32話 竜覇者への道(3) ~戦闘 編~
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
第二の攻撃ポイントは、坂道の幅が急に広くなり左右には20mを超す崖がそそり立ち、崖の頂上にはドラゴンより大きな岩場が張りだしている場所である。
ロランは、まさにドラゴンを倒すために自然が形成したともいえるポイントを走り過ぎ、ドラゴンがそのポイントの手前に来た際に土属性魔法を唱えた。
『…土穴…』
するとドランゴンの足元に巨大な落とし穴が現れ、勢いが止まらないドラゴンは落下するのだった。
ロランは、混成分解魔法で水を酸素と水素に分解し、酸素と水素を格納したタンクを魔法鞄から取り出すとタンクの中の気体が少しずつ排出されるようバルブを緩めて、落とし穴に投げ込んでいく。
酸素と水素を別々に格納したドラム缶サイズのタンクを50個投げ入れたところで、ロランは火炎槍を5発打ち込み、続けて落とし穴の崖の頂上で張りだしている岩場の根本目掛けて『超水円斬』と唱え岩場の根本を切断した。
落とし穴の中では、わざと水素を格納したタンクを酸素を格納したタンクより数倍多くし、5発の『火炎槍』の熱エネルギーによって、水素と酸素が急激に反応し大爆発を起こしていた。
その爆発中にロランにより上空から巨大な岩を落とされ、蓋をされたドラゴンは爆発の衝撃の全てをその身に受けることになった。
ロランはこの攻撃によって、爆発の衝撃でドラゴンの鱗を剥がせるだけ剥がす事と体力を削る事をも目的としていた。
ロランは、ドラゴンが土穴から出てきた時に命をかけて肉弾戦を挑むと腹をくくり、治癒魔法で怪我を治療すると消化のいい果物を食べ体力回復に努めた。
およそ10分後、ドラゴンは蓋となっていた岩を砕き、地上に上げってきた。
ロランの想定通り、ドラゴンの鱗は所々剥がれ落ち、全身からおびただしい血が流れていた。
ロランはこの機を逃がすまいと右手に大身槍を持ち、鱗が剥がれた箇所目掛けて槍を突き刺していく。
この時、ドラゴンは竜の言霊である『シエルヴォルト』を使用し、ロランの自由を奪うと尾で弾き飛ばすのだった。
ロランは、ドラゴンの攻撃によって崖に叩きつけられ、地面に落下した。
ロランの全身の骨にはヒビが入り、毛細血管や主要な血管が破れ、穴という穴から血が吹き出る危険な状態になった。
ロランは薄れゆく意識の中、必死に治癒魔法である『ハイオーバー・ヒール』を自分に掛け続け何とか命を取り留めることに成功する。
その後、ロランはドラゴンに弾き飛ばされる前に『理力眼』で取得した『シエルヴォルト』を使用し、体の自由を取り戻す。
ロランは、口に残った血をぺッと吐き出すと、首を左右に振り両手首と両足首のストレッチを行った後、大身槍と大盾を持ち直しドラゴンに向かって「…勝負はこれからだ…」と叫び突進していく。
ロランは突進の最中にシエルヴォルトを使用し、ドラゴンの体の自由を奪うと鱗が剥がれた箇所に大身槍を力任せに突き刺していく。
ドラゴンはすぐに『シエルヴォルト』を使用し自らの体の自由を取り戻すと尾による攻撃をロランに叩き込んだ。
ロランはドラゴン相手に消耗戦を延々と続ける。
ドラゴンに30本の大身槍を打ち込んだ直後、ロランは再び『…毒性化…』と唱え大身槍を毒化した。
ドラゴンの内蔵に達している30本の大身槍が毒化したため、ドラゴンは急に苦しみだし千載一遇のチャンスを迎えた。
その頃、王都の冒険者ギルドでは、冒険者ギルド長であるウルリカがエルフの能力を使用し、ロランとドラゴンとの死闘を監視する白鷲が観ている映像を、ギルド内のスクリーンに念写しリアルタイムで死闘を映し出していた。
冒険者達は、血と泥で汚れながらも休むこと無く消耗戦を繰り広げるロランとドラゴンの死闘を釘付けになって観ていた。
クラウディア、ジェシカ、リーンのヴァイスローデンのメンバーとサブリナは声を枯らしながら声援を送る。
ロランはドラゴンが急に苦しみだした事を『千載一遇のチャンス』と捉え、勝負に出る。
ロランは、両手に大身槍を持ち、攻撃力を2倍にした。
その分まともにドラゴンの攻撃を受けるため、ロランの負傷の度合いは桁違いに跳ね上がった。
それでもロランはここが踏ん張りどころと自分を鼓舞し、折れた肋骨や変な方向に曲がった腕を治癒魔法で治療しながら攻撃するという消耗戦を行い続け、ついには50本の大身槍を使い切ってしまった。
『…まったく、何てタフなんだ…』と思いながら、ロランは再び『…毒性化…』と叫び大身槍を毒化した。
あまりの激痛に耐えきれず、ドラゴンが大技のブレス攻撃の一撃で勝敗を決しようと口を開いた瞬間、ロランはドラゴンの口の中に小型の酸素を格納したタンクと水素を格納したタンクを投げ入れ、毒性化と叫んだ。
ドラゴンは50本の大身槍から出続ける毒と、口から爆風と共にダイレクトに食道や肺に入ってくる高熱の毒により、ついに倒れた。
ロランは最後の力を振り絞り、鱗が剥がれたドラゴンの額に剣を突き刺し止めを刺すのだった。
その直後、全身が真っ白な、今まで死闘を繰り広げてきたドラゴンとは比較にならない高い戦闘力を持つドラゴンがロランの眼の前に出現した。
荘厳な威厳と空気を振動させるほどの異次元の戦闘力から、ロランは6天竜が1柱の『ヴァイス・ドラゴン』と推測し覚悟を決めた。
『…もう、動くことはできない…今度は魔法のない世界に生まれ変わりたい…』と思っていると『ヴァイス・ドラゴン』はロランに語りだした。
≪…小さく弱き者よ。見事であった。汝が倒せし竜の額に右手を付け『汝の魂を我、継承したり』と唱えよ…≫と言われ、ロランは一切抵抗せず、言われるままに行動する。
≪…うむ。小さく弱き者よ。汝に我らからの祝福を授ける。これを飲み干すのだ…≫
純金製の容器の中には『赤、藍、赤茶、白、プラチナ、黒』の原色の液体が混ざらない状態で入っていた。
見た目があまりにグロテスクで激臭のため、ロランは『…これは飲めない…』と思い、『ヴァイス・ドラゴン』に向かって首を横に振り飲めないと懇願するも、再び『ヴァイス・ドラゴン』に飲み干すよう指示され、仕方なく飲み干した。
≪…うむ。最後に汝にドラゴンの名を与えよう『ヴィータ・ドラクーン』それが汝の名だ。では、悠久の時の彼方で再び会おうぞ、新たなる我が同胞よ…≫
ロランを見つめ微笑むと『ヴァイス・ドラゴン』は消えていった。
一方、王都冒険者ギルドではギルド長であるウルリカが"ロランとヴァイス・ドラゴンの会話は消音"して念写していたため、冒険者達はどんな会話が行われたか理解できなかったが、ロランがドラゴンを単独で倒し、王国史上7人目の『竜覇者』になったことに沸き上っていた。
ロランはその晩、自分の身に起きた変化を知る由もなく眠り続けた。
眠り続けるロランの称号には、『不死』『人の身で天竜と成りし者』という新たな称号が加わっているのだった。