11話 光万目石柱 ~特許審査~
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
この世界における特許審査はある意味画期的であった。
なぜなら、あらゆる国家の各都市には必ず"光万目石柱"呼ばれる高さ1.5mのクリスタル製オベリスクと、そのオベリスクを中心にクリスタル製の円柱が環状に配置された遺跡があり、そのクリスタル製オベリスクの上に開発した商品もしくは設計図を置くことで審査が行われる仕組みとなっていた。
また、クリスタルの円柱には"目"に似た形状の彫刻が施され、特許の審査を行う時に彫刻の中心が発光しまるで光る目のようであり、目に似た彫刻が多数あることから光万目石柱と呼ばれていた。
人が介在しないため利害関係による不正もなく、特許侵害を行った場合は特許侵害を行った者の氏名が空間上に立体表示され、異常気象となり農作物が不良となるため、特許侵害を行えない状態となっていた。
具体的には光万目石柱に特許審査殿に、開発した商品もしくは設計図を置き、空間上にホログラムで"特許可"という文字が浮かびあがれば、その商品の特許が認められた。
光万目石柱で特許可と表示された後は、各国の最高権力者の名で特許状が作成され、10年間の特許の権利が与えられた。
勿論、特許権利期間の間は模造品の製造販売はできない。
特許登録が行われた商品の販売は、"特許取得者が自ら販売する"か、"商品を販売する商会に特許権を売る"か、もしくは"商品を販売する商会とでライセンス契約を行う"ことにより販売が可能になろからであった。
この制約により、特許を取得した商品が貴重であったり、人気が高い場合は莫大な利益を得ることが可能となる。
そのため、商会は優秀な特許取得者を求め、特許取得者は販売力のある商会を求めるという、ある種のバランス関係が成立していた。
ワーグは、根が善良であるため改良パウレインを連名で特許申請してくれていた。
ロランはというと新たに靴磨きの際に糞尿が目に入らないよう昆虫型の魔物の眼を加工して作成したゴーグルを特許申請し特許取得に成功するのだった。
ロランは、御世話になっているブラームスにゴーグルをプレゼントすべく市場で横長の眼を持つ昆虫型魔物を購入する。
その後、ロランは教会に戻ると自分の小さい机の上で小刀を使用し、昆虫型魔物の加工にとりかかった。
眼の余分な部分をカットし終えると両端に革のベルトが通る細長い穴を開け、長さ調節可能とした革製のベルトを通しビスで固定する。
顔に接触する部分は、ゴムのように伸びる魔物の皮をにかわを使用して、眼の縁に接着させ【ゴーグル】を完成させた。
ロランが完成させたゴーグルは、絶対に糞尿が侵入してこない匠の出来栄えであった。
数日後、ロランは靴磨きの作業を行う前に、ブラームスへ手製のゴーグルをサプライズプレゼントするのだった。
「…師匠、いつもお世話になっているので靴磨き中に、目に糞尿の滴が入らないよう目を保護する道具を作ってきました…」
「…是非、使用してください…」
ブラームスは突然の事に驚いたが嬉しさを隠し、ロランに感謝の言葉を述べゴーグルを受け取った。
「…おっ、おぅ。ロランが折角作ってくれた物だからな使わせてもらうよ…」
ブラームスは、これ以上話すと泣いてしまいそうだったので、言葉が少なめのそっけない態度となってしまったが、心の底ではロランに深く感謝していた。
ロランもブラームスの顔を見て、満足してくれた事を確認でき心が躍った。
しばらくすると、羽振りの良さそうな男がロランを目指して近づき、靴磨きを依頼した。
男は腰掛け用の椅子に座ると"木下駄を付けたままの靴"を台に載せ、唐突にロランに質問してきたた。
「…君がつけている目を保護する道具は誰から購入したものかな…」
「…自分で作成しました…それに既に特許も取得しています…」
と答えると、男はロランに対し自己紹介を始めた。
「…私はモルダール領に商会をかまえる。メリクス商会のフェリックス・ライシャワーと言います…」
紳士的に名を名乗る男は、年齢は30前後、笑顔で話しているが瞳の奥は無風の水面のようにゆらぎがないポーカーフェイスの隙の無い男であった。
フェリックスは、話を続けた。
「単刀直入に言うと、君が目にかけているその道具をうちの商会で取り扱いと思っています…」
「…ついてはその道具の特許権利を10エルリング硬貨1枚(日本円で1千万円)で譲っていただきたいのですが…」
という不当な内容の交渉であった為、ロランは交渉を仕切り直した。
「…製造はあなた様の商会で、この商品の価値を下げないよう粗雑に作成しない…」
「…それと銘に『ロラン・スタイナー』を刻印しライセンス料は売値の30%でいかかでしょう…」
とロランは特許取得者の強みで吹っ掛けた交渉を始めた。
商人にとって『交渉』こそが己の存在意義を表現する場であるため、フェリックスはやり手の交渉相手が現れたと興奮が抑えられなくなっていた。
フェリックスも手練手管の交渉に入った。
「…いいかね。素材の収集、加工、販売にどれほどの人件費がかかると思っている…」
「…それに、商品を製造する工場も建築しなければならない…」
「…その条件では、こちらの旨味が無くなってしまう…」
ロランは様子見の質問をフェリックスが行ってきたと思い、本気度を試そうと交渉の打ち切りを口に出した。
「…では、この話は無かったことに…」
フェリックスは、予想に反しロランが交渉打ち切りに舵をきったため、慌てて条件を緩めた。
「…いやいやいや…早まってはいけない…」
「…ではうちの商会の基準の3倍に相当する売値の15%でいかがかな…」
ロランは、ここが交渉の大詰めと思い、妥協ラインと旨味を提示しフェリックスに契約を促した。
「…では売値の20%で、そのかわり今後も特許を取得した品を優先的にメリクス商会と交渉することを御約束いたします…」
「…この条件で決めてください。これ以上は一歩も譲りません…」
フェリックスは諦め契約を行うことにした。
「…分かりました。売価の20%で契約いたしましょう…」
トントン拍子で交渉が纏まり、支払い方法や銘の刻印方法などを定めた契約書に両名が署名することで契約を締結された。
ロランとメイクス商会の会頭であるフェリックスは、これから長い付き合いとなるのだが、この時のロランはその事を知る由もなかった。
特許品のライセンス料という新たな財源方法を見出したロラン。
ロランは希望を胸に抱き、残り2週間の夏季休暇を魔法と体術の強化に専念しようと考えるのだった。
・2019/2/28・・・貨幣の呼び名変更