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三日目 続オアシスの生活

午前が無事に終わる。


午後が始まる。

 砂漠の生物といったら、何を思い浮かべるだろうか。

 定番だと、サソリとか蛇。そして、ファンタジーではやっぱりこれ。


「そっち行ったぞ!!」

「…魔力解放『ローストフレイム』」


 ミミズの大きいやつ、所謂サンドワーム…正確な名前はアルテに聞いたら聞き取れなかったから、サンドワームで翻訳してもらった…が、ナディヤの持つ杖から放たれた炎の塊に包まれる。


「…倒すと同時にこんがり焼き上がる。…一矢で二鳥…」


 一石二鳥の事かな?と、それよりも、凄いこっちを見詰めてくるのは褒めて欲しいって事?

 表情があんまり動かないから解りにくいけど…ドヤ顔を決めているのかもしれないな。


「えーっと、凄い…んだよね?」

「…何故、疑問…?」


 いや、どれくらいが凄いとかそういう平均が解らないからね?


{一般の魔導士と比べると、恐らくそれなりに上位の使い手と言えるでしょう}


 そうなの?


{キャラバンの人々を調査した際のデータを元にした結果ですが、それ程間違いではないかと考えられます}


 何をどう調査したかは聞かないけど、アルテが解析して分析して出した答えって事か。それなら俺がどうこう考えるよりは余程信用できるデータだよな。


「…火の魔導術は、普通はファイヤを使う…私はフレイムまで使える」

「そうか、上位の魔導術を使っていたのか。うん、流石ナディヤだね」

「…そう…」


 少しにまにましながらコクコクと頷いている。どうやら機嫌が良くなったようだ。


「よーっし、肉は確保した。後は適当に間引くだけだな」


 こんがり焼きあがったサンドワームを剣で突きながら、ガルダさんはそう言った。

 間引く、という事は色々と狩っていくのだろう。


 それにしても、肉…か。いや、確かに貴重なタンパク源なんだろうけどね。胴回り1m、全長3mくらいの見た目ミミズを良く食べようと思ったよな…いやでも死にそうだったなら物凄い御馳走に見えなくも無い…のか?一応、香りとしては不快なものではないんだけど。


「ぐるっと一回りするから、しっかり付いて来るんだぞ」

「あ、了解です」

「シルーダはこいつを運んでおけ」

「はい」


 ここで一旦、シルーダ君がサンドワームを運んでベース…キャンプ地の事…に戻る事になった。

 これ、一人で運べるんだ…。見た感じ、軽く200kgは超えてそうなんだけど…。


{どうやら、強化魔導術を使うようです}


 筋力アップみたいな?


{そのようです。マスターは残念ながら使えませんが、こちらの人々にとってはそれ程珍しい事ではないのかもしれません。魔力を扱えるのであれば、誰でも使用できるようです}


 強化バフは一般的、か…。うん、俺はこの世界で絶対に喧嘩なんかしないぞ!

 もちろん、これまで一度もした事ないけどな!


{補足ですが、効果時間や強化の程度は熟練によって変わるようです}


 魔力の扱いは練習で変わるのか。となるとアルテはどうなんだ?


{常にシミュレートを行っておりますので、熟練度は高水準を上回っている状態です}


 流石のアルテさん。


{恐縮です}


「おい、ぼさっとするな。足手纏いはごめんだぞ」

「あ、すいません」


 エミット君、刺々しい態度なんだけど、やっぱり何処か憎めないというか…あれだな、ツンデレっぽい。

 男のツンデレ需要に関しては俺の知る所じゃないけど、きっと女性目線だとさぞかしモテるんだろうね。


「…ムラクモは私の後ろにいればいい…」


 それはどうかと思う。それにナディヤの身長は150cm前後だから、目の前にいると、丁度頭を撫でやすい状態になる。もこもこの髪を、こう、わしゃわしゃしたくなる感じだ。


「…不穏な気配…」


 きょろきょろすると髪もふわっふわって。犬とか猫が見たら飛びつくんじゃなかろうか。


{警告…2時の方向より推定、魔物が接近中}


「おっ、ありゃあ、サンドスコーピオだな。ナディヤが牽制したら囲むぞ」

「「了解」」


 大きなサソリが向かって来る。横幅で3mはありそうだ。尻尾の高さもそれくらいある。…でかい。


「…象るは爆発する炎…撃ちつけるは標的……魔力解放『バーストフレイム』」


 おおっ、さっきは良く聞こえなかったけど、魔導術ってこんな感じで使うのか。


{魔導術式の詠唱です。先程もちゃんと詠唱していましたが、かなり早口で前半を済ませていたので、マスターには聞こえなかったようです}


 詠唱は必要なのか?


