18話 王都での製品開発 ~代替プラスチック開発~
ロランは1週間のうち3日間を冒険者稼業の日とし残り3日を製品開発に費やし1日は休息日とした。
製品開発は幅広い分野で需要が見込めるボルトとナット、プラスチックの開発を第一優先として取り組んだ。
しかし、ロランはプラスチックの製造は直ぐに諦める事にした。
この世界に石油が存在しているか不明である事とプラスチック生成までの化学知識を入手する手段がない事、不法投棄が広まりマイクロプラスチック被害がこの世界において広がる事を恐れたからであった。
そこでロランは方向性を変えプラスチックの代替品を開発することにする。
ロランは元の世界で書籍で読んだ『寒天と石灰・貝灰を使用したプラスチックの代替品』の製造手法を思い出したからであった。
先ずは材料集めに王都の市場に行き、天草か寒天あるいはトコロテンが販売していないか探し始めた。
同時にロランはヘスティア商会のクレイグに対し"赤い海藻"を取り扱っている商会または露天商はないか調査してほしいと依頼する。
2週間後、クレイグから【フォルテア王国】の南に位置する【メッサッリア共和国】と【クリシュナ帝国】に面したマルテーレ海より"赤い海藻"を取り寄せ販売している露天商が"寒天"のような素材を販売しているとの情報を得た。
ロランは直ぐに情報があった露天商の元を訪れ寒天を100リルガ硬貨5枚(日本円で50万円)で買い占めた。
寒天購入後、ロランは別の店で貝殻と石灰を購入すると、部屋に戻り様々な配合を試した成果が実り"薄いビニール袋に似た袋とコップ容器の製造"に成功する。
その後、直ぐに寒天と石灰を使用した"薄いビニール袋とコップ容器、フリスビー型に製造した製品"に加工した代替プラスチック製品をを特許審査にかけ見事特許を取得する。
代替プラスチック製品の製造と特許取得に成功したロランはボルトとナットの製造に着手する。
当初、ロランは旋盤を使用したボルトの作成を検討し旋盤を操作できる人物を紹介して欲しいとクレイグに依頼するとロランはクレイグに笑われる。
元の世界以上に、この世界では旋盤の操作は紳士の嗜みとされており驚くことにクレイグも旋盤を所持し操作できたからであった。
その事実を知ったロランはクレイグに旋盤の操作を行って欲しいと頼み込みクレイグの旋盤操作を観察する。
『理力眼』を使用しクレイグの旋盤操作を観察したロランは旋盤の操作技術を取得しボルトの作成に成功する。
ボルトの作成に成功したロランはボルトに十字の切込みを加え簡易なタップを作成する。
次にロランは作成したタップをボルトより柔らかい鋼で製造したネジ穴の無いナットの下穴に押し込み、油をさしながら回転させる事でネジ穴を作成していく。
何十回の試行錯誤の後、何とか1セットのボルトとナットの製造に成功し、特許審査にかけ特許を取得する。
その日、ロランはヘスティア商会のクレイグに交渉を持ちかけた。
「ライセンス契約について交渉させていただきたいのですが……」
ロランからの交渉の誘いに大規模な商売ができる予感をもったクレイグは口元を緩ませ返事をする。
「ロラン君のその言葉一日千秋の思いで待っていましたよ……」
ボルトとナットの製造に成功したロランはその後急ピッチで多方面の製品を開発し特許を取得していく。
『バトミントン、剣玉、ヨーヨー、釣具、ボール(魔物の睾丸製)、サンバイザー付きキャップ、寝袋』といった趣向品。
『ヘルメット、シャベル、カラーコーン、トラロープ、生ゴミを土に返すタンク、ロクロ』といった生活・工業製品。
『ショック吸収機構付き馬車、マンホール、グレーチング、各種弁『バルブ』、ギア『歯車』、フランジ、エルボ』といった工業・輸送製品。
ヘスティア商会のクレイグはロランと多様な製品のライセンス契約を締結し利益を急激に拡大していく。
ロランは製品だけでなく【料理】に関しても特許を取得していく。
現在、ロランは天然ゴムを使用したパッキンの特許取得を計画しヘスティア商会のクレイグに対して天然のゴムの木を探し出すよう依頼していた。
『特許取得済み製品のライセンス料は……王立魔法学園に入学している間の生活費と魔法の使用が可能となるといわれる"クリスタルの腕輪"落札の費用に充てよう……』
とロランは計画する。
その日の夕食、クレイグは突然ロランに話しかける。
「ロラン君、少しいいかな……」
「はい、なんでしょう……」
「ロラン君が王都に来てから5ヶ月、商品開発や冒険者業、冒険者ギルドでの治癒を頑張りすぎて……」
「精神的にも肉体的にも擦り切れているように見える……」
「……」
「ロラン君の人生はこれからだ……だからね……少し息抜きをしてはどうかな……」
ロランは『必要最低限の開発は済んだから一段落できるけど……』と考えているとクレイグは話を続けてきた。
「明日から一週間、息抜きとして娘のソフィアと王都を散策するように……」
「これは人生の先輩としての忠告だよ……」
「あの。一ヶ月ではダメでしょうか……」
思いもしていなかったロランからの発言には内心同意したくないとクレイグは娘『ソフィア』に意見を求めた。
「それは、別の意味で色々困るなぁ……ソフィアも一ヶ月は長いよね……」
「…いいえ、ロラン様となら一年でも少ないくらいです……」
「「………」」
ロランとクレイグはソフィアの器の大きさと大胆さを思い知った。
ロランは2階の部屋に上がり窓を開けた後ベッドの上で横になる。
窓からは心地よい風と共に人々の声も流れてくる。
『この世界に来てから5年6ヶ月も経ったのか……長いようで短かかったな……』
『王都に来てからはクレイグさんやソフィア、『ヴァイスローデン』のメンバーや冒険者ギルドの皆に出会えて自分の居場所も出来た……」
『明日はソフィアとデートか……』
ロランは、小気味よい風を体に感じながら眠りに着くのだった……
・2019/02/28・・・貨幣の名称を変更