21話 商会連合
ロランは、なぜワーグが『呪詛』を受けたのか考えていた。そして、こんなことをするのは商売敵ぐらいなもんだなという結論に達した。
「そういえば、クレイグ氏も一人勝ちは良くない。恨まれるからね。商売は薄利多売が一番揉めないからね…」と言っていたことを思い出した。
ロランはメリクス商会のフェリックス会頭に手紙で連絡を取り、ロラン単独もしくはワーグと連名で特許を取得し販売を委託している商品に関して製品の種類が多くなったため、ヘスティア商会、メリクス商会だけでなく他の商会も販売が可能にできるようし、多くの商会が利益を得られるようにしたいと提案した。
予想に反して、フェリックス会頭もロランの提案を受け入れ、知り合いの商会を王都に連れていく内容を記した書面をロランに返送した。
各商会が、王都のヘスティア商会に集結する日時は1ヶ月後と設定されたことから、ロランは各製品の工場建設をワーグと共に進め、改良した旋盤、レンズの生産で使用する金型やプレス装置を用途毎に建設した工場に設置していく。
工場は『ボルトとナット、ワッシャー、配管、バネ、各種弁『バルブ』・ギア『歯車』を生産する工場』と『眼鏡、双眼鏡、天体望遠鏡、配管用パッキンとプラスチック代替品を生産する工場』の2工場を建設した。
この2つの工場については、ヘスティア商会と共にロランも出資し、ロランとワーグの考えが通りやすいようにした。
仕事に携わる人が業務を行いやすくするため、椅子や作業台を多く用意し、工場が暗くならないよう窓ガラスは大きくし採光を多く取れるようにした。
人件費や就業規則は、商会が決める契約であったが、従業員の体調を考え、
「作業時間は1日6時間、1時間毎に10分休憩を取るようにし、昼休憩は1時間とする。給与の他、毎月洋服代として1リルガ硬貨3枚(日本円で3千円)を別途支払い、週に一度、カレーとパンを昼食に提供する制度」にしたいと考え、既に建設された工場も含めクレイグ氏に提案する。
既に建設された工場とは、ヘスティア商会で建設した『バトミントン・ヨーヨー・釣具等の趣向品を生産する工場』や『ヘルメット・シャベル・カラーコーン・トラロープ等の生活用品を生産する工場』、『ショック吸収機構付き馬車・マンホール・グレーチング等の製品を生産する工場』の3工場のことである。
「作業時間を6時間にし、1時間毎に10分の休憩をとらせ、昼の時間は1時間。給与の他に洋服代として銀貨2枚まで採用しましょう。」
とクレイグ氏は快く返答してくれた。
「既存工場で採光のため、窓ガラスを大きくすることはせず、天窓を付けていくことでいかがですか?
ただし天窓の費用はロラン君持ちということで…」
商売に関しては、クレイグ氏も冷徹な一面を見せる。
「それで十分です。ありがとうございます。」
満額回答ではないがほぼ要求通りのため、ロランとワーグは大変喜んだ。
1ヶ月後、ヘスティア商会の会議室に名だたる商会の会頭達が集結した。
「久しぶりですね。ロラン殿」
とメリクス商会のフェリックス・ライシャワー会頭が挨拶してくる。
「こちらこそ、お久しぶりです。フェリックス会頭」とロランも挨拶を行う。
その後、ヘスティア商会で会議を行うこともあり、クレイグ氏が会議を進めていく。
「この度は、遠路ヘスティア商会にお集まりいただき、心より感謝申し上げます。本日はこちらにいるロラン殿と本日は欠席しているワーグ殿が特許を取得した商品のライセンス契約と、可能であれば販売地域、品目の振り分けを行い、皆様方に利益が発生し商会間の紛争を未然に防ぐことを目的として会議を行います。」
と淡々と趣旨を説明していく。
「その前に、お互いのご紹介も兼ねて自己商会をお願い致します。」
「私が連絡を行った商会の方々やクレイグ殿、ロラン殿も私を知っておりますが、初めての会合ですので、メリクス商会の『フェリックス・ライシャワー』でございます。以後お見知りおきを…」
「では、クレイグ殿・ロラン殿、はじめまして。私はケレス商会の『モリッツ・ライトナー』です。以後、宜しくお願いします。」
「バロア商会の『ニコラス・ブルナー』でございます。ガラス工芸品を取り扱っておりますので、是非とも『眼鏡』・『双眼鏡』・『天体望遠鏡』の取扱を行いたいものです。」
「バックス商会の『カール・ウエンツ』でございます。手前殿は食品を主として取り扱っておりますのでロラン殿が開発した料理に使用する材料の製造・販売は我が商会にお願いします。」
「シレーネ商会の『デビット・エックハルト』でございます。我が商会は海産物と食品を取り扱っております。海産物から生産できる容器と食品に関しては我が商会にお願いします。」
「エンタース商会の『デビット・エックハルト』でございます。ロラン殿がメリクス商会のフェリックス氏に依頼されております武具やその他全ての商品の取り扱いが可能です。フェリックスとはスッパリ縁を切り、我が商会に依頼をお願いします。」
「エンタースの古狸の言うことは気になさらないようにロラン殿…」
「何をメリクスの嘘つき狐が…」
「ごっほん…。ご静粛にお願いします。では次の方どうぞ」
「クレイグ殿、ロラン殿、お初にお目にかかります。カティス・ブリアン商会『ヨナス・キンケル』と申します。我が商会は宝石と金融業に長けておりますので、必要の際は御用命を…」
「皆様お初にお目に掛かります。オルディス・バンクで頭取をしております『フィン・アルト』と申します。融資が必要の際は是非とも我がバンクに御用命を…」
「シルバーサックスバンクで頭取をしております『ルーカス・ミッターマイヤー』と申します。豊富な預貯金があってこそのバンクであり、皆様のご希望に答えられるのは私殿でございます。以後、お見知り置きを…」
自己紹介が終わり、取扱地域と取扱品目、商品を生産する工場での労働者の取扱や給金について5時間ほど話し合いが行われ、何とか交渉が纏まったためロランは各商会とライセンス契約を行っていく。
欠席したワーグの権利はロランに一任されていたため、今回の会合で商売の基盤となる契約が全て纏まったことになる。
また、この商会連合におけるメインバンクは、「オルディス・バンク」、「シルバーサックスバンク」の2行とされ、預ける額面は各商会の判断に委ねることで妥協し纏まった。
なお、不定期であるが今後も商会連合による会議が継続して開催されることも全会一致で決定する。
「ロラン君、全くとんでもないことになってきたよ…」
「どうしてですか」
「それはね。王国にとって最大の商会連合が発足してしまったからだよ。こんなことは王国史上始まって以来、無かったことだからね。」
とクレイグ氏も高揚しながらロランに話しかける。
そのクレイグ氏の顔は、大きな仕事をやり遂げた安心感や達成感と疲労が入り混じり複雑な表情であった。
この日、『フォルテア王国』に発足された商会連合は、長きに渡り王国に対し強大な影響力を行使しすることとなる。
・2019/02/28・・・貨幣の名称を変更