14話 下宿生活の始まり
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
ロランは王都へ向かう途中、森に隠しておいた『ノート、ハサミ、シャーペン等の【筆記用具】、電卓、定期券、腕時計、スマートフォン等の【科学文明を感じさせる製品】、眼鏡や財布』を掘り出し、魔法鞄に格納した。
既に異世界に転移した際に身につけていたワイシャツとズボン、鞄は魔法鞄に格納していたので、
『はぁ…何とか元の世界の所持品を全て回収することができた』と思いながら"はぁ"とため息をついた。
『あれから5年以上経つのによく誰にも見つからずに済んだものだ…」と感慨にふけりもした。
王都『カント』まではまだ10日かかった。
道中、野宿をしたり小さい宿場街では一番安い部屋に泊まりながら王都を目指す。
10日後、ロランは前方に城壁が見えると『王都は城郭都市なのか…エスペランサとは比べ物にならないや…』と思いながら、街の大きさと今後への期待に胸を躍らすのだった。
城壁に興味を抱いたロランは理力眼を使用し城壁を解析した。理力眼の解析力はすさまじく、壁の高さが平均7mであること、材質は加工し易い砂岩と硬く加工しにくい花崗岩であることが分かった。
をに辿り着いた。街は『理力眼』で測定すると7mほどの高さの壁で防御された『城郭都市』であった。
城壁の石は正確に長方形や正方形に加工され組まれていたため、『本当は日本の城で用いられているような"自然の形をそのままに"組み合わせていく野面積みの方が強度があるんだけどな…」と思いながら、都市に入るため審査待ちの列に並ぶ。
エスペランサの街には人間しかいなかったので忘れていたが、この世界は『異世界』であり獣と人間のハイブリッドである【獣人】や…
強大な魔法や魔力と引き換えに召喚をされなくても肉体を維持し続ける事が可能となった"エルフ"や"ドワーフ"といった【妖精族】を審査待ちの列で見て不思議と納得すると共に感動していた。
ロランの順番となったので審査を行う城壁内に設けられた審査室に入ると腹の出た中年の衛士が1人、中年の衛士を護衛する衛士が2人がおり、中年の衛士がロランを席に座わらせ審査を始めた。
「身分を証明するための書類を提示し、入都市料として100リルガ硬貨1枚(日本円で10万円)を支払うように…」
ロランは『随分、傲慢な態度だな…』と思いながらも、魔法鞄からエスペランサの冒険者ギルドで作成したFランクのギルド証と100リルガ硬貨1枚を取り出し机の上に置いた。
「ほう、その歳で冒険者に登録するとは立派だな…ところでカントへはどんな目的できたのだ…」
と中年の衛士は業務に必要な事項を尋ねてきた。ロランは即答する。
「はい、王立魔法学園へ入学しに参りました…」
すると衛士はロランに対し馬鹿にした態度で、
「今年の王立魔法学園の入学試験はとっくに終了しているぞ…」
と衝撃の内容を言い放った。
ロランは4月と9月、2度の入学試験のうち9月の入学試験に日程を定めていた為、
「…確か…9月にも入学試験が行われるはずですが…」
と引き下がらずに質問を行うと中年の衛士は説明をするのが面倒と言わんばかりの態度で、
「9月からの入学試験は3年前に廃止になっておる…金貨は返すから来年の3月にまた来るか…」
と言ってきたため、ロランは少し考えたのち入都市することを伝えた。
ロランの意思を確認した中年の衛士は、
「…入都市上の問題無し…行って良し!…」 "バン!…"
と言うと勢いよく入都市書類に判子を押し、ロランの入都市を許可した。
王都『カント』は人族や獣人、エルフやドワーフといった妖精族でごった返していた。
『わぁ…さすが王都だ。賑わっているな…それに道路が全面石畳で"糞や尿"が散乱していないぞ…』とロランは街の綺麗さに感動する。
『そういえば、メリクス商会のフェリックス氏が王都に行ったらヘスティア商会のクレイグ・コンラート氏を頼るように言っていたな…』
『…取りあえず、ヘスティア商会に向かおう』と決めるとロランはフェリックス氏から渡された地図を片手にヘスティア商会へと向かう。
