5、悪魔の子
第5章 「悪魔の子」
「ハァハァハァ、、、!」
私は家に急いだ。
「お父様!お母様は!?」
勢いよく扉を開き、思わず大きな声が出た。
「こら、メイプル。レディがそんなに大きな声を出してはいけません。それに随分走ったでしょう?髪もお洋服も台無しよ?」
お母様が優しく微笑む。
産まれた。
お父様とお母様の実の息子。
お父様は普段絶対に見せないような泣き顔をしていた。
お母様はいつもと変わらず優しいお顔で弟を抱いていた。
お母様は難産だったようでかなり体力を消耗していた。
弟は乳母とお医者様が、お母様にはお父様が付いて夜を迎えることになった。
私は我慢できず、お父様とお母様の元に向かった。
部屋のドアを軽くノックする。
「お母様、よろしいでしょうか?」
お母様は少しつらそうな声で答えた。
「ええ、どうぞ。いらっしゃい。」
命の危険はないらしい。
少し体力的、精神的に疲れているそうだ。
「お父様、お母様、少し大切なお話があります。」
いつもと違う雰囲気を感じたお父様が少し構えた。
「どうしたメイプル、そんなに改まって。」
私はなかなか話し出せずにいた。
見かねてお母様が私の髪を少し撫でてくれた。
私は小さな声で、やっと話す。
「弟が生まれ、私がこの家にいてもいいのか不安になりました。お父様お母様には、私を引き取っていただいて、とても感謝しています。だからこそ私はお父様お母様と弟の生活を邪魔したくありません。」
話の途中、目から涙がこぼれるのを感じた。
「もし私がまだお邪魔ではないのであれば、どこか、嫁に出してください。できればお役に立ってこの家を離れたいんです、、、」
さらに続けようとしたとき、お父様に頬を打たれた。
「バカを言うな!お前は私たちの子だ。邪魔なものか。お前は良い姉になる。弟のため勉強をたくさん教えてやってあげなさい。それに私はお前を無理に嫁がせようなどと思ってはいない。お前はしたいことをやりなさい。商売をしたいのならば言いなさい。想い人ができたのならすぐに教えなさい。学問の道を進みたいのならそうしなさい。お前は私達の自慢の娘なんだ、、、」
お父様が涙を浮かべながら、打った私の頬を撫でる。
お母様が私の手を握り、手の甲を優しく撫でる。
私はなんてバカなことを言ったのだろう、、、
その後私は一層勉学に励んだ。
必ずお父様に、お母様に、恩を返そうと心に強く誓った。
お母様の体調も少しは戻り、弟も元気に過ごしていたある日一通の手紙がお父様に届いた。
それは伯父様と従兄の乗る馬車が谷底に落ちて、二人とも亡くなった。という知らせだった。