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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第1部 第2章 フォルテア王国 王都カント 編
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17話 パーティの真価

 ロランは朝7時にヘスティア商会を出て【ヒルデ迷宮】へ向かった。


 8時20分には迷宮の入り口に到着し、いつものように魔法鞄から装備を取り出し身に纏っていく。


 装備を全て身に纏い皆の到着を待っていると左手を振りながらリーンがやって来た。


 「ロラン君、お待たせ致しました…待ちましたか…」


と屈託のない笑顔で話しかけられたので、ロランは笑顔に吸い込まれそうになりながらもリーンを気遣い


 「いえ、ちょうど装備を装着し終わったところです…」


と優しい嘘をつく。するとリーンは『まぁ…おませな子…』と思いながら、


 「本当ですか~?もう少しでクラウディアとジェシカが来ますからね…それまでは二人っきりですね…」


とロランの"うぶな反応"を引き出すよう思わせぶりな態度と話をした。


 ロランは『本人は意識していないのに男心をくすぐる小悪魔タイプの()って本当にいるんだな…』と思いながらリーンの装備をチェックした。


 リーンの装備は予想以上に手入れがさえているもののあまりに古い事が気にかかった。古い装備は破損し易く魔物との戦闘中に破損すればヴァルハラに直結するからである。


 リーンの装備について考えているとロランのもとにクラウディアとジェシカがやって来た。クラウディアとジェシカは朝だというのに活力にみなぎっている。


 時間になるとクラウディアはパーティのリーダーらしく


「皆、準備出来ているみたいね…本日は新生【ヴァイスローデン】初のクエストとなります…ターゲットは幾多のパーティをヴァルハラに送り続けている"ソルジャーオーク"10体です…では行きましょう!」


と皆を活気づけると迷宮の奥へと進んでいく。


 階層を下っていき、今回のターゲットの縄張りである8階層に到着した。


 迷宮内は"光る苔"が群生しており松明がなくても視野を確保できる冒険者達にとって有難い迷宮となっている。


 クラウディアとロランは"剣士"としてジェシカは"盾役"として前衛に位置し、リーンは後衛に位置し弓と魔法で前衛をサポートするスタンダードなフォーメーションを保ちながら前進していく。


 しばらく進むと前方に古びた建物が見えてきた。


 建物の周囲は柵で覆われており、2体のソルジャーオークが見張りをしていた。


 その古びた建物の中から、わずかだが若い女性の悲鳴が聞こえてくる。


 女性の悲鳴を聞いた瞬間ジェシカは"カッ"となり飛び出そうとするがクラウディアが腕を掴んで静止させ、リーンに弓で見張り役のソルジャーオークを射るよう指示した。


 「…突風(ラファール…」


 リーンは2本の矢に風属性魔法をかけ弓弦(ゆづる)に引っ掛け限界まで引いて放った。


 放たれた矢は肉体だけで放つよりも数倍の速度を出し、矢本体を弾丸のように回転させることにより"ぶれ"を無くし命中精度を高め、標的の眉間目掛けて飛んでいく。


 眉間の間を射貫かれた"ソルジャーオーク"2体が倒れたことを確認し、クラウディアの合図に合わせ建物に近づいていく。


 すると外の異変に気付いたのか。建物の中から複数のソルジャーオークが巨大な斧を持って出てきた。


 ソルジャーオークの数は5体でありパーティを見つけると我先にと駆け出してくる。


 ソルジャーオークを十分引き付けるとジェシカが土属性魔法を発動させた。


 「地面槍(アーススピアー)…」


魔法の発動と共に地面から先が尖った円錐状の岩が無数にせり出しオーク達を串刺しにしていった。


仕上げは剣士の役目とばかりにクラウディアがロランに号令を出す。


 「ロラン、行くわよ…」

 「…了解です……」


クラウディアとロランはまだ息のあるソルジャーオークに止めをヴァルハラに送りつつ建物目掛けて突進していく。


想定外のことだったが建物の扉から、さらに5体のソルジャーオークが飛び出てきた。


ロランは『ソルジャーオークは10体のはずでは…既に12体はヴァルハラに送っているが…』と思いながら、想定外の出来事が発生するのは迷宮では当たり前とばかりにクラウディアとロランは各々1体ずつソルジャーオークをヴァルハラに送った。


ソルジャーオーク3体の後方にロランが位置していたが"クラウディア"は構わず火属性魔法を発動させる。


 「炎大砲(ファイヤーカノン)…」


魔法の発動とともに直径1mの火の球が出現しソルジャーオーク目掛けて放たれた。


 ロランは魔法鞄から大盾を取り出し衝撃に備えた。


 「「「…ぎゃぁ…ぐぉお…うぉ…」」」


と前方から言葉にならない断末魔が聞こえてきたためロランは盾の上側に備え付けた小窓をづらし盾の内側から状況を確認した。


 目に入ってきたのはクラウディアが強化種と思われる巨体のソルジャーオークの拳で吹き飛ばされ、ジェシカがクラウディアを大盾で庇っている光景であった。


 ロランは自身に【強靭身体(コールジュール)】をかけると一気に間合いを詰め、強化種であるソルジャーオークに斬りかかる。


剣と斧の激しい打ち合いの中、ロランは一瞬の隙をつきソルジャーオークの左膝を目掛けて前方から渾身の力で蹴り込んだ。


ソルジャーオークの足は関節が曲がってはいけない方向に曲がりバランスを崩したその一瞬、ロランは剣をソルジャーオークの眉間に突き刺しヴァルハラに送った。


 ロランは今までの攻撃により肋骨3本と複数の切り傷から流血していたため自身に【ヒール】をかけて治癒した後、クラウディアとジェシカの下に駆け寄り治癒魔法により治癒を行っていく。


