ピッチで軍事力の強化を図ると共に『ロランに関する情報収集」を行い始めていた。


 さらに『トロイト連邦共和国』の北西に位置する『パルム公国』では、国王『フラヴィオ五世・ド・パルム・ツー・オルレアン』が『アレッサンド・ド・マンパシエ・ツー・ロマーノ』外相に対し、息子である『イヴァン・ド・パルム』皇太子とレスター国王の娘である『シャロン・フォン・フォルテア』王女との婚姻が成立するよう、公式文書での『婚姻の申込み文書』の作成と使者の選定を指示していた。


 一方、ロランは周辺国に広まる波紋の事など露知らず(つゆしらず)、カフェでゆったりとした時間を堪能した後、付与魔法を手に入れたら開発をしようと保留していた『宝石の切断・研磨機、ドライヤー、お風呂用湯沸かし器、温水器、ポット、住居用蛍光灯型ライト、デスクライト、懐中電灯型ライト、街灯型ライト、温水洗浄便座』のうち、『温水洗浄便座』を除き、直ぐに開発ができそうな商品の相談と試作を行いに鍛冶工房へと向かう。


 鍛冶工房に着くとロランはドラゴンのモチーフのドアノッカーを叩き、親方を呼ぶ。


 「親方、ロランです!開けてください」


 「開いとるぞ」


というワーグの返事を聞き、鍛冶工房に入り作業台に座って待っていると、ほどなくワーグが弟子のバイツを連れてやってきた。


 「親方、バイツさん。これ差し入れです」とカフェで購入したチーズケーキが入った箱を作業台に置く。


 間髪入れずに、ロランは『宝石の切断・研磨機、ドライヤー、お風呂用湯沸かし器、温水器、ポット、住居用蛍光灯型ライト、デスクライト、懐中電灯型ライト、街灯型ライト』の完成予想図や試作品用の図面を作成し基本構造を説明した後、素材と金型作成について相談を始める。


 「急いでいるのは、お風呂用湯沸かし器と湯沸かし器、ドライヤーと各種ライトです」 


 「それと、手で魔力を供給する仕様の商品は『魔力伝導性が非常に高いイカ型魔物の神経の先端を3cmガラスでコーティングし、ガラス以外の箇所を天然ゴムでコーティングすることにより魔力伝導線とした上で商品の発熱部や発光部に接続させ、魔力伝導線の先端部を握ることで魔力供給できる構造にする」


 「一方、常時魔力供給を必要する仕様の商品は『魔石』を使用する構造と考えているんだけど、どうかな…」


 「材料の選択、構造に問題はないと思うがの。工場で商品を大量生産した場合、魔物の体から得る『魔石』の量の確保が困難になると思うがの…」


 「さすが師匠、そうなんですよね。『魔石』の量が…大量生産後については後々考えることにして特許だけ取得しておきましょう!」


 「お風呂用湯沸かし器と温水器、ドライヤーと各種ライトの発光体に関しては、かなりずるい方法だけど金属に付与魔法で『魔力が供給されたら熱を出す』、『魔力が供給されたら発行する』と刻印し魔力供給により熱や光を出す構造を考えていて。」


 「『ドライヤー』についてはイカ型魔物の神経とガラスと天然ゴムを使用した魔力伝導線により魔力供給を行い『お風呂用湯沸かし器と温水器、各種ライト』については魔石を魔力源にしスイッチのON/OFFと組み合わせることで、魔力供給を操作する構造と考えているけどどうかな…」


 「全く問題はないが…なんじゃ『付与魔法は便利すぎて』職人の知恵や腕を堕落させてしまう代物じゃな…」


とワーグの親方が言うと、ロランも付与魔法で安易に最大の問題点を克服することに後ろめたさを感じていたため、一瞬顔をしかめた。


 「そうなんだけど、早く開発して特許を取得しておきたいんだ…取得後、代替案があれば変えていくにするから、いいかな…」


 「わしゃ、何も文句を言ったわけではないぞ。あまりに付与魔法が便利すぎるでのぉ」


 それでもロランはプロトタイプの材料と機構を決めていき、住居用蛍光灯のカバーはプラスチックの代用品で、デスクライトは『金属とガラス・プラスチックの代用品とガラス・ガラスのみ』の3タイプで、懐中電灯は『プラスチックの代用品とガラスと金属とガラス』の2タイプ、街灯型ライトは『金属とガラス』の1タイプの金型作成と試作品作成の依頼を済ませた。


 「ロランよ、なぜ、そんなにドライヤーとお風呂用湯沸かし器の開発を急ぐんじゃ?」


とワーグが聞くと


 「今、『石鹸と石鹸シャンプーと専用リンス』の売れ行きが好調だから、温水が容易に手に入れられる状態になれば湯船に入ったりシャワーを浴びる習慣を広める絶好の機会になるし、髪が濡れていてもドライヤーがあれば直ぐに乾燥できるので髪を洗うことに対する抵抗感が少なくなるでしょ…」


とロランの説明を受けワーグは納得した。その後、ロランはいつものように作業台に両手を投げ出し(あご)を作業台に付け上半身を左右に交互に揺らしながら、ワーグとだらだら時を過ごしていく。


 ロランがヘスティア商会への帰路に着く後ろ姿を見つめながらバイツは


 「ワーグ様、ロラン様の魔力が桁違いに増加しております。それに時折、瞳の虹彩が赤く瞳孔がドラゴンのように金色になられておりましたが…」


 「バイツよ…ロランが魔王になろうが、人の形をしたドラゴンになろうが、あるいはそれ以上の化物になろうが、そんな些細な事はどうでもいいんじゃ。ロランが命を掛けて『わし』を助けてくれた時から今度は『わし』が命をかけてロランを守ると決めたんじゃから…それにロランと商品を開発したり一緒にいる事が何より好きなんじゃから…」


 「それでは…」


 「ロランが求めてくれば、『わし』は世界に散らばる50万人の勇猛なドワーフに対し、ロランの手となり足となり目となり耳となり、命を預けよと指示を出すつもりじゃ…」


 「その旨、各部族の長に伝令しておきます…」


 「頼んだぞ。バイツ…」と指示しながら、ワーグはロランの後ろ姿を観続けていた。

次回は・・・『第36話 宰相府』です。

ロラン、宰相府で業務を開始します。ご期待ください。

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