大通りはレストランや高級洋服店が立ち並んでおり一見するととっつきにくい感じを受けたが、裏通りは道が細かった。
細い道の両端には、果物屋や魚屋、パン屋に、飲み屋が所狭しと立ち並び、まるで熱気が渦巻いている"上野のアメ横"を連想させ懐かしさと共に一瞬で虜にさせられた。
数分ほど歩いているといい香りがしてきた。
特に用事もないロランはぶらりといい香りのする方向へ行ってみる。すると湯気が出ている"肉まん"を彷彿させる食品が売られていたので3個ほど購入する。
『3個で1リルガ硬貨1枚(日本円で1千円)はちょっと高いかな…王都でも紙袋を使用しないで布で包んで渡してくるとはやっぱり"紙"はよほど貴重という事なんだな…』と思いながら"はふっ…はふっ"と肉まんを頬張る。
その後1時間、地図を見ながらヘスティア商会を探していると【ヘスティア商会】と書かれた看板が前方に見えた。
ロランは扉を開けると憶することもなく商会の中に入りクレイグ氏を呼び出す。
「すいません…クレイグ・コンラートさんいらっしゃいますか…」
暫くすると部屋の奥から颯爽と40代の精悍な男性が出てきた。
その男はロランに対し
「どちら様ですか…」
と声は優しいが怪訝さを漂わせながら身元を尋ねてきたため、ロランは
「はじめまして『ロラン・スタイナー』と言います。メリクス商会のフェリックス会頭より王都で困った事が起きたらヘスティア商会のクレイグ・コンラート氏を頼るよう言われていた者です…」
「…フェリックスさんからの書状がありますので、ご一読下さい…」
と言うとロランは魔法鞄から『手紙』を取り出し、その『手紙』をクレイグ氏に渡した。
ロランから『手紙』を受け取ったクレイグは内容を読み出す。『手紙』を読み終えたクレイグは
「ロラン君と言ったね。王立魔法学園に入学するために王都に来たことは分かった…」
「…ロラン君もうちに来るまでの間に誰かに聞いたと思うけど、今年の入学試験は既に終了しているからね。来年の入学試験まで、うちの2階で暮らすといいよ…」
とロランを受け入れてくれた。
ロランはというと長期宿泊できる宿を紹介してもらうことを期待していただけなので、
「いいえ…そんなにして頂かなくて大丈夫です…長期宿泊できる宿を紹介して頂けたら嬉しいなと思って、ご挨拶程度に訪問させて頂いた次第です…そこまで迷惑はかけられないです…」
とクレイグの誘いを断った。
このロランの言葉と娘と同い年と思われる少年が気丈に振る舞う姿に胸を打たれたクレイグは
「遠慮しなくていいんだよ。ちょうど家の娘のソフィアも入学試験の日に体調を壊してね。来年、入学試験を受けることにしている…」
「…ロラン君が身近にいてくれたらソフィアも心強いし…何より優秀な発明者を放っておくほど私は商売ベタではないのでね…」
と冗談を交えながら、再びロランを誘う。
ロランは『長期宿泊できる宿が見つかるまでクレイグ氏に甘えよう…』と思い、クレイグに連れられるまま2階へと行き、部屋の鍵を受け取った。
『机にランプが置かれている。ベッドも備え付いているし、小窓の大きさもいい。何より雰囲気がいい…』と思った。
「気に入ったもらえたかな。」
「はい、とても…」
クレイグはいたずっらこのような顔をしながら、ロランに対し
「それは良かった…こちらも気に入ってもらえると有り難いが…」
というとクレイグの後ろからロランと同い年と思われる少女の背中を押しロランに挨拶をするよう促す。
「ソフィア・コンラートです。宜しくお願いします。ロラン様…」
とソフィアから自己紹介されたロランは返礼とばかりに、
「ロラン・スタイナーです。ソフィア、宜しくお願いします。それと『ロラン』と呼んでください…」
と短めの自己紹介をした。
荷物を部屋に置き一息ついたロランは、クレイグに王都の冒険者ギルドに行くことを伝えると"胸に大きな希望を抱え"冒険者ギルドへと向かった。
ロランとクレイグ、数奇な運命に導かれ出会ったこの2人は今後長い年月を付き合っていく事となるのだが、この時の2人はまだそのことを知る由もなかった。
2019/02/28・・・貨幣の名称を変更