3話 教会での暮らし
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
藤木ことロランは、美しき女性の魔人が立ち去った後、身体が入る大きさの木の根を見つけ休息をとることにした。
ロランは背中を根の淵につけ斧がとれていることと、右足の太もも見て傷が治癒していることを確認する。
危機を脱したロランであったが、得体の知れない世界で生き抜かなければならない現実が待ち構えていることを思い起こし、声を出すことで孤独と不安を払拭するのだった。
「…なんとか生きのびることが出来た…」
「…この世界で生き抜くために、ここより安全と思える人がいる街にいかなくては…」
「…体力も限界だ…朝まで仮眠しよう……』
ロランは疲れ果て、眠り込んでしまう。
朝の凛とした空気と鳥のさえづり、枝の間から差し込む日の光でロランは目覚めた。
ここより、安全な街へ行くと決断した、ロランの行動は迅速であった。
鞄からハサミを取り出すと、ロランは若返り身長が低なったことでダブダブになったYシャツとズボンを裁断し、切れ端をブカブカになった革靴に押し込み、動き易くした。
ロランは休むことなく、古書やノート・シャーペンといった文房具や電卓、財布、腕時計、スマートフォンが入った鞄を仮眠をとった木の根の穴に埋めた。
この世界に存在しない物を持っていれば、中世ヨーロッパの魔女狩りのような目に合うかもしれないと考えたからであった。
ロランは鞄を埋め終わると空腹を我慢し街探しへと出発した。
サバイバル本の知識から、ロランは森の中では歩く時は常に方角を一定にしておかないと遭難することを知っていたため、木の根元に生えている苔を目印に歩いていく。
苔は、日当たりが悪い北側に生え易い、つまり苔が多く生えている方角が北だからである。
ロランは日が真上にくる昼まで歩きやっとの事で森を抜け、道を発見するとその道なりに歩き続けた。
『…舗装されていないが、この道なりに歩いていけば、いつか人に出会うはず…』
しばらくすると、前方より馬車が近づいてきた。
ロランは興奮しながら右手を高く上げ大きく左右に振り、日本語で全力で馬車に向かって呼びかける。
「…おーい…おーい…」
ロランは、やっと人に出会える安堵感から一気に気が緩み、その場で気を失うのだった。
周囲の雑音によって意識が覚醒し、ロランは寝ぼけながら瞼を開いた。
目の前には、人の良さそうな40歳中頃の男性とモデル体型の20歳前後と思われる女性が心配そうに覗き込んでいた。
ロランは男性の話す言葉が理解できず答えられずにいたが、人に出会えた安堵感で鳴ったお腹の音が勝手に答えた。
「…ぐぅー…」
ロランは空腹のあまり鳴ったお腹の羞恥心より空腹が優先し、必死に身振り手振りをし食事をしたいという思いを中年の男性と若い女性に伝える。
中年の男性と若い女性はロランが食事をしたいのだと理解すると、中年の男性が若い女性に指示し芋が入ったスープとガチガチのパンを運ばせた。
ロランは目の前のスープとガチガチのパンを口いっぱいに頬張りながら、あっという間にたいらげた。
『…ふぅー…満腹だ…』
と思いながらお腹を摩っていると急に腹の調子が悪くなり、ロランは必死に身振り手振りでトイレに行きたいことを伝える。
女性はロランがトイレに行きたいことを理解するとロランの手をとりトイレの前まで連れて行ってくれた。
ロランは急いでトイレの扉を開いた瞬間、強烈な臭いが鼻を襲ってきた。
恐る恐る、ロランはトイレの構造を確認するとトイレの床の真中には穴があり、その穴の底には糞尿が溜まった桶が設置されていた。
ロランは背に腹は変えられない状況であった為、扉を閉めると鼻を摘み用を足した。
用を足したロランは肝心なものがないことに気付いた。
『…あれ、トイレットペーパーはどこかな…』
何度も何度も確認するが、小さい箱の中に入った葉っぱしか置かれていない。
