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三日目 オアシスの生活

キャラバンと一緒。


元気な女子は、見ていて微笑ましいです。


 ん…


 暗い…


 何だろう…


もそもそ


 なんだ…もう少し寝かせてくれ…


もそもそ


「だぁーっ」


「きゃぁぁっっ!?」


{…すたー}


「ん?」


{…マスター、起きてください}


「んん!?」


 なんか、上に乗っかっている…


「…は、はやく、離しなさいよっ!!」

「ん…ぅえええっ!?」


 目を開けたら、毛布越しに、ラティーファがいた。


「なぜっ!?」

「あんたが引っ張ったからでしょうが!」

「ええっ、なんで!?」

「知らないわよっ、っていうか離してよ!!」

「え?…ああっ」

「朝から元気だねぇ…」


 朝焼けの中、周りにこちらを笑いながら見ている面々がいる。

 …どうも、やらかしてしまったようだ…


 顔を湖の冷たい水でさっぱりと洗い流したあと、ハイファさんに笑われながら説明を受けた。

 俺が毛布を被ったまま寝ていたので、死んでいるのではないかと誰かが言い出したそうだ。そうしたらラティーファが今の内に腕時計を確認しようと、毛布の上から腕をまさぐり始めたらしい。俺はそれが鬱陶しくなってその腕を掴んで引っ張り、彼女を抱きすくめるように抱え込んだようだ。うん、俺、悪くない。これは紛れも無い事故なんだ。


 あ、そういえば、アルテは何もしなかったのか?


{マスターを害するような事は無いと判断しました。…警戒が足りませんでしたか?}


 いや、大丈夫だ。というか、そういう判断もできるようになってくれると凄く助かる。


{はい、万全の態勢を崩さないように警備警戒防御システムは常に向上させていきます}


 ああ、頼む。


「もうーっ、朝から、なんなのよ!!」

「いや、俺に言われても…」

「…無計画なラティーファらしい…」

「あんたの微妙な計画よりましよっ!!」


 ラティーファとナディヤって、漫才コンビなのだろうか。


「あー、そんなにこれ、気になるか?」

「気になる!だって、そんな小さいの見た事無いよ!」

「…気になる…」

「見るだけなら…」

「見る!!」「見る…」


 この子達ならおかしな事には…ならないよな?


「って、外してくれないの?」

「変にいじられるのは困るから、見るだけな」

「…ケチね」

「…見るだけでも…いい」

「ん、じゃあ、ナディヤには見せてあげよう」

「あっ、ちょっ、ごめんって」

「はいはい、どうぞ」


 二人の間に、左腕を差し出すと、興味深そうに色んな角度で腕時計を見始めた。


「ちょ、これ、動いてる。…文字…なの?」

「魔力で動いているから、魔導機で間違いない…でも…どうやって動いている…?」


 数字は読めないのか。という事は文字は確実に違うって事だよな。


「ねえねえ、これ、何の意味があるの?」

「これは、時計なんだよ」

「…?」

「でも、文字が読めないけど?」

「ああ、それは俺の住んでた所の文字だからだよ」

「ああ、そっか。東方列島だったっけ。そこの固有の文字なのか…」

「…とても…興味深い…」

「ねね、これ、他にも何かできるの?」

「んー、気温とか湿度も計れるぞ」


 これくらいは教えても大丈夫かな。


「温度を計る…って?」


 あれ?二人とも首を傾げてしまった。もしかして、温度を数値化する概念が無い?


「えーっと、例えば、今ここは12℃っていう温度なんだよ。で、日中は40℃前後かな」

「あー…そういう事……でも、それってどうなるの?」


 そっか。温度が分かった所で…あんまり意味が無いのか…。


「…計測…とても高度な…もの?」

「んー、高度といえば高度かなぁ。日常生活には必要って程ではないんだけどね」

「ふーん、そうなんだー。

  亡失文明の時代なんかは魔導機で生活が成り立っていたって言われてるし、

   …私じゃ想像も付かない世界だなぁ」

「…だから…ムラクモに聞く」

「えっ、いや、俺も詳しくは知らないぞ」

「…知っている事を…はいてもらう」


 物騒だよ、ナディヤ。


「御飯の準備ができたわよ~、あなた達もいちゃいちゃはそこまでにしていらっしゃいな」


 ハイファさん、からかうのが好きなんですね?

