15話 交渉上手な異形なる黒甲冑の冒険者
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
ヘスティア商会を出たロランは、王都の冒険者ギルドに向かって歩いていた。
冒険者ギルドへの道はクレイグに教わっていたので20分ほどで辿り着く。
ギルドにいる大半はプロレスラー並みの体型の上"殺気を出す必要もないのに無駄に殺気を出す"癖のある者達であったがクエスト紹介の窓口に並ぶ列は綺麗であり、どことなく品を感じた。
ロランは『…元の世界の銀行に似ているな…』と思いながら窓口を選択する。
ロランはテキパキと作業をこなす20代前半と思われる女性の窓口を選択し順番待ちの列に並んだ。
「はい、次の方…私は"サブリナ・カッソー"と言います…」
「…この度は冒険者登録でございますか。それともクエストの紹介をご希望でしょうか…」
ロランは想像以上にサブリナ口調が丁寧であったため少し動揺してしまったが、丁寧な対応には丁寧な対応をと心がけて質問を行った。
「…僕は"ロラン・スタイナー"と言います。エスペランサの冒険者ギルドではFランクの冒険者として登録されていた者です…」
「…王都の冒険者ギルドでも引き続きエスペランサのライセンス証を使用して問題ないでしょうか…」
「…それとクエストを紹介して頂きたいです…」
ロランは年相応でない口調で質問を行ったためサブリナにひかれてしまった。
それでも愛想のよいサブリナは丁寧な口調でロランの問いに答えていく。
「…エスペランサの冒険者ギルドで作成されたライセンス証はそのまま使用できます。しかし、王都発行のライセンス証に作り変えていただくと王国内の全ての迷宮への入場料が無料となるため、お得です…」
「…さらに、迷宮内で負傷した際の治療費も無料となり、優先してクエストを紹介されるという特典もございます…」
通常の窓口担当者は、ここで話を打ち切ってしまうのだが誠実なサブリナはメリットだけでなくデメリットも説明してくれた。
「…反面、ギルドの運営を持続していくため年間登録料として1エルリング硬貨1枚(日本円で100万円)を御支払いいただく必要がございます…」
「…もしくはハントした魔物の売値から、年間登録料に到達するまで天引きされることとなりますが、どうなされますか…」
と尋ねてきた。
ロランは『…選択肢が一括払いか分割払いの2択しかない"ダブルバインド"を使用してくるなんてサブリナさんは見た目によらずやり手だな…』と思いながら、直球の質問を行った。
「…つまりは、王都の冒険者ギルドが発行するライセンス証を持たない冒険者は、事実上クエストは紹介されないということでしょうか…」
サブリナは少し考えながら、
「…そのようなケースになりうる場合もございます…」
との直球の回答であったため、ロランは今度は変化をつけた質問を行った。
「…随分、ストレートにおっしゃるのですね…」
「…では王都の冒険者ギルドでライセンス証を発行しても、1エルリング硬貨1枚を支払わず、魔物の売値から年間登録料を天引きされずに済む方法はあるのでしょうか…」
サブリナは『…この子、見た目によらず機転が利く子だわ…』と思いながら、
「…治癒魔法で負傷した冒険者を100名程度治癒いただくという方法がございます…」
「…治癒魔法を使用できる方は少なく、使用できる方は直ぐに複数のパーティが破格の値段で勧誘してしまいますので、ギルド直轄のヒーラーは少なく貴重な存在なのです…」
と切実な現状をロランに説明してきた。
ロランは『…どうしようか…』と考えるも、サブリナが気の毒になり余計な発言をしてしまった。
「…では年会登録料ある1エルリング硬貨1枚を御支払いしますので、年間登録とライセンス証の発行をお願いします…」
「…ただ、私が時間に余裕がある時に無料で負傷した冒険者を治癒魔法で治療しますので、優先して良いクエストを紹介していただきたいのですが…」
ロランが"治癒魔法"という言葉を口に出した途端、サブリナが急に慌てだしロランにその場にとどまるよう頼みこむと奥の部屋へと向かって行った。
「…少し…少しお待ち下さい…只今、上司に確認して参りますので…」
