1、力とその代償
第1章 「力とその代償」
多くの悲鳴と泣き叫ぶ声に私は目を覚ます。
足元に広がる虐殺、殺戮、弑逆の限り、、、
焼き払われる小村、親の亡骸にすがりつく子供、散っていく若い兵士
随分と見慣れた景色だった。
私が最後に覚えているのは自らの死の瞬間である。
心の臓腑に杭を打ち込まれ首を刎ねられた痛みとそれによる安堵。
やっと解放されると思ってみれば、この有り様である。
奴の言葉を思い出す。
「永遠に続く苦しみ、渇き。死んだとしても、地獄よりももっと深く暗い場所に行くだろう」
それがここなのだろうか。
時代、場所を選ばず、圧倒的力に蹂躙される命を見せ続ける。
それが私に架せられた、力の代償なのだろうか。
生前私は似たような事をしてきた、村を焼き、敵国の兵を殺し、串刺し、畏怖と狂気で支配した。
その後は化け物と呼ばれ、虐げられ、恨まれ、蔑まれ、殺され、、、
ーーーどれだけの時が経ったのだろうか
無限に、永遠に繰り返される光景に私はいつしか考えることをやめていた。
生前を悔いても、省みても止まらぬこの光景。
神は私を許すことはないということであろう。
ふと目を落とすと、そこには年端もいかない、十かそこらの娘が大人の男に囲まれ、
鞭で打たれ、犯され、穢されていた。
「またか、、、」
無意識のうちに呟いた。
次第に違和感に気付く。
大抵泣き叫び、命を乞い、亡き父母に助けを求めるのだ。
だが、その娘は違った。
鞭で打たれ、血が滲もうと声を出さず、ただひたすらに耐えていた。
男たちが去った後も泣くこともなくただひたすら小さな声でつぶやき、繰り返す。
「おとうさんとおかあさんを殺したあいつらを殺してやる。」
「あいつら全部を殺せる力がほしい。」
そこで初めて小さな涙を流す。
殊勝にもこの娘は自らの苦痛ではなく、無力に泣くのだ。
この時私は考えるより先に声を発していた。
「欲しいか、奴らを切り裂き、捻じり殺せる力が。」
声が届いたのか、娘は弱々しく上体を起こし宙を眺めただ一言返す
「ほしい。」
細く消えそうな声であったが、それは私の元に届いた。
「力の代償にお前は永遠に苦しむことになる、今すぐお前を痛みもなくを楽にしてやることも、、、」
私が言い切る前に娘は力を振り絞り、叫んだ。
「あたしはどうなってもいい!今あいつらを殺せる力がほしい!!」
そうして、娘の身体はぐったりと崩れた。




