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昔のお話

ここは一体どこなのだろう。


あのあと、何度も何度も違う景色を見た。

時代も国も世界も様々な景色。


心も体も消耗した私はそのまま降り積もった雪に身体を預ける。


「このまま終わってしまえば良いのに。」


無意識に溢れた本心が小さな声となり響いた。


「おい!お前、何をしている!気をしっかり持て!!」


薄れる視界には若い男の姿が映った。

見慣れぬ髪型に衣服。

そんな事を考えている間に、私の瞼は閉じる事を選んだ。

どうせ死ねないのに。


次に目を覚ますと、私は建物の中にいた。

ベッドとは違う、床に直接敷かれた寝具の上で目を覚ました。

その床も木や石でもなく、植物を織ったような不思議なものだった。


「良い香り。」


少し瞼を開けると、こちらを覗き込む女が2人。

こちらをじっと見つめて目をキョロキョロと泳がせている。


「旦那様!旦那様!!」


2人が同時に叫び、1人が駆け出す。

どれだけ眠っていたのか、その声が耳に入ると同時に、先程の香りが肺を満たし、臓腑がぐるりと動き出す感覚に襲われた。

思わず咳き込み、胸を押さえる。

すると残った1人は私の身体を支えて、優しく背中をさする。


「無理なさらず、ゆっくり息をしなさいな。」


その声や匂いはどこか懐かしさすら感じさせる、柔らかく温かいものだった。


「えぇ、大丈夫。もう大丈夫ですから。」


その声に無意識に返事をしてしまう。

やっと慣れてきた目を向ける。

歳は40ほどの女だが、やはり見慣れぬ姿をしている。


「ようやく目を覚まされたか、大事はないか?」


意識が途切れる前に聞いた、若い男の声がする。

それと同時に妙な雰囲気を感じた。

、、、その男と先程のもう一方の女は、やや離れた位置から私に声をかけていた。

私は戻りつつある感覚で自分の手や体、顔や髪に触れる。

異常はない。強いて言えばヒトの姿をしている、ただそれだけのこと。

ゆっくりと上体を起こし答える。


「えぇ、特に変わりもないわ、私は倒れていたのよね。」


その男は2人の女と目を見合わせた後に続けた。


「言葉は伝わるのか、それは何よりだ。お前は吹雪の中、山で倒れておったのだ。たまたま儂が近くを通りかかりここに運び入れたのだが3日も目を覚まさなかったのでな、、、急かして申し訳ないが、お前は何処の者だ?」


視線が私に集まる。

あぁ、やっぱりここでも私は異質な存在なのだろうか。

その3人を見れば、髪の色は黒く顔立ちも見慣れないものだった。


「おそらく、ここではない、どこか遠い国からやって来た、、、では納得して頂けないかしら。」


男は顔をしかめながら腕を組んだ。


「遠い国、と言われても、お前のような髪の色や瞳の色の者が住む国など聞いたこともない。まして言葉が通じるとなれば余計にだ。よもや、人では無いとでも申すまいな?」


その瞬間、私を支えてくれていた女は急いで私のそばを離れた。


「多分だけど、同じヒトだとは思う。けれど違う場所としか言えないわ。」


すると男は大きく唸り、困った素振りを見せた後に私に近寄った。


「まあ、なんにせよ無事でよかった。この際お前が何者なのかは良い。ひとまずは身体を休めなさい。この2人を付けるので何かあったら言ってくれ。ほら2人ともお客人にそんな態度を取るもんじゃないだろう。それではな。」


そう言うと男は去っていった。

それからはその女2人からの質問責めだった。

歳はいくつか、名前は、以前はどこにいたのか、身体はどこか痛まないか、今まで身に着けていた服や装飾はどう言った物なのか、、、

一通り説明し終えた後にやっとこちらから話すことができた。


この世界にも書物はあるらしい。

私はこの建物にあるありったけの書物を用意させた。

まだ重く本調子ではない身体を癒しながら読書に更けることにした。


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