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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第1部 第2章 フォルテア王国 王都カント 編
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27話 出会いとリサイクルと

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 「ゴディアスよ…なぜ、お主が我に敗北したか分かるか…」


 「お前より『力』が無かったからだ…」


 「いいや違う。魔王とは"ただ醜い"というだけで人や妖精族、獣人に忌み嫌われ闇でしか生きることが許されなかった魔物達に慈悲の心で接し希望と癒やしを与えられる者であり、魔物達を守るため最強の存在であり続ける事ができる者こそが魔王なのだ…  」


 「塵と化し…お主がヴァルハラに送った者達に懺悔(ざんげ)しろ…ケラウノス!……」


魔人の"預言者"と思われる老人が2人の戦いを見守っていた魔人と魔物達に聞こえるよう高らかに叫ぶ…


 「あなた様こそ【エルゴラーゼ禁書第51章ならびにマグネリア魔導書第171章に記されし魔族と魔物を導く光の覇王】初代魔王ファストノヴァ様と同じ【陰と陽の理力】を持ちし我らが王、ロラ…」


 その瞬間、ロランは飛び起き額の汗を拭った(ぬぐった)


 『順調な時に限って変な夢を見るなぁ…』とロランは朝から憂鬱(ゆううつ)になる。


 ロランは朝食を早めに済ますと予定していた「製紙工場と石鹸・シャンプー・リンス製造工場』の視察に向かった。


 視察の内容は、木材チップを煮込んだ後の危険な黒い液体を燃料としてうまく再利用できているか、その黒い液体に生石灰(せいせっかい)を加える事で白い液体に変化させ"石鹸の原料"として再び利用できるよう設置した設備の稼働確認と従業員の健康状態を確認する事であった。


 具体的なリサイクル設備は、パルプを抽出するため木材チップを【海藻や草木の灰に水をかけて作成した灰汁(あく)】で煮込んで際にできる"黒液(こくえき)"を大型の蒸留器に集めて濃縮…


 木材チップと灰汁が入ったタンクを加熱する簡易ボイラー内に濃縮した黒液を霧状に噴射する設備であり、この設備により"黒液"を燃料として再利用できるようにした。


 また、ロランは濃縮した"黒液"を入れたタンクに生石灰を加えて"白い液体"に変化させ、その白い液体を木材チップを煮込む灰汁(あく)に混ぜる事で"石鹸の原料"として活用できるようにした。


 ロランは"元の世界の知識"で白い液体の成分が水酸化ナトリウムである事を知っていたからである。


 さらに、ロランは【カール・ウエンツ率いるバックス商会】と手を組み王都に広めていた複数の『かつどん』チェーン店から"廃油"を回収し"石鹸の原料"とするリサイクルも行った。


 揚げ物のカス等を網で濾し(こし)一斗缶に貯めておいたトウモロコシ油や菜種油等の廃油を2週間毎に馬車で回収後【石鹸・シャンプー・リンス製造工場】に輸送し、石鹸の原料として再利用するリサイクルを促進し廃油による環境汚染を無くした。


 ロランは、

 

 『元の世界ではリサイクルが卓越していた"江戸時代の暮らし"を女子大生達に教えていたからね…リサイクルを促進し環境汚染を無くさないと教え子達に合わせる顔が無い…』


と考えながらセレネー川に面した工場に向かい歩ていく。


 「こんにちわ!作業をしていて何か不自由なことや体調が悪くなるようなことがあったら聞かせてください」


とロランは従業員達に聞いて回る。


 『木材チップを煮込む時や石鹸を製造する過程で発生する蒸気は有害だからね…』

 『そのために高速回転するファンで吸い上げ、建物の3倍の高さの煙突から排出させる事で大気に拡散させているから問題はないと考えたけど大丈夫みたいだ…』


とロランは大いに安堵した。


 ロランは『あとは…工場に隣接して建てた託児所と寮を視察したら先週行くことが出来なかった冒険者ギルドに行き負傷者の治療を行おう…』と考えながら託児所と寮を視察しに向かう。


 ロランは、年齢・性別・種族に関係なく、また何らかの理由でホームレスになった王都の民を寮に住まわせ工場で働いてもらい、高齢で働けないものは0歳から5歳までの従業員の子供達の面倒を託児所でみてもらっていた。


 当然、給与は支給するのでホームレスから工場の従業員になった者は、ロランに大変な恩義を感じており、このような想いを持つ従業員は全体の3割を占めるまでになっていた。


 「エルダさん。こんにちわ。相変わらず、子供達に人気ですね…。」


 「まぁ、これはこれはロラン様。おかげ様で、このように目も見えるようになり子供達の笑顔も再び見ることができるようになりました…なにより"生きがい"ができて毎日つつがなく過ごせております…」