 現状、年下に迫られるおっさんの構図なんですけど。


「あ、ところで、俺は今日、何をすればいいんですかね?」

「御飯を食べたら指示があると思うわよ?…たぶん、私達と一緒になると思うけど」

「えーっと、4班は…雑用を色々やるんでしたっけ?」

「そうね。まあ、それはあとにして、さあ、行きましょう」

「分かりました」「はーい」「…ん」


………

……


 朝御飯は、ナンみたいなものと、ハムとチーズ、ジャウルンデの実だった。

 ナンみたいなやつは、ニィュアンという小麦のようなものを使って作るものだ。ナンのようでナンでは無いので翻訳されずに発音だけ日本語化されるものだから、ちょっと聞き取り難い。この辺も改善して欲しいけど、どうだろう?


{リソースの余裕を見て改善します}


 頼んだよ~。


 ちなみにハムとチーズはほぼ同じようなものらしい。牛とか豚は存在しているようだ。


 ジャウルンデの実は、胡桃のような概観とは裏腹に、中はメロンのような果肉だった。スプーンですくって食べるのだが、ナッツのような香りに瑞々しい甘酸っぱさが口に広がる不思議スイーツなのだ。一月は常温で保存もできるというびっくり性能も持ち合わせていて、年中実を付けるという事で、砂漠で知らぬ者はいないらしい…。これを聞いた時はなるほどね、と納得したものだ。


「ふう、こっちは終わったわ。…ムラクモ…はまだね」


 おっと、食べ物を与えていたから食べ物の事を考えてしまって意識が飛んでいたようだ。


「これで、大丈夫ですかね?」

「んー、うん、大丈夫ね」


 食べ物と言っても、草だ。オアシスの周りに生えていた草を刈り取って集めたものだ。

 そして、それを食べているのが…


ぶふふん


 フィルガメルと呼ばれる四足歩行の動物。


 見た目はゾウとラクダを合わせたような姿だ。大きさは馬より一回り大きいくらいで、体高は2m後半くらい。体重は軽く500kgは越えているだろう。顔はゾウのような鼻を持っていて、耳は馬のような感じだ。身体はラクダをベースに足がゾウ、という印象。こぶが二つあるし、もっさりした毛が生えている。足が結構特徴的で、太く伸びた脚に、幅広でカンジキのような足底をしているのだ。砂に適応した結果なのだろうか?


「鼻を器用に使って食べますね~」

「可愛いですよね!」


 元気に答えたのがモニールだ。どうやら俺の世話係を任命されたようだ。こんな元気な可愛い子と一緒にいられる日が来るとはね…。人生、解らないものだ。…いや、異世界にいる時点でアレだけど。


「ミュークちゃんは、特に器用なんですよ~」

「へぇ~、そうなんだ」

「そうなんです!四匹の中で一番大人しいですし、良い子なんですよ!」


ぶふぅふん


 モニールに身体を撫でられて機嫌が良さそうだ。しかし…可愛い…のかなぁ…なんていうか、獣!っていう部分が多くて野性味が強いんだよな。うん、どっちかというと勇猛とか、そっち方面だ。


「ムラクモ~、終わったら次は木登りよ」

「あ、はーい」

「じゃあ、ミュークちゃん、またね!」


ぶふん


 フィルガメルの保養地?を出て木々が立ち並ぶ地帯に向かう。


 さて、ハイファさんの後ろに付いて歩いている訳だが、後姿が綺麗で目のやり場に困……らない。

 ひらひらのロングのスカートのようだけど、布を巻いただけのようで、隙間があるのだ。スリットのように。そこから見えるのは小麦色の健康的な脚線美。しなやかなラインで細さと膨らみのバランスが、黄金比の如し。そこに視線が行くのは、仕方が無いのだ。これは日本人が富士山を見るような気持ちだから、疚しい事は決してないのだ。


「…着いたわよ?」

「あっ、はい」

「どうしたの、ぼーっとして」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


 流し目でこちらを見るハイファさん。

 …気付かれているのかもしれない…


「さて、ムラクモは木登りはできるの?」

「あー…それが、初めてです」


 外で走り回って遊んだのは中学生までだし、近くに登れるような木は無かった。どちらかというとインドア系に分類される…というか、アウトドアでさえインドアのように振舞う、生粋のインドア人間だった…。


「まあ、難しい事は無いわよ?この木は引っ掛ける場所が結構あるから、そこを使って登ればいいだけ」


 そう言って、ハイファさんはすっすっすっと、登って行ってしまった。


「ね?」


 いやいやいや。高さは4~5mくらいで幹の太さは俺が腕を回せるくらい。

 確かに足を掛ける場所はあるけど…それを使って実際に登るとなると難しいぞ?


