4、取り戻した幸せ
第4章 「取り戻した幸せ」
「お母様!ただいま戻りました!」
私は急いでお母様の元に向かう。
「おかえりなさい、メイプル。でもレディがそんなに走ってはダメよ?」
私がお父様とお母様の娘になって3年が過ぎた。
私は学校に通わせてもらい、思う存分勉強を楽しんでいた。
孤児院のころには習わなかったような、難しいこともたくさんあった。
けれど、頑張る度にお父様とお母様がたくさん褒めてくれた。
それが嬉しくて、いつのまにか学校で一番の成績をとってしまった。
勉強だけでなく、乗馬や剣術もお母様には内緒でお父様のお知り合いの元で習った。
この家に引き取られてから知ったのだけれど、お父様の家系は大商人の一族で、
お父様の兄、つまり伯父様を頭首にかなり大きな組織らしい。
そして、お父様とお父様の弟、叔父様の二人が現場、つまり直接交渉や売買をしている。
最初はまわりの人は私のことを良く思っていなかったみたい。
いきなり出てきて、大金持ちの娘なんて図々しい、とかなんとか。
けれどそんな悪口もすぐになくなった。
お父様曰く、
「お前のように勉学もできて、礼儀もあり、美人で、それに馬術、剣術もできるなんて誰に見せても、どこに出しても自慢の娘はいない。」
だそうだ。
でもお母様は「もう少し女の子らしく、おしとやかになってもいいのよ」が口癖になっている。
と言うのも私の病気はすっかり治ってしまった。
外に出ても、太陽の光に当たっても、まったく異常がない。
図書室の日陰で本ばかり読んでいたせいか、今では外でなにかする事のほうが多くなってしまった。
あの様子だと、秘密にしている馬術、剣術もお母様は気付いているのかもしれない。
最近ではお父様についてまわり、貿易、商売の勉強もしている。
といっても、社交界やお金持ちの集まりで挨拶をしてまわるほうが多い。
伯父様の息子、従兄はもう自分の船や隊商を持っていてすごく羨ましい。
「メイプル、少しこっちにきなさい。」
お父様に呼ばれ、お知り合いに挨拶をするよう促される。
「ごきげんよう、お目に掛かれてうれしく思います。」
ドレスを少し広げ、いつもより姿勢を落とす。
「いやはや、ご自慢のお嬢様とは聞いてはおりましたが、お美しいだけでなく、しっかりしてらっしゃる!」
こういった作法や所作の一つの失敗でお父様のお顔を汚すわけにはいかない。
普段は穏やかで優しいお母様が礼儀作法の事になると少し雰囲気が変わるのも無理はない。
学校とお父様の付き添い、そんな忙しい生活の中、大きな出来事が起こった。
お母様の妊娠がわかった。
お医者様にも、もう妊娠は無理だろう、と言われていた中のことだった。
私の妹か弟。
正真正銘お父様とお母様の実の子。