29話 竜覇者を目指す理由
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
ロランは一人部屋でカントレアの勉強をしているとソフィアが部屋に入ってきてカフェに行こうと誘ってきた。
「…ロラン様、王立魔法学園はもうすぐ夏季休暇となります…カフェで皆と夏季休暇中のイベントの打ち合わせをしませんか…」
『…僕はカントレアの試験勉強をしていたのだが…』
と思いつつ、ロランはソフィアの誘いを快諾しカフェへと向かった。
行先のカフェは、ロランがクラウディア、ジェシカ、リーンの『ヴァイスローデン』の皆とクエスト終了後の反省会で頻繁に使用していた馴染みのカフェであった。
このカフェはカティス・ブリアン商会系列であり、ロランがカティス・ブリアン商会を大いに麗したので、毎回3割引のサービスが受けられる事も、お気に入りの理由となっていた。
カフェに到着し店内を席を見渡すと、既にアレックスとベンのほか行動を共にすることが多くなった公爵令嬢である『スティファニー・フォン・リックストン』と『アリス・フォン・トーニエ=スティワート』が座って待っていた。
ロランとソフィアもテーブルに座ると男女3名ずつでテーブル囲むこととなり、ロランにあることを連想させるのであった。
『…11歳と10歳のメンバーだけど、なんだか合コンみたいだな…』
と思っているとステファニーが話を仕切りだした。
「…では2ヶ月ある夏季休暇の間、このメンバーで何をするか1人1人考えて発表してください…」
するとアリスが建設的な話をし始めた。
「…ステフと私とアレックスさんは領地に帰省する予定があるから…」
「…まずは全員が集まれる日程を確認してそれから何のイベントをするか話し合いましょう…」
アリスは決して出しゃばらないがいつも建設的な話をするのでメンバーも一目置いている。
「…私とロラン様は一つ屋根の下で暮らしておりますから予定は一緒ですわ…」
とソフィアはなぜか最近、ステファニーとアリスをライバル視し、ロランとの親密さを事あるごとにアピールしてロランを困らせていた。
話が盛り上がっていた時、後方の通りから「…無礼者が…」という怒号が聞こえてきた。
あまりにも大きな声だったので、ロラン達は人垣を押し退け声のする方に向かうと獣人の女性が子供を庇い、屈強な衛士に鞭で叩かれる様子を目の当たりにした。
ロランは事情を把握するため周りの人達に状況を聞くと、獣人の子供達が遊びで腐った卵のぶつけ合いをしていていた際に誤って馬に跨っていた衛士に卵が当たってしまい、衛士が激怒していうとのことだった。
『…いくらなんでも鞭で叩くのはやり過ぎだ…』とロランは思い、止めようとした矢先。
ステファニーがロランを制止した。
「…ロラン、止めに行ってはいけません。あの衛士は王都近衛隊で最強の四天王の一人と言われる『デオン・フォン・バンデーレ』子爵です…」
「…それに不敬罪として罰しているのであれば、止めた方が不敬罪を妨害した罪で罰せられます…」
ロランは、元の世界で高校生の時いじめに合っていた友人を助けることができなかったを思い出し、法によって助けることができない不条理さに怒りがこみ上げ、下唇から血が流れるほど唇を噛みしめた。
しばらくすると群衆から「…いい加減にしろ…もう十分だろ…」という声が上がってきたため、デオンは鞭打ちを止め「…無礼者が…」という捨て台詞を残し去っていった。
ロランは駆け寄ると背中の皮が裂け血が流れ出ている獣人の女性に治癒魔法をかけ治療を行った。
獣人の女性の背中は精神的なショックで気を失ったままであったため、ロランは休める場所に移動しようと女性を担いだ瞬間、急に女性の体が軽くなったので振り返るとジェシカが女性を持ち上げていた。
『…感情的になると理力眼と探知による警戒を忘れてしまう…』
と反省しながらも、ロランはジェシカ、クラウディアとリーンとともに、カフェ内の部屋へと獣人の女性を移動した。
ロランは獣人の女性をベッドに寝かせ部屋のドアを開けると、そこにはヴァイスローゼンのメンバーやアレックス、ソフィア達が集まっていた。
このメンバーはロランが怒りに任せてデオンを叩き潰しに行くことを思いとどませるために集まっていたのだ。
「…一般市民の子供が、遊んでいて誤って腐った卵を子爵に当てただけだよ…」
「…なぜ、こんな不条理が許されるんだ…」
とロランは怒りをあらわにする。
「…クラウディア、貴族であるデオンと一般市民である僕が戦える方法を何か知らないかい…」
「…僕はどうしてもこの手でデオンを叩き潰したい…」
するとクラウディアはロランにある競技会の存在を伝えた。
「…8月中旬に開催される王立武闘競技会にロラン君が出場できれば可能よ…」
「…だけど、参加条件の一つに成人という条件があるからロラン君は出場できないわ…」
とクラウディアは説明をし、どうしようもない状況に黙り込んでしまう。
皆もどうしてよいか分からず、しばらくの間沈黙しているとアリスが話し始めた。
「…勇者と共に『武』に関してあらゆる特権が認められる『竜覇者』になれば、年齢に関係なく王立武闘競技会に出場できるはず…」
「…アリス、その竜覇者になるにはどしたらいいの…」
「…ロランさんがドライスィヒ級、フンダート級、タウゼント級のいずれかのドランゴンを倒せばなれます…」
するとリーンは、ロランが間違ってもドラゴン討伐に向かわないように心配になり話に参加してきた。
「…ロラン君、これまで竜覇者になれた人は王国の歴史上6名、いづれも最下級であるドライスィヒ級のドラゴンを単独、もしくは5名のパーティで倒して竜覇者の称号を得ているの…」
「…それほど危険な事なのよ…」
ロランは皆が予想していた言葉を口に出した。
「…クラウディア、アリス、リーンありがとう。ドラゴンを倒して竜覇者の称号を得る…」
「…そしてデオンを王立武闘競技会で叩きつぶす…」
リーンはロランの事が心配で追加の説明をし何とか思いとどませるようとした。
「…ロラン君、竜覇者に挑む者は不正が行えないようドラゴンとの戦闘を冒険者ギルド長であるウルリカ・バイン・ダンマークの使い魔が戦闘の一部始終を監視することになるけど気が散らないかな…」
「問題はないよ…」とロランは即答する。
『…監視の目がある状況では雷魔法最上級の魔法ケラウノスを使用する事は出来ないな…』
と考えるもロランは思考を巡らす。
『…今の僕は6起源の魔法を行使できるし、元の世界の科学知識を活かした秘策も思いついたからなんとかしてみせる…』
とロランは心の中で繰り返し呟くのだった。
次回は・・・『第30話 竜覇者への道(1) ~準備と召喚 編~』です。