7、我が名は
第7章 「我が名は」
また夢を見た。いつもの真っ赤な夢。
一つだけ違っていたのは今夜は一人ではなかった。
目の前には青白い肌をした、紳士がいた。
「あなたは?」
その紳士は静かに答えた。
「私はお前だ。お前の中ももう一つだ。それも今日までだが。」
紳士は私に歩み寄るとこう続けた。
「私のせいだ。すべて私の招いたことだ。恨むがいい、全ては私のせいだ。」
別人のような悲しい声だった。
「いいえ、あなたのせいではないわ。」
勝手に口が動き、私の意志ではない言葉が紡がれた。
「あなたは私だもの。だったらそれは私のせいよ。私が人並みの幸せを手に入れてしまったから。」
「私は求める。また、あの言葉を口にするわ。」
鼓動が早くなるのを感じた。
「「力が欲しい。」」
私の頭の中に強い光が差して、駆け巡る。
ーーーそうだ、これが私だ。
幼い私が全てを壊す。目の前のそのすべてを。
目の前の口々がこう言う。
「化け物め!!」
そうだ、私は化け物だ。
すべてを壊し、砕き、殺し、奪い、犯し、、、
「ありがとう、あなたのおかげで私は生きてこれた。幸せも得た。でもここまで。」
目の前の紳士は、私の中に消えていく。
「最後に教えて、あなたは、あなたの名前は、、、」
「「我が名は、、、悪魔の子、ドラキュラ」」
自らの声に目を覚ます。
気配がする、男が3人。
近付いてくる、私の元に。
私は気付いていた。本能的に。
伯父様も従兄もお父様もお母様も弟も、、、
全て叔父様、、、奴が「やった」のだと。
奴から出る「死」の匂いが不快だった。
「ようこそ、遅かったじゃない、待ちくたびれたわ。」
扉を開けた男たちは一瞬驚くもすぐに襲ってきた。
先頭の男は剣を突き出しそのまま私に向かってきた。
私は躱さず、そのまま受け止める。
「ひさびさのご馳走ね、お礼に優しくシてあげるわ。」
その男に噛みつき、ゆっくり、ゆっくりと血を吸う。
男は声も上げられず、逃げることもできない。
どれぐらい時が経っただろう。
私には永遠のように感じても、彼らには一瞬かもしれない。
ただの肉塊になったそれを壁に投げつけ、腹に刺さった剣を抜く。
二人の男は呆然と立ち尽くす、いえ、立ちすくむ。
その剣を右の男に投げつける、と同時に首が飛ぶ。
部屋中に赤が降り注ぐ。
「ふふふ、あはははは!綺麗ね、綺麗よ、貴方。」
最後の男はそのまま走り去る。
、、、遅いわ。それで全力で逃げてるつもりなのかしら。
私はコウモリの群れへと姿を変えて追いつくどころか追い越し、前に立ちはだかる。
「わ、悪かった!俺たちはただ雇われただけなんだ!!」
そいつは聞いてもいないのに命乞いをはじめた。
「な、なぁ、頼むよ、見逃してくれ、、、あんたのことは誰にも言わねぇ、俺は何も見てねぇ!」
私は腰が抜け座り込むそいつに近付き、目線を合わせしゃがむ。
「そうね、貴方は雇われただけだものね、いいわよ。そのかわり、雇い主のところへ案内してくれるかしら?」
私はその男を抱え、奴の屋敷へ向かった。
私の力は完全に目覚めていた、吸血、変化、どれもあの時とは違う。
自らの力を試すように私は霧へと姿を変え、奴の部屋の窓から音もなく侵入した。
雇われた族は混乱しながらも奴の元に走り寄った。
「こ、こいつです!俺たちを雇い、頭首とあんたの家族を殺させたのは!」
奴は驚いた表情のまま固まっていた。
「そう、案内ありがとう。もうイっていいわよ。」
その瞬間、男の身体が膨らみ、弾ける。
血や臓腑が部屋中に飛び散る。
「さぁて、次はあなたの番よ?叔父様。」
私はお気に入りの真っ赤なドレスで奴に語り掛ける。
「ば、化け物め!!死ね!!」
そう言うと奴は部屋に飾ってある大斧で私に斬りかかる。
私の身体は左肩から大きく裂ける。
「、、、あら叔父様?化け物なんてひどいじゃない。」
ゆっくりと傷口が塞がる。
「自分の欲望のためだけに平気で兄弟を殺せる叔父様のほうが、よっぽど化け物よ?」
私は奴の頭を鷲掴みにする。
「ひっ、ひぃ、、、やめてくれ!カネ!金ならいくらでもやる!!家も!!全てをお前にやる!だから殺さないでくれ!!」
私は右手に力を入れる。
「きっとお父様もそうやって命乞いをしたのでしょうね、、、でもあなたはお父様を殺したのでしょう?だったら私がそれを聞く道理はないわよね?」
そのまま頭を引き抜く。
奴は「ひぎぃ」とか「べこっ」とか訳の分からない音をたてる。
頭から脊椎、背骨だけ抜けたそれを地面に放り投げ、踏み潰す。
「あぁ、、、お父様、お母様、どうか安らかにお眠りください。こんなことをしても喜ばれないかもしれませんが、仇は討ちました。私を娘としてこんなにも温かく育ててくれたことを感謝しています。」
私は屋敷の、家だった場所の上空で最後の挨拶を終えた。
急に血を喰らい、浴びすぎたのだろうか、背中の翼や指の爪、牙が戻らなくなってしまった。
私がいれば不幸が、惨劇が、まわりで起こってしまう。
もうじき朝日が昇る。こうなってしまった私では日光には耐えられないだろう。
「では、ごきげんよう、お父様お母様、、、」
翼に力をこめ、飛び立つ。
「我が名は、悪魔の子ドラキュラ!真祖吸血鬼ドラキュラだ!!」
頬に一筋の涙が流れるのを感じた。