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3、緋色の少女

第3章 「緋色の少女」


「いいですか?今日は大切なお客様がいらっしゃる日です、皆さん粗相のないように!」

今日は一段と先生が張り切っている。

「「はーい」」


ここは孤児院、災害や盗賊の襲撃で親を亡くした子がたくさん集まる。

私も拾われてここに来たらしい、その時のことはあまり覚えていない。


「あら、スカーレット、今日も赤いお洋服なのね。」

私はあまり友達もいない。皆と遊ぶよりも図書室で本を読んでいるほうがよっぽど楽しい。

「いつも同じ色ね、その服しかもっていないのかしら?」

ここには赤ちゃんから私みたいに十を過ぎた子、十五を過ぎた子もいる。

「皆さん知らないの?赤い服を着た子はお返事もできないのよ?」

、、、この子達みたいに意地の悪い子もいる。しかたないわよね、親のない子なんてこんなものよ。

「こんな子ほっといていきましょう?」


スカーレット、私が赤が好きでいつも赤い服ばかり着ているからついた名前。

ここには名前がわからない子も多い。

身元がわかったときにすぐにその名前を名乗れるように、名前がわからない子は

私みたいにあだ名で呼ばれる。

別に「スカーレット」の響きも嫌いではないし、否定はしなかったけどここまでくると頭にくる。


私は本が好き、だってしゃべらないから。

ずーっと静かに知識や知恵を与えてくれる。

「ミススカーレット、今日はお客様がいらっしゃるのよ!こんな日ぐらい外で遊んだらどう?」

司書の先生はいつもこうだ。

「ごめんなさい、私は本が好きなの、それに体が弱いからお日様に当たるとすぐ具合が悪くなるの」

ここに来た時から私は病気だった。

太陽が苦手ですぐに倒れてしまう、お医者様はお肌の病気だって仰っていた。

「それにしたって、あなたは本を読みすぎよ?そんな本13歳の女の子が読む本じゃないわ。」

この図書室には街の人がくれた本がたくさんある。

絵本、童話、物語ばかりじゃなくて、数学や辞典、医学書まで

「先生、私はお医者様か学者の先生になりたいの、本をたくさん読んでたくさん勉強しなきゃいけないの。」

右手に古代医術の本を抱えてお気に入りの席に座る。


ーーーどのぐらい経ったかしら

もう半分も読んでしまった、そろそろお部屋に戻らないと、、、

「どう?その本はおもしろいかしら?」

聞きなれない声に私は慌てて振り向く。

「あらあら、驚かせてしまったわね。」

そこには優しい顔をした、綺麗なドレスを着た女性がいた。

「こ、こんにちわ、奥様」

とても美人で高貴な方に慣れない挨拶をしていまう。

「まぁ、奥様だなんて、おばさまでいいのよ。子供がそんな気をつかってはいけないわ。」

思わず赤面してしまう。

「それにしても難しい本ね、私があなたぐらいのころにはこんなの読めなかったわ。」

おばさまは笑顔のまま話しかけてくれる。

「あなた、お名前は?」

うつむいたまま答える。

「名前は、スカーレットって呼ばれてるわ。」

おばさまはますます笑顔になって

「スカーレット!良い名前ね、私はリリィ、よろしくね。」

正直こういう人は苦手だ、キラキラしてて近寄りづらい。

「あぁ!ここにいたのかリリィ!」

図書室の入り口から身なりの整った「紳士」が声をかける

「あら!紹介するわね、私の夫よ、この子はスカーレット、とても賢いの!」


こんな綺麗な人が来る理由を私は知っている。

孤児を引き取っていくの、養子にするために。

でも話しかけられたのははじめて。いつももっと小さい子、それに男の子を連れて帰るもの。


「リリィおばさま?おばさま達は養子を探しに来たのでしょう?なら私みたいに大きな女の子じゃなくて、小さな男の子を探したほうがいいわ。」

我ながら棘のある言葉だと思った。

すると二人は顔を合わせて微笑んだ。

「そんなことないわ、私たちは跡取りを探しに来たわけじゃないの。私達はね、そうね、お家のお仕事を手伝ってくれそうな、勉強が好きな子を探しに来たの。」

続けておじさまが

「それにね、私には兄がいるんだ、兄には息子もいる。私は家を継ぐわけじゃないから、男の子だけを探している訳じゃないんだよ。」

二人とも優しく話してくれる。

急にさっきの無礼が恥ずかしくなってしまった。

「ごめんなさい、私てっきりいつもの人たちと一緒かと思って、本当にごめんなさい。」

おばさまは顔を近づけて、目線を合わせて、こう言った

「ねえ、スカーレット、あなたさえ良ければなんだけれど、私たちの娘になってくれないかしら?こんなにハッキリしゃべれて、勉強が好きな子は他にはいないわ。」


私は部屋に戻って荷物をまとめた。まとめたといっても服を何着か抱えるだけだった。

私なんかが、しかもあんな優しい人達に貰われるなんて考えもしなかった。

孤児院の外には立派な馬車が停まっていた。

その馬車に「お父様」に手を引かれて乗り込んだ。


私は自然と笑顔になった、笑顔が止められなかった。

いままでこんなにも優しく、それに、私を認めてくれる人はいなかった。

「お父様、お母様、一つだけお願いがあります。」

お母様は少し困った顔をして、私の手を握った。

「お願い事は聞いてあげるわ、お父様、お母様と呼んでくれるのも嬉しいわ、けれど急に変な言葉遣いはやめてちょうだい?私たちが困ってしまうわ。」

私はまた顔を赤くして、言い直した。

「お父様、お母様、お願いがあるの。私に名前を付けてちょうだい。」

お父様が目を丸くした。代わりにお母様が続けた。

「あら、あなたはスカーレットでしょ?」

そっか、お父様とお母様は知らないんだ、名前の理由を。

「私は赤が好きだからスカーレットって呼ばれてただけなの。だからお父様とお母様が考えてくれた名前になりたいの。」

二人はとても喜んでくれた。


その後、お屋敷につくまでお父様とお母様は私の名前をいろいろと考えてくれた。


お屋敷についた時にお母様がパン、手を打った。

「碧の髪と瞳に、赤いお洋服で、メイプルなんてどうかしら?私と同じ植物のお名前よ?」


メイプル、それが私の新しい名前になった。









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