「ふう。助かったわ。それにしてもロラン君の【ヒール】は他の【ヒーラー】の治癒魔法と比べると数100倍の効果があるわね…だってあれだけ深かった傷が跡形もなく消えているのですから…」


とクラウディアは呼吸を整えながらロランに話しかけてきた。


「ロラン、ありがとう」


ジェシカも素直にロランに感謝気持ちを告げる。


するとリーンが、


「…皆、休んでいる暇はないわ…建物の中にいる女性達を救出に行きましょう!」


と救出活動を促してきた。いつもは"おっとりしている"リーンであるがクエストの時は凛としている。


 建物の中に入るとソルジャーオークによって蹂躙された若い女性達と恐らく男性冒険者と思われる白骨が散乱しており胸をつくような異臭が漂っていた。


 ロランは『理力眼』で生存している女性を探し出し【ヒール】をかけて回復させていく。

 さらに魔法鞄から毛布と水が入った革袋を取り出すと回復した5名の女性に配っていった。


5人の女性が落ち着いたところでクラウディアが


「悲しいけど体力的な事を考えると地上には生存している5名の女性だけを連れていくことにします…ごめんなさい…遺体は冒険者ギルドに知らせて後日運んでいただきましょう…」


と今後の方針を説明した。


 クラウディアの判断は冷静で適切であったため誰も反論せず、生存者の女性5名とソルジャーオーク12体を討伐した証として耳を切断し持ち帰った。


 『課題は多いけど連携がとれていていいパーティだ…』とロランは思った。


 どのパーティも討伐をためらっていたソルジャーオークの討伐に成功したことで【ヴァイスローデン】のパーティ名は武勇の面でもギルド内に広まっていった。


 ロランがパーティに参加してから早くも2週間が経過していた。


この日もパーティでクエストを行い『前衛が能力を十分に発揮するためにも後衛であるリーンの能力を強化しないといけないな』と痛感したロランはクエスト終了後リーンに話かけた。


「リーン!これから一緒に食事に行きませんか…」


リーンはロランを揶揄う(からかう)ように、


「私だけでいいの…」


とまんざらでもない表情で"ふんわり"と返事をした。


「はい、リーンだけで…何かまずいことでも…」


とロランが答えるとリーンはロランを揶揄うのを止め一緒に食事に行くことにした。


 ロランは行きつけの宿屋でリーンと食事をしながら『理力眼』の能力を使用し『リーン』の3サイズやフォルムを計測していく。


 一週間後、クエスト開始前にロランはリーンにミスリル製の細長い剣と可動性に工夫を凝らしたソールレットとパウレイン、バックプレート付きのプレートアーマー…


 …ミスリル製の軽く丈夫な弓、背中に装備でき重さを感じないほど軽量で強靭(きょうじん)な細長い盾をプレゼントした。


 パーティ名である『白き薔薇(ヴァイスローデン)』にマッチするよう装備品は全て白を基調としアクセントとして赤い薔薇(ばら)をイメージした流線を入れたデザインに統一した。


 リーンが喜んでロランを抱き締めていると新品の装備を持ったリーンを見たクラウディアは顔を引き攣らせ(ひきつらせ)ながら


 「ロラン君…【ヴァイスローデン】には美しい薔薇が後2本ありましてよ!!」


と話しかけてきた。ジェシカに呼応するかの如くジェシカも


 「ねぇ…ロラン…私には薔薇は似合わないってことかしら!!」


と機嫌が悪そうに話しかけてきた。


ロランはリーンの装備があまりに古く危険なため新たな装備を製作したと説明した後で、


 「クラウディアとジェシカの装備は古くないし新しくする必要はないと思うのですが……」


とのロランの説明になど既にクラウディアとジェシカの耳には届かなかった。


 2人を説得することを諦めたロランは、


 「どんな装備をご所望でしょうか。お代はいただけるのでしょうか…」


と2人に尋ねるとクラウディアとジェシカは示し合わしたかのように


「「…リーンには"プレゼント"したんでしょ…」」


との言葉でロランは製作費を要求することを断念し項垂れた。


 項垂れる(うなだれる)ロランをよそにクラウディアとジェシカは、希望の装備をロランに伝えていく。


 翌週、ロランは疲れ果てた表情をしながら、クラウディアとジェシカに白を基調にアクセントとして赤い薔薇をイメージした流線を入れた装備一式を手渡した。


 【理力眼】の能力で【突風(ラファール】【地面槍(アーススピアー)】【炎大砲(ファイヤーカノン)】の魔法を新たに取得できたけど割に合わないような気がするとロランの不満は高まっていく。

 

 ロランは『…結局どの世界でも最も悩ましい事は人間関係に変わりないんだね…』と心の中で呟くのだった。


次回は・・・『18話 王都での製品開発』です。

ロラン、急ピッチで製品を開発していきます。お楽しみください。

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