30話 竜覇者への道(1) ~準備と召喚 編~
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
何の罪もないドラゴンを倒すことは、本来ロランの考え方に反する。しかし、一般市民であるロランが現在の無慈悲な不敬罪を改めさせるには、この方法しかなく準備に取り掛かる。
ロランは、既に神格化し強大な戦闘力を誇る6天竜ではなく、遥かに力が劣る6柱の眷属で最も低い階級のドラゴンを倒すことに決めた。
ドライスィヒ級、フンダート級、タウゼント級の階級に条件はなく、ドラゴンを倒せば『竜覇者』の資格を得ることができるため、最小限のリスクを選択する。
問題は、どの眷属のドラゴンをターゲットにするかであった。
6天竜は『火』を司るレッド・ドラゴン、『水』を司るウォーター・ドラゴン、『土(大地)』を司るエルデ・ドラゴン、『風』を司るヴァイス・ドラゴン、『光』を司るフォース・ドラゴン、『闇』を司るシュバルツ・ドラゴンの6柱からなる。
ロランは、ドラゴンの生息地から地形を『虚』の攻撃に最大限に利用でき、情報量が多く多様な対策をとれ、秘策を最も効果的に使用できる相手という条件からエルデ・ドラゴンの眷属をターゲットとした。
眷属のドラゴンであっても、非常に強固な鱗で全身を防御し、ブレスによる遠隔攻撃と鉤爪や尾による近接攻撃、竜の言葉である『シエルヴォルト』を使用し敵の体の自由を奪う言霊攻撃と、頭を抱えたくなるような攻撃能力を保有している。
そこで、強固な鱗による全身防御に対しては、鱗と鱗の間から内蔵に致命傷を与えられるよう刃長が150cm全長が250cmの『大身槍』を30本製作し、複数ある魔法鞄に格納していく。
ブレス・鉤爪・尾の攻撃に対しては、新たに作成する『軽量で強度があるミスリル製の大盾』により防御することにし、『シエルヴォルト』による言霊攻撃に対しては『理力眼』で瞬時に『シエルヴォルト』の能力を取得し同時に使用することで攻撃を相殺する対策をたてた。
そのため、プレートアーマーにドラゴンによる『シエルヴォルト』の攻撃により体の自由を奪われた際、自動的に『理力眼』で取得した『シエルヴォルト』を使用し体の拘束を解除するよう、魔法による『刻印』を行う。
また、エルデ・ドラゴンの眷属は『フォルテア王国』と『クリシュナ王国』の国境である『エルドーラ山脈』に生息しているため、王都から往復で10日間が必要となることから、不在時に『工場の管理を行い、従業員と工場を守れる』優秀な妖精族を召喚することにした。
『魔法学』の書籍で召喚方法を学んでいたため、頭の中で『賢く戦闘力がある優秀な存在』を強くイメージしていく。
ロランはイメージが固まってから詠唱を唱えた。
「我、古の契約に則り汝を求める者なり!顕現せよ!」
周囲が暗くなり冷気で満ちていく。
底が無いように思えるような漆黒の闇の中心に、禍々しい存在感を放つ4体の魔人がたたずみ、ロランを主とすることを拒絶する。
「「「「我を求めし者は汝か?我は最凶にて最強なり、弱き汝を主とは認めず」」」」
4体の魔人が一斉に攻撃を仕掛けてきた。
まさに、その瞬間ロランの瞳は真紅に染まり、4体よりもさらに暗い深淵の闇を纏い攻撃を吸収していく。
その光景を目の当たりにした4体は、何かを悟ったような表情をし右ひざを地面につけ、頭を垂れる。
ロランは意識を取り戻し、4体が自分に対して跪く姿を見て、「『魔法学』ではこれで主従契約は完了したはずなんだけど…」と思いながら、じっとしている。
お互い、体勢を変えずじっとしながら30分が経過し、1体の魔人がロランに主従契約を促した。
「主よ、主従の契約を…」
ロランは『えっ』と内心驚きながら、一切の動揺を隠しその魔人に主従契約の方法を聞く。
「主従の契約とは具体的にはどうすればよいか?…」
「我らに名を与えていただければ、主従の契約は完了です主」
魔人の言葉を聞いたロランは1体1体に名前を付けていく。
「汝は『バルトス』、汝は『マルコ』、汝は『クロス』、汝は『フェネク』」
「「「「我、主に永劫の忠誠を誓う者なり」」」」
ロランは、『どうやら、主従契約はこれで完了した』と思い、魔人達に人間の姿をする事と禍々しい雰囲気を出すことを止めさせ、行ってもらいたいことを説明していく。
「皆に行ってもらいたいことは、工場の管理です。具体的には、従業員の安全と健康の管理、商品の精度が落ちないようチェックと従業員に対する指示をしてください。」