{イメージを定着させるのには有用です。繰り返し使って一連の流れを簡略化、または省略する事も可能です。ナディヤは状況によって使い分けているのでしょう」


 説明を聞いている間に、杖からバレーボールくらいの赤い玉が飛んで行き、サンドスコーピオに着弾。


ドムンッ


 爆発音と、炎が舞い散った。


「尻尾に気をつけろ!!」


 ガルダさんの声が響き渡り、硬い物がぶつかる音が聞こえ始める。

 ガルダさんは1mくらいある幅広の剣、エミット君は70~80cmくらいの剣とその半分ほどの鉈のような剣の二刀流、デルミオさんはハルバードのような長柄の武器だ。サソリだから甲殻が硬いはずだけど、恐らく関節部なんかを狙って攻撃をするのだろう。三人はそれぞれ等間隔で離れて囲んでいるので、相手からしたらかなり鬱陶しいと思う。


「こいつはちょっと、硬いな!」

「それなりに長生きの個体のようですね!」


 動き自体は三人の連携で抑えられているが、ダメージは思うようには与えられていないようだ。


「ナディヤ!もう一発入れてくれ!」


「…象るは強く爆発する炎…撃ち砕くは標的………魔力解放『バーストフレイム』」


 三人が一瞬引いた所に、放たれた魔導術が着弾。


ドムンッ!


 先程と違い、収束された爆発が起こった。

 さっきのはドッカーンという感じで、今のはドカンっという感じだ。


「やれっ!!」


 サンドスコーピオはかなり衝撃を受けたのか、その動きが緩慢になっている。その隙を見逃すまいと三人が飛び掛るように攻撃を再開、デルミオさんは尻尾の方へ、これでもかというくらいのフルスイングで武器を叩きつけているし、エミット君はハサミの付け根を分断しようと二本の腕で切りつけているし、ガルダさんは頭の部分に狙いを定めて…


ギィンッ


 一際高い音が響いた。


「もういっちょぉぉ!!」


ザクッ


 ガルダさんの剣が、ザックリとサンドスコーピオの頭に埋まったのが見えた。

 中々に無茶な攻撃だと思ったけど、やれるもんだね…


「よーし、解体するぞ」

「ふう、ちょっと手強かったね」

「こいつ、魔物になりかけですかね?」

「ああ、あと数ヶ月もすりゃなっていただろうな」

「やっぱりこの辺、ちょっとおかしい感じですね…」


 三人の会話が何やら不穏な気配。

 魔物になりかけって…


{魔力の影響を受けて、生物が変異…マスターに解るように説明しますと、要はレベルアップして進化したという状態です}


 なるほどね!とっても解り易い!

 ん?でも、レベルの概念とかはあるのか?


{いえ、そういったステータスはありません。データを集めて解析すればそのようなものを作る事は可能ですが…}


 あ、いいよ、無理しなくて。よっぽど余裕が出てきたなら、試すくらいで。


{はい。そのように致します}


 三人がサソリを囲んで何か話しているので、俺はサソリを見物しようと近付く。

 近くで見るとやはり、でかい。それに質感が凄い。色は全体的に灰色と銀色をくすませたような色合いだ。それに青銅を思わせる重厚感がある。甲殻を撫でてみると、やはり硬い。コンコンと叩くとしっかりした硬さを感じる事ができた。


「おお…この硬さと軽さなら良い防具になりそうだな…」

「ハサミの部分は武器に使えそうですね」

「さて、どうやって運ぶか…」


 これ、解体して運ぶのも大変そうだよな。

 そうだ、アルテ、アイテムボックス的な魔導機とかってあるのか?


{一般的ではありませんが『ストアボックス』という空間系魔導術は存在しています。元々空間を理解できる者が少なく、その存在自体が半ば伝説になりかけているようです}


 あー…亜空間とか次元とか、そういう概念って地球でもはっきりしてないからなぁ…この世界だと余計に理解できなくてもおかしくない訳だ。でも、亡失文明の人々はその辺も解明していたんだろうか…。


 それで、あのサソリくらいなら普通に収納できるんだよな?


{現在、99%以上の空きがあります。サンドスコーピオをまるまる収納しても、60%以上空いています。また、拡張も可能となっております}


 そうか。…これくらいなら手伝っても大丈夫だよな?