ロランは切ない気持ちを抑えつつ葉っぱを使用するのだった。
その後、ロランは身振り手振りで何とか必要最低限のコミュニケーションをとり続けた。
そして、奇跡が起こる。
2週間後、ロランは突如、会話を行えるようになったのである。
この奇跡は『理力眼』の能力により引き起こされたものであった。
"理力眼"が中年の男性と若い女性、同年代の子供達が話す様々なシュチエーションにおける会話を蓄積し日本語の文法や単語と多角的な視点で比較・分析し、この世界の文法と単語の意味を推察し蓄積していた。
さらに、"理力眼"は蓄積したこの世界の文法と単語を使用し、脳の言語野に記憶されている言語体系にこの世界の文法と単語を関連づけることで、会話を行うことを可能としたのだ。
ロランは、会話ができるようになり、自分が暮らしている場所が、フォルテア王国の子爵"カール・フォン・クレーブルク・ツー・カシューブ"領のオスロハイム地方に位置する農村の教会であることを知った。
また、中年の男性は神父であり名が"ウィルターナ・ブラウン"であること、若い女性はシスターで名が"エディッタ・メイヤー"であること、同世代の子供達は孤児である事も知った。
さらに、ロランは教会で過ごすなかで、この世界が中世のヨーロッパに酷似している事と誰もが魔法を使用できることを知り、改めて異世界にいることを再確認した。
ロランが、最も驚愕したことは、この世界における貨幣であった。
この世界の貨幣は、使用される金属の種類と貨幣に込められている魔力の量から価値が定められ、貨幣の保有者は貨幣から魔力を吸収することも出来た。
ただし、魔力を失った貨幣は"魔力印"が消失し貨幣としての価値が無くなるため、貨幣から魔力を吸収する者は王族か上級貴族あるいは豪商に限られていた。
貨幣に使用される金属は、銅、銀、金、ミスリルと銀の合金である【ミリニウム】が使用され、貨幣に込められる魔力の量は【魔力大量】【魔力中量】【魔力小量】【魔力微量】【魔力極微量】の5つに区分されていた。
一方、魔力量の区分は、【魔力大量】が成人が保有する平均魔力量の100人分に、【魔力中量】が10人分に、【魔力小量】が1人分に、【魔力微量】が0.1人分に、【魔力極微量】が0.01人分に相当する魔力が込められていた。
ロランは、貨幣価値が金属と魔力量の組み合わせにより9つあり、日本円で1億円に相当する額が流通されていることに衝撃を受けるのだった。
1クラド硬貨(日本円で1円)・・・・・・・純度の低い銅製で魔力極微量を含有
10クラド硬貨(日本円で10円)・・・・・ 純度の高い銅、魔力微量
100クラド硬貨(日本円で100円)・・・・・純度の低い銀、魔力極微量
1リルガ硬貨(日本円で千円)・・・・・・ 純度の高い銀、魔力微量
10リルガ硬貨(日本円で1万円)・・・・・ 純度の低い金、魔力微量
100リルガ硬貨(日本円で10万円)・・・・ 純度の高い金、魔力小量
1エルリング硬貨(日本円で100万円)・・・純度の低いミリニウム、魔力小量
10エルリング硬貨(日本円で1千万円)・・ 純度の高いミリニウム、魔力中量
100エルリング硬貨(日本円で1億円)・・・高純度ミリニウム、魔力大量
しばらくすると、ウィルターナ神父はロランの読み書きに対する習熟度が非常に高いことから、1ヶ月後に子供達に通わせている"エスペランサ"にある【カール記念学校】に入学することを決めた。
ロランは、トイレの桶を掃除しながら思いを巡らせるのだった。
『…カール記念学校に入学するまでに人生計画を立て役人か商人になることで自立できる道を模索する…』
『…あとは『理力眼』の能力の検証…』
『…それと、この世界における基本的な物理や化学法則の確認だ…』
・2019/02/28 異世界における貨幣を追記。
・2020/06/18 分かりづらい箇所の文書を修正。