 などと、考えている内に、モニールまでさっさと登って行ってしまった。


 …男が廃る!


 なんて事を思う訳でもなく、とりあえず、試してみようと足を掛ける。


「ふっ…よっ……ぅぐっ」


 半分くらいまで登った所で、腕のプルプルが激しさを増した。そして、足と腰周りが普段使わない筋肉を刺激したせいか、攣りそうな気配を周囲に放っている。これはヤバイ。家の二階ぐらいか…捻挫で済むかなぁ…。


{フロートを発動します}


「え」


 身体が木から離れたのと、それは同時だった。落下しながら浮き上がるというよく分からない感覚に身体が包まれて、気が付いたら地面に仰向けで着いていた。


「ムラクモ!?」

「ムラクモさん!!大丈夫ですか!!!」


 二人が凄い勢いで降りて来て、俺の顔を覗き込む。


「ああ、全然問題無い。風…のおかげかな?」

「「えー…」」


 サンキュ、助かったよアルテ。


{どういたしまして}


「地面だから、それなりに怪我をしたかと思ったんだけど…本当に大丈夫?」

「はい、本当に大丈夫ですよ。それより、面目ないですね、ここでは役に立ちそうもないです」

「それはいいんだけど…背中とか腰って大事にしないとダメよ?」

「いやぁ…ははは…」

「ね、一応診てあげるから、ちょっと見せてちょうだい」

「え?」

「モニールは採集しておいてね」

「あ、はい」

「さ、背中を見せて」

「えっと、では…」


 ワイシャツを捲り、アンダーシャツも捲って背中を出す。


「…ちょっと触るけど、痛かったらすぐに教えてね」

「はい」


 女性に直に触れられるって…いつ以来だったかなぁ………


「どうかしら?」

「あ、全然痛くないですね」

「そう………見た感じも問題なさそうね。…それにしても、この服、凄い作りをしているわね?」

「そうですかね?」

「近くで見ると良く解るわ…丈夫で手触りも良いし…やっぱり貴族…?」

「いえいえ、これでも安物なんですよ?」

「…それもどうなのかしらね…」


 こちらの衣類は見た所、綿とか麻とかのような感じだ。正直服には興味が無かったので詳しくは解らないが…少なくとも絹のような感じの物ではない。それでも、女性が纏っているものはそれなりにツルツルした光沢のある布も見受けられるので、それなりに種類はあるようだ。


「さて、それじゃあそろそろ昼食の準備にとりかかりましょうか」

「了解です」


 本日の昼食は…魚とジャウルンデの実。

 少ないようにも思うが、有限の食糧でやりくりしているので、採れた物を食べるというのが普通なのだろう。魚は割りと簡単に獲れるようだけど、実際は、素潜りで銛のようなもので突くという獲り方だから、やれと言われたらできない。…泳げないし。


 昼食後は、一休みを入れて周辺の探索をするとの事で、1班に付いて行く事になった。


 男前な隊長ガルダさん、やや残念なイケメンエミット君、高校生くらいのシルーダ君、気さくなポニテ男子デルミオさん、超マイペース女子ナディヤ…。平穏無事に探索を終える事を切に願う。



魚は、ブラックバスのようなもの、フナのようなもの、ナマズのようなもの、マスのようなもの、イワナのようなものがいる。基本どれも食べられるが、ブラックバスのようなものは大味で味付けをしっかりしないとモソモソして美味しくないらしい。


フィルガメルの背にはこぶが二つあるので、その間に挟まるように乗ることができる。揺れも少なく砂漠の旅では重宝されている。こぶの中は勿論水が溜まっている。水が無くどうしようもないときは、こぶに穴を開けて水を飲む事もあるらしい。痛覚は無いらしく、あまり大きく傷つけない限りは気にしないそうだ。

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