「決して殺生はしないこと。これは必須事項です。」
「「「「畏まりました。主…」」」」
4人の魔人はロランの指示を素直に受け入れる。
すると『クロス』が名前と呼び方について尋ねてきた。
「失礼しますが、主の名と呼び方はどうすれば宜しいでしょうか…」
「なお、我らが工場を管理している間、主は何をなされているでしょうか…」
「あっ、私はロラン・スタイナー、呼び方はお任せします。皆に工場を管理してもらっている間、僕はドラゴンを倒しに行きます」
すると今度は『バルトス』がドラゴン討伐に参加すると言い出した。
「ドラゴンとの戦闘の際に、我らのうち1人を召喚いただければロラン様のお手を煩わせることなくドラゴンを滅します…」
「バルトスありがとう。でもドラゴンとの戦闘は監視されているし僕自身で行わなければ意味がないことだから…」
「御意。では、ロラン様、地形を把握するための魔物と移動用の魔物を召喚されてはいかがですか…」
「うん、ありがとう。早速召喚してみるよ。それと工場の管理を行ってもらうので給与は1月あたり大金貨1枚、あと必ず休息する事、常に人の姿でいる事、従業員に無理はさせない事、皆優秀そうなので2週間後ではなく今から工場の管理をお願いしますね…」
ロランは4人に指示を出すと担当の工場を地図で確認し、歩いて部屋から出ていき工場へと向かうのであった。
『業務の内容と状況を理解し提案を行ってくれる、人前では正体がばれないよう魔法を使用しない、なんて優秀なんだ…でも何で全員魔人なんだ』と考えていた。
その後、休日であることから1階に降りクレイグ氏とソフィアと共に昼食を摂る。
「ロラン君、本当にドラゴンを倒しに行くのかい?そんなリスクを払ってまで行う事ではないと思うのだが…」
「クレイグさん、心配してくれてありがとうございます。でも勝算はありますので大丈夫です。」
「レスター国王や上層貴族に対して『不敬罪を見直すよう』、商会連合が経済力を背景に王国上層部に対して要請する事だってできる…」
「ありがとうございます。でも誰かが命を懸けて多くの市民が見守る中で、レスター国王に『不敬罪見直し』を確約させることに意味があると思うんです。」
「命より大事なものはないと思うけど…」
「お父さま、ロラン様なら大丈夫です。きっと大丈夫ですわ…きっと」
変な雰囲気になってきたので、ロランは早々に昼食を切り上げ部屋に戻りしばし休息を取る。
休息を十分にいったロランは最速で飛ぶ鳥を強くイメージし召喚の詠唱を唱える。
「…我、古の契約に則り汝を求める者なり。顕現せよ…」
ロランの目の前に現れたのは、魔法の燕であり頭を垂れ、主従契約を待っている。
「…今日より、君の名は『ピロメラ』だ…」
「…ピロメラ、早速だけどエルドーラ山脈に行き、地形を覚えて私に伝えほしい。無理しないスピードで大丈夫あくまで偵察が目的だからね。宜しく頼んだよ…」
ロランが指示を出した直後、ピロメラは高速でエルドーラ山脈に向かっていく。
『…あとは魔法の馬を召喚し、ワーグの親方の工房で『大身槍』と『大盾』を製作する…』
ロランは考えが纏まるとクレイグ氏とソフィアに鍛冶工房に行くことを伝える。
ソフィアも一緒に行くと言い張るので、ロランはしょうがなく連れていくことにした。
ロランは、『魔法の馬』を召喚する姿を人々に見られないよう、裏口からソフィアを連れて出ていく。
「…ソフィア少し待っていてね。今、魔法の馬を召喚するから…」
「…はい、ロラン様。私がロラン様が召喚する馬に乗る『初めての女性』になるんですね…」
ソフィアはなぜか頬を赤らめる。
『ソフィア、何か勘違いしているようだけど…まぁいいか』
ロランは『最速の魔法の馬』を頭の中でイメージし召喚の詠唱を唱える。
「…我、古の契約に則り汝を求める者なり、顕現せよ…」
直後、ロランの目の前に栗毛で、タテガミと尾が赤毛、足先は黒毛で大変賢そうな大型のサラブレットが出現した。
ロランは元の世界の競馬史に名を刻んだ名馬を思い浮かべ、少し昔を懐かしむ。
「…今日より、君の名は『リルヴァ』だよ。さて『リルヴァ』、僕とソフィアが乗るまでじっとしていてくれかな」
ロランは先にリルヴァの背に乗るとソフィアに手を差し出し引っ張り上げ、鍛冶工房へと向かうのであった。
次回は・・・『第31話 竜覇者への道(2) ~戦闘 編~』
ロランとドラゴンの死闘が始まります。ご期待ください。