8、孤独の旅
最終章 「孤独の旅」
この街である悲劇が起こった。
大商人の一族が続けざまに命を落としたのだ。
最初は長男親子、次に次男の家族と屋敷の人間、最後は三男。
唯一生き残ったはずの次男の娘は三男が殺された日に姿を消した。
噂では三男を殺した奴らにさらわれどこかに死体があるとか、、、
ある種の呪いのようなこの事件は多くの人を恐怖に陥れた。
夜警は強化され、自警団は毎夜見回りを行った。
しかし、この事件には謎が多い。
長男、次男の死については盗賊の仕業とみて間違いない。
だが三男の死は謎だ。
だれも屋敷に入った形跡はなく、衛兵も通した覚えがない。
ただ三男の自室には二人分の死体があっただけ。
それもどちらも原形ををとどめない醜い姿でだ。
喧嘩や揉め事ではあんな姿にはならない。
また次男の娘が住んでいた三男の別宅にも干からびた男の死体と首だけ切断された死体が見つかった。
その娘がそんなことでできるとも思えない。
街の人は口々に、あそこのお嬢様は綺麗で頭も良く、剣や馬も嗜んでいて、
よく私達に明るく挨拶をしてくれるとてもいいお嬢さんだった。と。
協会の人間は悪魔の仕業だとか、なにかの呪いだ、と騒いだらしいがバカバカしい。
随分と時間が経って、あの事件を調べているのはついに私だけになってしまった。
私の父は次男の屋敷の衛兵をしていた。
屋敷が盗賊に襲われた夜、父は娘のとこに伝令に向かったため命を落とさずに済んだ。
その後暇をもらっていた所、あんなことになってしまった。
父は3年前に病気で亡くなったが、その亡くなる瞬間まで、
「あの時お嬢様のそばに居れば、、、」
とずっと後悔していた。
そんなある日、一通の手紙が届いた。
手紙の内容は、あの事件について教えられる事がある。とのことだった。
私はすぐにその差出人の元に向かった。
「あたしゃね、あのお屋敷のメイドだったのさ。」
父から聞いたことがある、生き残ったのはお嬢様と父とメイドの3人だったと。
「あの日、お嬢様はあたしを無理矢理帰らせたのさ、”次は私だから、あなたを巻き込みたくない”ってねぇ。」
私は食い入るように話を聞いた。
「お嬢様はなんかわかっていたのかもねぇ、次の日の朝様子を見に行ったらお嬢様はいないし、死体があるしで、、、あたしゃどうしようもできなかったさ。」
その後も老婆の話は続いた。
どんな家族だったのか、どんな状況だったのか、、、
悪魔とか霊とかそういった話は信じていないのだが、憶測を立てるとすれば、こうだ。
・長男とその息子がこのまま頭首であることを良く思っていなかった三男は、長男親子を殺す機会を伺っていた。そうすればより仕事ができる自分が次男に変わり頭首になれると考えたからだ。だが事態は急変した。次男に息子ができたのだ。事を急いだ三男は金で盗賊や傭兵を雇い、長男親子を事故に見せかけ殺し、次男の屋敷の人間ごと襲わせた。たまたま留守だった次男の娘もその後襲わせた。だがその時、何らかの力、悪魔や霊、呪いのようなものにより自らも命を落とした。
最後が気に入らないが、このぐらいのほうが噂や言い伝えとして残りやすいのかもしれない。
記者としては三流もいいとこである、、、
妙に冷めてしまった私はこの事件簿を暖炉の火に放り込んだ。
あの記者の青年が去ってからあの時のことを思い出していた。
青年には悪いが本当の秘密は死んでも誰にも教えないだろう。
あの日お嬢様の朝食を作りに夜明け前に別宅に向かっていた時だった、
お屋敷の上に碧の髪と赤いドレスの女性、お嬢様がいるのをを見たのだ。
薄暗く、明かりもなかったので本当にそうかはわからない。
でもあれはお嬢様だったと思いたい。
どうか、お嬢様がどこか別のところで幸せになれるよう、祈ることしかできなかった。
あれからどれだけの月日が流れたのか。
違う時代、違う次元、違う世界。
たくさんの場所を訪れた。
一人で、果てしない飢えと渇きに耐えて。
人との交流はなかった。
私が近づけばそれだけで災厄が降り注ぐ。
そんな時なにかの声を聞いた。
化け物として忌み嫌われた私を呼ぶ声だった。
私を求める声?
私に人々のために戦えと言うのだろうか。
心に、魂に溜まった何かがスッと抜け落ちた。
椛 白雪(Momizi Sw)私はこう名乗ることにした。
ここでは力も必要ない、むしろあれほどあった力がほぼ出せない。
あるのは少しの吸血欲求と不死性、日光にも少しは触れられる。
時間は永遠にある。私の「幸せ」を見つける旅はまだ続きそうだ。
ある騎士団の風景
この世界では私は一人ではない。
仲間もできた。昔の私が大笑いしていそうだ。
私に仲間だなんて、、、
私の中のあの紳士の記憶も私にはある。
彼は一国を治める君主だった。
今の私を見て、彼は、ヴラドはなんて言うだろうか。
私を生かしてくれた、力をくれた彼のためにも、
私はこの幸せを大事にしなければならない。
この人たちなら私が呼びこんでしまう不幸や悲哀を弾き返すだろう。
それだけ「強い」人達だから。
だから今日も私は明るく居られる。
「皆さん、ごきげんよう。今日はどこに行きましょうか」