 このエルダはロランが王都から"おんぶ"してこの寮に連れてきた老婆であり、当初は目も見えず栄養失調でやせ細っていた。


 ロランは【ヒール】でエルだの目を回復させ寮に住まわせ、栄養ある食事と給与をだすことによって"生きがい"を持ってもらい心身共に回復させた女性である。


 「ところでエルダさん、あちらの御婦人は誰ですか?」


 「確か、サーシャさんという方で今月から週に1度、ボランティアで子供達の面倒をみていただいております…」


 ロランの視線に気がついたのかサーシャがロランに微笑みかけてきた為ロランはサーシャに挨拶を行い(おこない)にいく。


 「はじめまして、ロランと申します。この工場の出資者の1人です。この度はボランティアで子供達の面倒をみていただき感謝申し上げます…」


 「私は"サーシャ・フォン・ワグナー"です。私からするとロラン君とこの子達はさほど変わりはないのだけれど…」


 ロランは『11歳の少年が子供達の世話をしていただき感謝しますとは、おかしな言い回しをしてしまった…』と心の中で後悔した。


 「サーシャ様には痛いところをつかれましたね…」とロランは微笑みながらサーシャに話しかける。


 「ロラン君、意地の悪い事を言ってごめんなさい。でも、つい可笑しくて」


とサーシャは屈託のない笑顔をロランに返した。


 2人は一緒に笑いながら、託児所のテーブルで紅茶を飲みながら話し込む。


 サーシャの豊富な話題にロランは惹き込まれていった。


 「なぜボランティアに来ていただけるのですか?」


 「それは主人と私が建てた孤児院に毎月ロラン君が寄付をしてくれているからです…孤児院に寄付をしていただいているロランという殿方に会いたくなってしまって…」


 「サーシャ様が、あの孤児院を経営されていた方とは…」


 「まぁ、いけない。こんなに時間が経っていたのね。まだ話したいことが山のようにあるから、来週家に遊びにいらしてね…」


とサーシャはロランにワグナー邸までの地図を渡すと足早に帰宅するのだった。


 一週間後、ロランはワグナー邸を訪問しサーシャ自慢の庭園で庭園の中央に設置している白い丸いテーブルの椅子に座り紅茶を飲みながら話し込んだ。


 夕方になりヘスティア商会に戻ろうとするロランをサーシャは強引に引き止め"ロラン殿はワグナー邸で一泊します"との内容を記した手紙を使いの者に渡しヘスティア商会のクレイグのもとへ向かわせた。


 1時間後、「旦那様がご帰宅されました‥」と執事がサーシャのもとに報告に来る。


 しばらくすると神経質で強面(こわもて)の紳士が現れサーシャに話しかける。


 「この少年は誰かな?」


 「あなた失礼ですよ。この方は"私達の孤児院"に毎月多額の寄付をしてくれる御仁(ごじん)ですのに…」


 「それは失礼した…」


 「そうですとも…」

 

 ロランをよそに2人は話を弾ませていた。


 そんな中ロランは『先に挨拶をしなかれば失礼にあたる』と思い、2人の話の区切りが良い所で挨拶を行った。


 「お初にお目にかかります。ロラン・スタイナーです。サーシャ様には大変よくしていただいております。以後お見知りおきを…」


 「これはこれは…私は『エステベス・フォン・ワグナー・ツー・リベリック』です。宜しくロラン殿…」


社交辞令的な挨拶を済ますと3人は夕食を共にする。


 ディナー中に会話をする事はマナー違反であったが、3人は様々な事について語り合いながら食事を摂り、ディナー後もその勢いは止まらず延々と談笑が続いた。


 翌日、ロランは『ワグナー邸を後にし、あの方がこの王国の宰相なのか。気さくな方だな』と思いながらヘスティア商会への帰路についた。


 一方、エステベスは『あの少年が【ロラン】か。話題の豊富さ、商会連合と連携し数々の工場を建設していく手腕、あの歳で隙がない姿勢を保ち続ける胆力(たんりょく)、どれをとっても誠に恐ろしい逸材だが性格は悪くなさそうだ…』と思いながら窓からロランを見つめていた。


 ロランは魔法の実行が可能となる【クリスタルの|腕輪(ブレスレット)】をどのようにすれば手に入れることができるか思案を巡らせるのだった。

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