{問題が発生するようでしたら、速やかに解決しますので大丈夫かと}


 …解決というのがどういうものかは不安だけど。まあとりあえず、腕時計の機能の一つという事で、ストレージのAを専用化しよう。アルテを表に出すのはもうちょっと様子を見たいし。あの二人にこれ以上ネタを提供するのもアレだし。


{承諾しました。ではストレージのAは名称ダミーと変更します。続いて新しくストレージを用意します。こちらをマスター専用とします}


 オッケー。


「あのー、良かったら俺が運びますよ」

「…お前がか?」


 ガルダさんを始め皆怪訝な視線でこっちを見ているな。


「えーっと、この腕時計の機能で『ストアボックス』っていうのがあるんです」

「それは失伝された空間魔導術…」


 凄い勢いで食い付かれました。

 ナディヤってこんなに速く動けたんだね。

 ぴったりくっつくように胸倉を掴まれて上目遣いをされるなんて、カツアゲを思い出すなぁ…


「空間系の魔導術には謎が多くて術名しか伝わっていない発動がどうしてもできなくて次第に幻とまで言われて今ではその研究すらされていないのに…」


「「「ナディヤが早口!?」」」


「………疲れた………」


 色々な驚きが錯綜しているけど、予定通り進めるか。


「詳しくは、俺も知らないんだけどね。これ、別の空間に物を収納できるみたい」

「…別の空間…??」

「今、ここにいる場所とは別の場所って感じかな」

「…?…??」


 首を傾げる仕草ってどうしてこう、可愛いのだろうか。


「あー、物は試しという事で…(アルテ、頼む)…ストアボックス」


 左腕をサソリに翳すと、その身体が光に包まれて、中央に収束していくように小さくなり消えて行った。

 えっ、何これ!?


{演出です}


 あ、そう。


{実際は一瞬です。対象を魔力で包装、空間転移という流れです。瞬間的に消えたり出したりすると、実感が湧かないかと考えた結果です}


 なるほどね。まあ、パッと消えたらビックリするか。…これはこれでビックリするけど。


「…死体は…どこにいったの?…」


 四人の頭が上下左右に振られている。あ、身体も。


「解りにくいかもしれないけど、この中にあると思えばいいよ」

「この中に入るわけがない…よ?…」

「あくまでも、イメージとしてだよ。実際入っているのは別の所なんだ」


「おいっ、お前、一体何をした!」

「これが魔導機の力って事か?」


 エミット君とガルダさんが鋭い視線でこちらを見てくるけど、これ以上の説明はしないぞ。


「おいっ、お前、元に戻るんだろうな!?」


 エミット君の心配は最もだ。というか、俺も心配だ。


{では、一度出しますか?}


 そうしよう。


「では、出しますね」


 左手を空いている場所へと向ける。

 今度は先程とは逆に、光が徐々に大きくなっていき、元の姿を現した。


「すごい…これが…空間魔導術…」

「ムラクモ、これ、いくらでも入るのか?」

「いえ、容量は決まっています。このサンドスコーピオでしたらあと2匹は入りますね」

「そいつは凄いな!他には何が入れられるんだ?」

「基本的には生き物以外なら、入るかと」


 ガルダさんは的確に聞いてくるな。まあ、荷物の問題は旅には付きものか。


「荷車一個分は行けそうだな…」


 ニヤニヤとガルダさんが嬉しそうだけど…あまり期待はしないで欲しいぞ。


「班長、良く解らないものを頼るのは…」

「エミット、お前は魔導術を理解しているか?」

「えっ…それは、まあ、それなりに…」

「そうだろ?それなりにだろ?俺なんかは未だに解らんが、使えるから使っている。

  …つまりは、そういう事なんだよ。それに頼る訳じゃねぇ、使える物は使うって事さ」


「…私も…使いたい」


 …ナディヤは練習したら実際に使えたりして…。


{可能性はあると推測します}


 そうなのか…。ナディヤは恐ろしい子…って感じだな。

 と、それよりも、今は話をまとめないと…


「あの、使えるかどうかはとりあえず、こいつを試してからというのはどうでしょう?」

「うむ、ムラクモの言う通りだな。まだ見回るんだから、とりあえずこいつを入れといて様子を見ればいい」

「……班長がそういうなら…」

「便利でいいじゃないか。エミットはもっと柔軟になっていいと思うよ?」


 デルミオさんが爽やかな笑顔でエミット君を諭している…イケメンがイケメンを……どうしてこう、ドラマのワンシーンのように見えるのだろう。何をやっても様になる補正がパッシブスキルとして付いていると言われても、ああそうか、と納得してしまいそうだ…。


{そのようなものはありませんが…}


 …いや、うん、解ってるんだけども。


「よーし、それじゃ、片付けたら行くぞ!」


 ガルダさんの声で、雑念が吹き飛んだ。

 虚しくなる事を考えても仕方ないし、先に進むとしよう…。



サンドワーム…全長2~5mの軟体系生物。魔物ではない。肉はピンク色。豚肉をしっとりミルキーにした感じ?※魔物化した個体はドラゴワームと呼ばれる。


サンドスコーピオ…大きいサソリ。甲殻系生物。脱皮を繰り返し大きくなり甲殻も硬くなる。魔力で変質して魔物化すると、デスコーピオと呼ばれる。

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