22話 王都でのスローライフ(1)~日常編~
最近、昆虫型の魔物退治のクエストが多く討伐した魔物の体から青や緑の体液が飛び散る光景が想定以上に精神的な負担となった。
その為、『ヒルデ迷宮』と迷宮近傍の『カリフ平原』におけるクエストの終了時間は午後2時前後としクエスト終了後はカフェで食事を摂りながら反省会を行うことが日課となっていた。
「本日のクエストの反省会をいつものカフェで行います。皆さん異存はなくて……」
いつものようにクラウディアは恒例のセリフを言い皆を連れカフェへと向う。
カフェに向かう前に『クラウディア・ジェシカ・リーン』は迷宮の入り口に設置されている女子専用の更衣室で普段着に着替えを行いロランはというと大木の後ろで着替えを済ましていた。
『男性冒険者にも……配慮は必要だよ……』とロランは心の中で不満を呟くのだった。
着替えを済まし、しばらく歩くと大通りに面した"センスが良く落ち着いた店構えのカフェ"に到着した。
一行はいつもの席に着くと早々に軽食とドリンクを注文し反省会を始める。
「いつもの事だけど、ロラン君はリーンを過剰に心配しすぎ……ロラン君は前衛なんだから、もっと私のサポートをしてくれないと困ります……」
クラウディアはパンを口に頬張りながら愚痴り始めた。
「それもそうだけど、盾役の私を完全にサポートする気ないでしょ!ロラン……」
クラウディアに便乗してジェシカもロランに愚痴り始めた。
さすがにこの流れはまずいと感じたロランは営業マンが使用するような微笑みでジェシカをなだめることにした。
「そんなことないよ。ジェシカの思い過ごしだよ……」
ロランの心のこもっていない微笑みに苛立ったジェシカは突拍子もない事を口にする。
「前から思っていたけど、ロランはリーンの事好きなんでしょ!明らかに対応が違うもの……」
「そんな事ないよ……ジェシカの思い過ごしだって。」
ロランがフォローしているにも関わらずリーンは空気を読まない発言をする。
「ロラン君、私のこと好きなんだぁ……何だか恥ずかしい……」
このリーンの発言で場の空気は一気に険悪となるも、そこに1人の救世主が現れる。
「おぉー、これはこれは、ロラン殿ではないですか。目も眩むほどの絶世の美女達と優雅に御食事ですか……そちらの方もなかなかどうして手が早い……」
何やら勘違いしたカティス・ブリアン商会会頭であるヨナスが声をかけてきた。
「ヨナス・キンケル会頭、お久しぶりです。"商会連合"会議以来ですね。なぜ、ヨナス会頭がこのお店に?」
「この店は手前どもの商会が経営しております……ご常連のようで誠に光栄でございます。」
「近いうちに『ヨナス会頭』が非常に興味を示されると思われる商品の販売依頼を"商会連合"に依頼する予定です。」
「その際は是非ご協力お願いします。それと本日知人が誕生日なのでこのあと宝石店の方に寄らせていただきます。」
「そうですか、ロラン殿の商品であれば必ず大量に販売できますからね。他の商会が手をこまねくのであれば我が商会でその商品の独占販売契約を結びたいものです……では本日の御食事代は私のおごりということでゆっくりご堪能ください……」
と言うとヨナスはテーブルを後にした。
しばらくすると、カフェから一代の黒い馬車が系列店の宝石店へ向かう光景をロランは確認する。
『高い宝石を勧められなければいいけど……高い食事になってしまった……』
とロランが考えているとクラウディアがヨナスについて尋ねてきた。
「先ほどの方はロランの知り合いの方なのか……カティス・ブリアン商会と言っていたけど、あの宝石商の……」
「ええ、"商会連合"会議で知り合いました。」
ロランの言葉を聞いてクラウディア・ジェシカ・リーンの3人は『ロラン君が成長したら絶対彼氏にする!』と心の中で固く決意するのだった。
ロランは反省会後、宝石店に訪問し10リルガ硬貨3枚(日本円で3万円)でエメラルドのネックレスを購入する。
プレゼントを購入したロランはその足で冒険者ギルドに行きサブリナの窓口の列に並ぶ。
しばらくしてロランの順番となるとサブリナが窓口にロランを呼ぶ。
「ロランさん、今日は普段着なのですね……よく似合ってますよ…いったいどのような御用でしょうか?」
「サブリナさんにお世話になっているので誕生日プレゼントを渡したくってつい…」
というとロランは魔法鞄から"おしゃれな小箱"を取り出しサブリナに手渡す。
サブリナは頬を赤らめロランに感謝の気持ちを伝えると喜びで涙ぐんでしまった。
ロランは涙ぐむサブリナをなだめると冒険者ギルドを後にし、レンズの精度向上や新しい武具の構想を打ち合わせるため鍛冶工房に向かった。
鍛冶工房に到着し工房内に入ると最近習慣になっている【作業台に両手と顎をつけながらダラダラ話す体勢】をとりワーグに対しゆるい口調で話し出す。
「親方、最近無理してないですよね……」
対するワーグもロランと同じように作業台に両手と顎をつけゆるい口調で返事をする。
「無理しとらんぞ……」
さらにロランは頭をゆっくりと左右に振りながら先程よりゆるい口調で話を続ける
「何か、面白いことありますか?」
対するワーグも頭をゆっくりと左右に振りながら先程よりゆるい口調で返事をする。
「全くないの。ロランはどうないだい……」
「全く無いです……」
このような不毛なトークをロランとワーグは最低でも1時間は行うようになっていた。
ワーグの弟子であるバイツは、そんなロランとワーグを見ながら、「『まるでじじと孫』だな……」と呆れた表情をしながら呟く。
その後、ロランはヘスティア商会に戻り夕食を済ませ足早に部屋に向かう。
ロランはベッドに横になりながら、新しい生活用品の開発に思いを巡らせ眠りにつくのだった……
次回は・・・『23話 王都でのスローライフ(2)~『石鹸・シャンプー・シャンプー専用リンス』製造編~』です。
ロラン、試行錯誤をして『石鹸・シャンプー・シャンプー専用リンス』を製造していきます。ご期待ください。
・2019/02/28・・・貨幣の名称を変更