しばらくすると、サブリナは上司であるギルド副長の"ビステイン・ハロルド"を引き連れ戻ってくると話を再開した。
「…こちらは当ギルドの副長であるビステインです。ビステイン副長から直接お話しがあるとの事ですので同席をお許しください…」
ロランは怪訝に思いながらも同席を認めた。
するとビステインはロランに対し年会登録料を無料にする交渉をもちかけてきた。
「…ロラン殿、年間登録料を御支払いの上、無料で治療いただけるというのは誠の事でしょうか…」
「…宜しければ、年間登録料の御支払いは結構ですので100名の冒険者の治療をご依頼したいのですが…」
ロランは時間を拘束されたくないので、正直にその考えを伝えた。
「…すいませんがお断りします…僕は治療したくない冒険者には治療したくありません…」
「…何より時間を拘束されるのは好きではありませんから…」
「…ただ、僕の時間のある時に治療を行っても100名以上になると思います…」
これ以上勧誘しても無駄と判断したビステインは、ギルド長に話を伝えるとし席を外すのだった。
「…分かりました。ロラン殿の崇高なお考えギルド長の"ウルリカ・バイン・ダンマーク"に伝えておきます…」
「…サブリナ、後を頼みます…」
ロランは、魔物であってもただ魔物という理由で命を奪いたくない事をサブリナに告げ、人間をヴァルハラに送った魔物のみを退治するクエストを複数紹介してもらった。
日も暮れていたので、ロランはヘスティア商会に戻りクレイグとソフィアと夕食を共にする。
教会では食事中の私語は許されなかったが、クレイグとソフィアとの夕食はその日あった出来事を皆で話しながらの食事であり、温かく楽しい食事であった。
次の日、ロランはクエストを遂行すべく【ヒルデ迷宮】へと向かう。
【ヒルデ迷宮】に到着するとロランは魔法鞄から"フルフェイスヘルメット"のようにシールドを開閉でき形状を古代ローマ軍様式としたガレア(西洋甲冑の兜)を被った。
その後、バックプレート付きプレートアーマー、角が着いたポールドロン(肩甲)、アッパーカノン(上腕)、肘当てにガントレットを装着。
さらに、腰当て、尻当て、草摺(紋章付き)、グリーブ付きパウレイン(膝当て)とソールレット(鉄靴)を装着するのだった。
5年間、鍛冶の親方であるワーグとともに試行と改良を繰り返し、軽量で鋼の数倍の強度を持つ"ミスリル"をふんだんに使用し、全ての動きにおいて可動を阻害しない工夫を加えた逸品の装備を身に纏い【ヒルデ迷宮】に踏む込んでいく
無論、これらの装備はワーグととともに特許を取得しており実戦での"性能テスト"も兼ねていた。
5年間、精神と肉体を研ぎ澄まし体術・剣術を体得し『理力眼』とわずかだが魔法を使用でき至高の装備で身を固めたロランは、多くの人々をヴァルハラに送ったゴブリン3体とオーク1体を仕留め魔法鞄に詰めていく。
ロランが使用した剣は刃に硬いミスリル鋼、芯は鋼柔らかな鋼を使用し、何度も叩くことで不純物を取り除き、焼き入れ焼き戻しを行い強靭に鍛えあげた業物である。
そのため切れ味は凄まじく、加えて強靭身体による肉体強化と剣技の相乗効果により、ゴブリンとオークはまるで豆腐を包丁で切るかように、何の抵抗もなく一瞬で胴体を切断されていった。
ロランは、異様な黒き装備とボルネオトライバルタトゥーに似たデザインをダークレッドで装飾したいでたちのまま、冒険者ギルドに行きクエスト完了の報告を行うのだった。
その後もロランは、人々をヴァルハラに送った魔物退治のクエストのみを選択しては確実に魔物を仕留め、負傷した冒険者がいれば無料で治癒魔法で治療を行った。
異様な装備と、確かな実力、魔物に対しては非情であるが負傷した冒険者に対しては無料で治療を行う少年の冒険者がいるという噂話は瞬く間にギルド中に広まっていった。
ロランの噂がギルド内で広がり始めた頃、ギルド近くのカフェの中では金髪でブルーの瞳を持ち冒険者ギルドの女神と称されるヴァイスローデンのリーダーである『クラウディア・エルン』が報告書に目を通し、
「…この子に決めたわ…」
と呟くと紅茶を口に運ぶのだった。
2019/02/028・・・貨幣の名称を変更